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第9話 王都の剣姫
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王都グランセル。
それは、石造りの城壁と陽光に輝く尖塔を持つ、大陸でも屈指の大都市だった。
俺たちは森の討伐の報酬を受け取ったあと、この街へとやってきた。
「うわぁ……すげぇ。建物が全部ピカピカしてる」
「王都ですからね。地方とは格が違います」
リリアが真面目に言う。
セレスは肩をすくめ、屋台を眺めながら軽く笑った。
「さすがに都会は活気があるわね。――で、カイ、口が開いてる」
「え、あ、いや、その……!」
「またですか」
リリアの冷たいツッコミが飛んでくる。
でも、口を開けて当然だ。
広場には露店、騎士、貴族、そして見物客。
そして、中央の闘技場では、
「王立剣技大会」の真っ最中だったのだ。
剣技大会。
つまり、王都中の剣士が腕を競い合う華やかな祭典。
優勝すれば名誉と金、そして騎士団への推薦が約束される。
「出てみる?」
セレスが冗談交じりに言う。
「いやいやいや! 俺剣士じゃないし!」
「模倣スキル持ってるでしょ? なんでもできるんじゃない?」
「いや、そうだけど……」
「やめてください。絶対ケガします」
リリアが即答した。
そんなやりとりをしていると、観客席から歓声が沸き上がる。
「うおおおおっ! 黒髪の剣姫だ!!」
「出たぞ、グランディール家のご令嬢だ!」
俺たちも視線を向けた。
闘技場の中央に、ひとりの女性が立っていた。
陽光の下で、黒髪が艶めく。
背は高く、姿勢は凛とし、細身ながら剣を握る腕には確かな力があった。
風が吹くたび、長い黒髪がなびき、白い肌と鋭い瞳が光を返す。
まさに“剣姫”という言葉がぴったりだった。
「……すげぇ」
俺は思わず呟いた。
「カイさん、また口が開いてます」
「いや、今のはしょうがないだろ!?」
「確かに綺麗ね。でも目のやり場に困るわ」
セレスが苦笑する。
彼女――エレナ=グランディールは、対戦相手の大男と向かい合っていた。
開始の鐘が鳴ると同時に、剣が閃いた。
一瞬だった。
風が走ったかと思うと、相手の剣が真っ二つに折れていた。
「うそだろ……」
「速すぎて見えませんでした……」
「すごいわね。剣筋も無駄がない」
観客の歓声が地響きのように広がる。
エレナは汗ひとつかかずに剣を納め、背筋を伸ばした。
まるで女神のような立ち姿。
(強い……美しい……それに――)
風が彼女の胸元の布を揺らす。
鍛えた体の曲線がわずかに見えて、俺の視線は反射的に止まってしまった。
「……カイさん」
背後からリリアの冷たい声。
「な、なにも見てません!」
「ほんとに?」
「誓って!」
「ふふ、顔が真っ赤よ」
セレスが意地悪く笑った。
試合後、観客たちが広場へと流れていく。
俺たちも出入口付近でエレナを見かけた。
白い鎧を外し、肩のあたりで髪をまとめ直している。
その一連の動作すら、気品にあふれていた。
「……お嬢様って感じね」
セレスが言う。
リリアは腕を組んでそっぽを向いた。
「見た目だけじゃありません。剣の腕も本物です」
「ま、カイがまた惚れそうだけど」
「惚れません! いや、惚れてません!」
「どっちなの」
「だから惚れてないって!!」
そんな騒ぎをしていたら、当の本人がこっちを見た。
黒い瞳が一瞬で俺たちを射抜く。
冷たいけど、どこか澄んだ光。
彼女がゆっくり歩いてきて、俺たちの前で立ち止まった。
「あなたたち、観戦者?」
「えっ、あ、はい!」
「そう。……あなた、さっきから随分見てたけど、何か言いたいことでも?」
声が落ち着いている。
でも、その言い方が少し挑発的だった。
「い、いえ! ただ、その……すごいと思って!」
「すごい?」
「速くて、美しくて……いや、違う! 剣が!」
「剣が美しい?」
「はい! 剣筋が! 剣筋が綺麗で!」
リリアが小声で呟いた。
「言い訳の天才ですね」
エレナはしばらく俺を見つめてから、くすっと笑った。
「ふふ、面白い人ね。褒め方が独特」
「え、えっと、ありがとうございます!」
「あなた、名は?」
「カイです!」
「そう。……覚えておくわ、カイ」
その一言に、心臓が変な音を立てた。
リリアが明らかにむくれているのが分かる。
去り際、セレスがぼそっと言った。
「ねえ、あの人、ただ者じゃないわね」
「どういう意味?」
「剣技もそうだけど、背負ってる“何か”がある。あの剣筋、戦うことを誇りと同時に罰みたいに扱ってる」
「……?」
「ま、放っておいてもまた会うと思うわ」
その予言めいた言葉が、後に本当になるとは思いもしなかった。
黒髪の剣姫――エレナ=グランディール。
この日、俺たちは彼女と出会った。
