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ワークショップで君を待つ
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「お前には校外活動のボランティアに出てもらう」
職員室にて、持田恭介は最後の宣告のように担任の教師に告げられた。
恭介は金色に脱色した金髪頭をわしわしとかきながら気だるく返事をする。
「……はあ、ボランティアっすか」
「持田、お前ときたら今年は中学三年の受験生だというのに、成績は最低評価、おまけに素行も悪く遅刻早退は当たり前」
「はあ」
「これでは通知表に何一つ良いことを書く欄が埋まらない」
担任が恭介の一学期の通知表の成績をとんとんと指差す。主要五教科は仲良く数字の一が並んでいた。
「……別に無記入でいいじゃないっすか」
「成績も態度も悪く善行もしてない輩が受かる高校があるとでも?」
担任のドスの効いた声音に恭介は言葉を詰まらせる。
担任は話を続ける。
「そこでだ。成績も態度も悪いお前には二学期の土日からボランティアに出てもらうことにした」
「は?」
「向こうも持田が来ることを了承してくれている」
「俺の了承なしに何勝手に決めてるんだよ!」
「そうしなきゃ絶対お前は断るからだ!」
「開き直った!」
「とにかく、今週の土曜日から“ふれあいパーク”でボランティア活動だ。子供たちと仲良く遊んでこい」
「しかも保育系のボランティアだと!?」
こうして受験生真っ只中の九月頃、恭介は貴重な休日をふれあい館という場所で過ごすことが決定されてしまった。
***
「って、子供全然来ねぇし」
ボランティア初日の土曜日。
赤いエプロンを着け腕組みをして子供が遊びに来るのを待つ。
ふれあいパークは主に休日に子供たちが遊びに来る室内型の娯楽施設だ。
わなげやけん玉、フラフープなど子供が喜ぶ道具があちらこちらに並んでいる。
アクティブな子供以外にも、大人しい子供も楽しめるようにお絵かきコーナーやおままごとコーナーなどといろいろなゾーンに区切られており、なかには本当に料理が出来る料理コーナーなんてのもある。
そういうものは危険性も含まれるのでちゃんと隣で職員さんたち大人がしっかりと監督する。
ボランティアとはいえ恭介も職員の方に加算される。
恭介も職員が必要とされるコーナーに配属された。
その名もワークショップ。
木の枝や石ころなど、どこにでもある素材を使って工作をするという創作系のコーナーだ。
ところがワークショップには子供が一人も来なかった。
他のゾーンにはたくさんの子供で賑わっているのに、ここだけぽつんと忘れ去られたかのように人が来ない。
「なぜ来ないんだ……」
恭介が呟くと、たまたま通りかかった職員の女性が声をかけてきた。
「人気ないからねワークショップ。最近の子は自分で何かを作り上げるのが苦手なのかな」
「他のとこ手伝いに行った方が良いのでは? ひとっこひとり来ないのに必要あるんすかここ」
「ここを大事にしてる子もいるからね。そうね、もうすぐ来る時間じゃないかしら」
「誰か来るんすか?」
「一人だけここが大好きな子がいるのよ。仲良くしてちょうだいね」
職員はそう言うと去っていった。
「……暇だ」
時計の長い針が半周したがあれから誰も来ない。
もうすぐ来ると職員の言っていたことは嘘だったのだろうか。
あまりにも退屈なのでその辺に置いてあった石ころを積み重ねてみる。けっこう積もった。
「初日早々来客ゼロとか笑えないぞ……」
図工の成績も芳しくない恭介にとってこの仕事は苦痛なものだったが、お客が来ない無の時間の方が暇で更に辛かった。
周辺にある石ころラスト一個を頂上に積み重ねようとしたその時、
「わぁっ」
急に近くで声がしたので手元がぶれてしまった。
ドンガラガッシャーンと石ころの搭は崩落した。
振り返ると小学校低学年くらいの少女がこちらをキラキラとした目で見ていた。
少女はまじまじと恭介を、正確には恭介の頭部を見つめる。
「……なに」
「その髪の色ほんもの? 金ピカだぁ」
「まあヅラじゃないし、本物だが」
「どうやって金ピカになったの? 生まれつき髪が金色だったの? 」
「……脱色してるんだよ。色を抜いてんだ」
「だっしょく? 染めるんじゃなくて? 染めるのは知ってるよ。色をつけるってことでしょ。だっしょくは染めると違うの?」
少女は初対面の恭介にどんどんと質問をする。
なんだ、なぜそんなに興味を持つ。
少女を見て恭介はあることを思いだす。それは先刻の職員との会話。
もしかして、この子供が例の職員が言っていた子供か。
恭介は少女の前にしゃがみこんで答える。
「ガキはそんなこと知らなくていいんだよ。まだ早いから」
「お兄ちゃんもまだガキじゃないの?」
痛いとこをつかれる。
「……お前よりは大人だ」
「むぅ……私はガキとかお前とかって名前じゃないよ。津原果星って名前があるの。お兄ちゃんの名前は?」
「……持田恭介」
小学生に注意されてしまった。
果星は微笑みながら手を差し出す。
「よろしくね恭介くん」
「……おう」
