大人しい村娘の冒険

茜色 一凛

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あと2個

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 私が冒険に出かけてから、三ヶ月が経つ。学校の方はマイに任せて、私はひたすらエリクサーの素材集めをしていた。長い冒険で十個の素材のうち八個まで集まった。

「もうそろそろ少し休んでもいいよね。アキラ許して…」

 八個の素材は比較的手に入れやすい。残る二個が難関だった。回復薬(中)を売りながら、馬車でユウキと冒険してた。けどこれからの魔王の討伐を考えると二人だけでは心許ない。

 一度、実家に帰ることにした。

「早くマイに会いたいぜ。お土産も用意してきたし、喜んでくれるだろ」

 男女二人の旅だったが、ユウキはマイに熱を上げてるから私を誘うようなことは無かった。言い寄られたり、夜被害に遭わないように反射粉を振ってたのも大きい。街で泊まる時も部屋は別にしてたし。色々男女2人旅は気を使う。やっぱりマイを連れてこないと。


 早くアキラの石化を解きたいけど、仲間の協力がないとこの先は無理だ。さらなる戦力も欲しいし一旦実家に戻ることにした。



「ツグミー、今日もアタシが学校行ってもいいんだよね?」

 私の部屋でマイが変身粉を振りかけている。この粉は最初に目に入った人に変身出来るという効果を持つ優れた薬だ。変身するためには写真を使ってもいいので、マイに私の写真を渡しておいたのだ。

 三ヶ月前。ユウキがカメレオンを狩りに行き、そのおかげで半年分ぐらいの変身粉が用意できた。それを半分ぐらいマイに渡しておいた。

 久しぶりにマイが私に変身してる姿を見たけど、全然慣れやしない。自分の目の前に私のそっくりさんというか本人がいるのだから変な気持ちになる。それは鏡の中の自分が勝手に動き出すような感じで落ち着かない。

 もし、鏡を覗き込んだ時に、鏡の中の私が笑ってたら怖いし。夢の中で、鏡から自分と似た人が出てきたとしたら思わず叫んでしまう。恐怖でしかない。

「学校って面白いし。青春だわ! 先生が丁寧な言葉で色々教えてくれて、クラスの子たちもいい子ばっか、永遠にこの時間が続けばな」

 マイは窓を通して遠くを眺めている。そんな顔されるとこのままマイに学校生活エンジョイしてもらってもいい気もする。

 いつだったかな。マイが話してくれた。なんでそんな学校に憧れてるの? みたいに一度だけ聞いたことがある。

「私子供の時あまり行けなかったんだよね」

 その続きを聞くのが躊躇われた。おそらく魔王軍がマイの住む街にも攻めてきて、その時に被害を受けたのだろう。

「私の村の学校も壊されたけど、みんなで直してすぐに通えたんだけど、マイのとこは違う?」

 頭をかきながら、マイは話しずらそうにしてたけど、

「あのな、アタシの家族は魔王が去った後。盗賊がきて、殺されたんだ。母親も、姉も。残ったアタシは盗賊団に捕まえられた」

「マイっ……」

 可哀想って言葉が出そうになったのを慌てて飲み込む。

「そこのボスがえらくアタシのことを気に入ってさ。聞いたことある? ロリコンっていうみたい。本来ならアタシも殺されるはずだったんだけど」

「そこで過ごしてきたんだよね……」

 私は目頭が熱くなってきた。それにつられマイも涙ぐんでいる。

 親の仇に育てられるって私では想像も出来ない。
そこでムチの使い方や、盗賊のスキルを覚えてきたんだろう。

「奴らと共に行動して、盗みを沢山やった。アタシはボスの娘ってことになって、誰もアタシに手を出すものもいなかったから……」

「でも、ボスが病気で亡くなる前にアタシに告白したんだ。『亡くなった娘――セイラに似てた……』ってそんなことでアタシを生かしたって知ったらさ、ムカついた。まあ、アイツには世話になったし」

「そのボスがマイの家族を……」

「いやっ、派閥争いが起こって新リーダーになった『カシム』って奴。アタシはすぐに盗賊団から離れた。あいつは殺しのプロで1人じゃ悔しいけど敵わない。てか、アイツの前に出ると、あいつを見ただけで震えちまうんだよ。情けねーだろ……」

 そう言って、服をめくるとお腹のとこにタコのタトゥーが入っていた。これ見たことある。確か魔王軍がこの地を離れたあと暴虐で、各地の村や街を襲っていた盗賊団。ふざけたタコのマークが特徴。

「情けなくなんてないよ。私だったら……そんなとこで頑張れないよ。マイは凄いよ」

 私はマイを抱きしめた。

 そんなことを昨日の事のように思い出していたら。ベッドにマイが脚を拡げて座ってた。というよりだんだん開いてくるようだ。学校の制服のスカートを短く腰で折りたたんでいるから、パンツ丸見えでしかも姿は私。まさか……。

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