聖女は復讐の為なら何でもします!

茜色 一凛

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七話 信じる心

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 目頭が熱くなってきた。こんな私の話を聖女様が信じてくれたから。

 でも、私はもうだめだと思う。この学園に留まるのは諦めるしかない。

「分かりました。荷物をまとめて家に帰ります」

「今まで一生懸命にやってくれてたのに、困ったわね」

 名残惜しそうに、校長は言葉を漏らす。いつもそうだ。家が貧乏だから。服はツギハギだらけの服だし。何かあっても諦めてきた。だって希望なんてもっても大抵叶わないことは分かってるのだから。

 幼い頃、欲しいものがあってもショーウィンドウのガラス越しに見るだけで、肩唾を飲んで我慢が当たり前だった。

 この学園に入れたのは奇跡であって、やっぱり最後は追い出されて終わり、何となくそうなんだと、心の片隅で小さな私が呟いてそんな事に安心してる自分がいる。そうよ。いつものパターンでもう慣れっこだから。

 頬をつうと意識とは裏腹に涙が伝ってしまう。何で。今までこんなこと無かったのに。いつもなら平気なはずなのに。

 本当にこんなんでいいのか私。こんな惨めな私の事なんて世界の誰一人として知らないか。

 お母さんが、私のほっぺを強く引っ張り、二人して号泣し抱き合った記憶が蘇る。私はどうしたらいいの?

 息を吐く。体の横で垂らした手が微妙に震えてくる。一向に止まる様子がない。

「わ、私」

「どうかされましたか?」

「あ、あのっ」

 先生は優しい眼差しを向けたような気がした。

「学校で他の生徒よりもしっかりと学んでいましたよね? 今まで手を抜いた事もありません。先生! 何とかなりませんか」


 額から嫌な汗が沸く。そもそも、推薦は学校外の調合師でないとダメかもしれない。お母さんや幼なじみのジャックの顔も浮かんでくる。もしこれで退学ならどんな顔で彼らと合えばいいんだろうか?


「諦めるしかないわ」

 校長は悲しい目で私を見つめてくる。

 この学校に入学できると知った時の布団をめくり目の前の涙目で輝いていたお母さんの瞳が私の脳裏に突き刺さる。

 このままだとほんと退学になる。一生分の考えを巡らせたどり着く。校長はピンクの髪のお姉さんを勝手にライバルだと思ってる。

「私は聖女のお姉さんよりも、伝説の調合師と世間で有名な校長先生目指して頑張ってきたのにこんな仕打ちはあんまりです」

 聖女様ごめんなさい。嘘吐きました。

 私が脚を内股にしてモジモジしながら、大きな声をだした。するとその声に先生の瞳が一際優しくなる。

「あら、分かってるじゃない。まあいいわ。そうねー。こんなこと許されるか分からないけど、私が推薦してあげてもいいわよ」

 校長は昔、聖女になりたかったけど、国王陛下はピンクの髪のお姉さんの方が容姿もよく、キャピキャピして肌を露出させるような服ばかり着てたから、国王を初め大臣、貴族から人気が高く選ばれたとか噂で聞いたことがある。

「伝説の調合師様……」

 私はその場で床に膝で立つと両手を組み、校長に対して敬意を表す祈りのポーズをとった。

「いいですか? こんなことは前代未聞ですよ。私が推薦するのですから。それにしても私が書くなんて何十年ぶりでしょう。いいこと、これだけは約束しなさい。メアリ…しっかり勉強して必ず私を超える国一番の調合師になるのよ! 分かったわね?」

「は、はい……」

 声にならない。胸が熱くなり、こういう時は本当に涙すら出ないものなんだ。

「それでは、授業がありますから、教室へ急ぐのよ」





 校長に推薦されてから数日後。

 今日も校長は張り切って授業を進めている。70代ぐらいなのに耳に水色の宝石のピアスをしてるし服も真っ赤なドレスを着こなして、オシャレだ。お母さんにもこういった洋服やアクセサリーを買ってあげれる日が来るといいな。

「今日は回復薬(小)の作り方を教えます。これは回復薬の中でも基本中の基本なのでしっかり学んでください! まず素材は、ヨモギの葉っぱを使います。葉緑素を多分に含んでいるので、飲むと身体中の血行が良くなり風邪防止にもなるのですよ。お風呂の入浴剤として湯船に入れれば、ポカポカします」

 校長も聖女様と同様に見た目は10代にしか見えない。初日は老婆の格好だったのが、薬を飲むことですぐに若返った。飲んでも見た目しか変わらないようで体力は歳相応なのだとか。