握手なんて求められたことがないから戸惑った。
仕方なく差し出された手を握る。
これが恭介と果星の出会いだった。
職員室にて、持田恭介は最後の宣告のように担任の教師に告げられた。
恭介は金色に脱色した金髪頭をわしわしとかきながら気だるく返事をする。
「……はあ、ボランティアっすか」
「持田、お前ときたら今年は中学三年の受験生だというのに、成績は最低評価、おまけに素行も悪く遅刻早退は当たり前」
「はあ」
「これでは通知表に何一つ良いことを書く欄が埋まらない」
担任が恭介の一学期の通知表の成績をとんとんと指差す。主要五教科は仲良く数字の一が並んでいた。
「……別に無記入でいいじゃないっすか」
「成績も態度も悪く善行もしてない輩が受かる高校があるとでも?」
担任のドスの効いた声音に恭介は言葉を詰まらせる。
担任は話を続ける。
「そこでだ。成績も態度も悪いお前には二学期の土日からボランティアに出てもらうことにした」
「は?」
「向こうも持田が来ることを了承してくれている」
「俺の了承なしに何勝手に決めてるんだよ!」
「そうしなきゃ絶対お前は断るからだ!」
「開き直った!」
「とにかく、今週の土曜日から“ふれあいパーク”でボランティア活動だ。子供たちと仲良く遊んでこい」
「しかも保育系のボランティアだと!?」
こうして受験生真っ只中の九月頃、恭介は貴重な休日をふれあい館という場所で過ごすことが決定されてしまった。
***
「って、子供全然来ねぇし」
ボランティア初日の土曜日。
赤いエプロンを着け腕組みをして子供が遊びに来るのを待つ。
ふれあいパークは主に休日に子供たちが遊びに来る室内型の娯楽施設だ。
わなげやけん玉、フラフープなど子供が喜ぶ道具があちらこちらに並んでいる。
アクティブな子供以外にも、大人しい子供も楽しめるようにお絵かきコーナーやおままごとコーナーなどといろいろなゾーンに区切られており、なかには本当に料理が出来る料理コーナーなんてのもある。
そういうものは危険性も含まれるのでちゃんと隣で職員さんたち大人がしっかりと監督する。
ボランティアとはいえ恭介も職員の方に加算される。
恭介も職員が必要とされるコーナーに配属された。
その名もワークショップ。
木の枝や石ころなど、どこにでもある素材を使って工作をするという創作系のコーナーだ。
ところがワークショップには子供が一人も来なかった。
他のゾーンにはたくさんの子供で賑わっているのに、ここだけぽつんと忘れ去られたかのように人が来ない。
「なぜ来ないんだ……」
恭介が呟くと、たまたま通りかかった職員の女性が声をかけてきた。
「人気ないからねワークショップ。最近の子は自分で何かを作り上げるのが苦手なのかな」
「他のとこ手伝いに行った方が良いのでは? ひとっこひとり来ないのに必要あるんすかここ」
「ここを大事にしてる子もいるからね。そうね、もうすぐ来る時間じゃないかしら」
「誰か来るんすか?」
「一人だけここが大好きな子がいるのよ。仲良くしてちょうだいね」
職員はそう言うと去っていった。
「……暇だ」
時計の長い針が半周したがあれから誰も来ない。
もうすぐ来ると職員の言っていたことは嘘だったのだろうか。
あまりにも退屈なのでその辺に置いてあった石ころを積み重ねてみる。けっこう積もった。
「初日早々来客ゼロとか笑えないぞ……」
図工の成績も芳しくない恭介にとってこの仕事は苦痛なものだったが、お客が来ない無の時間の方が暇で更に辛かった。
周辺にある石ころラスト一個を頂上に積み重ねようとしたその時、
「わぁっ」
急に近くで声がしたので手元がぶれてしまった。
ドンガラガッシャーンと石ころの搭は崩落した。
振り返ると小学校低学年くらいの少女がこちらをキラキラとした目で見ていた。
少女はまじまじと恭介を、正確には恭介の頭部を見つめる。
「……なに」
「その髪の色ほんもの? 金ピカだぁ」
「まあヅラじゃないし、本物だが」
「どうやって金ピカになったの? 生まれつき髪が金色だったの? 」
「……脱色してるんだよ。色を抜いてんだ」
「だっしょく? 染めるんじゃなくて? 染めるのは知ってるよ。色をつけるってことでしょ。だっしょくは染めると違うの?」
少女は初対面の恭介にどんどんと質問をする。
なんだ、なぜそんなに興味を持つ。
少女を見て恭介はあることを思いだす。それは先刻の職員との会話。
もしかして、この子供が例の職員が言っていた子供か。
恭介は少女の前にしゃがみこんで答える。
「ガキはそんなこと知らなくていいんだよ。まだ早いから」
「お兄ちゃんもまだガキじゃないの?」
痛いとこをつかれる。
「……お前よりは大人だ」
「むぅ……私はガキとかお前とかって名前じゃないよ。津原果星って名前があるの。お兄ちゃんの名前は?」
「……持田恭介」
小学生に注意されてしまった。
果星は微笑みながら手を差し出す。
「よろしくね恭介くん」
「……おう」
握手なんて求められたことがないから戸惑った。
仕方なく差し出された手を握る。
これが恭介と果星の出会いだった。
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