スリーピング・サーガ~世界が眠りに堕ちる前に~

秋月流弥

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第3章:【世界で一番働き者の爪の垢】

19.夢叶う時

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睡眠をとり早朝作業場へ戻るとディルたちは机に向かっていた。
「あんたら寝なくていいの……?」
「俺たちに熟睡という概念はねー。仮眠はとるけど」
「さすがテツヤ村の住人ですね……」
永眠病スリーピング・ホリックとは無縁そうだ」

「スリー……?  なんだそれは」

「世界を揺るがす眠り病だよ。これにかかるとずっと眠り続けてしまう。それを覚ますための治療薬を作るのにあんたの爪の垢が必要なんだって」

「あ~言ってたな」

だって出会った時に説明したもん。

その時、バタン!  と慌てた様子のアシスタント(アフロ)が作業場に入ってきた。

「おい!  ディル先生大変だ!  “タン・トー”がここに向かってる!」


「先生って言うな!  なに!?  タン・トーが!? 」


ディルの顔が青褪める。

「締切はまだ先だろ!?」
「奴の伝書鳩が来まして! 午前七時にここに来るって 」
「今六時だぞ!?  あと一時間後じゃねーか!!」

「あのすまん、タン・トーとは?」

慌て腐るディルに質問するも奴は心ここに在らずてんてこ舞い。

代わりに通りがかりのアシスタント(モヒカン)が教えてくれた。

「タン・トー、あいつは恐ろしい奴だぜ……」

タン・トー。

村に住む漫画家たちの作業場に締切前に現れ完成原稿を奪い去る死神のような奴ら。

奴らというのは、タン・トーは役職の総称で個人名ではないため。

タン・トーは複数に存在し各漫画家に各一人つき、漫画家の原稿の締切管理や作品のアドバイスをする。

凄腕のタン・トーは一人で何人もの漫画家を受け持ちヒット作を何本も立ち上げている。

漫画がとても好きなので質の悪い原稿を渡すと銃口を突きつけるかコンクリートの海に沈められる。

要約・超怖い。

「なんか裏の世界の香りを感じる人間だな」
「やべェよ……なんで奴が締切関係ない日に……」



「ピンポーン」


ドアの向こうから人の声が聞こえた。

「もう来た!  アイツ時間厳守とか言うクセに自分は一時間前に来やがる!!」

「ピンポーン、ピンポ、ピンポ、ピンポーン」

呼び出し音が早くなってる。
狂気を感じめっちゃ怖い。

「はいはーいッ!  今出ますよ!」

ガチャ!  とドアを開ける。

「ヨオ」

ドアの先にサングラスをかけた強面の男が立っていた。

ちょび髭にスキンヘッドが光り硝煙の香りが漂う。

奥に一際大きいのが立ってるし。ボディーガードか?  こんなの二人いたら確かに怖い。


……ん?  “二人”?


「ヨオヨオ」


「なッ!?  貴方は“ヘン・シューチョウ”!?」


奥に立つもう一人を見てディルが驚いた声をあげた。

「嘘だろ!?  なんで漫画雑誌を取り締まるボス、ヘン・シューチョウまで!?」
「ヨオヨオ」

ヘン・シューチョウと呼ばれた人物は黒スーツにサングラス、更にはスキンヘッドでキメており、正直タン・トーが小者に思えてしまうくらい裏の住人感が凄かった。
関わりたくない人種殿堂入り決定。

「ヘン・シューチョウ、いったい何の用で……」
「ディル。聞イテ驚ケ」

ヘン・シューチョウの前歯がキラリと光る。金歯!


「デケデケデケデン」

後ろに下がったタン・トーが口でドラムロールを鳴らす。


ごくり。
唾を呑む一同。

「【デビル・ハーベスト】舞台ショー化決定ダ!」


「……え?」

一瞬静まり返る職場……からのディルが悲鳴をあげる。
「ええーーッ!?  舞台ショー化!?」
「なんだそれ凄いのか」
顔を覗かし聞くとディルは興奮気味にダミ子の肩を掴み揺さぶる。
「バッキャロー!  凄いなんてもんじゃねーッ!  漫画だけでなく別の業界からも注目されるんだぞ!?  それこそ舞台役者の目にも留まる。役者のファンからも注目される。漫画家にとってショー化は超ステータスなんだよ!」
「そ、そうなのか」
「ウン」

ヘン・シューチョウも満足そうに首肯く。

「オ前、コレカラ我ガ社ノ看板。頑張レヨ」


「信じられない……俺の漫画が……ついにこの日が来たんだ」


いつも強気なディルの瞳が潤む。

「やりましたね坊っちゃん!」
「ショー化で益々評価うなぎ登りですぜ!!」

アシスタントたちが彼に駆け寄り胴上げする。

「凄いですねディルさん。頂点に登り詰める日も近いんじゃ」

「今のうちにサイン貰っとこ」
「二枚よろしくお願いします」

止めるかと思ったら助手もその気だった。

「トイウコトデ。諸々ノ書類提出ト舞台化ノ進行作業。オ前、死ヌホド忙シクナル」

ドサア!
スーツケースから紙の束が床に滑り落ちる。これ全て提出書類らしい。
「締切ト同ジ日提出ナ」
「これ全部、俺の仕事……だと……?」
「マア頑張レヤ」

タン・トーがディルの肩を叩くと、二人は速やかに職場を去っていった。嵐のような人たち。


「……」

無言で床に落ちた資料の束を拾うディルに声をかける。
「これ私らも死ぬほど忙しくなるやつだよな」
「察しの良いヤツは大好きだよ」
この後めちゃくちゃ働かされた。
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