スリーピング・サーガ~世界が眠りに堕ちる前に~

秋月流弥

文字の大きさ
2 / 39
第1章:グゥスカ王国の薬剤師

2.婚約者が眠りに堕ちた

しおりを挟む
研究所のドアは爆発で木っ端微塵にされたため、ドアのあった場所がぽっかりなくなっている。
ザ・吹き抜けスタイル。
隣の廊下が丸見えだった。

「これはこれで開放感があっていいか」

なんて現実逃避していたら、廊下から物凄い勢いで研究室に何かがが入ってきた。

ネズミである。

「ダミ子さあぁぁぁん!  大変です!!」

ネズミはハスキーな声で人語を喋る。
するとボフン、と音を立てネズミは青年の姿になった。

青男はダミ子の肩を掴み揺さぶる。

「ダミ子さん、大変です。大変なんです!」
「お、おお」
ガタガタ揺れるダミ子。

青年の耳には金色のピアスが揺れ、男にしては長い髪がサラサラと波打つ。
ダミ子やカモミールと同じく白衣を着ているが、研究所の格好としては不釣り合いな装いを男はしていた。
「ゆするなゆするな、眼鏡が落ちる」
「はっ!  すみません。女性の肩を強く掴むなんて……」
うろたえる男。
チャラい見た目とギャップを感じさせる彼はダミ子の助手をしている。

青年の名はマース。
隣国・ネムーニャ王国の元スパイの魔法使いだ。
今は成り行きでダミ子の助手をしている。
ネズミの姿に変身することができることから、よくダミ子の実験台にされる可哀想なお目付け役だ。

「ってあれ!?  ドアがない!」
「騒がしいなぁ。ドアならさっきの爆発でお亡くなりになったよ」
「ああ、研究所から煙が出てるなと思ったら。ダミ子さん今月で何度目ですか」

この会話、デジャヴを感じる。

「それより随分慌ててたようだけど、私に用があるんじゃないの?」

「そうだ!  ダミ子さん大変です!」
「だから何がさ」


「“セージ”様が永眠病スリーピング・ホリックにかかってしまったんです!!」

「セージが?」

その名前を聞いてダミ子の眉がわずかに歪む。

セージ。二十六歳。職業は鍛冶屋の跡取り。
鍛冶屋生まれなのに力がなく弱音ばかり吐いて、いつも親父に怒鳴られている情けない青年。

ダミ子の婚約者である。

「それで、彼は無事なのか?  彼のことだから瀕死状態だとか……」
「いえ、今のところ永眠病スリーピング・ホリックの特徴通りグースカと眠っているだけです。僕が駆けつけた時にはもう夢の中でした」
「あと、彼がダミ子さんにこれを」と、マースが懐から出した白い封筒をダミ子に渡す。
封をする箇所には薔薇のシールが貼られていて、キザな婚約者からのものだとすぐわかる。

「なんだ?  手紙か」
「愛するダミ子さんの為に最後の力を振り絞って書いたんですよ……」
ホロリ涙を流すマースを軽く無視。封の中身を広げる。

手紙にはこう書かれていた。

『~愛するダミ子へ~

僕はどうやらここまでらしい。

不治の病にかかってしまったからね。

願うことなら君にもう一度会いたかった。

しかしそれも叶わない運命だった。

ダミ子、君だけはどうか無事で……ぐぅ』

手紙はそこで途切れていた。

「おいたわしやセージ様……!」
「最後のぐぅってわざわざ書かなくていいだろ」
婚約者のピンチだというのにそこが気になって悲しさをそこまで感じない。

「ちなみにセージ様がグゥスカ王国で永眠病スリーピング・ホリックの初の病人らしいです。ついにこの国にも患者が出てしまいました」

「うん」
「他人事ではなくなりましたね」
「しかも婚約者だしな」
「ダミ子さん……どうかお気を強くもって」

いくらズボラで無感動、無神経さが目立つダミ子でも、自分の婚約者がいつ目覚めるかわからない奇病に伏したら落ち込むだろう。
マースはどう慰めていいのかオロオロしていると、その気遣いも無駄になるくらいダミ子はケロっとした顔で一言。
「そのうちどっかの国が治療薬を開発してくれるだろう」
マースはずっこけそうになった。
よろける助手を冷めた目で見ると、ダミ子は椅子に座り足を組む。

ちなみに椅子は爆発のダメージにより斜めに傾いているのでダミ子も傾いている。

「なにをオーバーなリアクションをしてるんだ君は」
「いや、思いきり他人事だなって……ダミ子さんの婚約者なんですよね?」
「焦ってセージが目を覚ますのか?  治療薬が飛んでくるのか? 否、こういう時こそ気長に待つのが大事なんだよ 」
「さいですか……」
「そう」
綿のはみ出る椅子にふんぞり返る斜め姿勢の薬剤師。
「まだまだ青いねぇ若者よ」
「うぅ、ダミ子さんだって若者でしょ」
マースを子供扱いするダミ子だが、彼女もまだ齢二十四の若者だ。

そう、まだ二十四。
今はまだ、と言っていられる。
だが……
「ダミ子さん、気長に待ってて大丈夫なんですか」
「何が言いたい?」
ダミ子は小首を傾げる。
先ほど同僚をイラつかせた可愛さアピールだが、この青年には効果がある。
上目遣いで見つめるそれに「うぅ」とちょっと照れていた。
私の助手可愛い。
マースは頭かぶりを振ると真剣な顔をして言った。
「だって、いつ目覚めるかわからない病気なんですよ?  治療薬が完成するのだって何年、いや何十年先かもしれない」
「う……」
「ダミ子さんはその時自分が何歳か予想できますか」
「そ、それは」
「ダミ子さんが今二十四のうら若き乙女でも、セージ様が目覚める頃にはしわしわのおばあちゃんになっているかもしれない……」
「う、おぁ……」
「しかもまだ婚約者フィアンセ状態」

「ぬおおーッ!!  それは嫌だー!」

ダミ子決壊。

「ずっと婚約者状態は嫌だ!  そんなのどっかのドラマの登場人物だけで充分だよ!」
「どこの世界の話ですかそれ」

ダミ子はマースの肩を掴んで鼻息を荒くして言う。
「行くぞマースくん」
「え、行くってどこに?」
「どこにだってェ……!?」
迫るダミ子。
「ち、近い近い。怖いですダミ子さん」
ボサボサに乱れた髪の隙間から爛々と輝く翡翠色の瞳に危うさを感じる。
「決まっているだろう!  永眠病スリーピング・ホリックの治療薬を私たちが開発する。材料を集める旅に出るんだ!!」
「えぇ!?  気長に待つって言ってたじゃないですか!」
「婚期を遅らせるわけにはいかない。私は猛烈に焦っている」
「さっきと真逆ー!」
「私をその気にさせたのはマースくんだろう。責任をとれ」
「誤解を招く言い方しないでくださいよ!」

こうして、薬剤師ダミ子と助手のマースは永眠病スリーピング・ホリックの治療薬を開発するため(婚期を遅らせないため)の旅に出ることになった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

処理中です...