11 / 33
⑪
しおりを挟む
その日、病院に搬送された実琴が死亡したこと、即死だったことを知らされた。
その日のことはそれしか覚えていない。
事件があった翌日。
学校側は一人の生徒が屋上から転落し事故死《・・・》したことを発表した。
安城たちは実琴が自ら屋上から飛び降りたと証言したのだ。
「私たち、実琴さんを止めたんです。そんなことしちゃダメだって」
「安城さんの言うとおりです。私たち、必死で実琴さんを止めました」
「なのに、実琴さん、なんで……」
学校側は当時屋上にいた人物を会議室に集め情報収集を行った。
その際安城たちは涙を溢しながら実琴の死を悔やむ言葉を吐いた。
会議室に嗚咽と鼻をすする音が響く。
(なにそれ)
安城たちのとんだ茶番に怒りで気がおかしくなりそうになった私は彼女たちに罵倒の言葉を放ち、教師陣に本当にあったことを告げた。
「彼女たちは嘘をついてます! 信じないで! 私だけが真実を伝えられる!!」
しかし、教師たちは激昂する私に戸惑いの表情を浮かべ、結果的に安城たちの言葉を信じた。
生徒の死を悼む複数人の証言と冷静さを失った妹の証言、天秤は安城たちに傾いた。なんでこの世は数の多さが信用に比例するんだろう。
(いや、違う。学校も隠したいんだ)
だってその方が都合がいいから。
生徒が死んだことを事故と処理すれば事件としてメディアに取り上げられない。
(本当は安城たちの証言が嘘ということ薄々気づいているかもしれない)
ただ、いじめがあることを外部に公表して叩かれるのを恐れた。
つまり保身を選んだのだ。
『生きていくには要領よくやらなきゃね』
いつか姉の言ってた言葉。
本当だよ実琴。
世の中ズル賢い奴らばっかりで嫌になっちゃうよ。
「復讐なんて考えちゃだめよ」
やつれた顔の母が私に言った。
髪はほつれ、泣き腫らした目は充血している。父から聞いた話だが母は実琴の死からろくに眠れていないらしい。
「やりきれない思いも許せない気持ちもわかる。でも、それだけの感情で真琴が生きてほしくないのよ」
復讐からは何も生まれない。
よく刑事ドラマで聞いた台詞を身近に聞く時がくるとは。
「……わかってるよ」
それだけ言うと部屋に戻った。
戻った部屋はとても広く感じて、その広さに私は泣いた。
その日のことはそれしか覚えていない。
事件があった翌日。
学校側は一人の生徒が屋上から転落し事故死《・・・》したことを発表した。
安城たちは実琴が自ら屋上から飛び降りたと証言したのだ。
「私たち、実琴さんを止めたんです。そんなことしちゃダメだって」
「安城さんの言うとおりです。私たち、必死で実琴さんを止めました」
「なのに、実琴さん、なんで……」
学校側は当時屋上にいた人物を会議室に集め情報収集を行った。
その際安城たちは涙を溢しながら実琴の死を悔やむ言葉を吐いた。
会議室に嗚咽と鼻をすする音が響く。
(なにそれ)
安城たちのとんだ茶番に怒りで気がおかしくなりそうになった私は彼女たちに罵倒の言葉を放ち、教師陣に本当にあったことを告げた。
「彼女たちは嘘をついてます! 信じないで! 私だけが真実を伝えられる!!」
しかし、教師たちは激昂する私に戸惑いの表情を浮かべ、結果的に安城たちの言葉を信じた。
生徒の死を悼む複数人の証言と冷静さを失った妹の証言、天秤は安城たちに傾いた。なんでこの世は数の多さが信用に比例するんだろう。
(いや、違う。学校も隠したいんだ)
だってその方が都合がいいから。
生徒が死んだことを事故と処理すれば事件としてメディアに取り上げられない。
(本当は安城たちの証言が嘘ということ薄々気づいているかもしれない)
ただ、いじめがあることを外部に公表して叩かれるのを恐れた。
つまり保身を選んだのだ。
『生きていくには要領よくやらなきゃね』
いつか姉の言ってた言葉。
本当だよ実琴。
世の中ズル賢い奴らばっかりで嫌になっちゃうよ。
「復讐なんて考えちゃだめよ」
やつれた顔の母が私に言った。
髪はほつれ、泣き腫らした目は充血している。父から聞いた話だが母は実琴の死からろくに眠れていないらしい。
「やりきれない思いも許せない気持ちもわかる。でも、それだけの感情で真琴が生きてほしくないのよ」
復讐からは何も生まれない。
よく刑事ドラマで聞いた台詞を身近に聞く時がくるとは。
「……わかってるよ」
それだけ言うと部屋に戻った。
戻った部屋はとても広く感じて、その広さに私は泣いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】知られてはいけない
ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
(第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)
fall~獣のような男がぼくに歓びを教える
乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。
強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。
濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。
※エブリスタで連載していた作品です
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる