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本編
本編ー18
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ミナギ達は、それを見上げようとして、けれど放たれる熱に耐え切れず、壁際まで退避しながら片腕で顔を覆う。それでも熱い、熱過ぎる。結界を使って熱を阻もうと試みたが、完全に防ぐ事は出来ず、ミナギは大きく顔を顰めた。
肌が焼けて行くのがわかる。髪が毛先からチリチリと焼けて行くのがわかる。
にもかかわらず、ナギトとユヅキとフォレルスケットは平然としていて、なんでだよと叫びたかったのは多分、きっと、ミナギだけではない。後から訊いたところ、ナギトとユヅキはそれを生み出した本人――もとい本精霊の加護があるから平気らしく、フォレルスケットもカルブンクルスの契約祝福のお陰で火に耐性があるとの事で。心の底からずるいと叫んだのは、ミナギとサガラの二人だ。
それは、ともかくとして。
太陽がある。
新設された実技訓練場のど真ん中。直径十二メートルほどの大きさの、小さな太陽がある。
初めは小さな、ユヅキの手の平でも十分納まる直径三センチほどの小さな火の玉だった、筈なのに。瞬く間にその火の玉は周囲の酸素を吸い込み、実技演習場の天井すれすれまで浮かび上がると、直径十二メートルほどの小さな太陽にまで成長してしまった。
理解が追い付かないミナギ、サガラ、フォレルスケットをよそに、直径十二メートルの小さな太陽は、どんどん小さくなって――人の形をとっていた。
長く伸びた真っ白な髪は火のように毛先がゆらゆらと揺れ、ライトブルーの瞳が穏やかにユヅキとナギトを見下ろしている。笑顔で両手を振るユヅキに対して、彼にしては珍しく片手をひらひらと振って比較的愛想良いナギト。
「マウロアナー、熱いわ。勘弁しろ」
「ああ、ごめんなんし。ゆづきに逢えるからついつい、浮かれちまったのさ」
マウロアナと呼ばれた誰かが、火の精霊の髪と瞳の色が、フォレルスケットと同じルビーレッドへと瞬き一つ分の間に変わる。同時に火の温度が下がって肌を直接焼く熱さも落ち着き、やっとミナギ達は、マウロアナを直視する事が出来た。
見た目だけで言えば、今までミナギが見た事のある精霊の中で一番年上。グラナディールよりも年上に見える。あくまでも見た目の雰囲気で、だが。穏やかな気質だと言うのは見ればわかるが、なんだろう、底知れない何かがある。これも、精霊の力がわかる素質のせいだろうか、ちょっと厄介である。
そんなミナギの警戒心を表情から読み取ったのか、ゆるりとマウロアナは微笑むだけ。
緩くゆったりとした動きで軽く膝を曲げて頭を下げると、視線を向けるのはナギトだ。自分の手をナギトの頭の高さまで持ち上げ、何度か瞬く。
見上げていたからこそあまりよくわからなかったが、このマウロアナ、グラナディールよりも大きく、大雑把に見積もっても五メートルほどの大きさがある。これも精霊だからだろうか。
「随分大きゅうなりんしたねぇ、なぎと。こんなに小そうござりんしたはずなのに、もうこんなに大きゅうなって、驚きんしたえ」
「最後に逢ったのいつだと思ってんだよ、七年前だぞ。それだけあれば人間大きくなるわ」
「マウロアナ、あんまり呼ばなくてゴメンね?」
「気にしなくてようござりんすよ。あちきを呼ぶような危険がありんせんってことだから、安心してやすえ」
ナギトの頭の高さにかざした手を、今度はナギトの胸の辺りにまで下ろす。その動作から見るに、どうやらマウロアナが最後にナギトに逢ったのは、随分前。ナギトの言葉通りなら、七年も前になる。
申し訳なさそうに謝るユヅキだったが、これまたゆるゆるとマウロアナは首を横に振って答えていて。
どうやらあの精霊は、基本的に穏やかで変わった口調らしい。
「本当にぃ、久しぶりねぇ、マウロアナ。逢えて嬉しいわよぉ」
「にゃぁん」
「これはこれは、アルバにセラータじゃありんせんの。ええ、久しぶり。あちきも二人に逢えて嬉しおす」
羽ばたき、マウロアナの目線にまで飛び上がりながらアルバが、ナギトの頭の上に載りながらセラータが、それぞれ挨拶。
どうやらあの二人とも面識があるらしい。まあ、ユヅキと契約しているみたいだから、面識があるのは当然かもしれないけれど。
二人との会話を終えたマウロアナが、ミナギ、サガラ、フォレルスケットへと向き直る。ゆっくりと三人を見回した後、流れるような動作で片足を下げ、両手を緩く広げ、頭を下げて礼を。