 それでも若く見える校長が飛びっきりの笑顔で楽しく教えてくれるものだから、私のやる気スイッチは、はいりっぱなしだ。

「本格的な調合が始まるっ!」

 私はテンションが爆上がりしていた。
 カティを治してくれた聖女様は回復薬を使ったのだろう。あの時は、骨も折れていたからもっと効力の高いものを使ってくださったのだ。いつかはわたしもそんなものを作れるようになれたらいいな。

 そんなことを思いながら期待で胸を膨らませていたのに、周りの子達はこないだもやったと、面倒くさそうに文句を言いだす。

「文句言わないの! 基本が大事です! それでは早速、倉庫にヨモギの粉を取りに行きましょうか」

 先生を先頭にゾロゾロと生徒たちは隣の倉庫へと入っていく。私も慌てて後ろからついていく。

「校長! 一ヶ月前あんなにあったヨモギの乾燥粉が全く見あたりません」

 先に入ったアミが突如騒ぐと、先生もヨモギの入っていた木箱を見て、首を傾げる。

「あらっ、おかしいですね。あれから使ってないはずなのに、何で空っぽなの?」

 不思議そうな顔で生徒の顔を順番に見ていく。

 まさか私たちを疑ってるの? そんなわけないよね? 先生は聖職者なんだから人を疑ったりはしないはず。

「先生、最近入った生徒が怪しいんじゃない?」

 アミのせいで、皆の視線が私に集中した。

 ――え? 私?

 意地悪なアミがまたしても私のことを犯人だと決めつけて変な言いがかりをつけてきた。

 でも、アミの言葉に呆れる生徒が大半いる中、アミと仲の良いサユリが口を開いた。

「私見たんです。こないだの放課後、メアリさんが沢山の薬草の粉をカバンに入れてる姿を!」

 え? 何言ってんの? 私、ヨモギの粉初めて触るのに。心臓を締め付けられる思いがした。この子よくもまあ平気でそんな嘘つけるのよ。アミがニヤつきながら私をビシッと指す。

「そう。そうだわ。メアリさん家が貧乏だから、晩御飯のオカズに持って帰ったんだわ。これだから貧乏な生徒と一緒にお勉強なんてしたくないの。そのうち私の私物や他の生徒の物も盗まれるんじゃないのかしら」

 ありもしないことを平気で口走ってくる。先生はアミの事は信用してないけど、サユリは先生の前ではいつもいい子ちゃんキャラを演じてるからまずい。

「メアリ! 本当のことを言ってください。サユリが言ってることは本当なの?」

 なんでよ……先生。私を責めないでよ。

「あの……僕も見ました。メアリさんが野草を食べながら下校してるのを」

 コラコラ。コイツはいつもアミに虐められてるアーサーじゃないの。アミに点数稼ぎしてんじゃないわよ? そっか私を追い詰めて虐められるターゲットを私にしようと企んでるな……。

 校長は穏やかな表情が一変して険しい表情に変わる。

「それにしてもおかしいですね。他の薬草の粉や動物の骨粉、土や金属粉を調べたけど、食べられるものだけが無くなってるわけじゃ無いみたいですね。それとアーサーの話は無理があるわ。ヨモギの粉は苦くてそのままては食べられないし。どうしてそんな嘘をつくの?」

 先生に責められた大人しいアーサーは視線を逸らし、窓から外を眺めて関係ないとでもいう素振りをする。

「メアリがそんなことをするはずがありません」

 唐突に、マーガレットが私を庇った。私の唯一人の親友。あれからお弁当を一緒に食べたりしてる間に仲良くなった。マーガレットはスタイル抜群のモデル体系なので、嫉妬したアミたちから嫌がらせを受けていたらしい。

「そうね。人を疑うのは良くないわね。この話はここまでにしましょう。みんな。胸に手を当てて考えてみて、もし心当たりがあれば、こっそり先生に教えてくださいね。もちろん犯人が分かっても内緒にしますから」

 先生はそう言っていつもの優しい表情に変わる。でも、私はハッキリさせたかった。人のせいにしたアミが許せないし、犯人が誰なのかも知りたい。そこで、先生の前にいくと。

「先生! このまま黙っていたら、私が怪しまれますし。私盗みなんてやってません。小さい頃からお母さんから貧しくても他人のものを盗むのは恥ずかしいことだって言われてるんです」

 大人しいマーガレットまでもが、クリっとした大きな目をさらに大きく見開いて手をギュッと握ると。

「そうよ。メっ、メアリさんはいつも私と一緒に帰ってるからそれはないよ……」

 と、震える声で援護してくれる。そうして二人で手を握りしめて頷いていると、アミがガタッと立ち上がり、腕を組むと、鋭い目で私たちを睨みつけ口を開いた。

「だったら犯人は誰なの?」
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