不器用なユノ

ビター

文字の大きさ
5 / 7
不器用なユノ

しおりを挟む
 師走に入ると、片桐は仕事がたてこみ帰宅が遅くなった。加えて、ささやかだが泉美のイラスト集を作ることにした。春の集まりのときに、参加者へ配ろうと思ったのだ。
 ユノは一人で出来ることが増えてきて、帰宅すると夕食が準備されていることが多くなった。とはいっても最後のひと手間は片桐がやらなければならないのだが。
 少しは家事をユノに任せて、イラスト集を作る作業に帰宅後の時間をあてられた。
「片桐、もう寝る時間」
 ユノに声をかけられても、泉美が描き残したものを見始めると、なかなかやめられなかった。
 パステルや色鉛筆、水彩絵の具で塗られたファンタジー世界の住人たちは泉美が残していった命の証だ。
 見ているうちに、片桐は涙していた。
 鉛筆で描かれた下絵、下絵よりも前のアイデア段階のラフスケッチがたくさんあった。急死した泉美には、描きたいものがまだまだあったと、思ってしまうのだ。
 ユノはキッチンの小さな椅子に座り、作業する片桐を見つめていた。チョーカーは紫色だった。

 イラストの選定もだいぶ進んだ日のこと、片桐は夕食後、お茶をいれるユノに声をかけた。
「リビングにユノのソファを置きたいと思っている。充電やスリーブのときに、いる場所があればいいだろう」
 ふだんユノはリビングのソファを定位置にしている。電源を取りやすい位置にあったソファを使っているというだけで意味はないが、そこは泉美の定位置でもあった。ユノがその場所を占領するのは、どこか抵抗があった。
 それに、ユノへのクリスマスのプレゼントとして新しい居場所を設けるのは、うってつけのことだと思ったのだ。もうすでに何種類か目星もつけてある。
 ユノは対面式キッチンの向こう側から片桐を見ている。
「だったら、ユノ、部屋が欲しい」
「部屋?」
 年頃の子どものような返答に、片桐はおかしくて吹き出した。
「部屋って、うちには空いている部屋はないだろう。そうだな、納戸を片付ければ……」
 ユノは湯呑を運んできて、片桐の前に置いた。
「リビングのとなり。部屋、使ってない」
 片桐は持ち上げた湯呑を落としそうになった。
「だめだ、あそこは泉美の部屋だ」
「泉美、いない。つかってない」
 片桐は不意をつかれて言葉を失った。泉美がすでにいないことを目の前に突き付けられた片桐は、いちど視線を落とした。
「いや、だめだ」
「なぜ? 使ってない」
「使ってなくてもだめだ」
「なら、いつからなら、いい?」
「いつからって……」
 座ったままの片桐はユノから見下ろされて、たじろいだ。高性能とはいえ、AIは人間の心の機微までは図れないのか。
「泉美が亡くなって、まだ一年も経っていない」
「二年経てばいいか?」
 片桐は頭を振った。違う、そうじゃないと、思わずユノの手を掴んで隣に座らせた。
「泉美はおれの大切な人だった。今も思い返さない日はない。それは何年経っても変わらないことなんだ」
 ユノはうつむき、片桐に握られた手だけを見つめていた。
「人は、忘れる」
 ふうっと片桐を見つめたユノのチョーカーは、赤く発光し、それきり首はがくりと落ちた。
「バッテリーか……」
 片桐は顔を両手でおおった。
 人は、忘れる。
 ユノは片桐に体をあずけ、目を閉じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...