「初めてお目にかかりんす。あちきはゆづきと契約しておりんす、火の統括大精霊、マウロアナと申しんす。以後お見知りおきを」
優雅。その一言に尽きる。
今まで逢って来た精霊の中でも、初めて見るタイプの精霊の登場に、ミナギは数秒息を呑む。サガラやフォレルスケットは、マウロアナを見つめたまま数秒呼吸を忘れていた。
彼等二人が見た精霊と言えば、かかわりがある中ではアルバとセラータのみ。
先程、フォレルスケットが試し撃ちをするさいにグラナディールも現れたが、自己紹介をしていないので除外。
改めて見つめる、マウロアナの姿。
髪や眉毛、睫毛が炎で出来ており、ゆらゆらと揺らめいているのが見える。
身長が五メートルほどである事とその見た目を除けば、人間とよく似ていた。
礼をしていたマウロアナがゆったりと、体を起こす。
そうして、これまたゆったりと緩慢な動きでマウロアナが向き直るのは――ユヅキ。自分を真っ直ぐに見上げてぴょんぴょんとその場で跳ねながら笑っているユヅキの姿に、僅かに目を細めるマウロアナ。
動きとしては僅かなものだったが、嬉しそうなのはなんとなくわかった。
「マウロアナー!」
「はいはい。マウロアナでありんすよ。ほんに久しぶりだこと。シエロから話は聞いていたけれど、大きゅうなったわね。逢えて嬉しおす」
ぴょんこぴょんこと跳ねるユヅキを宥めながら、マウロアナが次にその瞳に映すのは、フォレルスケット。
穏やかな瞳ではあるけれど、じぃっと見つめられるとなんとも言えない圧がある。
だからだろうか。自然とフォレルスケットが体を硬くさせて、緊張した表情を見せるのは。怖い訳ではない。だがこの精霊から放たれる何とも言えない圧は、自然と見る者を緊張させてしまう。
人の姿を取る前に見せた、あの小さな太陽のせいではない。これだけは断言して良い。
正直な話、どうしてユヅキとナギトが平然としていられるのかがわからない。何もしていないマウロアナには申し訳ないが、早く助けてほしい。
「ねーマウロアナ、フォルスさん、どーお?」
「うん?……うん。ちょいとばかりカルブンクルスの色が濃いね。けど、大丈夫。その為にあちきが来んしたから。あちきに任せなんし」
「流石、頼りになるわぁ」
「ジョサニアのことわざにもあるしな、餅は餅屋って」
こてんと首を傾げるユヅキに、一度マウロアナは目をユヅキに戻し、それからまたフォレルスケットを見て。少しの間を開けて頷いた後、片手を胸に当てて力強く語る。
その姿は自信に満ち溢れていて、ひとかけらの不安もなく。本当になんとかなるかもしれないとすら思わせてくれた。まあ実際はこれから始まる為、なんとかなるかどうかはわからないけれど。
緩やかな所作で、マウロアナがその場に正座。
いくらか視線が近くなったところで、ちょいちょいとフォレルスケットに向けて手招き。
「別に取って食ったりしねえから、こっちにおいでよ。そんなに離れていたら、話も出来ねえからね」
「ひゃいっ!?え、あ、は、はひっ!」
思い切りフォレルスケットの声が裏返っていたのは、突然話し掛けられてビックリしたから。自分でも声が裏返っていたのがわかったのだろう、両手で顔を覆うフォレルスケットがそこに居る。だがまあ、仕方ないだろう。
統括大精霊なんて早々逢えるものでもないし、登場の仕方から鮮烈なマウロアナが相手なのだ。
後から知った話だが、この時のフォレルスケットは、なぜかわからないが心臓がドキドキと強く脈を打ち、興奮、と言うよりも激しく高揚していたらしい。
もしかしたら、本人でも無自覚な部分――先祖が火の精霊であるカルブンクルスと契約祝福を交わした事で得て、今のフォレルスケットの力の源である部分が、火の統括大精霊であるマウロアナと逢えた事で喜んでいたのかもしれない。
そう言えばフォレルスケットの傍に居た八人の火の精霊はと言えば、マウロアナを呼び始めたユヅキの声を聞いた途端慌て始め、フォレルスケットの背中に隠れていた。
だが、そのフォレルスケットがマウロアナに呼ばれた今、一番近くに居たサガラの背中に隠れていた。どうせバレバレなのに。
緊張の面持ちで自分の前に立ったフォレルスケットを見下ろし、僅かに目を細めて笑うマウロアナ。その瞳が穏やかに燃えているように見えるのは、果たしてフォレルスケットの見間違いだろうか。
少しだけ、緊張が和らいだ気がする。
「まずは、うちの大雑把なおまぬけさんが偉い迷惑かけたみたいで、ほんにごめんなんし。火の統括大精霊として謝りんすわ。これ、この通り」
