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ブルーバーグ侯爵夫人side③

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 ガーデンパーティーが、レイニー王子殿下との引き合わせの場だったと知ったのは数日あとのこと。
 ディアナちゃんもいろいろと考えるわよね。

 フローラも結婚に夢も希望も抱いてはいない気配はあったけど、エドガーとリリアさんのことは祝福していた。エドガーとはうまくいかなかっただけで、他の人ともそうだとは限らない。結婚そのものがイヤというわけではないでしょう。

「フローラもいつかはお嫁に行きますわ。現に学園を卒業したら結婚式の予定でしたでしょう? それが少し遅くなっただけですわよ」

「それは……そうだが。それはわかってるんだよ」

「わかっているのであれば、よいではありませんか?」

「だが、王子殿下の妃にとは考えていなかった」

 そうですわね。一度お断りした時点で結婚は消えてしまった。消滅した以上二度目があるなんて思いませんものね。

「何が不満なのですか?」

 普通は王子妃に選ばれたら名誉なことだと喜ぶべきことでしょう。王子妃になりたくてもなれない令嬢がたくさんいるというのに、それを喜ぶどころか嘆くとは。

「フローラと会えなくなるではないか」

 まあ、まあ。そんなにムスッとした顔をなさらなくても。せっかくのハンサムなお顔が台無しですわ。それはそれで味があってよろしいですけど。

「どっちにしてもお嫁に行けば会えなくなるではありませんか」

「それは……だが、貴族同士だったら、もっと気軽に会えるだろう? 仕事だってあるのだからな」

 そうね。相手が貴族であれば少なくとも仕事の接点はあるわね。嫁ぎ先だって夫人として家政を取り仕切るよりも研究や仕事で活躍することに重きを置くでしょうから、ブルーバーグ家との付き合いは必要不可欠ですものね。

「要するにフローラがお嫁に行くのが寂しいんですのね」

「……」

 黙ってしまったわ。そんなに恨めしくジト目で見ないでくださいね。瞳が潤んでいるように見えるのだけれど。
 まったく、世話の焼けること。

「でも、あなた。フローラが王子妃になるとは限りませんわよ。国王両陛下がおっしゃいましたでしょう? フローラの気持ち次第だと。娘の気持ちを大事にすると。フローラが了承しない限り結婚はありませんわ。王命も使わないということでしたから強制されることもありませんからね」

「フローラ次第。そうか、だったな」

 ちょっとは元気になったかしら? 表情が明るくなってきたわ。
 嫁に出す父親というものはみんなこんな感じなのかしら? 
 わたくしの時は両親も喜んで送り出してくれたように感じていたけれど、父も寂しい思いをしたのかしらね。今度母に聞いてみましょう。そしてよい対処法があるか相談してみるわ。
 
「そうですよ。いくら王子殿下とはいえ、フローラが気に入るとは限りませんしね。今日も招待されていますが、明日帰ってきたらどんな感じだったか様子を聞いてみますわね」

「ああ、頼む」

「フローラの答え次第で今後どうするか決めましょう。気持ちがないのに、ズルズルとつき合っても王家や王子殿下にも失礼に当たりますしね」

「そうだな。そうしてくれるか」

 あらま、すっかり元気を取り戻したみたい。

「はい。わかりました」

 わたくしは、にっこりと頷いた。余計なことは言わなくていいわね。フローラの気持ちが一番だもの。
 一縷の望みというのかしらね、ローレンツは安心した顔をしている。
 二杯目の紅茶の香りが食欲をそそって二個目のケーキがとっても美味しいわ。

 王太子殿下にはお子様もいらっしゃるし、第二王子殿下にもお相手が決まり、あとは第三王子殿下だけ。
 王妃陛下の美貌を受け継ぐ美麗な方だと言われている。

 レイニー王子殿下の成人の儀の祝賀会以来、美貌も過ぎると災いになると噂されていた。そのせいかわからないけれど、王家主催の舞踏会などでも公の場に出ることはなく、わたくしたちも面識がない。
 その時の記憶でもきれいな方だったから、成長されたレイニー殿下はどんな感じなのかしらね。
 お会いできるのが楽しみだわ。

 ローレンツも落ち着いたのか紅茶を楽しんでいる。
 今度は彼でも食べられるお菓子を用意しようかしら。塩味系の方が喜んでくれるかもしれないわね。

「シャロン。相談があるんだが」

 カップをソーサーに戻したローレンツが真顔になった。

「なんでしょう?」

「先日、チェスター貿易商会から商談の申し込みが来たんだ」

「チェスターって、チェント男爵家の商会ですわよね?」

 リリアさんの実家。
 
「ああ。そうだ」

「今まで仕事でのつきあいはありましたかしら?」

「ない」

 そうですわよね。なのにどうしたのかしら。

「商談の日は決まりましたの?」

「いや、どうするか迷っているところだ。もともと、取引のないところだから断ってもよいのだが、ちょっと気になってね」

「でしたら、面会してもいいのではないかしら。その席にわたくしも加えてくださいませ」

 商談に乗るも断るも話を聞いてからでも遅くはないでしょう。
 わざわざ、ブルーバーグ家の商会へと面談を申し込むのですもの。度胸があるわね。それにこちらに益があることかもしれませんしね。

 チェント家の事業は代替わりしてご子息が運営していると聞いているわ。
 リリアさんの一件以来、一度会ってみたいと思っていたのよ。

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