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困難な道
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「王太子殿下?」
「わたくしとラフェール様は……だめなのでしょうか?」
俯いて震える声で今にも泣きそうな表情。
「お父様もおっしゃったと思うけれど、これに関しては先は明るいものではないわね。貴族の結婚は政略がほとんどですし、ましてや相手は王太子殿下。当事者の一存だけで決めることは難しいでしょう」
「わかって……」
言い終わらないうちに、フロレンティーナの頬に涙が一筋。
かわいそうに。隣に座り彼女を抱きしめる。我慢しきれなくなったのか、次から次へと涙があふれ出してくる。
妹のデビュタントの日、白いドレスに身を包み、身内のエスコートで会場に入り、国王陛下から社交界デビューしたことへの祝辞を頂く。これをもって成人したと認められる大事な儀式の日。それが終われば舞踏会へと移りデビュタントの令嬢は王族の男性とファーストダンス。
フロレンティーナは王太子殿下がお相手だった。
そこであろうことか、お互いに一目ぼれ。
王族とデビュタントの令嬢とのダンスは一曲だけで、踊り終わると上座に座るか、退場するか。それが通常のこと。王太子殿下もいつもなら上座に座っていたはずだった。
デビュタントのダンスが終わると、次は参列者も参加してのダンスの時間になる。その人々の間を縫って現れたのは、王太子殿下。そしてフロレンティーナの前に手を差し出す。
『フロレンティーナ嬢、もう一度ダンスの相手をお願いできないだろうか』
その様子に気づいた貴族たちがざわめきだし、王太子殿下の行動を固唾を飲んで見ていた。王太子殿下の誘いを断れるはずはない。王族はデビュタントの令嬢と二度は踊らない。これは決まり事。
わかっていただろうに、王太子殿下は暴挙ともいえる行動に出てしまった。
『はい』
フロレンティーナは薄紅に頬を染め、差し出された手に自分の手を重ねた。ホールの中央で二人は優雅に踊りだす。
小さなざわめきがさざ波のように、会場全体に広がっていく。
王太子殿下は、アイスバーグ公爵令嬢フロレンティーナ嬢を見初めたのだと。王太子妃に望まれるのだろうと。
この噂が貴族たちの間で駆け巡ることになる。
嗚咽を漏らしながら泣き続ける妹の頭を撫でながら、クリスティアはそっとため息をつく。
(好きになるのは止めませんが、もう少し思慮深い行動に出てくだされば……)
「ごめんなさい。お姉さま。ラフェール様を忘れることはできないのです。ごめんなさい」
「あなたが謝る必要はないのよ。あなたが悪いわけではないのだから」
「そう……なのでしょうか?」
「そうよ。さあ、涙を拭いて」
(悪いのは、大人の行動ができなかった王太子殿下ですからね。あれがなければ、事を慎重に上手に運ぶこともできたかもしれませんのに)
プルナから差し出されたハンカチでそっと頬を拭ってあげた。
デビュタントの前から進んでいた王太子妃候補選び。高位貴族に適齢期の令嬢は三人。その中にフロレンティーナはいなかった。爵位は申し分ないけれど、政治バランスを考えるとアイスバーグ家は選外になってしまうのだ。他に候補者がいればなおさらだった。
「つらいかもしれないけれど、あまり思いつめないで。お友達とお茶会をするのでしょう? 楽しいことを考えましょう? そうだわ。マナー講習の時はわたくしも参加するわ」
「……お姉さまも、ですか?」
やっと泣き止んで、少し気持ちが上向いたらしいフロレンティーナが、目を瞬かせてクリスティアを見つめた。
「そうよ。基本は大事ですからね。これを機にわたくしももう一度学びたいわ。一緒に勉強しましょう」
慈しむようなまなざしを向けてそっと抱きしめる。妹を元気づけようとする姉のやさしさに、フロレンティーナの心は徐々に癒されていくのだった。
