無痛なる苦痛の呪い術師

佐月

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呪術士の村

呪術「無痛」弐

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 老人の屍が見つかってから三日、犯人たる呪術士は村一番の呪術士を狙うことに決め、その家に忍び込んだ。
 わざわざ村一番の使い手、つまり世界最高峰の呪術士に今のタイミングで挑むかは、今が最大の好機だからという理由に他ならない。


 本当は老人等の屍が見つかった時点で禁呪を何者かが使用したことが露呈し、最悪、犯人であることがバレる可能性まで考えて行動していた。
 つまり、自身の無痛を解呪し苦痛を受けさせることが出来る村人が、ほぼ全員というこの村から逃げる準備をしていた。

 確実に、彼らは如何にも怒り狂ったように見せかけ「俺たちは怒っている、これは正当な報復だ。」と言い、自分の無痛を解呪し拷問にかけて心を折り、禁呪を特例的に使おうとするだろう。それほどまでに今の自分の呪力は魅力的だと彼は思う。

 無痛の本来の効果は痛みを無くすだけ。バラバラにされれば出血はする。だがエンチャントされた剣は如何やら呪文が捻くれ、より無痛らしい効果になった。元々、付与するのは魔術限定のところを「不変の呪」と「無痛」の二つをエンチャントしたのだから予想つかない何かがあると踏んでいたが、どちらかといえば幸運な方に副次効果は付いたようだ。

 というのも、彼はあれから老人等で検証を行ったのだ。やはりこの剣では相手を殺すことは出来ないことが分かった。ただし相手の頭を斬ることでモノを考えることが出来なくなり、禁呪を効率よい方法で行えることも。


 だが出血していないバラバラ死体からは呪を連想出来なかったのか、それとも呪術士たちが無能だったのか、今のところ禁呪の使用が露呈してはいない。
  だからこそ、予定を変更し、彼は自分の心を脅やかす彼らに、一人残らず禁呪を使用することにした。
 それには村一番の呪術の使い手は後に回せば回すほど、禁呪の使用が露呈し警戒されれば大きな脅威になることは明白だった。逆に今、決着をつけ、その力を手に入れれば彼は予定は大きく進行する。

 故に最大の好機が、今であり、最大の山場であった。




 寝室に侵入し、部屋を見渡せば筋肉達磨のような大男が深く寝ていた。
 それもそのはず、昼間に、凶行に怯え一番の実力者に相談しに来た子供を装って、錬金術で作成した無味無臭な遅効性の睡眠薬を飲ませたのだ。
 猛毒薬を作りたかったが無味無臭の物となると材料が揃わなかったのだ。

 そんな仕込みをされ大男は寝込んでいるが、油断しないように枕元に近づき、気合いを込めて剣を振り下ろした。

 辺りに血が飛び散る。そう、血が、飛び散った。
 大男は、少年が緊張したことで、気合いを入れたために漏れた、自分に向けられた殺意で睡眠薬など関係なかったように目を覚まし、瞬時に事件の犯人だと見抜いた。
 そして呪力で剣を弾きながら、致命傷にせず、相手の継戦能力を奪うよう、手足を切り落とすように風の魔術で反撃した。

 だが、相手が悪かった。
奪った膨大な量の呪力を鎧のように張り巡らせていたことで魔術の威力を大きく減衰し、痛みを恐れるあまり常時自分に無痛を掛けていた彼は痛みで怯むこともなかった。

 結果として、多少の血は飛び散ったものの傷は深くなく、むしろ悪手を選んでしまった大男は返す刀で頭を割られた。

「…そんな顔をすんなよ」
 風の魔術は自分が顔を隠すために被っていたフードも破き、顔が露わになっていた。
 大男は村の期待の若者が此度の犯人だったことに驚愕したが、声を上げる前に思考停止してしまった。

