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第23話 疾病の予兆
そういう訳で、金貸し、修道女、用心棒という妙な取り合わせで、街を歩くことになった。
もっとも、周囲の人間に関係者だと知られたくないためか、ガラとアニサはまるで他人のように距離を明けて歩いているが……。
途中、ある通りで、ちょっとした騒ぎが起こっていた。
密集して立っている木造家屋の一つに、多くの人が集まっているのだ。
「なんだ? あれは?」
ガラがさっそく野次馬根性を出して人だかりの方へと足を向ける。
ついで、アニサも小走りに駆けていく。
「お、おい。ちょっと——」
影人も慌てて二人の後を追う。
どうやら、二人とも考えるよりもまず動く、といったタイプの人間らしい。
近づいてみると、十数人ほどの人々がある家の住民を取り囲み、罵声を浴びせて、なにやら責め立てている。
周りの人々はみな怒気を帯びた顔つきで、取り囲まれている中年の夫婦と子供は、怯え慄いていた。
どうみても、トラブルの匂いしかしない状況だ。
できれば関わらずにこの場から立ち去りたいと考えていると、アニサの凛とした声があたりにこだまする。
「みなさん! 落ち着いて! いったいどうされたのですか!」
その声がきっかけとなり、数十の視線が一斉にこちらの方を見る。
その瞬間、ぎょっとしてしまった。
みな一様に眼窩は窪み、暗く沈んだ目をしているのだ。
そして、怒りというより、何かを執拗に恐れているような表情をしている。
アニサも彼らのその異常な顔つきに何かを感じ取ったのか、一瞬たじろぐが、すぐに冷静な態度を取り戻す。
「私はアニサと申します。誰か状況を説明できる人はいますか?」
修道院……いや教会の権威はやはりこの街では大きいようだ。
アニサの介入により、今にも襲いかかろうというほど殺気立っていた人々の空気が、随分とやわらいだ。
もっとも、これだけの人々を落ち着かせたのは、そうした教会の威厳だけではなく、アニサ個人の資質も大きいだろう。
アニサの佇まい、声のトーン、美しい外見、どれか一つにその要因を特定することはできないが、思わず彼女に従ってしまう……そういったリーダーとしての才能を彼女は持っているようだ。
実際、アニサに命令されたり、頼まれたりすると思わず従ってしまう……そういう経験は短い付き合いながらも、既に何度か身を持って経験している。
人々はしばらく、ボソボソと何やら相談していたが、やがて代表者らしき男が人々の中から、歩み出てくる。
「修道院の方が何故ここに? いや……ちょうどいいか……」
リーダーらしき壮年の男がそう言うと、先ほどから地面に縮こまっているこの家の住民たちを突き出すように指差す。
「見てください! こいつらのこの肌を」
住民たちの肌は、酷く薄汚れていている。
家の主人であろう中年の男は、皮膚病にかかっているのだろうか、いたるところカサブタだらけだ。
確かに、酷い光景だ。
だが、特段珍しいことではない。
周りの人々にしたって、同じ種類の皮膚病を患っているものが、何人もいる。
ある程度裕福な者でない限り、毎日まともな食事にも、風呂にもありつけない環境なのだから、いたるところにこういった類の病気が蔓延しているのもある意味当然だろう。
それにしても、いったい彼らは何をこんなに恐れているんだ?
そう、疑問に思っていると、住民がしきりに、首すじを手で覆っていることに気付いた。
その不自然な佇まいに目がその部分に向く。
思わず、はっと息を呑む。
大きなドス黒い模様のようなものが浮き出ていた。
黒ずんだ肌やカサブタによってカモフラージュされていたのか、今の今まで、黒い紋様に気づかなかったが、一度認識すると、その存在は明らかだった。
異様な黒い斑紋は、小さなものを含めて、ほとんど全身を覆っていた。
その不気味な斑点から、何かよからぬ病にかかっているだろうことは素人が見てもすぐに理解できた。
だが、アニサとガラの反応は、影人とは比べ物にならないほどに、強烈なものだった。
二人とも、大きく目を見開き、自分たちが本当に現実を見ているのかどうか確認するように、瞬きもせずに、その黒い斑点を凝視している。
そんな静寂が数十秒は続いただろう。
やがて、我慢ができなくなった一人ががなり立てる。
「こいつら死病にかかっているんですよ! それなのに、隠れて住んでやがったんだ!」
その怒号にアニサはようやく我に返ったのか、人々をなだめすかせようとする。
アニサは、努めて、冷静な態度を取ろうとしていた。
だが、先ほど見た光景がよほどこたえたのだろう。
その声は上ずっていた。
「落ち着いてください。まだ、そうと決まった訳ではありません。よく調べなければ——」
「死病に決まってるだろ! 見ろ! このうす気味悪い肌を! こいつらが隠していたせいで……俺らまで危ないんだ!」
アニサの登場で、場は先ほどまで一時沈静化していた。
