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第二部
リリアside③
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「ね、今日は下町に行ってみたい」
今日はエドガーとデートの日。
テンネル侯爵家の馬車の中でリクエストをする。
「下町? まあいいけど」
「わあい。楽しみー」
エドガーの腕に手を絡ませて喜ぶと「大袈裟だな」といいながら頭を撫でてくれた。それが嬉しくて肩に頬を寄せる。エドガーの耳が赤い。あたしから甘えるとものすごく照れるんだよね。そんなところも初心で可愛くて好み。
フローラさんには横柄な態度を取るくせにあたしにはとても甘い。これが惚れた弱みというものかしら、なんて思いながらあたしは指を絡ませた。
「凄い。賑わってるね」
馬車の中での甘い時間を過ごしたあたしたちは下町に来ていた。
貴族街と違う街並みや雰囲気。主に平民が集まる下町は子供達の声や行きかう人々で活気に満ちていた。店舗もたくさんあるが広場には屋台と呼ばれる出店もあって、人々が行列を作っている。
懐かしい。
あたしも男爵家の養女になる前はたまに来ていた。
母子の暮らしでお金に余裕があったわけではないから、年に数えるほどだったけど。母親だけの収入では生きていくだけで精一杯。あたしも店の雑用をしたりして働いてはいたけれど、子供の給金なんて雀の涙。大した収入ではなかった。それでも働かないよりはましだった。
子供心に両親がいれば、人並みに生活できたかもしれないのに。屋台の食べ物を頬張る子供達を眺めながら思っていたものだった。
「何か食べるか?」
昔を懐かしんでいるとエドガーの声がした。食べるか? って声に素早く反応したのはあたしのお腹。
ぐうーという音に大きく目を見開いたエドガー。あたしのお腹を見つめて笑い出した。
もう、恥ずかしい。美味しいものをお腹いっぱい食べたいからと朝食を控え目にしたのが裏目に出てしまったわ。こんなタイミングでお腹が鳴るなんて女の子として恥ずかしすぎる。
「エドガー、笑いすぎ」
クククッと声を潜めて笑うエドガーを恨めしく睨む。ひとしきり笑った後
「まあ、まあ。正直でよろしい。今日は満足いくまでいっぱい食べような。俺もお腹すいてきた。さっ、行こう」
エドガーはあたしの手を握ると屋台のある広場へと引っ張っていく。
まっ、いいか。こんなことも将来二人の子供達への笑い話になるかもしれない。なんてことを想像したら顔が赤くなってしまった。
「ちょっと、顔が真っ赤だけど大丈夫か? 熱があるんじゃ?」
勘違いしたエドガーが心配げに聞いてくる。そんなに赤い?
「大丈夫。なんともないよ」
「本当に? 無理してないか。病気が悪化したらいけないから帰ろう。デートは別の日に……」
「もう、大袈裟すぎ。大丈夫だって。無理もしてないし、ほら、見てみて。赤くなってないでしょ。一時的なものだよ」
楽しみにしていたせっかくのデート。具合が悪くもないのに中止になったら泣くに泣けない。あたしは必死に説得する。心配してくれて気にかけてくれるのは嬉しいけれど、エドガーは過保護すぎる。
あたしの顔色を確かめるように顔を覗き込むエドガー。
端正な顔が目の前にあってドキッと心臓が跳ね上がる。ドキドキが増して顔が火照ってきた。顔赤くなってないよね? 誤解して「熱がありそう。帰ろう」ってならないよね?