 その顔は驚きと恐怖、殺意、怒りに満ちていた。

「…滑稽で醜いから」
 彼は負の感情を詰め込んだような顔を向けられた恨みを含め嘲笑した。

「自分もやり返したクセに。この世の理不尽さを嘆いたような顔をして。あまつさえ村一番の戦士だって威張ってたアンタが。戦いで負けて人を恨むとか。」
 彼は笑いすぎて息も絶え絶えに、合間合間に嘲笑を挟みながら考えることをやめた人間を罵倒した。


 一通り笑いつくし、息を整えると、アホに感じるが一番の呪術士を相手にしているのだと気を引き締め直し、頭をさらに三等分したのちに術を使った。

 立ち昇る呪力は今までの比ではなく、ご近所さんに呪力に敏感な方が居ればバレるだろうなぁと考えながら術を展開する。
 顔が引き攣る程のその呪力は、不意打ちで、且つ警戒されていなかったがゆえに襲撃が上手くいったことを理解した。

「マトモにやり合ってたら、この村は人が住めない土地になっていたかもな。」
 これほどの呪力があれば、不毛の土地にする呪いを村に掛けるなんぞ片手間に出来そうな程だ。


 呪術士には「人を呪わば穴二つ」という格言がある。
 これは子供騙しの呪術の教えであると同時に呪術の本質をついている。
 例えば人を呪い殺す呪術が有るが、それは自分も相手と同じ苦痛を受ける。動物を対象にした場合は、そのようなことはないのだが、人を呪術の対象にするときのみ、呪い返しと呼ばれる現象がおきる。
 呪い返しの程度は様々だが、今、彼が使っている禁呪ならば相手の抵抗力に依存する。この呪も、相手が呪術士で、激しく抵抗した場合はたいてい術者側が死ぬ。

 ゆえに呪力の多さは勝敗に直結しない。だがやりようにしては相手の足元を強酸の沼に変えることもできる。
 此処が男の守る村であり地形破壊をするような呪術を使えず、且つ尋問するためか急所を狙わなかったがためのギリギリの勝利だと、冷や汗をかく。

 しかし既にあとの祭り、男に未だ思考する力があればしているであろう後悔なんぞは関係なく、結果が全てと言わんばかりに彼に力を吸収された。

「なんとも、まぁ。」
 吸収した膨大な呪力をコントロールするには、しばらく時間がかかりそうだと独り思うも、やはり呪力の奔流に気づいた者がいたのか、この家の戸を叩く音が聞こえ、出来るだけ早く慣らす必要があると考えながら、窓から外に躍り出る。

 同時に背後から戸を抉じ開けて押し入る音が聞こえる。

 
 ただ感じることのないはずの痛みが何故か、男にやられた傷口から感じた。

 慌てて傷口に呪いが掛かっていないかを確認すれば、案の定、痛みを増幅する術が無痛の効果を上回ってチリチリとした痛みを与えていた。

 彼は恐怖に駆られ発狂する。その寸前で理性で気力を保ちつつ、歯をくいしばり無痛までも解呪されないよう慎重に、慣れない呪力で解呪を行う。

 ここ数年、感じなかった痛みに恐怖した彼は、既に有り余る程の呪力で村を蹂躙できるほど、村人とは大きな格の違いがあるにも関わらず慢心は消え、ただ狩るための計画を、恐怖を忘れるように練りだした。
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みんなの感想(1件)

関谷俊博
2016.08.26 関谷俊博

とても面白いです。必殺!
この先、どうなるんでしょう?

2016.08.26 佐月

 必殺!は少々作者の読解力不足のため理解が出来ないのですが、ご感想ありがとうございます。
 また、面白いと言っていただき、嬉しさでいっぱいです。
 残念ながらネタバレになるため(感想をくれた方的には挨拶代わりなのかもしれませんが)今後の展開をお話することは出来ません。 

 ですが、なるべく早く更新するよう心がけます。これからも楽しんでいただけるよう執筆できるように頑張らせていただきます。     
           サツキ

解除

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