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第二部
テンネル侯爵夫人side③
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わたくしは気分を変えるように席を立つと茶葉を手に取って新しくお茶を淹れ始めた。
テラスは風通しが良くて涼しい風が吹き抜けていく。天気がいい日は決まってここでお茶を飲むほどのお気に入りの場所。
新しい茶器に紅茶を注ぐと姉へと運んだ。メイドが新しいお菓子を持ってきてくれた。軽い食感のクッキーだった。
「お姉様。リリアさんの事なのですけれど」
「何かしら?」
「実はチェント男爵からこのまま教育が進まないようなら、婚約を白紙に戻してもかまわないと話があったんです。テンネル侯爵家に迷惑をかけては申し訳ないからと言われましたわ」
「それは随分思い切ったことを……」
姉は大きく目を見開いて驚いた顔をした。
それもそうだろうと思う。チェント家は男爵。テンネル家は侯爵。普通に考えれば婚約するには身分が違う。普通なら受け入れがたいことだけれど、ブルーバーグ侯爵令嬢との婚約解消の原因になった男爵令嬢を受け入れることで責任を取ったつもりだった。
公衆の面前で婚約破棄騒動を起こせば穏便に内々で済まされるはずはない。それとチェント家は男爵ではあるものの貿易や真珠の養殖などで成功し資産家であることも幸いした。
チェント家とも取引があったことも少なからず影響はあった。婚姻によって友好な関係を築いていけばこちらにも益があるだろうという思惑もあった。
「男爵家がそのようなことを言い出すほどにリリア嬢に手を焼いているということかしらね」
「そうかもしれません。頭をこすり付けんばかりにお願いされましたもの」
「それでどうしたの?」
「一応、男爵の申し出は受け入れました。口約束でもよかったのですが、契約として書類も交わしましたし、その方が安心だと言われましたわ」
「よほどリリア嬢の所業が心配なのね。家族に信用されないのもつらいものねぇ」
姉は同情たっぷりに呟くと湯気の立った紅茶を口にした。
あの頃は遅々として進まない教育に頭を悩ませていたこともあり、男爵も苦渋の選択だったのだろうと思う。侯爵家に迷惑をかけたくないとしきりに口にしていたし、何度も頭を下げられては承諾せざるを得なかった。
侯爵家としても二度の婚約解消は避けたいところ。保険だと思って契約書にサインをしたのだった。使うことなく済めばそれが一番いいわ。
リリアさんにも伝えてあるそうだからそれが功を奏したのかもしれないわね。二人共真面目に教育を受けるようになったもの。
「それからお姉様、結婚式を終えたら二人をソムラ村に派遣するつもりですの」
「ソムラ村というとリゾート開発中の所よね?」
「そうです。元々、結婚後はそちらに夫婦ともに行ってもらう予定でしたから」
本来なら相手はフローラさんだった。
相手は変わったけれど、主人と相談して予定通りに進めることにしたのだ。今は中断しているけれど、エドガーもリゾート開発には携わっていたのだから下地も出来ているはず。任せても大丈夫でしょう。
エドガー達二人だけに全ての責任を負わせるわけではない。主人もついているし必要とあらばわたくしも協力する心積もりもあるし、責任者もベテランの専門家もいる。みんなで協力して開発を行ってくれたらいいのだ。
「そう。でも、大丈夫なの?」
「お姉様の心配もわからないではないですが、これも一つの勉強。エドガーは後継者としてリリアさんは侯爵夫人として適任なのか見極めるためというのもあります」
「要するに試験ということね。嫡男なのに、すんなり後継者といかないところが悲しいわね」
痛いところを突くお姉様。
婚約破棄騒動を起こした時点で後継者から外したいところだったのだけれど、スティールが拒否している状況ではそれも出来ない。だからといって親戚から後継者をと思っても、息子が二人いるのに両方とも当主としての資格なしとなればテンネル侯爵家の教育の資質が問われる。それが信用の低下にも繋がるかもしれない。
杞憂に終わればいいけれど、そこが難しいところなのだ。
だからチャンスをあげることにした。
「案外、頑張ってくれて上手くいくかもしれませんわ」
自分を奮い立たせるように明るい声を出した。
「そうね。まだ未知数ですものね。少しずつだけれど教育も進んでいるし希望を持つことの方が大事よね」
「はい。そう思います」
悲観的になっては物事は進まない。
リゾート開発も着々と進んでいる。あとは開業して運営が安定すれば滅多なことでは失敗はしないだろうと思う。成功体験があればエドガーももっとやる気になってくれるだろうし、次期当主としての自覚も出てくるだろう。
