片翼で空は翔べるか

秋月流弥

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 三月上旬。

 市内にある桜平坂おうひらざか高校に無事合格を決め、一週間後に卒業式を控えた土曜日の休日。
 特にやることもなく自宅でぼんやりしていると電話がかかってきた。


『天野真琴さんですか?』


 女の人の声だった。

『私、星空出版の編集者の祝井いわいと申します。天野真琴さん本人でお間違いないですか?』 

「はい、真琴は私です」


 編集の人?
 出版社の人が私になんの用だろう。

 編集の祝井さんという女性は話を続ける。

「応募作品の【片翼で空は翔べるか】を拝読させて戴きました。もう一度確認ですが、本作を執筆された天野真琴さんご本人で間違い御座いませんか」

「あ、」
 そうだ。私、応募したんだ。

【片翼で空は翔べるか】は私が応募した小説のタイトルだ。
快活な主人公と内気な主人公の友達が中学校のいじめに立ち向かっていく物語。
主人公の美雲みくもとその親友間宮まみや、幼馴染の御船みふねはいつも一緒の仲良し三人組。
しかし御船は別の中学校に進学することになってしまい、主人公とその親友の二人だけが同じ中学校に進学ことになる。
ひょんなことからいじめのターゲットにされてしまった間宮。最後はいじめにより窮地に追い込まれた間宮をかばって美雲は死んでしまう。

美雲のモデルは実琴、間宮のモデルが私。御船のモデルがくーちゃんだ。
“双子の妹”を“主人公の親友”ポジションに変えた部分以外はほぼ事実通りに書いた。
輝かしい青春の裏側。
この作品にはそういうメッセージも含まれている。


 実琴の生涯を形にしたくて、形にするなら新人賞がてっとり早いって衝動的に送った。
 ただ、募集してる賞はどれもネット応募が多くて、唯一原稿受付が可能な新人賞が星空出版の開催しているもので、深く考えずに私はそこに作品を送った。

 でも、出版社の人から直接電話なんてどうしたんだろう。
「あ、あの。はい、私が書きました」
 受話器を握る手が湿る。

「この度、天野さんからご応募いただいた作品が新人賞の大賞に選出されましたことでご連絡させて戴きました」


「え」

 大賞って。
    あの作品が賞をとったってこと?

 突然の連絡に寝耳に水状態の私は思ったように声が出ない。
 その反応に慣れてるのか祝井さんはペラペラと概要を話す。

「受賞にあたって二週間後の日曜日に本社で授賞式を行いたいのですが、当社はご存知ですか」
「あ、いえ。でも……東京ですよね?」
『? はい、東京ですが……』

 しばらく空いた間から自分の発言がズレていたことに気づく。
 当然の質問を言ってしまい恥ずかしくなる。そりゃほとんどの出版社は東京か。
 苦笑した声が電話越しから聞こえた。

『ふふ』
「すみません……」
『いいですよ。こんな電話きたら肩に力入ってしまうわよね』
 緊張しているのが伝わったのか、先程よりも和らいだ口調で話してくれる。

『授賞式の前に書籍化についての詳細を話したいので授賞式の三十分前に到着をお願いします』

 祝井さんは授賞式の日時と当日必要な持ち物を伝え最後に、
『場所や日程の詳細は郵送にて書類を届けるから、そちらにも目を通しておいてください』
 そう言い残し電話を切った。

「……」

 受話器を置くとしばらく呆けた。
 受賞した。書籍化とか言ってた。

「そりゃそうか……大賞だもんね」

 大賞。書籍化。信じられない言葉の連続。
 実琴の物語が本になる。
 いろんな人たちに物語が行き渡る。多くの人に届けられる。
「え、でも東京ってどうやって行くの?」

 とりあえず母に新幹線の乗り方を教えてもらわないと。

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