「えっ、えええっ?!そっ、んな、あのっ、頭下げないでくださいっ?!だって、マウロアナ……様?が、悪いわけじゃ、そのっ!!」
丁寧に指先を揃えて両手をついて頭を下げるマウロアナの行動は、フォレルスケットには想定外だった。否、フォレルスケットだけでなく、ユヅキやナギトにとっても、だった。
特に、ナギトにしては珍しく大きく目を見開き、わかりやすく驚いた顔をしていて。その後、まるで示し合わせたかのように、ユヅキとパチパチと瞬きながら顔を見合わせる。流石に説明されなくてもわかる、驚いている、本当に。
少し気になってミナギがサガラの後ろに隠れた火の精霊達を見れば、八人揃って顎が外れるくらい大きく口を開けてポカーンとしているのが見えて、少し面白かった。
しかし、当のマウロアナはと言えば、顔を上げた後目を伏せ、ゆるゆると首を左右に振るばかり。これは、マウロアナが悪いわけじゃないと言う、フォレルスケットへの返事だろう、きっと。
「いいえ、カルブンクルスの件はあちきの責任でありんす。あちきがもう少しあの大雑把なおまぬけさんの手綱を締めておかのうござりんした結果が今でありんす。ほんに、あの子はには困るわぁ」
右手を頬に当て、零すため息。その様子から、本当に困っているのが見て取れる。
とは言え、フォレルスケットの先祖が契約祝福を受けたのが何十年、何百年も昔の話であると仮定すれば、マウロアナのせいでもない気がするのだけれど。そこはあれか、精霊感覚の違いだろうか。
ひとまず話を本題に戻そう。
大事なのは、今のフォレルスケットの力強過ぎ問題がどうなるか、である。
「ミナギ、ちょっと俺の腰くらいの高さで長めの結界出せるか?」
「オレの結界をイスがわりにすんの、ナギトさんくらいだよ。クアドリラテロ・バレッラ」
「なんだかんだ言いながらやってくれるんだよね、ミナギくん」
完全に傍観者となったナギトが、自分の腰辺りの空間を示しながらミナギに声を掛ける。対するミナギは不満げに眉を寄せながらも、言われた通り結界を創り出すミナギ。
まあ、ほんの少し前に、フォレルスケットの銃の足場を置くのに自分の結界を出していた事を考えれば、椅子代わりにされる事に抵抗感はないのかもしれない。それこそ、そこら辺に転がっている小石を使って空を飛べと言われるよりも、ずっと簡単な話だから。
しかも、さり気なくナギトだけでなくユヅキや自分が座れるような長さを持った結界であるものの、高さが若干違う。
ナギトは自分の腰辺りを言っていたが、それよりも二十センチ近く低い位置に結界を創り出しているのは多分――せめてものナギトへの反抗心。
だってナギトの言う高さに合わせたら、一五二センチのユヅキとミナギは高くて座りにくいから。
座る瞬間、僅かにナギトが眉を顰めたが、何も言わなかったので良しとしよう。
なんだかんだ言いながら、自分で自分の結界をイス代わりに使う事に抵抗がなくなっているのが何よりの証拠。ミナギ本人的にはまだ複雑な気持ちはあるけれど、もういちいち考えるのを止めた。諦めた、と言った方が正しいか。
ミナギの右隣にユヅキ、その隣にナギトの順で並んで座る。
セラータはナギトの膝の上。アルバはミナギの左肩に移動。グラナディールは、用が済んだとばかりに、いつの間にか消えていた。
サガラに自分の座る場所はと訊かれたが、パーティ仲間でもない人の為には結界を創る気はないと切って捨てておいた。ミナギはそんなお人好しではない。
話をマウロアナとフォレルスケットに戻そう。
これからどうすればと、戸惑った様子を見せるフォレルスケットに対して、マウロアナは静かに、その大きな手の人差し指で、フォレルスケットの額に触れる。
五メートルもの体の大きさを持ちながら、絶妙な力加減で額に触れる器用さに、おお、と声を上げたのはユヅキだった。まあ気持ちはわかる。見ている側からしてみれば、力加減を間違えてフォレルスケットが仰向けに倒れてもおかしくない構図だから。
そんなナギト達の心配を知る筈もなく、静かにマウロアナは語り掛ける。
「まずは、目を閉じておくれ。それから、自分の内側に集中するのさ。自分の中で燃える火を見付けるのが、主さんの最初にする事よ」
「自分の中の、火……ですか?」
「そうさね。だぁいじょうぶ。このあちきがちゃんと導くから、自分の中に目を向けてみな。そうしたら、後は簡単だからね」
正直な話、不安は残る。自分の中の火なんて抽象的過ぎて、どうすれば良いのかわからない。
隠し切れない不安がフォレルスケットの顔に浮かぶが、ここはマウロアナを信じるほかない。実家を頼り、一族の持つ知識と知恵を頼った後だ、もうこのマウロアナしかフォレルスケットには道は残されていなかった。
とは言え、火の統括大精霊に直接訊く機会が出来るなんて、思いもしなかったけれど――なんて、途中まで考えたところで、思考を強制終了。変に考え込むのは後でも出来る。
一度、マウロアナを見上げる。
するとマウロアナは、指先をフォレルスケットの額に置いたまま、僅かに微笑み頷いて返す。うん、信じよう。腹を括れ、フォレルスケット。
一度大きく息を吸い、そして吐く。それからゆっくりと目を閉じてからフォレルスケットは、マウロアナが言う自分の中の火を探す。
例えるならそれは、真っ暗闇の中で探す蝋燭の火。
頼りなく小さく燃える火を、探し歩く。探して、探して、探すけれど、これがなかなか見つからない。暗中模索なんてよく言ったものだ、本当に。
眉間に皺を寄せて難しい顔をしているフォレルスケットを見ながら、ここで疑問を口にするのは――ミナギ。
それは、未契約の精霊を見る事が出来る力を持っているミナギだからこその、疑問
「ねえ、ナギトさ……や、これはユヅキさんに訊いた方がいいのかな……」
「ん?」
「なぁに?」
いつもの癖でナギトに訊こうとして、でもだけどと言い澱む。
すると、名前を呼ばれたナギトとユヅキ、両方が返事するのだから、ミナギは少しだけ笑った。
わかっていたけれど、本当にこの二人はちゃんと自分の声を聞いてくれる。面倒臭いと思えば無視も出来るのに、絶対に無視をせず居てくれる。質問をすれば答えてくれる。出来るだけわかりやすく、説明しながら。
二人と一緒に居ると、それは至極当たり前のように思えるけれど、それが当たり前ではない事を、ミナギはよく知っている。
「えーっと……オレの周りに居るチビ達って、一番大きくてもこう、腕に抱えられるくらいの大きさなのね」
「一番ちっちゃい子だと、手の平にのるくらいね」
「ん。それで?」
手振りで自分の傍に居る五人の小さな精霊達の中で、一番大きな精霊の大きさを示すミナギの隣で、片手の手の平を見せながらユヅキが続く。その話に頷くと、軽く首を傾げながらナギトが頬杖を突いて、見るのはミナギの顔。
声だけで答えても良いのに、ちゃんと目を見て答えようとしてくれるのだから、なんとも律義な話だ。
別に嫌だなんて言っていないけれど。
「グラナディールでも、二メートルくらい?なのに、どうしてあのマウロアナはあんなにおっきいのかなって。マウロアナの方が精霊の力が強いとか?」
「「ううん、違う。力的にはグラールと大差ないよ」」
「うわなにぴったり声揃え過ぎ」
一字一句乱れず、綺麗に声を重ねて答えて来たナギトとユヅキに、思わずドン引きミナギ。
隠そうともせずにドン引きの表情を見せられ、対する二人は顔を見合わせてきょとんと瞬く。顔を見合わせるタイミングも、きょとんと瞬くタイミングも、何もかも全く同じなのだから、本当に呆れてしまう。
まあ良いか、あまり詳しく突っ込む必要もない。
「えーっとね、まず、火の精霊は火がないと動けないのは、さっき話したよね」
「うん。火から離れ過ぎるとし……消えちゃうって」
ユヅキの言葉に、死ぬ、と言う単語を返せなかった、ミナギは。上手くは言えないが、精霊が死ぬと言う現実が受け入れられない、ような気がして。もしかしたら、もっと違う理由なのかもしれないけれど、どうにも言葉では表現出来なかった。
少し言葉を濁した表現に、少しだけユヅキが悲しそうに笑ったのを、ミナギは見逃さなかった。勿論、ナギトも。
精霊術師として、物心つく前から精霊が傍に居たユヅキとしては、精霊が傷付いたり死んだりする話は、どうにも気が重い。誤魔化す事は難しい。
「だからね、本当はマウロアナも、火から離れ過ぎるとすこーし弱くなっちゃうんだ」
「ま、今はゆづが居る分、そこまででもナイとは思うけどな。だから今の大きさは、ある程度火から離れてても平気なように、力を蓄えてる状態なんだよ。精霊はそもそも、自分の持つ力よりも自分を大きく見せるコトは出来ナイから」
「……うん、初耳ばっかりなんだけど、とりあえず……精霊って、見た目の大きさ自由に変えられるの?」
一つの疑問に答えが出ると、また別の疑問が浮かんで来る。
ナギト達にとっては知っていて当然のことかもしれないが、ミナギにとっては知らない事ばかり。精霊が見た目の大きさを自由に変えられるなんて初耳だ――と言おうとして、そう言えばつい最近、ある精霊が見た目の大きさを変えたのを見た記憶がないだろうか。
そう、あれは確か――自分がその精霊を見て怯えたから、見た目と力のバランスを取る為に、瞬く間に五歳児くらいの大きさから、見上げるほどの二メートルの長身になっていた。
あれは確か、グラナディールに初めて逢った時の出来事。
「そうじゃん!グラールがおっきくなったじゃん!」
「うんうん。あれでも、まだ本来の大きさじゃないよ」
「グラールは、この大陸そのものだからな。ココもアイツの手の平の上。だからまだあの大きさでも、精霊の力がわかるミナギでも平気なんだよ。実際、今のマウロアナ見ても、圧とか感じないだろ?」
言われてみれば、確かに。ナギトに言われて気付くのも遅いが、マウロアナが現れた時、その熱さと大きさに驚いたものの、小さな姿のグラールと逢った時のあのなんとも言えない圧力はない。
ごくごく自然にマウロアナを受け入れ、こうして自分の力の扱いに戸惑うフォレルスケットと向かい合っている姿を見守っている現実がある。
「……じゃあ、シエロも、あの見た目だけど実はあのマウロアナみたいにもっとでっかい?」
≪おっ、興味ある?ある感じぃ?見たい?見たいぃー?≫
「急に入って来るじゃん……。……今度ね」
それまで全く会話に参加していなかったのに、名前を呼んだ瞬間耳元でシエロの声が響くのだから、暇人ならぬ暇精霊か、なんて思ってしまう。
後からユヅキに訊いたところ、シエロは面白い事が大好きで、元々ユヅキやナギトの動向に聞き耳を立てていたけれど、最近はミナギの方が面白いとの事で、専らミナギに意識を向け、聞き耳を立てているらしい。
まあ、あくまでも聞き耳なので、実は位置的には遠いところに居て、即座に駆け付ける事は難しい場合も多々あるとか。
例えるなら、本を読んでいる時に話し掛けられるようなもの。
しかもそれが、数メートル程度ではなく、十数、数十メートル以上離れたところから話し掛けられているとしたら、対応に困るけれど。
ミナギがネグロ・トルエノ・ティグレに襲われた時の話が、まさにその状態に近い例だと言われれば、納得出来る。
精霊は神ではない。だからこそ、万能ではない。
人間に比べたら、出来る事が色々あるだけで。出来る事もあれば、出来ない事もある。それを知らない連中はすぐに精霊術師に無茶を言うから困る――と言うのは、グラールの話。
流石に、「ユヅキにそんな無茶を言おうものなら、そやつらの住む土地を更地にするだけじゃがな」と笑顔で言われた時は、ちょっとブラックな精霊ジョークにしておきたかったけれど、と言うかしておいた。そうじゃないと怖過ぎるから。
「シエロがアタシ達の大きさに近いのは、見た目の年齢が近いと親近感わくかなーって、そう言う感じだよ」
「マウロアナだって、ココが鍛冶場とかなら、もっと小さい姿で現れてるからな。それこそ、初めて逢った時なんてグラールより小さい姿だったんだぞ?」
「じゃあ、ナギトさんは見た事あるんだ」
「あるよー。最初ねぇ、ナギトがマウロアナ見た時、ちっさくてビックリしてたんだよ。『ホントに統括大精霊?』って」
「俺がそれまで逢ったコトある精霊が、ヴェルメリオ、セラータ、グラール大とシエロだったんだよ。それでマウロアナ小に突然逢ってみ?コレで統括大精霊ですなーんて言われても信じられるかよ」
きゃっきゃと笑って語るユヅキの隣で、恐らく初めて逢った時のマウロアナの大きさを示しているのだろう、ナギトが両手で大体高さ五十センチくらいを示す。
セラータの人型の姿を見た事がない為なんとも言えないが、少なくとも、ヴェルメリオや二メートル程の長身のグラールを見た事があるミナギからしてみれば、確かに突然身長五十センチ程の精霊が統括大精霊だと言って現れても、到底すぐには信じられないか。
実際ミナギだって、動物型のアルバとセラータが実は精霊で、それぞれ光と闇の統括大精霊だと聞かされて信じられなかった身だから。それと似たようなものだと思えば、確かに。
話が聞こえていたのだろう。
フォレルスケットの前に座っているマウロアナが、微かに楽しそうな笑みを唇に乗せ、僅かに目を細めてナギト達を見ていた。
意識をフォレルスケットに向けている為、何も言う事はなく無言ではあったけれど。でもはっきりと、その笑みは、眼差しは、語っていた。
――懐かしい話でありんすね、あちきも覚えてやすよ――
