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第二部
王族の責任Ⅵ
しおりを挟む「申し訳ありません。実は……こちらにいらっしゃるということを偶然……耳にしたリチャード殿下が、どうしても会いたいとダダを……いえ、懇願なさいまして……」
つっかえながら、事の経緯を話すエイブの額に汗が浮かんでいるような。何か都合の悪いことでもあるのでしょうか。
「なるほど。あの一声を聞けば想像はつくけどな」
腕組みをして話を聞くレイ様から、不穏な空気が流れているように感じるのは、私の気のせいでしょうか?
「もちろん、妃殿下もお止めになったのですが、ちょっとした隙をついて……申し訳ございません」
エイブはガバっと土下座でもしかねないような勢いで頭を下げました。
「まあ、事情は分かった。では伝言頼めるか? 次からは守秘義務扱いだと伝えてくれ」
「はい。承知致しました」
誰にとは言われませんでしたが、真意は伝わったのでしょう。
頭を下げたまま答えたエイブがやっと顔を上げました。
主語がないので、いったい何を誰の話しているのか、うっすらとしかわかりませんけれど。隠されているということは私が知る必要のないことなのでしょう。
「そうだ。ユージーン兄上に通常の三倍くらい鍛えてもらうように進言しとくから、楽しみにしておくように」
いたずらを思いついたようにニヤリと笑うレイ様とスーと血の気が引いたように真っ青になるエイブ。
「それは……ちょっと、やりすぎではありませんか? 通常の訓練でも大変、いや、十分です。レイニー殿下、お考え直しを」
先ほどよりもさらに苛酷になったらしい訓練に、エイブが取りすがるように抗議しますが
「不意を突かれたり、隙を突かれたり。不測の事態に対応できないとは護衛としても不合格だな。通常の訓練では生ぬるいな。もう一度、一から鍛錬し直した方がいい」
すっかり青褪めてしまったエイブでしたが、見せてしまった失態に抗う術はないのでしょう。
「……」
レイ様の繰り出す攻撃にがっくりとうなだれるエイブを見ていると気の毒にはなりますが、仕方のないことかもしれません。やんちゃなリッキー様のお相手は生半可な覚悟では難しいのでしょうね。
通常の訓練でも大変とか、言っていましたが、その三倍だったらどれほどのものなのでしょう? 騎士団の訓練を見たこともないので、なんともわかりようもないのですけれど。
訓練自体は必要なことでしょうから何も言えません。でも、レイ様。してやったりの体で、面白がっているようにも見えてしまいますよ。
「さて、リッキーも待っているだろう」
スッキリとした顔で笑顔を向けたレイ様に、エイブは心なしかホッとしたようにこの場を去っていきました。
「ローラはゆっくりと選ぶといいよ」
「はい」
リッキー様も気にはなりましたが、エイブが付いているので大丈夫だと思い、レイ様のお言葉に甘えることにしました。レイ様に説明を受けながら一緒に書架を巡り、そして、いくつかの本を見繕って閲覧席へと向かいました。
「ローラおねえちゃん」
私の姿を見つけたリッキー様が軽く手を振ります。
ふかふかのソファに座り本は膝の上。エイブは斜め後ろに控えていました。一人で大人しく本を読んでいたのでしょう。いい子いい子して頭を撫でてあげたい衝動にかられますが、相手は殿下。私より身分が上ですものね。軽率な行動は不敬に当たるかもしれません。我慢しなくては。
「おっ。ちゃんと静かにしてたな。えらいぞ」
私が理性と戦っている間に、レイ様は褒めながらリッキー様の頭をわしゃわしゃと撫で回します。褒められたのが嬉しいのか、えへへと照れながらもリッキー様の顔は得意げです。
可愛らしい。
同族同士なら何の気兼ねもなく、リッキー様を愛でられるのだわ。羨ましい。
「ローラおねえちゃん。ご本読んで」
膝の上に置いてあった本を私の方へと差し出します。
「また。昨日もローラとずっと一緒だったじゃないか。今日はダメだ。本も自分で読めるだろう。なんだったらエイブに読んでもらえ」
レイ様……
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