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王家の薔薇園にてⅡ
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「今から思えば、なんであんな言葉に納得しちゃったのかしら……」
そう零すイングリットの表情からは後悔の念がありありと浮かんでいる。
イングリットが王太子に嫁いだその年に、テレジアもアイスバーグ公爵家の嫡男クロードに嫁いだが彼女とは王太子妃として城に上がっても交流は続いていた。二人とも社交界の華でありこの国自慢の令嬢たちでもあった。それゆえに前国王や前王妃も彼女とのつきあいは喜んで認めていたこともあり、本来であれば一貴族にはなかなか許可が下りないこの薔薇の庭園への出入りも許されていた。
クロードは王太子の側近として常にそばに付き従い、テレジアも王太子妃の相談役として王城に上がることも多くなった。
イングリットが王子を生み後継者を得たことで安心したのか国王の座を王太子に譲り退位した。その後前国王夫妻は離宮へと移り住み今は穏やかで安穏な生活を送っているという。
御代が変わったことで役職も入れ替わりがいくつかあった。その一つが宰相の座で候補者の中から選ばれたのはクロードだった。新国王の強い希望でもあった。
宰相の妻が登城して相談役として王妃のそばに侍る。国王の傍らにクロード王妃の傍らにテレジアとアイスバーグ公爵家夫妻が周りを固めている。そして同じ年に生まれた第一王子と公爵令嬢。それを吉と見るのか否か。
幼いクリスティアを連れて城を訪れては王太子であるラフェールと一緒に同じ時間を過ごす。自然と幼馴染という仲睦まじい関係が出来上がっていった。ただ周りは微笑ましく見る者ばかりではなかったのだが。
十歳になった時、当然のように二人の婚約の話が持ち上がった。
王族の結婚は己の意思だけで決められるものではなく、必ず国の要人や重鎮たちで構成された議会の承認が必要となる。ラフェールとクリスティアの婚約も議会にかけられた。
アイスバーグ家といえば筆頭公爵家。家格で言えば申し分ない。王太子も公爵令嬢も小さい頃から見知っており仲が良い。これ以上の良縁があるだろうか。すんなりと了承されると思われたのだが、そこに否を唱えた者たちがいた。
『まだ恋も愛もわからず、ましてや王太子としての自覚さえこれからでしょう? なんの自覚もないうちから伴侶を決められては色々な可能性の芽もつぶされることになるやもしれません。それでは王太子殿下がお気の毒というものです。もう少し時間をおいてじっくり選ばれてはいかがですか?』
財務大臣を務めるフォーゲル・シュベルニー公爵が微笑みをたたえて進言する。
『年端もいかぬ内に決定したために後悔し婚姻直前に破談になった例もございます。そのような悲劇を起こさないためにも慎重に熟考をお願いいたします』
極寒の地北の国境を守護するマクレーン・ローシャス辺境伯がうやうやしく首を垂れる。
二人とも国の要を担う重鎮たちであるため、意見を無下には出来ない。
彼らの意見に賛同するものが議会の三分の1ほど。婚約に賛同する者たちが三分の一。残りは答えを保留し中立の立場を保持する者たち。
議会は紛糾し思ったよりも荒れてしまった。
結局二人の婚約は承認されず流れてしまったのである。
そう零すイングリットの表情からは後悔の念がありありと浮かんでいる。
イングリットが王太子に嫁いだその年に、テレジアもアイスバーグ公爵家の嫡男クロードに嫁いだが彼女とは王太子妃として城に上がっても交流は続いていた。二人とも社交界の華でありこの国自慢の令嬢たちでもあった。それゆえに前国王や前王妃も彼女とのつきあいは喜んで認めていたこともあり、本来であれば一貴族にはなかなか許可が下りないこの薔薇の庭園への出入りも許されていた。
クロードは王太子の側近として常にそばに付き従い、テレジアも王太子妃の相談役として王城に上がることも多くなった。
イングリットが王子を生み後継者を得たことで安心したのか国王の座を王太子に譲り退位した。その後前国王夫妻は離宮へと移り住み今は穏やかで安穏な生活を送っているという。
御代が変わったことで役職も入れ替わりがいくつかあった。その一つが宰相の座で候補者の中から選ばれたのはクロードだった。新国王の強い希望でもあった。
宰相の妻が登城して相談役として王妃のそばに侍る。国王の傍らにクロード王妃の傍らにテレジアとアイスバーグ公爵家夫妻が周りを固めている。そして同じ年に生まれた第一王子と公爵令嬢。それを吉と見るのか否か。
幼いクリスティアを連れて城を訪れては王太子であるラフェールと一緒に同じ時間を過ごす。自然と幼馴染という仲睦まじい関係が出来上がっていった。ただ周りは微笑ましく見る者ばかりではなかったのだが。
十歳になった時、当然のように二人の婚約の話が持ち上がった。
王族の結婚は己の意思だけで決められるものではなく、必ず国の要人や重鎮たちで構成された議会の承認が必要となる。ラフェールとクリスティアの婚約も議会にかけられた。
アイスバーグ家といえば筆頭公爵家。家格で言えば申し分ない。王太子も公爵令嬢も小さい頃から見知っており仲が良い。これ以上の良縁があるだろうか。すんなりと了承されると思われたのだが、そこに否を唱えた者たちがいた。
『まだ恋も愛もわからず、ましてや王太子としての自覚さえこれからでしょう? なんの自覚もないうちから伴侶を決められては色々な可能性の芽もつぶされることになるやもしれません。それでは王太子殿下がお気の毒というものです。もう少し時間をおいてじっくり選ばれてはいかがですか?』
財務大臣を務めるフォーゲル・シュベルニー公爵が微笑みをたたえて進言する。
『年端もいかぬ内に決定したために後悔し婚姻直前に破談になった例もございます。そのような悲劇を起こさないためにも慎重に熟考をお願いいたします』
極寒の地北の国境を守護するマクレーン・ローシャス辺境伯がうやうやしく首を垂れる。
二人とも国の要を担う重鎮たちであるため、意見を無下には出来ない。
彼らの意見に賛同するものが議会の三分の1ほど。婚約に賛同する者たちが三分の一。残りは答えを保留し中立の立場を保持する者たち。
議会は紛糾し思ったよりも荒れてしまった。
結局二人の婚約は承認されず流れてしまったのである。
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