「わたくしとラフェール様は……だめなのでしょうか?」
俯いて震える声で今にも泣きそうな表情。
「お父様もおっしゃったと思うけれど、これに関しては先は明るいものではないわね。貴族の結婚は政略がほとんどですし、ましてや相手は王太子殿下。当事者の一存だけで決めることは難しいでしょう」
「わかって……」
言い終わらないうちに、フロレンティーナの頬に涙が一筋。
かわいそうに。隣に座り彼女を抱きしめる。我慢しきれなくなったのか、次から次へと涙があふれ出してくる。
妹のデビュタントの日、白いドレスに身を包み、身内のエスコートで会場に入り、国王陛下から社交界デビューしたことへの祝辞を頂く。これをもって成人したと認められる大事な儀式の日。それが終われば舞踏会へと移りデビュタントの令嬢は王族の男性とファーストダンス。
フロレンティーナは王太子殿下がお相手だった。
そこであろうことか、お互いに一目ぼれ。
王族とデビュタントの令嬢とのダンスは一曲だけで、踊り終わると上座に座るか、退場するか。それが通常のこと。王太子殿下もいつもなら上座に座っていたはずだった。
デビュタントのダンスが終わると、次は参列者も参加してのダンスの時間になる。その人々の間を縫って現れたのは、王太子殿下。そしてフロレンティーナの前に手を差し出す。
『フロレンティーナ嬢、もう一度ダンスの相手をお願いできないだろうか』
その様子に気づいた貴族たちがざわめきだし、王太子殿下の行動を固唾を飲んで見ていた。王太子殿下の誘いを断れるはずはない。王族はデビュタントの令嬢と二度は踊らない。これは決まり事。
わかっていただろうに、王太子殿下は暴挙ともいえる行動に出てしまった。
『はい』
フロレンティーナは薄紅に頬を染め、差し出された手に自分の手を重ねた。ホールの中央で二人は優雅に踊りだす。
小さなざわめきがさざ波のように、会場全体に広がっていく。
王太子殿下は、アイスバーグ公爵令嬢フロレンティーナ嬢を見初めたのだと。王太子妃に望まれるのだろうと。
この噂が貴族たちの間で駆け巡ることになる。
嗚咽を漏らしながら泣き続ける妹の頭を撫でながら、クリスティアはそっとため息をつく。
(好きになるのは止めませんが、もう少し思慮深い行動に出てくだされば……)
「ごめんなさい。お姉さま。ラフェール様を忘れることはできないのです。ごめんなさい」
「あなたが謝る必要はないのよ。あなたが悪いわけではないのだから」
「そう……なのでしょうか?」
「そうよ。さあ、涙を拭いて」
(悪いのは、大人の行動ができなかった王太子殿下ですからね。あれがなければ、事を慎重に上手に運ぶこともできたかもしれませんのに)
プルナから差し出されたハンカチでそっと頬を拭ってあげた。
デビュタントの前から進んでいた王太子妃候補選び。高位貴族に適齢期の令嬢は三人。その中にフロレンティーナはいなかった。爵位は申し分ないけれど、政治バランスを考えるとアイスバーグ家は選外になってしまうのだ。他に候補者がいればなおさらだった。
「つらいかもしれないけれど、あまり思いつめないで。お友達とお茶会をするのでしょう? 楽しいことを考えましょう? そうだわ。マナー講習の時はわたくしも参加するわ」
「……お姉さまも、ですか?」
やっと泣き止んで、少し気持ちが上向いたらしいフロレンティーナが、目を瞬かせてクリスティアを見つめた。
「そうよ。基本は大事ですからね。これを機にわたくしももう一度学びたいわ。一緒に勉強しましょう」
慈しむようなまなざしを向けてそっと抱きしめる。妹を元気づけようとする姉のやさしさに、フロレンティーナの心は徐々に癒されていくのだった。
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