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第3章:【世界で一番働き者の爪の垢】
17.譲れないもの
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なにさ。
少しくらい絵が下手だって誤魔化しきくだろうに。こだわり強い頑固者!
「はあ」
ディルの作業場の隣の庭園。
その端でダミ子は膝を抱え座り込んでいた。
庭園の空気は忙しない村の喧騒と逆にまったりしている。
空をのんびり流れる雲を見て一人愛用ドリンクをちびちびと喉に流し込む。
こんな時でもドクダミンPは美味しい。
「漫画が描けるのがそんなに偉いかよ……ディルの奴……」
ちょっぴりだけ拗ねた。
「黄昏るにはまだ早い時間ですよ」
木の葉の揺れを見上げぼーっとしていると助手が上から覗きこんできた。
手には笹の葉でくるまれた小包みを抱えている。
「マースくん」
「はいこれ。差し入れです。ディルさんから」
「あいつから?」
「ダミ子さん抜け出してこっちはしっちゃかめっちゃかですよ。『猫の手よりまだあいつの方がマシだーッ』ってディルさん頭抱えてましたよ」
「……」
笹の葉の中にはおにぎりが二つ入っていた。不恰好な形から彼の手作りだろうか。
かじってみたら中には明太子が入っている。
「(美味い)」
「ディルさんにダミ子さんの好物聞かれて。魚介類好きでしたよね?」
「私が好きなのはエビだ」
「あちゃー! エビだったー」
口元に運ぶ彼のおにぎりの具はチーズが入っている。
あの漫画家、いちいち人の好みに合わせて作ってるのか。
「……漫画家先生ディルとラブラブしてなくていいのかよ。お気に入りのチュー太くん」
「意地悪言わないでください」
隣の助手は困ったように笑う。
「珍しいですね。研究所でも仲間と揉めたことないのに」
「カモミールとはしょっちゅう憎まれ口叩き合ってるけどな」
「あれはじゃれあいでしょう」
もりもりおにぎりを頬張る。
明太子も悪くない。
「……ディルって見るからに熱血タイプじゃん。体育会系苦手なんだよ私。アレは自分のテンションを他人にも合わせることを強要するから」
さらにドクダミンPで喉を潤す。
「ぷはっ。少しくらい妥協しろってのこだわり強男の熱血漢め」
「まあまあ。人それぞれ譲れないこだわりってあるもんですよ」
「そんなもんか」
「そうですよ」
マースは言う。
「ダミ子さんだって薬作りには強いこだわり持ってるでしょ。ほら売れない発明品シリーズ。需要ゼロに等しいのに妥協許さないじゃないですか」
「あれは需要関係ない。私がやりたいからやってるわけで。見返りなど求めてやってない。好きだから……あ」
「でしょ?」マースは笑う。
「そういう情熱って人に言われて消せるものじゃないでしょう? 人それぞれ譲れないものがある。好きだから妥協できない。薬作りも漫画制作も。ディルさんは連載の質や読者の数、人気以前に自分の創る世界を誇りに思ってるんです」
「それが彼のプライド」
「はい」
「……私、あいつに悪いこと言ったかも」
「そう思ったなら作業場に戻りましょう。彼は良くも悪くも過去のことを気にしない性格ですし。それにダミ子さんいないと僕が心細いですよ」
助手は優しい笑顔を浮かべた。
「やれやれマースくんに諭されてしまうとは。上司なのに情けない」
「たまにはいいじゃないですか」
昼下がりの庭園で緑の空気を思いきり吸い込む。
「よし」
午後から作業再開だ。
「おう戻ったか」
作業場ではやつれ果てたディルとアシスタントたちが迎えた。この数時間で何があったんだ。
(こんなボロボロになっても好きなもののために頑張れるんだよな)
机にへばりつくディルのもとへ歩いていく。
「おいディル」
「……なんだよ」
「さっきは言い過ぎた。お前の好きなものを否定するような言い方した。悪かった」
これお詫び。
コト、と彼の机にドクダミンPを置く。
「なんだこれ」
「ドクダミンP。私が大好きな栄養ドリンクだ。好きなことに熱中した時飲むと頭が冴える。これで滋養強壮つけてくれ」
「日本語おかしくね?」
「と、とにかく。飲め。疲労回復効果があるから。アシスタントの皆さんも」
「これ飲んで頑張ってください」と机にはりつく屍たちにドリンクを配る。
せっせと飲み物を配るダミ子にディルは気まずそうに頭をかく。
「……まァ俺も言い過ぎたってのもあるしな。言い過ぎたのは俺も同じだ。謝るよ」
「ディル……」
「ありがたく貰うぜ」
ぐび、とドクダミンPを煽る。
「!? な! なんだこれは!?」
飲んだ瞬間、
カッと目を開きディルは手に持つ栄養ドリンクを凝視する。
「疲れがみるみるとれていくぞ!! それに力みなぎってくる! 」
ディルに続きアシスタントたちも開眼しドリンクをぐびぐび喉に流し込む。
「本当だ!」
「元気モリモリ!」
「すげーなドクダミンP!!」
「ハツラツ~!!」
『めっちゃみなぎってくる~!』
ドクダミンPの効果は抜群だった。
ふふん。またファンが増えたな。
満足満足。
「うおおお! これで原稿かっ飛ばせるぜええええ!!」
残像を残すスピードでディルはペンを走らせる。アシスタントたちの目も燃えていた。
「よかったですね仲直りできて」
「私たちも頑張ろう」
ダミ子とマースも拙い手つきで原稿作業を続けた。
ちなみに二、三時間経過するとダミ子の画力はぐんと上がった。
ディル曰く『絵を描いた経験が浅いだけでのみこみは早く素質はある』らしい。
めっちゃ褒められた。へへん。
少しくらい絵が下手だって誤魔化しきくだろうに。こだわり強い頑固者!