チュッ。
リップ音が聞こえて額に口づけが落とされた。誰にも見られてないよね? 咄嗟に両手で額を覆ってキョロキョロと辺りを見回した。幸い、みんな自分達の事で夢中のようでこちらを気にしている人はいなかったみたい。
よかった。
「エドガー。人前ではこんなことやめてよね」
「人前でなければいいのか?」
ニヤリと笑ってあげ足を取ってくる。
「もう、そういう意味じゃないって分かってるくせに」
「ハハハッ。ごめん、ごめん。リリアがあまりにも可愛くて我慢できなかったんだ」
幸せそうに笑うエドガーにあたしもつられて笑顔になった。眩しいほどの笑顔で衒いもなく可愛いと何度もいってくれる。あたしを愛してくれるエドガーが好き。
「エドガー、お腹がペコペコ。早くお店に行こう」
「そうだな」
あたしは恋人つなぎにして手を握り直すと先へとせがむように歩き始めた。
今日はエドガーとデートの日。
テンネル侯爵家の馬車の中でリクエストをする。
「下町? まあいいけど」
「わあい。楽しみー」
エドガーの腕に手を絡ませて喜ぶと「大袈裟だな」といいながら頭を撫でてくれた。それが嬉しくて肩に頬を寄せる。エドガーの耳が赤い。あたしから甘えるとものすごく照れるんだよね。そんなところも初心で可愛くて好み。
フローラさんには横柄な態度を取るくせにあたしにはとても甘い。これが惚れた弱みというものかしら、なんて思いながらあたしは指を絡ませた。
「凄い。賑わってるね」
馬車の中での甘い時間を過ごしたあたしたちは下町に来ていた。
貴族街と違う街並みや雰囲気。主に平民が集まる下町は子供達の声や行きかう人々で活気に満ちていた。店舗もたくさんあるが広場には屋台と呼ばれる出店もあって、人々が行列を作っている。
懐かしい。
あたしも男爵家の養女になる前はたまに来ていた。
母子の暮らしでお金に余裕があったわけではないから、年に数えるほどだったけど。母親だけの収入では生きていくだけで精一杯。あたしも店の雑用をしたりして働いてはいたけれど、子供の給金なんて雀の涙。大した収入ではなかった。それでも働かないよりはましだった。
子供心に両親がいれば、人並みに生活できたかもしれないのに。屋台の食べ物を頬張る子供達を眺めながら思っていたものだった。
「何か食べるか?」
昔を懐かしんでいるとエドガーの声がした。食べるか? って声に素早く反応したのはあたしのお腹。
ぐうーという音に大きく目を見開いたエドガー。あたしのお腹を見つめて笑い出した。
もう、恥ずかしい。美味しいものをお腹いっぱい食べたいからと朝食を控え目にしたのが裏目に出てしまったわ。こんなタイミングでお腹が鳴るなんて女の子として恥ずかしすぎる。
「エドガー、笑いすぎ」
クククッと声を潜めて笑うエドガーを恨めしく睨む。ひとしきり笑った後
「まあ、まあ。正直でよろしい。今日は満足いくまでいっぱい食べような。俺もお腹すいてきた。さっ、行こう」
エドガーはあたしの手を握ると屋台のある広場へと引っ張っていく。
まっ、いいか。こんなことも将来二人の子供達への笑い話になるかもしれない。なんてことを想像したら顔が赤くなってしまった。
「ちょっと、顔が真っ赤だけど大丈夫か? 熱があるんじゃ?」
勘違いしたエドガーが心配げに聞いてくる。そんなに赤い?
「大丈夫。なんともないよ」
「本当に? 無理してないか。病気が悪化したらいけないから帰ろう。デートは別の日に……」
「もう、大袈裟すぎ。大丈夫だって。無理もしてないし、ほら、見てみて。赤くなってないでしょ。一時的なものだよ」
楽しみにしていたせっかくのデート。具合が悪くもないのに中止になったら泣くに泣けない。あたしは必死に説得する。心配してくれて気にかけてくれるのは嬉しいけれど、エドガーは過保護すぎる。
あたしの顔色を確かめるように顔を覗き込むエドガー。
端正な顔が目の前にあってドキッと心臓が跳ね上がる。ドキドキが増して顔が火照ってきた。顔赤くなってないよね? 誤解して「熱がありそう。帰ろう」ってならないよね?
チュッ。
リップ音が聞こえて額に口づけが落とされた。誰にも見られてないよね? 咄嗟に両手で額を覆ってキョロキョロと辺りを見回した。幸い、みんな自分達の事で夢中のようでこちらを気にしている人はいなかったみたい。
よかった。
「エドガー。人前ではこんなことやめてよね」
「人前でなければいいのか?」
ニヤリと笑ってあげ足を取ってくる。
「もう、そういう意味じゃないって分かってるくせに」
「ハハハッ。ごめん、ごめん。リリアがあまりにも可愛くて我慢できなかったんだ」
幸せそうに笑うエドガーにあたしもつられて笑顔になった。眩しいほどの笑顔で衒いもなく可愛いと何度もいってくれる。あたしを愛してくれるエドガーが好き。
「エドガー、お腹がペコペコ。早くお店に行こう」
「そうだな」
あたしは恋人つなぎにして手を握り直すと先へとせがむように歩き始めた。
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