だが、男の怒鳴り声がきっかけとなり、人々に渦巻く不安と恐れが瞬く間に伝播し、再び騒乱状態になってしまった。
もっとも、周囲の人間に関係者だと知られたくないためか、ガラとアニサはまるで他人のように距離を明けて歩いているが……。
途中、ある通りで、ちょっとした騒ぎが起こっていた。
密集して立っている木造家屋の一つに、多くの人が集まっているのだ。
「なんだ? あれは?」
ガラがさっそく野次馬根性を出して人だかりの方へと足を向ける。
ついで、アニサも小走りに駆けていく。
「お、おい。ちょっと——」
影人も慌てて二人の後を追う。
どうやら、二人とも考えるよりもまず動く、といったタイプの人間らしい。
近づいてみると、十数人ほどの人々がある家の住民を取り囲み、罵声を浴びせて、なにやら責め立てている。
周りの人々はみな怒気を帯びた顔つきで、取り囲まれている中年の夫婦と子供は、怯え慄いていた。
どうみても、トラブルの匂いしかしない状況だ。
できれば関わらずにこの場から立ち去りたいと考えていると、アニサの凛とした声があたりにこだまする。
「みなさん! 落ち着いて! いったいどうされたのですか!」
その声がきっかけとなり、数十の視線が一斉にこちらの方を見る。
その瞬間、ぎょっとしてしまった。
みな一様に眼窩は窪み、暗く沈んだ目をしているのだ。
そして、怒りというより、何かを執拗に恐れているような表情をしている。
アニサも彼らのその異常な顔つきに何かを感じ取ったのか、一瞬たじろぐが、すぐに冷静な態度を取り戻す。
「私はアニサと申します。誰か状況を説明できる人はいますか?」
修道院……いや教会の権威はやはりこの街では大きいようだ。
アニサの介入により、今にも襲いかかろうというほど殺気立っていた人々の空気が、随分とやわらいだ。
もっとも、これだけの人々を落ち着かせたのは、そうした教会の威厳だけではなく、アニサ個人の資質も大きいだろう。
アニサの佇まい、声のトーン、美しい外見、どれか一つにその要因を特定することはできないが、思わず彼女に従ってしまう……そういったリーダーとしての才能を彼女は持っているようだ。
実際、アニサに命令されたり、頼まれたりすると思わず従ってしまう……そういう経験は短い付き合いながらも、既に何度か身を持って経験している。
人々はしばらく、ボソボソと何やら相談していたが、やがて代表者らしき男が人々の中から、歩み出てくる。
「修道院の方が何故ここに? いや……ちょうどいいか……」
リーダーらしき壮年の男がそう言うと、先ほどから地面に縮こまっているこの家の住民たちを突き出すように指差す。
「見てください! こいつらのこの肌を」
住民たちの肌は、酷く薄汚れていている。
家の主人であろう中年の男は、皮膚病にかかっているのだろうか、いたるところカサブタだらけだ。
確かに、酷い光景だ。
だが、特段珍しいことではない。
周りの人々にしたって、同じ種類の皮膚病を患っているものが、何人もいる。
ある程度裕福な者でない限り、毎日まともな食事にも、風呂にもありつけない環境なのだから、いたるところにこういった類の病気が蔓延しているのもある意味当然だろう。
それにしても、いったい彼らは何をこんなに恐れているんだ?
そう、疑問に思っていると、住民がしきりに、首すじを手で覆っていることに気付いた。
その不自然な佇まいに目がその部分に向く。
思わず、はっと息を呑む。
大きなドス黒い模様のようなものが浮き出ていた。
黒ずんだ肌やカサブタによってカモフラージュされていたのか、今の今まで、黒い紋様に気づかなかったが、一度認識すると、その存在は明らかだった。
異様な黒い斑紋は、小さなものを含めて、ほとんど全身を覆っていた。
その不気味な斑点から、何かよからぬ病にかかっているだろうことは素人が見てもすぐに理解できた。
だが、アニサとガラの反応は、影人とは比べ物にならないほどに、強烈なものだった。
二人とも、大きく目を見開き、自分たちが本当に現実を見ているのかどうか確認するように、瞬きもせずに、その黒い斑点を凝視している。
そんな静寂が数十秒は続いただろう。
やがて、我慢ができなくなった一人ががなり立てる。
「こいつら死病にかかっているんですよ! それなのに、隠れて住んでやがったんだ!」
その怒号にアニサはようやく我に返ったのか、人々をなだめすかせようとする。
アニサは、努めて、冷静な態度を取ろうとしていた。
だが、先ほど見た光景がよほどこたえたのだろう。
その声は上ずっていた。
「落ち着いてください。まだ、そうと決まった訳ではありません。よく調べなければ——」
「死病に決まってるだろ! 見ろ! このうす気味悪い肌を! こいつらが隠していたせいで……俺らまで危ないんだ!」
アニサの登場で、場は先ほどまで一時沈静化していた。
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