向けられる微笑の意味が、視線の意味が理解出来たのだろう。
ユヅキはにぱっと花が咲いたように笑い、ナギトは目を伏せてふっと息を吐き出して軽く肩を竦める。こちらにも言葉はなかったが、マウロアナには十分伝わったらしい。
そのやり取りがほんの少し、ほんの少しだけ羨ましいと思ってしまうのは――ミナギの心。
「……気のせい。気のせい」
小さく、口の中で呟く。
目だけで意思疎通が出来るくらいの絆がある事が羨ましいなんて、きっと気のせい。絶対気のせい。そう、自分に言い聞かせるミナギ。
羨ましいだなんて気持ちは、とうの昔になくしたと思ったのに。
なんで今更、こんな気持ちが浮かんで来るのか。
気のせいだと自分に言い聞かせ、強引に視線を外す。ナギトも、ユヅキも、アルバも、セラータも、マウロアナも見えないように。
すると自然、ミナギの視界に入るのは、椅子かわりのミナギの結界に座る事が出来ず、床の上でぼーっとフォレルスケットとマウロアナを見つめているサガラだ。
目の前で次々に起きている現実に、理解が追い付いてないのがわかる。
「まあ気持ちはわかるよ。オレも最初は、この二人の非常識さに理解追い付かなかったから」
「……パーティ仲間ッスよね?」
「パーティ仲間でも色々あるんだよ。特にこの二人と一緒だと」
年上なのは理解しているけれど、サガラに対して年上対応をしないのは、ミナギにとって彼がもう厄介な人間認定だから。だからと言って無視出来ないのは多分、まだナギト達と出逢った頃の自分と重なるから。
自分の常識から外れた事の連続に戸惑って、なんとか理解しようとしても、追い付かない、そんな感じ。よくわかる。
パーティ仲間に対して失礼ではあるが、仕方ない。だって非常識だから、あの二人。
話が聞こえているだろうに、ナギトとユヅキが口を挟まないのは、興味がないからだろう。じっと、フォレルスケットとマウロアナを見つめたまま動かない。
けれど多分、悪口を言えば即反応して来る。断言出来る。
「……ねえ、訊いてもいい?」
「自分に?なんスか?」
「アンタの魔法銃は?全然見えないけど」
ミナギにとっては、何気ない質問だった。
だって魔法銃士と言えば、いつも背中に大きな銃を背負っている姿を見ているから。大体、アサルトライフルやスナイパーライフルと呼ばれるクラスのモノが多く、学園内でも常に背負っていて、ちょっと見た目的に危ないなと思った事がちらほら。
まあそれを言うなら、常に剣を持ち歩いている魔法剣士にも言える事だけれど、そちらはまだホルスターに仕舞ってある為、見た目の危険性は低い。
だかこそ、見た目は何も持っていないように見えるサガラが、ミナギには不思議に思えた。の、だ、けれど――この質問は失敗だったとミナギが知るのは、それからすぐ後の事。ぱあああああっと輝きを増す、サガラの顔を見た後の出来事だ。
「自分の使ってる魔法銃はコルトパイソン357マグナムッス!!他のミンナとは違って、自分だけがこのサイズの魔法銃を使えるんスよ!!スゴイでしょう!」
口火を切るとはまさにこの事。制服の上着の下に着けていたホルスターから自分の魔法銃であるコルトパイソン357マグナムを取り出し、質問して来たミナギに見えるように両手で持って差し出しながら、目をキラキラと輝かせて語り始める。
失敗したと思った時には、時すでに遅し。
それはもう凄まじい早さで、呼吸の間すら惜しいとばかりのマシンガントーク。最初の銃の種類なのか名前なのか、それはなんとか聞き取れたけれど、以降はもうサガラが早口なのと、ミナギが聞くんじゃなかったと後悔した事で、あまり聞き取れなかった。聞く気もなかったけれど。
魔法銃の専門的な話ではなく、この魔法銃に適合した事がどれだけ凄いか、自分だけが凄いのだと言う内容だったのが、余計に聞く気を失わせていた。
なぜか、専門外であるはずのナギトやユヅキの方が、詳しく教えてくれたのだから、面白い話。
いわく、短い銃は使っている素材が少ない分、各種の素材のバランスを考えて調整しやすいと言う利点がありつつも、いざ魔法銃士が持つと素材が少ないがゆえに安定化させる事が難しく、暴発する可能性は一般的な魔法銃よりも数倍高いと。
加えて、銃そのものが小さい為、後から装着する事が出来る強化用のカスタムパーツの数にも制限がつくわけで。
魔法銃士によっては、自分の魔法銃を使っていく中で、あんなのがあれば、こんなのがあればと、後から色々なカスタムをしていく事が多い。
そう言う理由からも、短銃を選ぶ魔法士は極端に少ないと言う。
