魔法少女

茜色 一凛

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スマッシュ受けて鼻血ブー

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「私を殺してよ!」

 公園でずぶ濡れになりながら、私は叫ぶ。

「もう生きるのが辛いの!」

 座り込み、地面を両手で力いっぱい叩き、目の前にいる男に向かって懇願する。

「だとしてもだ。何か方法はあるはずだろ」

 彼の言葉は私の耳に入ってこない。私は首を横に振る。

「そんな簡単に諦めていいのか? やれることは……」

 彼は物悲しげに目を細めて、私の打ちひしがれた様子を見る。

「やれること……。そ、そうよ。その銃で私を撃ちなさいよ!」

 それからどれほどの時が流れたのか。雨音の振る中、彼は拳銃の引き金をそっと引いた。





「ツグミー、大丈夫なの? スマッシュ顔面に受けたのよね?」

 私──希咲ツグミは保健室のベッドで休ませてもらっている。

「あたたっ、大丈夫だよ。ほんとに宮内エリカは大袈裟なんだから、部活のバレーボールならちょっとした怪我くらい付き物だし」
「いつも言ってるでしょ。フルネームで呼ばないで」

 宮内家は日本屈指の大財閥。そしてこのエリカはお嬢様なのだ。ついついからかいたくてフルネームで呼んでしまう。

「呼びやすいからいいじゃん。私たち親友でしょ?」
「友達のこと親友でしょとか、言わないでくれませんか? 恥ずかしいです。それともうんとか言って欲しいわけ?」

 エリカはそう言いながらも嬉しそうだ。

「うん。うん。エリカはお友達だから、今回も保健室まで付き添ってくれたし」
「あなたには参りますね。しょうがありません。何か困ったことがあったら私を頼ってくださって結構ですから」

 私は不安だった。鼻の穴にティッシュを詰めながら──今日、体育館で私の憧れのバレー部の先輩──福山サトルを見ていたら、隣でレシーブをしようと腰を落としていたエリカの視線の先もサトルだった……。その後顔面にボールを受けてしまった。

「あのさ……保健室誰もいないし、恋愛相談してもいい?」

 エリカはロングヘアを耳にかけながら照れくさそうに話してくる。

「何? 誰かいい人でもいるの? 天下のエリカ様だよ。釣り合う人がいるとは思えないけど、一体誰なのよ!」

 ──まさかサトルのわけないよね。頼むから……
サトルは小学生の頃から同じ学校だったからよく知ってる。というか、家も近所なので昔からよく遊んだ仲だ。彼は優しくて大人しくて私にピッタリいつか彼と一緒になりたい。

「あのね、言ってもいい? 怒らない?」
「怒るも何も大親友だよ私達。むしろ100%応援するし、いったい誰なのよー」

 でも、サトルだけはやめてね。そんな風に思っていたら、

「──福山サトルさんです。私が中学に入った時からずっと目をつけてたんです」

 彼女は飛びっきりの笑顔でハニカミながら言い切った。私は心臓が引き裂かれそうになるのを我慢して、なんともないような感じで、

「そう、サトルなの? 意外だね。応援するよ。もう告白したの? むしろサトルなんかでいいの?」

 わざと関心なんてない素振りをしながら話す。が、少し早口になっていたのだろう。

 鼻を詰めたティッシュが床に飛び出してしまう。それをエリカが拾ってゴミ箱に入れてくれた。

「サトル優しくてかっこいいわね! 近々告白してみようと思うの、エリカは幼なじみって聞いてたから、最初に言っときたかったのです」

「ううん、私、恋愛対象に考えたこともないし、平気だよ。告白頑張ってね。ごめんもう少し寝とこうかな、いつも一緒に帰るけど今日はさき帰ってていいよ……」

 エリカはほっと一安心しながら、明日ねと言って保健室を出ていった。

 私はひとりボーゼンとしたまま保健室の天井を仰ぎみる。消毒液の匂いが目に染みる。私のサトルが……。
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