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第二部
ディアナside⑦
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王城の離れに灰色の無機質な建造物。いくつかの小さな窓には鉄の格子がはめられ、長い鉄柵には茨が巻き付き来るものを拒むような異彩な雰囲気を放っている。
人が行きかう華やかな王城とは違い、およそ足を踏み入れる機会のない場所である。
俗世から切り離されたような深閑とした土地に佇む建物の門の前には、長槍を持った衛兵が二人、厳粛な表情で立っていた。
門をくぐり、いくつかの関所の許可を受けてわたしとアンジェラは目当ての部屋へとたどり着いた。
「お久しぶりですわね」
わたしはにこやかな笑顔を向けて挨拶するとそれに気づいた彼女がこちらに近づいてきた。
「ディアナ、来てくれたのね」
少しやつれた感じはあるものの肌の色つやもいいわ。
「とてもお元気そうで、安心しましたわ」
知り合いの面会に喜びを抑えきれないのか、鉄格子を掴み揺さぶるビビアン様。
ここは貴族の罪人が収容される貴族牢。
セミダブルベッドもあるし机と椅子、書棚も置いてある。何冊か本も収まっているから、取り寄せてもらったのだろう。室内は清潔に保たれてよい香りもするわ。広さも十分にあるし普通の部屋と遜色ない。鉄格子が異様なだけで。
着ているドレスも化粧も貴族令嬢そのもの。良質の食事にメイドもつけて世話をさせている。
「ねえ、早くここから出してちょうだい。わたくしは何も悪いことなんてしていないわ」
挨拶もなく開口一番、自己弁護。
少しは反省しているかと思えば、この期に及んで何を言い出すのか、頭を抱えたくなる。あさましいことこの上ない。背後でミシッと音がした。
「アンジェラ様。お願いです。ここから出して頂けないでしょうか。わたくしには身に覚えのないこと、ここに閉じ込められる謂れなどございません。どうかお助け下さい」
わたしの後ろにいたアンジェラの姿に気が付いたのか、胸の前で指を組み頭を下げて殊勝に懇願していた。こういう時は目ざといのね。感心するわ。
「わたくし、あなたにわたくしの名前を呼ぶことなど、一度たりとも許可していないわ」
冷めた目でじっと見ていたアンジェラが口を開く。地の底を這うような極寒の冷気を纏った冷淡な声と冷然とした態度にビビアン様が震えあがった。
普段、朗らかで人当たりの良い人が怒ると怖さ倍増よね。しかもそれが王太子妃ともなれば効果は絶大。
ビビアン様は機嫌を損ねては不利になるとふんだのだろう。即座に土下座をして謝った。
「申し訳ございません。王太子妃殿下」
土下座をしたとて床はふわふわの絨毯のおかげで足が痛くなることもドレスが汚れることもない。
「この部屋の居心地はどうかしら?」
冷たい瞳でアンジェラは微笑んでビビアン様に問う。土下座をし頭を下げ続ける彼女の肩がピクリと動く。
「……」
罪人扱いの待遇に答えを窮する姿をわたしは興味津々に見つめる。
「顔を上げてちょうだい。何か不満でもあるのかしら?」
「いえ……何もございません」
ビビアン様は真っ青な顔でアンジェラを見上げた。
「よかったわ。ビビアン嬢は公爵令嬢ですものね。その爵位に相応しく何もかも別格なのよ。こちらの部屋も特別にあなたのために改装したものなの。気に入ってもらえるなんて、頑張った甲斐があったというものね」
扇子で口元を隠して笑っていない目でにっこりと笑うアンジェラ。その扇子、少しひびが入っていないかしら?
