ワークショップで君を待つ。

秋月流弥

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ワークショップで君を待つ②

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 果星は土日になると必ずワークショップを訪れた。
 もちろん恭介も毎週土日にボランティアに来るので果星と会う。
 来客なんて果星以外来ないから、毎回二人で工作を作っては品評会をして遊んだ。
 恭介より遅くやって来る果星だったが、最近では恭介よりも先に来て待ってることも多い。
「俺より先に来てもワークショップ空いてねぇだろうが」
 今日も果星は鍵のかかった作業部屋の前で恭介を待っていた。
 鍵をひねって部屋を開ける。
 果星は「一番のりー」と部屋に勢いよく入る。
「二番も三番も来ないから安心しろ」
「悲しいなぁ。だからいいんだけど」

 果星の言葉に疑問を抱く。
 そういえば果星が他の子供たちと話しているところを見たことがない。
 ワークショップは恭介と二人だけだから当然なのだが、恭介が来る以前はどうしていたのだろう。
「なぁ、俺が来る前から一人で遊んでいたのか」
「うん」
「友達とか、他の子供たちと遊ばなくていいのか」
「……」
 果星は少し悲しそうな顔をしたあとに言った。
「同じ年くらいの子って苦手で……うまく話せないんだよね。だから幼稚園でも小学校でも一人なんだ」
「そうなのか」

 果星の言葉に恭介はシンパシーを感じた。
 恭介も同年代とつるむのは苦手だ。
 その苦手さから気取った奴と敬遠され、そこから拗らせて不良になってしまった。
 果星は恭介に比べて明るくひねくれていないし、友達がいないのも一人でいるのも理由が違うのかもしれない。
 それでも恭介は一人でいる果星に共感した。
「俺も同じ年の奴って苦手だ。なんつーか、波長があわないっていうか、話しづらいっていうか。一緒だな」
「恭介くんも?」
「ああ」
「私と同じ?」
「ああ」
 果星が花が綻ぶように笑う。
「じゃあ仲間だね!」
「おう、同盟組もうぜ。名付けて“お一人様同盟”だ」
「あはは、かっこ悪い~」

 ワークショップのお客は未だに果星しか来ない。
 それでも、果星にとってこのワークショップは一番大切な居場所なのだ。
 そしてそれは恭介にとっても大切な居場所になった。

***

 平日。
 いつも通り遅刻して学校に通うと教室で担任が待ち受けていた。
「持田お前……ボランティア行ってても遅刻は直らんのか」
「すいません」
 形だけの謝罪をして、自分の席につこうとすると、担任が「ちょいまち」と肩を掴む。
「向こうで頑張っているみたいだな。ほれ、お前宛てだ」
 担任は一枚の封筒をひらつかせると恭介に渡した。
「津原果星さんって子からだ。お前の住所がわからないからと学校宛てに送ってきた。モテモテじゃないか」
 担任が嬉しそうに言う。
 しかし、その発言が良くなかった。
 担任とのやり取りを聞いていた周囲の男子生徒たちは面白いものを見つけたとばかりに恭介に向かって冷やかしの言葉をかける。
「へえ、持田ボランティアで子供なんかと遊んでるの?」
「しかも女の子とか!  手紙まで貰っちゃって、もしかして狙っちゃってたりする?」
 ヒューヒュー!  
 周囲は恭介をからかう空気になっていてその勢いは止まらない。
 主におちょくった言葉をかけてくるのは男子だったが女子たちもひそひそと恭介を見ながら耳打ちをしている。

 違う。そんなんじゃないのに。

 否定したかったのに、恭介は悔しさや怒りや恥ずかしさやらで感情が追いつかない。
 そして、自分に向けられた好奇の目に耐えられなくなり恭介は手に持った手紙を握り潰し言ってしまった。
「別に、ただのボランティアで嫌々やってるだけだよ!  こんなガキのことなんてなんとも思ってねぇし!!」
 教室の扉を叩くように閉めて廊下へ飛び出した。
 まだ授業を何も受けていないが、教室に戻る気はしなかった。

 それよりも恭介は後悔の気持ちでいっぱいだった。言ってしまった。
 保身とか羞恥から逃げるためとか、そんな理由で果星に対して酷いことを言ってしまった。

「最低だ……」
 学校外までひとしきり走った後、一通りの少ない住宅街で歩みを止める。
 空は灰色で雨が降りそうだ。
 恭介は先ほど握り潰してしまった手紙を開いた。破れないように、しわを直して慎重に、丁寧に。
 しわくちゃになった紙には『恭介くんへ』と拙い字で書かれた果星からのメッセージと似顔絵の恭介が笑っていた。
 手紙に刻まれたしわからか、描かれた恭介の笑顔は歪んで見える。
「最低だ、俺……」
 ポツリ、ポツリと手紙に雫が落ちる。
 その後雨が降ってきたが、恭介は手紙を抱き締めたまま、しばらくそこから動かなかった。
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