婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ

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第二部

ビビアンside⑰

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 一人部屋で待つ時間が永遠にも感じてしまう。時計が時間を刻む音がやけに大きく聞こえる。
 早くエマに会いたいのに。押しかけていくわけにもいかない。
 エマにもわたくしにも心を落ち着かせる時間が必要なのかもしれない。エマだって、一人王城に連れていかれて精神的にもショックを受けているだろうから、ケアも必要かもしれない。
 よい方に考えてじっとその時が来るのを待った。 

 どのくらい経った頃だろうか。一時間はゆうに過ぎていたと思う。

「お嬢様、お待たせいたしました。旦那様がお呼びです」

 やっと、わたくしを呼びにヨハンが部屋に訪れた。

 エマに会えるのね。どんな言葉をかけようかしら? 
 お疲れさまとか、大変だったわねとか、ゆっくり休んでとか、つらつらと色々な労いの言葉を考えて、足取りも軽やかに案内されたお父様の書斎に入った。

 通された書斎。お父様とお母様が並んで座っていた。
 エマはどこかしら?
 部屋を見回しても両親の他は誰もいない。
 ヨハンがワゴンを引いて中に入ってくるとお茶の準備を始めた。

「お父様。エマはどこかしら?」

「まずは座りなさい」

 弾んだ声で聞いたわたくしを諫めるようなお父様に促されて向かいの席に腰を下ろした。

 なんだか、思っていたのと違うわ。エマと歓喜の再開を想像していただけに、調子が狂ってしまった。
 両親の顔に喜びの表情がない。お母様は目頭にハンカチを当てて涙を拭っていた。
 いったい、これは……まさか……
 俄かに不安が押し寄せてくる。考えたくはないけれど、まさか。最悪の事態が起きたというの?

 重苦しい雰囲気の中、紅茶の香りが漂ってきた。
 わたくしの好きな茶葉の香りだわ。ヨハンは覚えてくれていたのね。鼻腔を擽る大好きな香りに一時心が癒された。準備が整うとヨハンは部屋の奥に退いた。

 渋い顔をしたお父様はなかなか口を開こうとはしない。
 わたくしは不安な気持ちを振り払うように紅茶に口をつけた。

 両親にはストレートだったけれど、わたくしにはミルクティーを淹れてくれていた。ほんのりと蜂蜜の甘い香りがする。蜂蜜も産地にこだわったわたくしのお気に入りのもの。程よい甘さが心を和らげてくれる。二口、三口と飲んで、ミルクティーを堪能してカップをソーサーに置くと両親がわたくしを見つめていた。
 愛おしそうな眼差しの中に痛ましさを滲ませた複雑な色で。

「ビビアン。そなたに聞きたいことがある」

 お父様がおもむろに口を開いた。

「お父様。エマはどこにいるのですか?」

 もしかしたら、隣室にいて後で驚かせようと思っているのかもしれないと考えたけれど。帰ってきていると信じて疑わないわたくし。

「エマが気になるのか?」

「はい。エマは帰ってきているのでしょう? できれば先に会わせていただけないでしょうか?」

「エマか……」

 小さく息を吐いたお父様はあごに手をやり考えていた。お楽しみはあとにというつもりだったのかしら? お父様の計画を台無しにしてしまったのかもしれないわ。余計なことを口走ってしまって、申し訳ないことをしたのかも。
 
「落ち着かないようだからな。先に結論から言った方がよいか?」

「はい」

 わたくしの意見を聞き入れて下さった。
  エマは無実だったとお父様の口からハッキリ聞かないと落ち着かないものね。それから、ゆっくりと話をしたいわ。
 わたくしは期待を胸にお父様の言葉を待った。
 
「エマは帰ってこない。永久に帰ってこないだろう」

「え、それは、どういう……」

「エマは、黒だった」

「……」

「犯行を認めたよ。盗賊達に誘拐を依頼したとエマが自供した」 

 黒? 犯行を自供って……うそ。うそよね。

「エマが、そんな、何かの間違いですわ。彼女がそんな誘拐なんて、犯罪にかかわるなど考えられません。お父様、エマは心優しい人なのよ」
 
「わしだって信じたくはない。しかし……。エマはそなたの言う通りの人柄なのだろう。その心優しいメイドが犯罪を犯す。その原因は何だったのか。ビビアン、そなたに色々と聞きたいことがある」

 お父様の冷淡で地を這うような低い声がわたくしの鼓膜に響いた。

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