「はあ」
ディルの作業場の隣の庭園。
その端でダミ子は膝を抱え座り込んでいた。
庭園の空気は忙しない村の喧騒と逆にまったりしている。
空をのんびり流れる雲を見て一人愛用ドリンクをちびちびと喉に流し込む。
こんな時でもドクダミンPは美味しい。
「漫画が描けるのがそんなに偉いかよ……ディルの奴……」
ちょっぴりだけ拗ねた。
「黄昏るにはまだ早い時間ですよ」
木の葉の揺れを見上げぼーっとしていると助手が上から覗きこんできた。
手には笹の葉でくるまれた小包みを抱えている。
「マースくん」
「はいこれ。差し入れです。ディルさんから」
「あいつから?」
「ダミ子さん抜け出してこっちはしっちゃかめっちゃかですよ。『猫の手よりまだあいつの方がマシだーッ』ってディルさん頭抱えてましたよ」
「……」
笹の葉の中にはおにぎりが二つ入っていた。不恰好な形から彼の手作りだろうか。
かじってみたら中には明太子が入っている。
「(美味い)」
「ディルさんにダミ子さんの好物聞かれて。魚介類好きでしたよね?」
「私が好きなのはエビだ」
「あちゃー! エビだったー」
口元に運ぶ彼のおにぎりの具はチーズが入っている。
あの漫画家、いちいち人の好みに合わせて作ってるのか。
「……漫画家先生ディルとラブラブしてなくていいのかよ。お気に入りのチュー太くん」
「意地悪言わないでください」
隣の助手は困ったように笑う。
「珍しいですね。研究所でも仲間と揉めたことないのに」
「カモミールとはしょっちゅう憎まれ口叩き合ってるけどな」
「あれはじゃれあいでしょう」
もりもりおにぎりを頬張る。
明太子も悪くない。
「……ディルって見るからに熱血タイプじゃん。体育会系苦手なんだよ私。アレは自分のテンションを他人にも合わせることを強要するから」
さらにドクダミンPで喉を潤す。
「ぷはっ。少しくらい妥協しろってのこだわり強男の熱血漢め」
「まあまあ。人それぞれ譲れないこだわりってあるもんですよ」
「そんなもんか」
「そうですよ」
マースは言う。
「ダミ子さんだって薬作りには強いこだわり持ってるでしょ。ほら売れない発明品シリーズ。需要ゼロに等しいのに妥協許さないじゃないですか」
「あれは需要関係ない。私がやりたいからやってるわけで。見返りなど求めてやってない。好きだから……あ」
「でしょ?」マースは笑う。
「そういう情熱って人に言われて消せるものじゃないでしょう? 人それぞれ譲れないものがある。好きだから妥協できない。薬作りも漫画制作も。ディルさんは連載の質や読者の数、人気以前に自分の創る世界を誇りに思ってるんです」
「それが彼のプライド」
「はい」
「……私、あいつに悪いこと言ったかも」
「そう思ったなら作業場に戻りましょう。彼は良くも悪くも過去のことを気にしない性格ですし。それにダミ子さんいないと僕が心細いですよ」
助手は優しい笑顔を浮かべた。
「やれやれマースくんに諭されてしまうとは。上司なのに情けない」
「たまにはいいじゃないですか」
昼下がりの庭園で緑の空気を思いきり吸い込む。
「よし」
午後から作業再開だ。
「おう戻ったか」
作業場ではやつれ果てたディルとアシスタントたちが迎えた。この数時間で何があったんだ。
(こんなボロボロになっても好きなもののために頑張れるんだよな)
机にへばりつくディルのもとへ歩いていく。
「おいディル」
「……なんだよ」
「さっきは言い過ぎた。お前の好きなものを否定するような言い方した。悪かった」
これお詫び。
コト、と彼の机にドクダミンPを置く。
「なんだこれ」
「ドクダミンP。私が大好きな栄養ドリンクだ。好きなことに熱中した時飲むと頭が冴える。これで滋養強壮つけてくれ」
「日本語おかしくね?」
「と、とにかく。飲め。疲労回復効果があるから。アシスタントの皆さんも」
「これ飲んで頑張ってください」と机にはりつく屍たちにドリンクを配る。
せっせと飲み物を配るダミ子にディルは気まずそうに頭をかく。
「……まァ俺も言い過ぎたってのもあるしな。言い過ぎたのは俺も同じだ。謝るよ」
「ディル……」
「ありがたく貰うぜ」
ぐび、とドクダミンPを煽る。
「!? な! なんだこれは!?」
飲んだ瞬間、
カッと目を開きディルは手に持つ栄養ドリンクを凝視する。
「疲れがみるみるとれていくぞ!! それに力みなぎってくる! 」
ディルに続きアシスタントたちも開眼しドリンクをぐびぐび喉に流し込む。
「本当だ!」
「元気モリモリ!」
「すげーなドクダミンP!!」
「ハツラツ~!!」
『めっちゃみなぎってくる~!』
ドクダミンPの効果は抜群だった。
ふふん。またファンが増えたな。
満足満足。
「うおおお! これで原稿かっ飛ばせるぜええええ!!」
残像を残すスピードでディルはペンを走らせる。アシスタントたちの目も燃えていた。
「よかったですね仲直りできて」
「私たちも頑張ろう」
ダミ子とマースも拙い手つきで原稿作業を続けた。
ちなみに二、三時間経過するとダミ子の画力はぐんと上がった。
ディル曰く『絵を描いた経験が浅いだけでのみこみは早く素質はある』らしい。
めっちゃ褒められた。へへん。
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