婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ

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第二部

リリアside④

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 広場の中央には大きな噴水があって人々を和ませている。
 子供達が駆けまわったり、屋台の食べ物を食べていたり、ベンチに座って休む人もいる。家族連れも多いけれどカップルも見かける。中には貴族と思われる人達もいる。  
物珍しさからか最近は下町を散策するのがプチムーブになっているとか聞いたことがある。

 香ばしい匂いと甘い匂いが漂ってくる。
 一番最初に目に入ったのは串焼き。お肉とタレの焼ける匂いが食欲を刺激した。それはエドガーも同じようであたしたちは行列に並んだ。

 順番待ちしている間に次は何を食べようかとお店を見回した。
 焼きとうもろこしも美味しそう。川魚も。ほくほくとした身をかぶりつくのもいい。ホットドックも食べたい。ジューシーなソーセージの味が口いっぱいに広がって、さぞや美味しいだろう。果実水も飲まなくちゃ。
 食に対する要求が際限ない。お腹がすいているせいだろう。

 お肉に付け込んだ甘辛のタレの少し焦げた匂いが食欲をそそる。目当ての串焼きを手にすると早速かぶりついた。
 うーん。おいしい。屋台の中で一番行列ができているのも頷けるわ。
 エドガーも気に入ったみたい。夢中になってかぶりついているもの。

「おいしい。エドガーありがと。連れてきてくれて」

「うん。たまにはいいな。また来ようか」

「うん。楽しみにしてる」

 それからいろんな店を回って買い物をした。
 下町は平民の街だから、礼儀作法なんて必要ない。食べ歩きなんて当たり前だしフォークやナイフなんてものも使わない。気楽に食べることができるのが良いところ。

 今日だって何も言わなければ貴族街の一流レストランで食事してるはずだったもの。
 最初の頃よりはましになったとはいっても、マナーを完全にマスターしたわけではないんだよね。近いうちに食事会を開いてテストするとか言われたし。他家には披露できないから身内だけの食事会って……息が詰まる。

 お義父様からは侯爵夫人教育の成果がなければ、婚約を白紙に戻すと脅されたんだよね。横暴だと思ったけれど、エドガーも同じように聞かされたらしくて、真面目にコツコツ努力するほかないってさ。

 エドガーはあたしとは別れる気はないし、結婚もあたし以外は考えられないって言ってくれた。
 あたしもエドガーしかいないし。だから、エドガーのためにもあたしのためにも努力はしているつもり。自分のキャパ以上に頑張ってると思う。

「ねっ、次は甘いものが食べたい」

 しょっぱいもののあとは甘いものでお腹を満たしたい。

「まだ、入るのか?」

 エドガーはビックリしている。当然か。最近のレストランではマナーを気になって緊張してろくに食欲が湧かなかったら、残してたんだよね。もったいなかった。ホントはもっと食べたかったのに。

「甘いものは別腹よ。ダメ?」

 ちょっと上目遣いで聞いてみる。あたしの顔って童顔だから甘える仕草は庇護欲をそそるらしい。実は鏡で見て研究している。だって、エドガーを他の令嬢に渡したくないからね。多少の計算は必要だよね。今はベタ惚れされていたって気持ちなんてすぐ変わる可能性だってあるし。

「そういうところもいいな。正直で。ベンチもあるし、あとは座ってゆっくりと食べようか?」

「うん」

 いろんな屋台を眺めながら食べ歩きしていたから、ちょっと疲れてしまった。どこかで腰を落ち着けるのもいいかも。子供達の笑い声やはしゃぐ姿が何だか懐かしくて落ち着く。

 そういえば、平民の頃はよく子供達に声をかけられていたっけ。
 人懐っこくて物怖じしない子供は「お姉ちゃん、遊ぼう」ってよく誘ってくれていたなあ。そんな昔の光景が目に浮かんだ。そういえば、あの子達、今どうしているんだろう。大きくなっただろうなあ。

 貴族になってから一度も訪れることはなかった。貴族の生活に慣れるのに精いっぱいで、思い出すこともなかった。広場で遊ぶ子供達を見て感傷にも似た感情が心の中を過ぎっていった。

「どうしたんだ? 急に大人しくなって」

 心配そうにあたしの顔を覗き込むエドガーに何でもないと首を左右に振った。
 あたしはもう平民じゃない。男爵令嬢で次期侯爵夫人よ。立場が違うんだから。平民の子供達の事はどうでもいいじゃない。関係ないわ。 

「ちょっと、疲れちゃったかな。どこかで休憩したい」

 過去を振り払うようにエドガーの腕にしがみついた。頼られることが好きなエドガーの眼差しがとろりと甘くなる。そんな彼の瞳に恋をするのだ。何度も何度も。
 
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