一筋の希望に縋るように息子を信じるほかはないのだった。
テラスは風通しが良くて涼しい風が吹き抜けていく。天気がいい日は決まってここでお茶を飲むほどのお気に入りの場所。
新しい茶器に紅茶を注ぐと姉へと運んだ。メイドが新しいお菓子を持ってきてくれた。軽い食感のクッキーだった。
「お姉様。リリアさんの事なのですけれど」
「何かしら?」
「実はチェント男爵からこのまま教育が進まないようなら、婚約を白紙に戻してもかまわないと話があったんです。テンネル侯爵家に迷惑をかけては申し訳ないからと言われましたわ」
「それは随分思い切ったことを……」
姉は大きく目を見開いて驚いた顔をした。
それもそうだろうと思う。チェント家は男爵。テンネル家は侯爵。普通に考えれば婚約するには身分が違う。普通なら受け入れがたいことだけれど、ブルーバーグ侯爵令嬢との婚約解消の原因になった男爵令嬢を受け入れることで責任を取ったつもりだった。
公衆の面前で婚約破棄騒動を起こせば穏便に内々で済まされるはずはない。それとチェント家は男爵ではあるものの貿易や真珠の養殖などで成功し資産家であることも幸いした。
チェント家とも取引があったことも少なからず影響はあった。婚姻によって友好な関係を築いていけばこちらにも益があるだろうという思惑もあった。
「男爵家がそのようなことを言い出すほどにリリア嬢に手を焼いているということかしらね」
「そうかもしれません。頭をこすり付けんばかりにお願いされましたもの」
「それでどうしたの?」
「一応、男爵の申し出は受け入れました。口約束でもよかったのですが、契約として書類も交わしましたし、その方が安心だと言われましたわ」
「よほどリリア嬢の所業が心配なのね。家族に信用されないのもつらいものねぇ」
姉は同情たっぷりに呟くと湯気の立った紅茶を口にした。
あの頃は遅々として進まない教育に頭を悩ませていたこともあり、男爵も苦渋の選択だったのだろうと思う。侯爵家に迷惑をかけたくないとしきりに口にしていたし、何度も頭を下げられては承諾せざるを得なかった。
侯爵家としても二度の婚約解消は避けたいところ。保険だと思って契約書にサインをしたのだった。使うことなく済めばそれが一番いいわ。
リリアさんにも伝えてあるそうだからそれが功を奏したのかもしれないわね。二人共真面目に教育を受けるようになったもの。
「それからお姉様、結婚式を終えたら二人をソムラ村に派遣するつもりですの」
「ソムラ村というとリゾート開発中の所よね?」
「そうです。元々、結婚後はそちらに夫婦ともに行ってもらう予定でしたから」
本来なら相手はフローラさんだった。
相手は変わったけれど、主人と相談して予定通りに進めることにしたのだ。今は中断しているけれど、エドガーもリゾート開発には携わっていたのだから下地も出来ているはず。任せても大丈夫でしょう。
エドガー達二人だけに全ての責任を負わせるわけではない。主人もついているし必要とあらばわたくしも協力する心積もりもあるし、責任者もベテランの専門家もいる。みんなで協力して開発を行ってくれたらいいのだ。
「そう。でも、大丈夫なの?」
「お姉様の心配もわからないではないですが、これも一つの勉強。エドガーは後継者としてリリアさんは侯爵夫人として適任なのか見極めるためというのもあります」
「要するに試験ということね。嫡男なのに、すんなり後継者といかないところが悲しいわね」
痛いところを突くお姉様。
婚約破棄騒動を起こした時点で後継者から外したいところだったのだけれど、スティールが拒否している状況ではそれも出来ない。だからといって親戚から後継者をと思っても、息子が二人いるのに両方とも当主としての資格なしとなればテンネル侯爵家の教育の資質が問われる。それが信用の低下にも繋がるかもしれない。
杞憂に終わればいいけれど、そこが難しいところなのだ。
だからチャンスをあげることにした。
「案外、頑張ってくれて上手くいくかもしれませんわ」
自分を奮い立たせるように明るい声を出した。
「そうね。まだ未知数ですものね。少しずつだけれど教育も進んでいるし希望を持つことの方が大事よね」
「はい。そう思います」
悲観的になっては物事は進まない。
リゾート開発も着々と進んでいる。あとは開業して運営が安定すれば滅多なことでは失敗はしないだろうと思う。成功体験があればエドガーももっとやる気になってくれるだろうし、次期当主としての自覚も出てくるだろう。
一筋の希望に縋るように息子を信じるほかはないのだった。
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