そしてその出会いが、俺たちの旅を大きく変えていくことになる。
それは、石造りの城壁と陽光に輝く尖塔を持つ、大陸でも屈指の大都市だった。
俺たちは森の討伐の報酬を受け取ったあと、この街へとやってきた。
「うわぁ……すげぇ。建物が全部ピカピカしてる」
「王都ですからね。地方とは格が違います」
リリアが真面目に言う。
セレスは肩をすくめ、屋台を眺めながら軽く笑った。
「さすがに都会は活気があるわね。――で、カイ、口が開いてる」
「え、あ、いや、その……!」
「またですか」
リリアの冷たいツッコミが飛んでくる。
でも、口を開けて当然だ。
広場には露店、騎士、貴族、そして見物客。
そして、中央の闘技場では、
「王立剣技大会」の真っ最中だったのだ。
剣技大会。
つまり、王都中の剣士が腕を競い合う華やかな祭典。
優勝すれば名誉と金、そして騎士団への推薦が約束される。
「出てみる?」
セレスが冗談交じりに言う。
「いやいやいや! 俺剣士じゃないし!」
「模倣スキル持ってるでしょ? なんでもできるんじゃない?」
「いや、そうだけど……」
「やめてください。絶対ケガします」
リリアが即答した。
そんなやりとりをしていると、観客席から歓声が沸き上がる。
「うおおおおっ! 黒髪の剣姫だ!!」
「出たぞ、グランディール家のご令嬢だ!」
俺たちも視線を向けた。
闘技場の中央に、ひとりの女性が立っていた。
陽光の下で、黒髪が艶めく。
背は高く、姿勢は凛とし、細身ながら剣を握る腕には確かな力があった。
風が吹くたび、長い黒髪がなびき、白い肌と鋭い瞳が光を返す。
まさに“剣姫”という言葉がぴったりだった。
「……すげぇ」
俺は思わず呟いた。
「カイさん、また口が開いてます」
「いや、今のはしょうがないだろ!?」
「確かに綺麗ね。でも目のやり場に困るわ」
セレスが苦笑する。
彼女――エレナ=グランディールは、対戦相手の大男と向かい合っていた。
開始の鐘が鳴ると同時に、剣が閃いた。
一瞬だった。
風が走ったかと思うと、相手の剣が真っ二つに折れていた。
「うそだろ……」
「速すぎて見えませんでした……」
「すごいわね。剣筋も無駄がない」
観客の歓声が地響きのように広がる。
エレナは汗ひとつかかずに剣を納め、背筋を伸ばした。
まるで女神のような立ち姿。
(強い……美しい……それに――)
風が彼女の胸元の布を揺らす。
鍛えた体の曲線がわずかに見えて、俺の視線は反射的に止まってしまった。
「……カイさん」
背後からリリアの冷たい声。
「な、なにも見てません!」
「ほんとに?」
「誓って!」
「ふふ、顔が真っ赤よ」
セレスが意地悪く笑った。
試合後、観客たちが広場へと流れていく。
俺たちも出入口付近でエレナを見かけた。
白い鎧を外し、肩のあたりで髪をまとめ直している。
その一連の動作すら、気品にあふれていた。
「……お嬢様って感じね」
セレスが言う。
リリアは腕を組んでそっぽを向いた。
「見た目だけじゃありません。剣の腕も本物です」
「ま、カイがまた惚れそうだけど」
「惚れません! いや、惚れてません!」
「どっちなの」
「だから惚れてないって!!」
そんな騒ぎをしていたら、当の本人がこっちを見た。
黒い瞳が一瞬で俺たちを射抜く。
冷たいけど、どこか澄んだ光。
彼女がゆっくり歩いてきて、俺たちの前で立ち止まった。
「あなたたち、観戦者?」
「えっ、あ、はい!」
「そう。……あなた、さっきから随分見てたけど、何か言いたいことでも?」
声が落ち着いている。
でも、その言い方が少し挑発的だった。
「い、いえ! ただ、その……すごいと思って!」
「すごい?」
「速くて、美しくて……いや、違う! 剣が!」
「剣が美しい?」
「はい! 剣筋が! 剣筋が綺麗で!」
リリアが小声で呟いた。
「言い訳の天才ですね」
エレナはしばらく俺を見つめてから、くすっと笑った。
「ふふ、面白い人ね。褒め方が独特」
「え、えっと、ありがとうございます!」
「あなた、名は?」
「カイです!」
「そう。……覚えておくわ、カイ」
その一言に、心臓が変な音を立てた。
リリアが明らかにむくれているのが分かる。
去り際、セレスがぼそっと言った。
「ねえ、あの人、ただ者じゃないわね」
「どういう意味?」
「剣技もそうだけど、背負ってる“何か”がある。あの剣筋、戦うことを誇りと同時に罰みたいに扱ってる」
「……?」
「ま、放っておいてもまた会うと思うわ」
その予言めいた言葉が、後に本当になるとは思いもしなかった。
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そしてその出会いが、俺たちの旅を大きく変えていくことになる。
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