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文庫化に向けての小説の修正作業は順調に進行している。
高校生活と平行しての作業に不安はあったが、授業中に細々活動した成果が出て(小テストは爆死)校正は七割が終わっていた。
祝井さんも心配してか頻繁にメールをくれる。
大量に通知の入ったメールボックスを見て父が仰天していた。
「あまの……天野真琴!」
「はいぃっ」
授業の傍ら修正作業中、教師に名前を呼ばれた衝撃からその場をスタンダップ。からの教室内に響く爆笑。
ここまででワンセットがクラスの恒例行事になっていた。
英語の教師は「俺の授業はそんなにつまらんのかーッ」と頭を抱え教室を飛び出していった。
ごめんなさいぃぃ。
確かに英語の授業率が高い。
あの先生の授業って妙に集中力が上がるんだよね……主に文章面の。
放課後になると私は一人教室に残り執筆作業をする。
普段喧騒で包まれた教室がたった一人分だけの静寂を帯びる。
夕日が刺す橙色の教室はまるで廃墟の古城に一人佇むようなノスタルジーさを感じさせた。
「……なんちゃって」
うっとり自分の創る世界観に酔っていたから、目の前の机の上に乗っかる幼馴染の生首に気づくのに数秒かかった。
「ぎゃああ生首!」
「落ち着いて。顎のせスタイルだよ真琴」
くーちゃんは私の机に顎をのせヤンキー座り、目の前に広がる原稿をじーっと見つめる。
よ、読んでる?
「もしかして読んだ?」
「んーどうだろう」
その反応は絶対読んでる!
「信じられない……! くーちゃん最低!」
「やー僕も当番で遅くてさ」
「だからなに! それとこれは関係ないじゃん」
「誰もいないだろうと靴箱を見ると真琴の靴だけ残ってるじゃん。気になるじゃん。教室来ちゃったわけじゃん」
「だったら声かけてもいいじゃんじゃん」
ヤケクソからの悪ノリで対抗。
「気持ち良さそうに空想してたから話しかけにくかったじゃんかじゃんかジャカジャカジャンジャジャーン」
「原稿読んでる方が悪いよ!」
あとそのネタ古い!
いやご本人たちはバリバリ現役だけど!
机に散らばる原稿を拾い上げ、抱き締めるように束を抱える。もーこの幼馴染は!
「ねえこれ実話?」
くーちゃんは読んだことを認めて聞いてきた。
急な核心を突く質問にドキ、と心臓が嫌な音を立てる。
「実話、なわけないじゃん。フィクションだよ」
「この話のモデルってさ、実琴でしょ」
「!!」
「実琴だよね」
同じ質問をするくーちゃんは穏やかに笑っているようで、目は真剣なものだった。
「なあ真琴。実琴は元気?」
ダメだ。
こうなった以上、彼には隠せない。
「……くーちゃん。落ち着いて聞いて」
私は真実を話した。
自分が中学時代いじめのターゲットにされたこと。
いじめがエスカレートして、最終的に実琴は私をかばって屋上から転落して死んだこと。
それを事故として学校側に片付けられたこと。
実琴の存在、生涯を残すために小説を書いて出版社の新人賞に送ったこと。
それが賞をとり書籍化すること。
そして書籍化に向けての修正作業を現在やっていたこと。
「そうだったのか」
取り乱した風もなく、冷静な声をしていたくーちゃんだったが、その顔は呆然としていて、それを見るのが辛くてうつむいた。
「そうだったのか、実琴は……」
震える声。
「黙ってて、嘘吐いてごめん」
くーちゃんは悔しそうに目を瞑り歯を食い縛る。
その肩は静かに震えていた。
その姿を見て涙が滲む。でも少しだけうかばれた気がした。
実琴のことを悔いてくれる彼の存在がありがたかった。
「ありがとう……くーちゃん、ごめんね……」
だけど同時に胸が痛んだ。
高校生活と平行しての作業に不安はあったが、授業中に細々活動した成果が出て(小テストは爆死)校正は七割が終わっていた。
祝井さんも心配してか頻繁にメールをくれる。
大量に通知の入ったメールボックスを見て父が仰天していた。
「あまの……天野真琴!」
「はいぃっ」
授業の傍ら修正作業中、教師に名前を呼ばれた衝撃からその場をスタンダップ。からの教室内に響く爆笑。
ここまででワンセットがクラスの恒例行事になっていた。
英語の教師は「俺の授業はそんなにつまらんのかーッ」と頭を抱え教室を飛び出していった。
ごめんなさいぃぃ。
確かに英語の授業率が高い。
あの先生の授業って妙に集中力が上がるんだよね……主に文章面の。
放課後になると私は一人教室に残り執筆作業をする。
普段喧騒で包まれた教室がたった一人分だけの静寂を帯びる。
夕日が刺す橙色の教室はまるで廃墟の古城に一人佇むようなノスタルジーさを感じさせた。
「……なんちゃって」
うっとり自分の創る世界観に酔っていたから、目の前の机の上に乗っかる幼馴染の生首に気づくのに数秒かかった。
「ぎゃああ生首!」
「落ち着いて。顎のせスタイルだよ真琴」
くーちゃんは私の机に顎をのせヤンキー座り、目の前に広がる原稿をじーっと見つめる。
よ、読んでる?
「もしかして読んだ?」
「んーどうだろう」
その反応は絶対読んでる!
「信じられない……! くーちゃん最低!」
「やー僕も当番で遅くてさ」
「だからなに! それとこれは関係ないじゃん」
「誰もいないだろうと靴箱を見ると真琴の靴だけ残ってるじゃん。気になるじゃん。教室来ちゃったわけじゃん」
「だったら声かけてもいいじゃんじゃん」
ヤケクソからの悪ノリで対抗。
「気持ち良さそうに空想してたから話しかけにくかったじゃんかじゃんかジャカジャカジャンジャジャーン」
「原稿読んでる方が悪いよ!」
あとそのネタ古い!
いやご本人たちはバリバリ現役だけど!
机に散らばる原稿を拾い上げ、抱き締めるように束を抱える。もーこの幼馴染は!
「ねえこれ実話?」
くーちゃんは読んだことを認めて聞いてきた。
急な核心を突く質問にドキ、と心臓が嫌な音を立てる。
「実話、なわけないじゃん。フィクションだよ」
「この話のモデルってさ、実琴でしょ」
「!!」
「実琴だよね」
同じ質問をするくーちゃんは穏やかに笑っているようで、目は真剣なものだった。
「なあ真琴。実琴は元気?」
ダメだ。
こうなった以上、彼には隠せない。
「……くーちゃん。落ち着いて聞いて」
私は真実を話した。
自分が中学時代いじめのターゲットにされたこと。
いじめがエスカレートして、最終的に実琴は私をかばって屋上から転落して死んだこと。
それを事故として学校側に片付けられたこと。
実琴の存在、生涯を残すために小説を書いて出版社の新人賞に送ったこと。
それが賞をとり書籍化すること。
そして書籍化に向けての修正作業を現在やっていたこと。
「そうだったのか」
取り乱した風もなく、冷静な声をしていたくーちゃんだったが、その顔は呆然としていて、それを見るのが辛くてうつむいた。
「そうだったのか、実琴は……」
震える声。
「黙ってて、嘘吐いてごめん」
くーちゃんは悔しそうに目を瞑り歯を食い縛る。
その肩は静かに震えていた。
その姿を見て涙が滲む。でも少しだけうかばれた気がした。
実琴のことを悔いてくれる彼の存在がありがたかった。
「ありがとう……くーちゃん、ごめんね……」
だけど同時に胸が痛んだ。
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