なんと答えていいのか分からずビビアン様の表情が強張っていく。
自分のために改装したと言われても所詮は貴族牢。居心地は良くても罪人扱いであることは変わらない。
今回の件で一番怒っているのはアンジェラかもしれないわね。
誘拐未遂事件を知って激怒した彼女を宥めるのに苦労したもの。気持ちはわたしだって同じ。懐に入れた大事な宝物を傷つける輩を許せるほど、わたしたちは寛容ではないのよ。
人が行きかう華やかな王城とは違い、およそ足を踏み入れる機会のない場所である。
俗世から切り離されたような深閑とした土地に佇む建物の門の前には、長槍を持った衛兵が二人、厳粛な表情で立っていた。
門をくぐり、いくつかの関所の許可を受けてわたしとアンジェラは目当ての部屋へとたどり着いた。
「お久しぶりですわね」
わたしはにこやかな笑顔を向けて挨拶するとそれに気づいた彼女がこちらに近づいてきた。
「ディアナ、来てくれたのね」
少しやつれた感じはあるものの肌の色つやもいいわ。
「とてもお元気そうで、安心しましたわ」
知り合いの面会に喜びを抑えきれないのか、鉄格子を掴み揺さぶるビビアン様。
ここは貴族の罪人が収容される貴族牢。
セミダブルベッドもあるし机と椅子、書棚も置いてある。何冊か本も収まっているから、取り寄せてもらったのだろう。室内は清潔に保たれてよい香りもするわ。広さも十分にあるし普通の部屋と遜色ない。鉄格子が異様なだけで。
着ているドレスも化粧も貴族令嬢そのもの。良質の食事にメイドもつけて世話をさせている。
「ねえ、早くここから出してちょうだい。わたくしは何も悪いことなんてしていないわ」
挨拶もなく開口一番、自己弁護。
少しは反省しているかと思えば、この期に及んで何を言い出すのか、頭を抱えたくなる。あさましいことこの上ない。背後でミシッと音がした。
「アンジェラ様。お願いです。ここから出して頂けないでしょうか。わたくしには身に覚えのないこと、ここに閉じ込められる謂れなどございません。どうかお助け下さい」
わたしの後ろにいたアンジェラの姿に気が付いたのか、胸の前で指を組み頭を下げて殊勝に懇願していた。こういう時は目ざといのね。感心するわ。
「わたくし、あなたにわたくしの名前を呼ぶことなど、一度たりとも許可していないわ」
冷めた目でじっと見ていたアンジェラが口を開く。地の底を這うような極寒の冷気を纏った冷淡な声と冷然とした態度にビビアン様が震えあがった。
普段、朗らかで人当たりの良い人が怒ると怖さ倍増よね。しかもそれが王太子妃ともなれば効果は絶大。
ビビアン様は機嫌を損ねては不利になるとふんだのだろう。即座に土下座をして謝った。
「申し訳ございません。王太子妃殿下」
土下座をしたとて床はふわふわの絨毯のおかげで足が痛くなることもドレスが汚れることもない。
「この部屋の居心地はどうかしら?」
冷たい瞳でアンジェラは微笑んでビビアン様に問う。土下座をし頭を下げ続ける彼女の肩がピクリと動く。
「……」
罪人扱いの待遇に答えを窮する姿をわたしは興味津々に見つめる。
「顔を上げてちょうだい。何か不満でもあるのかしら?」
「いえ……何もございません」
ビビアン様は真っ青な顔でアンジェラを見上げた。
「よかったわ。ビビアン嬢は公爵令嬢ですものね。その爵位に相応しく何もかも別格なのよ。こちらの部屋も特別にあなたのために改装したものなの。気に入ってもらえるなんて、頑張った甲斐があったというものね」
扇子で口元を隠して笑っていない目でにっこりと笑うアンジェラ。その扇子、少しひびが入っていないかしら?
なんと答えていいのか分からずビビアン様の表情が強張っていく。
自分のために改装したと言われても所詮は貴族牢。居心地は良くても罪人扱いであることは変わらない。
今回の件で一番怒っているのはアンジェラかもしれないわね。
誘拐未遂事件を知って激怒した彼女を宥めるのに苦労したもの。気持ちはわたしだって同じ。懐に入れた大事な宝物を傷つける輩を許せるほど、わたしたちは寛容ではないのよ。
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