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第二部
リリアside
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「熱も喉の腫れもないようですが、咳が出ているようですので、今日一日様子を見られた方がよいでしょう」
「そうですか。わかりました」
医者の診察結果を聞いていたお義父様が頷いた。
「大事にならなくて良かった。先方にはお詫びをして断っておくから、今日はゆっくり休みなさい」
「はい。ごめんなさい」
あたしは小躍りしそうな気持ちを隠して神妙な顔で謝った。やがて一人になった自室でガッツポーズをしたわ。
「ヤッター。よかったあ。テンネル家に行かなくてすんだよぅ。病気さまさまだよね。昨日ずぶぬれになったおかげよね。よい口実ができちゃった」
しばらくは誰も来ないだろうし、布団を蹴飛ばして思いっきり手足を伸ばした。
本当にうんざりしてたんだよね。
何を思ったのか、急に侯爵夫人教育を始めますとか連絡が来て、週末ごとにテンネル家へ行くことになった。
初めのうちはよかったんだよ。エドガーとお茶や庭園の散歩、読書、時には夫人も一緒して、まったりと過ごしていた。これが侯爵夫人教育なのか、ちょろいちょろいと高を括っていたらさ。
ある日、自分の姉だというグレイス侯爵夫人を紹介して、これから本格的に教育を始めるとか言い出してさ。それから、地獄の日々。食事のマナーも最初から最後までダメ出し。食べた心地がしないし。エドガーは少しずつ覚えればいいからって大目に見てくれるのに、グレイス侯爵夫人は考慮なし。容赦なし。
散歩も姿勢が悪いと何度もやり直しをさせられて、庭園だって一周もできていない。読書も音読させられて発音が悪いとこれもダメ出し。しょうがないじゃない。貴族の澄まして気取った発音なんて慣れてないんだから。もうちょっと砕けてもいいと思うんだ。その方が本音も出せるんじゃないの。
エドガーは自然体のあたしが一番好きだと言ってくれるから、それで救われてるわ。
時々、レストランやカフェに連れて行ってくれて『マナーなんて気にしなくていい。好きなだけ食べていいよ』なんて優しいことを言ってくれるから、その通りにしてるし。
エドガーがいなければ、とっくに心が折れてるわ。
あとはさ、貴族の相関図を見せられて、名前はもちろん爵位から家族構成、職業とかいろいろ覚えろってさ。無理でしょ。なんで覚えなきゃいけないのよ。
社交には必要だからって言うけど、みんな覚えてるの? 一人覚えるだけですごい情報量なんですけど。貴族図鑑をめくっただけで眠たくなったわ。
エドガーは俺がいるからって言ってくれてるから、それでいいんじゃないの。
夜会だけではなく、お茶会にも招待されるから、その時に困るわよっていわれたけれど、わからなきゃ聞けばいいんじゃない?って言ったら、開いた口が塞がらないって顔をされたわ。なんで?
はああ。思い出せば次から次に飛び出す貴族の面倒くささ。にっこり笑って、お茶会や夜会に出席するだけでいいと思ってた。
エドガーに会えるのは嬉しいけど、グレイス侯爵夫人の顔を見ると鳥肌が立つようになったわ。毎回毎回、どうやってさぼろうかと考えるようになった。拒否反応がすごくて足が竦んじゃう。末期症状よね。
そんなこんなで、昨日の恵みの雨。
ポツ、ポツと降り出したときに馬車に乗り込めば、濡れずにすんだんだけど。元気ピンピンのあたしは明日の侯爵夫人教育に行かなきゃならない。
そんな時、あたしの中の天使が囁いた。濡れたら、風邪をひくよって。
熱があったら、侯爵家には行けない。当然、教育は休みになる。
フフッ。チャンスよ、チャンス。
で、目の前の停車場からわざと引き返して、人目を避けて、本格的に降り出した雨の中を傘もささずに歩き回ったわ。そういえば、フローラさんを見かけたような気がする。びしょ濡れだったけど、彼女も風邪をひきたかったのかしらね。声をかけようかと思ったけど、彼女の所まで歩いていくのが億劫だったし、あたしに気付かなかったみたいだから、そのまま通り過ぎたけど。
雨に濡れたくらいで簡単には風邪ってひかないもんよね。
あたしみたいに。
そうなんだよ。人間って丈夫にできてんのね。
制服から雨が滴り落ちるくらい濡れてびしょびしょだったから、普通は風邪をひくと思うよね。お義父様もメイド達も心配してあれやこれやと世話してくれたから、明日は100%風邪ひいてるって期待するじゃない? 熱かな、咳かな、それとも両方? なんて、想像しながら、みんなにかいがいしく看病されるイメージトレーニングまでやって、ワクワクしながら寝たのに、なぜかスッキリ爽やかに目が覚めたわ。
症状がないか確かめてみても、どこも悪くなってない。むしろ、いつもより調子いいんじゃないのっていうくらい、ピンピンしてた。
どういうこと? 雨が染みこんだ制服の気持ちの悪さに耐えて、殴られるような雨の痛さに耐えて、びしょ濡れになったのに、あの努力と頑張りを返してほしい。
どうしても行きたくない。行きたくないったら、行きたくない。
その気持ちが勝ったあたしは仮病を使うことにした。
雨に濡れる=風邪をひく。この図式は使えるはず。実際の身体的な症状は無理かもしれないけど、喉が痛いとか、頭痛がする、咳がでるとか、風邪のあらゆる症状を繰り出せばごまかせるはず。
結果、ごまかせた。
やったー!
