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㉖
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安城との確執はありつつも、撮影はスタートをきり、現在も進行中だ。
時おり監督の指摘が入るものの、役者たちはすぐ対応、OKテイクをもらっていく。
私も時折撮影現場へ足を運び、映画の進行具合を見学した。いろいろひっかかる件もあるが、映画制作を見るのはちょっと楽しい。
「あ! 先生! 来ていたんですね」
「あなたは……」
「はい、御船役の“羽柴ケトル”です。こないだの撮影以来ご無沙汰です先生!」
声をかけてきたのは主人公の美雲の幼馴染・御船役の男の子、羽柴ケトルくんだった。
ケトルなんて何を蒸気させるんだとツッコミたくなる名前をしているが常識人で人懐っこく口から覗く八重歯が可愛らしい現役高校生役者だ。
「先生なんてそんな」
「いえ先生です。自分は文字を物語にする能力ないんで。尊敬します!」
白い歯が眩しい。
御船のモデルになったくーちゃんの七倍爽やか。
くーちゃんも爽やかだけど、この子のはもう、爽やかすぎる。
(そう言ったらくーちゃんふくれるだろうな)
蒸気くん……ケトルくんに続いて他の役者さんもこちらに気づき近づいてきた。
麗しい集団に翻弄されつつもケトルくんがうまく話を進行してくれてしばらく雑談を交わし楽しい時間を送り、自宅へ帰った。
撮影は滞りなく進んでいる。
この調子ならオールアップする日も近いかも。
電車に揺られ私は睡魔に襲われた。
***
土曜日。
今日は大学も休み。
ベッドの中で午前十一時まで惰眠を貪っていると携帯電話が鳴った。
ベルがけたたましく鳴り眠気を感じながらも携帯を取る。
『もしもし天野さん? 大変よ! カレンが役を降りることになったのよ!!』
「え?」
安城が役を降板する。
突然の言葉は寝耳に水だった。
「どういうことですかっ?」
『とにかく編集部に来て。今度は応接室。初めて会った授賞式前に話し合った部屋あるでしょう、あそこ。詳しくは現地で話すから』
応接室には祝井さんと編集長、監督、そして知らない男性が応接室に来ていた。
私が頭を下げると男性は「すまない! 本当にすまないッ!!」と深く頭を下げた。
祝井さんから男性は安城の事務所の社長だと知らされた。まだ若そうで三十代前半くらいに見える。
「こちらも訳がわからない。今朝の撮影に来ないから連絡を入れたら急に『役を降りる』と言い出して。こちらから電話やメールをしても返事が返ってこない!」
若社長の男性は頭を抱える。
荒れる若社長の向かいに座る監督も似たような反応だった。
「撮影は順調だってのに、一体どうして……!!」
編集長はため息を吐き、祝井さんはおろおろしている。どうやら状況は想像以上に大ごとらしい。
(それにしても急に辞めるなんて。いったい安城に何が起きたの?)
「駄目元ですがカレンに連絡を入れてみます」
「どうせ何度連絡したって同じだ! とりあえずカレンが無理だったら他の役者を代打で使うしかない。まずはその代打探しから……ああもう! なんでこんなことに!」
監督は「なんでこんなことに」という台詞を今日一日で何回言っただろう。それほど切羽詰まっている状況ということは伝わる。
強度は違えど私も同じ気持ちだ。
(安城、あんたは、何を考えてるの?)
結局打開策も浮かばないまま今日の緊急ミーティングは終了。
「とりあえず進展があったらまた連絡するから」
祝井さんにそう言われ私は家へ帰宅した。
時おり監督の指摘が入るものの、役者たちはすぐ対応、OKテイクをもらっていく。
私も時折撮影現場へ足を運び、映画の進行具合を見学した。いろいろひっかかる件もあるが、映画制作を見るのはちょっと楽しい。
「あ! 先生! 来ていたんですね」
「あなたは……」
「はい、御船役の“羽柴ケトル”です。こないだの撮影以来ご無沙汰です先生!」
声をかけてきたのは主人公の美雲の幼馴染・御船役の男の子、羽柴ケトルくんだった。
ケトルなんて何を蒸気させるんだとツッコミたくなる名前をしているが常識人で人懐っこく口から覗く八重歯が可愛らしい現役高校生役者だ。
「先生なんてそんな」
「いえ先生です。自分は文字を物語にする能力ないんで。尊敬します!」
白い歯が眩しい。
御船のモデルになったくーちゃんの七倍爽やか。
くーちゃんも爽やかだけど、この子のはもう、爽やかすぎる。
(そう言ったらくーちゃんふくれるだろうな)
蒸気くん……ケトルくんに続いて他の役者さんもこちらに気づき近づいてきた。
麗しい集団に翻弄されつつもケトルくんがうまく話を進行してくれてしばらく雑談を交わし楽しい時間を送り、自宅へ帰った。
撮影は滞りなく進んでいる。
この調子ならオールアップする日も近いかも。
電車に揺られ私は睡魔に襲われた。
***
土曜日。
今日は大学も休み。
ベッドの中で午前十一時まで惰眠を貪っていると携帯電話が鳴った。
ベルがけたたましく鳴り眠気を感じながらも携帯を取る。
『もしもし天野さん? 大変よ! カレンが役を降りることになったのよ!!』
「え?」
安城が役を降板する。
突然の言葉は寝耳に水だった。
「どういうことですかっ?」
『とにかく編集部に来て。今度は応接室。初めて会った授賞式前に話し合った部屋あるでしょう、あそこ。詳しくは現地で話すから』
応接室には祝井さんと編集長、監督、そして知らない男性が応接室に来ていた。
私が頭を下げると男性は「すまない! 本当にすまないッ!!」と深く頭を下げた。
祝井さんから男性は安城の事務所の社長だと知らされた。まだ若そうで三十代前半くらいに見える。
「こちらも訳がわからない。今朝の撮影に来ないから連絡を入れたら急に『役を降りる』と言い出して。こちらから電話やメールをしても返事が返ってこない!」
若社長の男性は頭を抱える。
荒れる若社長の向かいに座る監督も似たような反応だった。
「撮影は順調だってのに、一体どうして……!!」
編集長はため息を吐き、祝井さんはおろおろしている。どうやら状況は想像以上に大ごとらしい。
(それにしても急に辞めるなんて。いったい安城に何が起きたの?)
「駄目元ですがカレンに連絡を入れてみます」
「どうせ何度連絡したって同じだ! とりあえずカレンが無理だったら他の役者を代打で使うしかない。まずはその代打探しから……ああもう! なんでこんなことに!」
監督は「なんでこんなことに」という台詞を今日一日で何回言っただろう。それほど切羽詰まっている状況ということは伝わる。
強度は違えど私も同じ気持ちだ。
(安城、あんたは、何を考えてるの?)
結局打開策も浮かばないまま今日の緊急ミーティングは終了。
「とりあえず進展があったらまた連絡するから」
祝井さんにそう言われ私は家へ帰宅した。
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