諸々の説明を訊けば聞く程に、短銃を選ぶ長所があまりない気がする。
それでもサガラは自分のコルトパイソン357マグナムは凄いと、その銃と相性が良い自分は凄いのだと語り続けている。果てには家族からも凄いと言われているのだと語り続けていて。自分に対して過剰な自信があるのは、もうこれだけで十分わかった。
恐らく、彼の家族もそれを増長させる原因になったのだろうと言う事も。
否まあ、それはどうでも良いか。関係ない。
家族の事なんて、特に。どうでも良いし、自分には関係ない。
コルトパイソン357マグナムを手にまだ何か語り続けているサガラの声を、右から左。こっそりシエロに頼んで声を散らして聞こえないようにしてもらいつつ、目を、ずっと黙っているフォレルスケットとマウロアナへと、戻す。
自分の内側の火を探していたフォレルスケットの表情は、眉をきゅっと寄せたまま。難しい問題に直面しているような、どこか必死なようにも思えた。
まあ当然か。
現状、自分の力を上手く扱えずに居るフォレルスケットにとって、これが今唯一残された道なのだから。必死にもなる。
必死さが焦りを呼び、余計に自分の中の火を見失っていた――と、言うのはマウロアナ談。
「そんなに焦らねえでも大丈夫だよ。今日限りってわけでもありんせんから、今日が無理ならまた明日挑戦すればいいのさ。そのくらいの猶予はあるよ。ほら、息を吸って吐きな。誰も主さんを急かすことはしねえからね。そうでありんすよね、ゆづき?」
「うんっ!授業の単位はクエストで取れてるからだいじょーぶ!何時間でも付き合うよ!」
「ナギトさんほどじゃないけど、ユヅキさんも結構クエ報酬、単位に変えてるよね」
「だぁってぇ、わたしたちがぁ、契約してるのよぉ?今更ぁ、ゆづが勉強することぉ、あると思うの?」
幼子に言い聞かせるような穏やかな言葉が、フォレルスケットに降って行く。
続くように、和やかと言うか、しれっとサボり宣言をするユヅキや、冷静に突っ込むミナギに、呑気に語るアルバ。その会話は勿論フォレルスケットの耳にも届いていて、緊張感の欠片もない会話に、困ったように笑う。
だからと言ってすぐに焦りが消えるわけではないけれど、少なからず、彼女の顔からいくらか険しさが和らいだのは確か。
「むしろ、授業出てもつまらんし、それなら自分の研究してる方がマシなんだわ」
「他の子達から話は聞いてやすえ。随分面白い研究をしているそうじゃありんせんか。あちきにも協力させておくれ」
ハアやれやれと頬杖を突いてナギトがため息を吐けば、響く声はマウロアナのもの。
フォレルスケットの額に指先を当て、意識はフォレルスケットに向けたままではあるが、心強い言葉を向けられ、ナギトは頬杖を突いていない方の手を軽く上げる事で答える。無言ではあるが、答えはそれで十分。
緩やかにマウロアナが一度瞬き、ルビーレッド色の瞳をフォレルスケットへと戻す。
わかる、もう少しだ。
もう少し、きっともう少しで、自分の中の火を見付けられる。
「ほうら、もう少しだよ。目を凝らして、すぐ、そこさね」
つん、と。少し強めにマウロアナがフォレルスケットの額を突く。強く突き過ぎて、フォレルスケットの体が揺れる事はなかった。絶妙な力加減の出来た一突きは、己の中で自分の火を捜し回っていた彼女の背中を押すには、十分で。
なぜフォレルスケットの内なる火に、本人ではなくマウロアナが先に気付いたのかと訊かれれば、答えは簡単。マウロアナが火の精霊の頂点に立つ、火の統括大精霊だから。
だからこそ、精霊由来のフォレルスケットの火の魔力に、敏感に反応出来た。
暗闇の中に灯る、小さな光。否、小さな火。
光に見間違えたのは、それが真っ白い火だったからだろう。
駆け出す。
見失わないようにはっきりと火を見据えて、真っ直ぐ、真っ直ぐ。
「マウロアナ、様」
「うん?どうしたのかい?」
震える唇から零れ落ちたフォレルスケットの声は、酷く頼りなかった。
不安が滲み、まるで迷子の子供のような声で。怖がっているようにも聞こえたのは――誰だったか。
そんなフォレルスケットの言葉を、柔らかくマウロアナは受け止める。
「ウチは……これから……ちょっとでも、変われるんやろか」
フォレルスケットが零した言葉は、肯定して欲しいと言う気持ちが隠し切れずにいた。
自分は変われるのだと、誰かに言って欲しくて。
ただその一言が、自分自身を信じきれない弱い自分に自身を持たせてくれると、そう思って。願って。信じたくて。
