スリーピング・サーガ~世界が眠りに堕ちる前に~

秋月流弥

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第7章:【イバラの森の魔女の涙】そして……

38.暗転

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「セージ!」
「ZZZ……」

セージ宅に乗り込みベッドに眠る
セージに完成したメザメールを飲ませた。

「……う」
セージの瞼がぴくりと動き、次第に閉じていた瞳が開いた。
「なんかよく寝た~!  おはようダミ子!  超いい朝だね!」
「いや夕方だが」
マイペースな婚約者の起床に反射神経でツッコミを入れる。
「大丈夫かセージ?  どこか具合が悪いところとかないか?」
「平気さ!  ぐっすり寝てすっきりだよ」
「そうか、よかった……」
ほっと胸を撫で下ろす。
よかった。薬の副作用はないようだ。
ほっとするダミ子を見てセージは花瓶にさしてあったバラを咥え、
「ダミ子が目覚めさせてくれたんだね。さすが僕の愛するフィアンセだ」
「あーはいはいどうもどうも」
復活した途端カッコつける婚約者をいつもの要領でスルーした。

「やりましたねダミ子さん!  セージ様も目を覚ましたし、メザメールは治療薬として成功です!」
「ああ。これを量産すれば他の国の永眠病スリーピング・ホリックの人たちも救える!」
マースとハイタッチをした。
「よし、さっそく国王と研究所に報告して……」


「ぐぅ」


「あれ、セージ?」
「ZZZ……」

ベッドを見ると、セージは再び眠ってしまった。

「おい!  どうした!  狸寝入りか?  目を覚ませ!」
揺すり動かしてからの往復ビンタで叩き起こそうとするも、セージが目を覚ますことはなかった。

「どうしてまた眠ってしまうんだ!?」
「ダミ子さん、あれ」

マースが窓の外を指さす。その顔面は蒼白だ。

街の人たちが次々と倒れていく。

「おい大丈夫か!」
「イビキ?  眠っているのか!?」
倒れる人に駆け寄る通行人が叫ぶ。
次の瞬間、「ぐぅ」通行人も眠ってしまう。
「これは……」
永眠病スリーピング・ホリックの症状……!?」
部屋の外で大きな音がした。廊下に出るとセージの父親が大イビキをかいて床に転がっていた。
「親父殿!」
「どういうことです!?  メザメールは効いてなかったんですか?  それに、どうして一斉に眠りにおちる人が!?」
「……とりあえず王室へ行く。メザメールの結果と現在起きてる事態を報せる。マースくんは倒れてる人たちに二次被害がないか確認、安全なところに移動させるんだ」


グゥスカ城へ戻ると、城内は異様に静かだった。

床には倒れ眠る人たち。兵士も執事もメイドも全員眠りに落ちている。

「ここもか……」
玉座に座ったまま国王は鼻提灯を膨らませていた。周囲の護衛も立ったまま眠っている。
「……!」
最後の砦と思っていた薬剤研究所に駆け込むも、希望は儚く散った。カモミールも他の薬剤師たちも床に伏せるようにそれぞれ倒れていた。

「っ…………!」

ダミ子は走っていた。

あの場所は。あの場所だけは。

私の居場所。
大切な唯一の家族。

「お願いだ。無事でいてくれ……!」


自宅のドアをノックする。

返事は返ってこない。

ドアノブに手を伸ばすと鍵がかかっていた。用心深い祖父は家の中にいるときでも鍵をかける。
外出中の可能性も視野に入れたが現在は夕方。既に夕日が沈みかけている。
「ん?」
何かがドアの内側から聞こえた。
「この機械音。ゆロボだ」
小さく機械音が何かを呼んでるように聞こえた。
呼ぶ相手なんて、一人しかいない。

「じいさん!」

自分の持つ自宅の鍵でドアを開ける。
家の中は静かだった。

「あ……」

そこには。

まるで、死んでいるかのように祖父は床に座り込んで眠っていた。

『じーじ、じーじ』

ゆロボが祖父の傍らで祖父を呼んでいる。
祖父は眠ったまま返事をしなかった。

「…………」



「ダミ子さん!!」
肩を強く掴まれた。
いつの間にかマースが目の前に立っていた。
「マースくん……」
「城に行ってもいないからもしかしてって思って……大丈夫ですか?  顔が真っ青ですよ」
「祖父さんが……祖父もダメだった。眠ってしまっていた」
「っ……そうですか」
震える肩を抱くようにマースはダミ子の身体を引き寄せた。
「大丈夫です。絶対目覚めさせましょう。お祖父様も、カモミールさんや研究所の人たち、グゥスカ王国の人たちも皆目を覚ましてくれます。僕たちはまだ起きてる……だから、」
「……」
温かい。
いや、自分が冷えきっていたのか。
信じられないことが次々と目まぐるしく起きて、心が凍てつくような心地だった。
今は人の体温が感じられることが一番安心感を得られた。
「ありがとう。もう、大丈夫だ」
そっとマースから離れ、ダミ子は気を引き締めた。
「そうだな。起きてる私たちがしっかりしないとな」

(大丈夫だ。幸運にも私たちは眠りに堕ちてない)

自分たちにできることはまだある筈だ。


「おーい!」

空から声がした。
ドラゴンがこちらに向かい飛んできた。
「ドラゴン!  あんた」
「どうしてグゥスカ王国に!?」
「大変じゃ!  あれから村で婆さんとエアロビをしてたら、婆さんが突然眠ってしまったんだ!  村の連中も同じだ。急に倒れて眠り続けている!」
「!  グゥスカ王国だけじゃないだと!?」

ドラゴンの話によると。
ここに来る途中他の村や町の様子を見たが、どこも同じで眠りに倒れる人々だらけだったという。

「世界中の人たちがどんどん眠りに堕ちてるってことか」
「世界中で何が起こってるんですか……!?」

秘薬メザメールは効かなかった。

それどころか世界中で永眠病スリーピング・ホリックにかかる患者が急速に増え始めている。

このままでは、全世界が永眠病《スリーピング・ホリック》によって眠りに堕ちてしまう!

ドラゴンは二人に背を向けて翼を広げる。

「乗れ!  【全知の森】へ行くぞ!  全知の精霊なら何か知ってるかもしれない!」

ダミ子とマースはドラゴンに乗り、かつて訪れた全知の森へ急いだ。

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