今日一日、自由だ。仮病を使っている手前、おとなしくしないといけないけど、侯爵家へ行くよりはずっといい。
明後日には、学園でエドガーにも会えるしね。
よかった。よかった。めでたしめでたし。
「そうですか。わかりました」
医者の診察結果を聞いていたお義父様が頷いた。
「大事にならなくて良かった。先方にはお詫びをして断っておくから、今日はゆっくり休みなさい」
「はい。ごめんなさい」
あたしは小躍りしそうな気持ちを隠して神妙な顔で謝った。やがて一人になった自室でガッツポーズをしたわ。
「ヤッター。よかったあ。テンネル家に行かなくてすんだよぅ。病気さまさまだよね。昨日ずぶぬれになったおかげよね。よい口実ができちゃった」
しばらくは誰も来ないだろうし、布団を蹴飛ばして思いっきり手足を伸ばした。
本当にうんざりしてたんだよね。
何を思ったのか、急に侯爵夫人教育を始めますとか連絡が来て、週末ごとにテンネル家へ行くことになった。
初めのうちはよかったんだよ。エドガーとお茶や庭園の散歩、読書、時には夫人も一緒して、まったりと過ごしていた。これが侯爵夫人教育なのか、ちょろいちょろいと高を括っていたらさ。
ある日、自分の姉だというグレイス侯爵夫人を紹介して、これから本格的に教育を始めるとか言い出してさ。それから、地獄の日々。食事のマナーも最初から最後までダメ出し。食べた心地がしないし。エドガーは少しずつ覚えればいいからって大目に見てくれるのに、グレイス侯爵夫人は考慮なし。容赦なし。
散歩も姿勢が悪いと何度もやり直しをさせられて、庭園だって一周もできていない。読書も音読させられて発音が悪いとこれもダメ出し。しょうがないじゃない。貴族の澄まして気取った発音なんて慣れてないんだから。もうちょっと砕けてもいいと思うんだ。その方が本音も出せるんじゃないの。
エドガーは自然体のあたしが一番好きだと言ってくれるから、それで救われてるわ。
時々、レストランやカフェに連れて行ってくれて『マナーなんて気にしなくていい。好きなだけ食べていいよ』なんて優しいことを言ってくれるから、その通りにしてるし。
エドガーがいなければ、とっくに心が折れてるわ。
あとはさ、貴族の相関図を見せられて、名前はもちろん爵位から家族構成、職業とかいろいろ覚えろってさ。無理でしょ。なんで覚えなきゃいけないのよ。
社交には必要だからって言うけど、みんな覚えてるの? 一人覚えるだけですごい情報量なんですけど。貴族図鑑をめくっただけで眠たくなったわ。
エドガーは俺がいるからって言ってくれてるから、それでいいんじゃないの。
夜会だけではなく、お茶会にも招待されるから、その時に困るわよっていわれたけれど、わからなきゃ聞けばいいんじゃない?って言ったら、開いた口が塞がらないって顔をされたわ。なんで?
はああ。思い出せば次から次に飛び出す貴族の面倒くささ。にっこり笑って、お茶会や夜会に出席するだけでいいと思ってた。
エドガーに会えるのは嬉しいけど、グレイス侯爵夫人の顔を見ると鳥肌が立つようになったわ。毎回毎回、どうやってさぼろうかと考えるようになった。拒否反応がすごくて足が竦んじゃう。末期症状よね。
そんなこんなで、昨日の恵みの雨。
ポツ、ポツと降り出したときに馬車に乗り込めば、濡れずにすんだんだけど。元気ピンピンのあたしは明日の侯爵夫人教育に行かなきゃならない。
そんな時、あたしの中の天使が囁いた。濡れたら、風邪をひくよって。
熱があったら、侯爵家には行けない。当然、教育は休みになる。
フフッ。チャンスよ、チャンス。
で、目の前の停車場からわざと引き返して、人目を避けて、本格的に降り出した雨の中を傘もささずに歩き回ったわ。そういえば、フローラさんを見かけたような気がする。びしょ濡れだったけど、彼女も風邪をひきたかったのかしらね。声をかけようかと思ったけど、彼女の所まで歩いていくのが億劫だったし、あたしに気付かなかったみたいだから、そのまま通り過ぎたけど。
雨に濡れたくらいで簡単には風邪ってひかないもんよね。
あたしみたいに。
そうなんだよ。人間って丈夫にできてんのね。
制服から雨が滴り落ちるくらい濡れてびしょびしょだったから、普通は風邪をひくと思うよね。お義父様もメイド達も心配してあれやこれやと世話してくれたから、明日は100%風邪ひいてるって期待するじゃない? 熱かな、咳かな、それとも両方? なんて、想像しながら、みんなにかいがいしく看病されるイメージトレーニングまでやって、ワクワクしながら寝たのに、なぜかスッキリ爽やかに目が覚めたわ。
症状がないか確かめてみても、どこも悪くなってない。むしろ、いつもより調子いいんじゃないのっていうくらい、ピンピンしてた。
どういうこと? 雨が染みこんだ制服の気持ちの悪さに耐えて、殴られるような雨の痛さに耐えて、びしょ濡れになったのに、あの努力と頑張りを返してほしい。
どうしても行きたくない。行きたくないったら、行きたくない。
その気持ちが勝ったあたしは仮病を使うことにした。
雨に濡れる=風邪をひく。この図式は使えるはず。実際の身体的な症状は無理かもしれないけど、喉が痛いとか、頭痛がする、咳がでるとか、風邪のあらゆる症状を繰り出せばごまかせるはず。
結果、ごまかせた。
やったー!
今日一日、自由だ。仮病を使っている手前、おとなしくしないといけないけど、侯爵家へ行くよりはずっといい。
明後日には、学園でエドガーにも会えるしね。
よかった。よかった。めでたしめでたし。
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