大人しい村娘の冒険

茜色 一凛

文字の大きさ
20 / 27

ほんとに惚れた? それとも演技?

しおりを挟む
 キョウコが「お願いだから飲んで」と言いながら、テーブルの上に置かれたユウキの手に触れ、キョウコの手が重ねられた。

「だから言ってるだろ。そんな物に頼る必要なんて無いんだよ」

 ユウキはキョウコの手を優しく握り返すと、真剣な眼差しでキョウコを見つめているように見えた。

 私のテーブルの向かいに座るマイは、それが面白くないのか、腰に括り付けた鞭を取り出すと、テーブルに肘を付き、真っ赤な顔で、鞭を両手で引っ張って引きちぎろうとしている。

「ごめんなさい。私……なにやってるのよ……」

 ユウキの言葉に、キョウコは自分が今からやろうとしていることがどれだけ彼を傷つけるのかを悟ったようだ。

 キョウコは申し訳なさそうに小声になった。

 どっちなのよ? ユウキは演技をしているのか、それとも本気なの? 私はトイレの方を指さして、ゆうきにトイレへ行くように促してみた。

「ごめん。大事な話の途中なんだけど、トイレいってきていいかな?」

 コクリと子供のようにキョウコは頷き、ユウキは彼女の頭を撫でて、トイレへと席を立った。

 私が、トイレへ行き、ユウキと交代しようと思ったのに、興奮状態のマイがトイレへと足早で席を立ってしまった。そして右手に変身粉を持っている。

 私が話をつけたかったのに。なんでマイが。しかもテーブルの上に引きちぎった鞭を置いたままで店員が来たらこれどうやって説明しろってのよ。本当恥ずかしい。

 他のお客さんはテーブルの黒光りする鞭をチラ見すると変な顔で見てくる。しかたなく私は慌てて鞭を背もたれのソファーに隠した。

 何やってるんだろう。マイを追いかけようと思ったけど、興奮していてここで目立ちすぎるのは避けたい。もう任せるしかない。

 そしてユウキとマイの二人はトイレの中へと吸い込まれていった。

 三分ほど経つと、マイが変身粉でユウキの姿になり、キョウコのテーブルについた。あれはマイだよね?

「ごめんさっきの忘れて」

 突然そんなことを言い出す。

「さっきのって? スペシャルコーヒーのこと? 大丈夫頼むの辞めるから、私どうかしてたし、ユウキの気持ち考えてなくて、本当に失礼だよね。ごめんなさい」

 そんな中、陽気な店員が、コーヒーを持ってキョウコ達のテーブルに現れた。

「どうぞー、当店自慢のスペシャルコーヒーです。良い時をお過ごしくださいませ。あとこちらこのコーヒーをご注文の方に素敵なプレゼントもございます。この辺りのホテルの無料券になります。」

 そう言いながらコーヒーを置いていく。それをガバッとユウキは掴むと。正確にはユウキに変身したマイなんだけど、トイレへと駆け込む。

 キョウコの頭の中では、恐らくコーヒーの力なんて必要ないと捨てに言ったと考えているのだろうけど。

 マイの事だ。目的は違うような気がする。私はもう我慢できずに慌てて、トイレへと向かった。マイ頼むから変なことやらかさないでよ。


「アツッ!」

 トイレの方から男性の叫び声が聞こえた。

 遅かった、感情的になったマイは無理やりユウキの頭を押さえつけてコーヒーを飲ませようとしているところだった。

 マイを見るユウキの目がクルッと反転し、トロンとなると、完全に恋に落ちた。

「なにやってんの! マイーっ!!」

 マイをユウキから引き離そうとするが、

「邪魔すんな! ツグミあっち行けよ! 今大事なとこなんだから」


 ちょい待ってよ! マイっていつの間にユウキのことが好きになってるのよ。

 思い当たる節が見当たらない。なんでこんなことになってんのよ!

「こいつはね、私の幼少期の話を黙って聞いてくれたんだよ。後は胸に付けられた烙印も見せた。これは誰にも見せたことの無いものなんだ」

「何よそれ……」

「強盗団に連れられてアジトにつくと、炉に入れて熱々になった鉄の棒で烙印を押されるの。それを押されるともう一生その強盗団のメンバーだと言われてる。そんな……最低なものなのよ……」

 そう言いながらマイは上の服をガバッとめくると、可愛いイルカのマークが胸のとこに入れられていた。

 そんなものを押されたマイの気持ちを考えるともう何も返せなくなってしまう。でも、でも、この後どうすればいいの……。

「二人は取り敢えずこの場を離れて! ややこしくなるから。後は私が何とかする」

 ユウキは俯いている。 

「ごめん、とにかくあの勇者をやっつけるためにはできることなら何でもやりたくて。ごめんなマイ」

 ユウキそんなモテる人じゃないのに何言ってんの。

 ユウキに変身粉をかけて私の姿にして、二人をトイレから追い出した。


 もう頼れるのは私しかいない。カバンからみんなで撮った写真を掴むとユウキの部分を残し両手で他のみんなを隠す。

 変身粉を振りまいて私はユウキの姿となった。

 私がやるしかない!

 キョウコの待つテーブルへと急ぐ。

「ごめん。スペシャルコーヒーなんだけど捨ててきた。あとお互いあまりよく分かってないから、色々話す中で仲を深めていった方がいいのかなって」


 と、私は切り出すと、キョウコもうんうんと頷く。

「そうね、私のことをもっと知って欲しいし、協力して欲しいこともあるの! あの勇者許せないからなにかギャフンといわせたいわ」

「なにかあなたもされたの? 良くない噂を聞くから」

「あの人、私にいつも暴言ばかり吐いて、基本的に自分のことしか考えてないの! 子供を蹴飛ばして笑ってたり、女性のことも遊び道具くらいにしか考えてない。結婚すると言ってた女性を薬で眠らせてあんなことして、その女性が自殺未遂したり。もうねついていけない」

「最低っ……」

「分かってくれるの?」

「ああ」

「私も同じホテルにパーティみんなで泊まってるから、勇者が連れ込んだ女と間違えられて夜寝てる時にスカートを捲られそうになったの。下着に手がとどいたときに慌てて振り払ったわ! 私は処女なの! まだ処女よ!」

 30代半ばで処女を強調する。それまでになかなかいい出会いがなかったのかもしれない。
 

「それなら話は早いわ。あの勇者をとっちめてやりましょ。ええと……とっちめてやろうぜっ」

 私はウインクしてみせる。キョウコも目を輝かせている。

「それじゃあ。他にも被害に遭ってる人がいるから作戦会議しようか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...