片翼で空は翔べるか

秋月流弥

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 夏休みを終え二学期になって隣のクラスを覗くと実琴の机は片付けられていた。
    そこには何もなかった。
 実琴の担任から伝えられたが、卒業式で配る卒業アルバムの写真も実琴の写真は掲載しないらしい。

 まるで最初から実琴なんて存在してなかったのようだ。

 実琴の人生は無にされた。
 クラスに戻ると安城たちは何事もなかったように笑っている。
 あれから私に対するいじめはない。
 それでも私に空いた心の穴は塞がらないままだった。
『生きていくには要領よくやらなきゃね』
 そう言っていた姉は最期は利益や損得を考えずに不器用な妹を庇って死んだ。

(私は実琴を覚えている)

 姉の存在をなかったことになんてさせない。

『復讐なんて考えちゃだめよ』

 違うよ母さん。私は復讐なんてしない。
 私はただ、いなくなった姉の存在をこの世に知らしめたいの。

 姉の生き様を、証明したい。



    ……私のやるべきこと。

    なかったことにされたみことの存在を知らしめることだ。


    私は机の引き出しからあるものを探した。

「あるかな……」
 小学生の頃以来使っていない。まだ残っているだろうか。

「あった」

 取り出したのは原稿用紙。
 私はそれを机に広げ一枚目に筆を走らせた。

「なかったことにさせない。実琴の人生を」

 実琴が存在した証を私がつくる。

 私は真っ白な原稿用紙に鉛筆を走らせた。


***


 原稿に向かう日々を送り、作品が完成したのは中学三年の冬休みが終わる頃。

 受験勉強もそっちのけに、私は実琴の人生をひとつの物語として完成させた。

「ここに、実琴の人生が綴じてある」
 誰が犯人だとか、真実だとか、そんなことを伝えたいわけじゃない。
 ただ実琴がちゃんとこの世界にいたっていう証をつくりたかった。
 これは移植だ。
 学校から消された姉の存在をひとつの物語に移した、魂の移植。


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