だがしかし、マウロアナは答えない。静かにじっとフォレルスケットを見下ろして、それからゆっくり、緩やかな動きで顔を動かす。
ナギトを、ユヅキを、アルバを、セラータを、ミナギを、見て。
ゆるり、首を傾げる。
「さあ、どうでありんしょうねぇ?」
「え……」
「『変われるかなぁ』なんて思ってたら、ずっと変わらないままだと思うよっ?」
「自信ナイならやめとけやめとけ。『変わりたい』って思わなきゃどーしようもナイだろ」
「背中押されるのを待つばかりなんてぇ、赤ちゃんみたいねぇ?」
「なぁん」
思わずミナギは真顔になって、隣に座るユヅキやナギトを見つめていた。ユヅキの肩に止まりアルバや、ナギトの頭の上に居るセラータの顔を、見つめながら。
彼等だって、今のフォレルスケットが求めている言葉を理解している筈なのに。
それにもかかわらず、口火を切ったユヅキから出て来た言葉は、フォレルスケットを突き放す言葉だった。まさかのユヅキからそんな言葉が出るとは思わず、ぎょっとミナギが目を見開いたのは仕方ない。絶対、きっと。
だが、続くナギトの言葉も突き放すもので、トドメの言葉をアルバが放ち、最後はセラータが同意だとばかりに尻尾を揺らして一鳴き。
人付き合いが短いミナギですら、フォレルスケットが欲する言葉を理解出来たのに。なぜこうなるのか。
流石にどう声を掛けるべきかわからず絶句するミナギの反応は、多分間違いではない。
「……っ。そないな事、言われても……っ」
「あの子たちの言う通りだよ。背中押されるの待ってるだけじゃ、今のまま変われねえものよ。……さあ、主さんはどうしたいのかい?」
冷たく突き放すユヅキ達の言葉に肩を震わせ、泣くのを我慢しているのか、ぎゅっと両手を握り締めるフォレルスケット。
そんな彼女に寄りそうようで、けれどマウロアナの言葉もどこか冷たい。冷たい、けれど――でも、どこか温かくて。なんとも矛盾している妙な話。
だからだろうか。
自分の心の奥から檄を飛ばす、もう一人の自分の声を聞いたのは。
≪アホか!この実技演習場に来たいて思ったんは誰なん?!アクオーツ達の提案聞いて、やってみたい言うたんは誰なん?!甘えとんとちゃうぞ!気張りや!フォレルスケット!!≫
ぎゅっと、握り締める両手。
フォレルスケットその両手にはまだ、綺麗に的を射抜けた時のあの感触が残っている。威力の調整は出来ていなかったし、八人居ると言う火の精霊達の協力なしにしても燃やし過ぎだったし、課題は多い。
それでも確かに、自分で、言い出したのだ。
自分で決めて、自分でやってみたいと言ったからこそ、ナギト達は動いてくれた結果の今なのに、ここで更に背中を押して欲しいだなんて、甘え過ぎだ、確かに。
目を、開ける。目の前にあるマウロアナの指の向こう側に見る、その顔。自分の髪と目と同じ色をしたルビーレッドの瞳を見上げれば、真っ直ぐにフォレルスケットを見つめ返していて。
言葉はなくとも、確かに背中を押された気がした。行っておいでと、言われた気がした。
もう一度、フォレルスケットが目を閉じる。もう一度自分の中に意識を集中させれば、まだそこに火はあって、消えていない。
「変わりたいと思うだけなら、誰にでも出来んす。ほんに必要なことは、そこから自分で一歩踏み出すことなんだよ」
だから今は――その火を掴む為、走り出せ。
肌が焼けて行くのがわかる。髪が毛先からチリチリと焼けて行くのがわかる。
にもかかわらず、ナギトとユヅキとフォレルスケットは平然としていて、なんでだよと叫びたかったのは多分、きっと、ミナギだけではない。後から訊いたところ、ナギトとユヅキはそれを生み出した本人――もとい本精霊の加護があるから平気らしく、フォレルスケットもカルブンクルスの契約祝福のお陰で火に耐性があるとの事で。心の底からずるいと叫んだのは、ミナギとサガラの二人だ。
それは、ともかくとして。
太陽がある。
新設された実技訓練場のど真ん中。直径十二メートルほどの大きさの、小さな太陽がある。
初めは小さな、ユヅキの手の平でも十分納まる直径三センチほどの小さな火の玉だった、筈なのに。瞬く間にその火の玉は周囲の酸素を吸い込み、実技演習場の天井すれすれまで浮かび上がると、直径十二メートルほどの小さな太陽にまで成長してしまった。
理解が追い付かないミナギ、サガラ、フォレルスケットをよそに、直径十二メートルの小さな太陽は、どんどん小さくなって――人の形をとっていた。
長く伸びた真っ白な髪は火のように毛先がゆらゆらと揺れ、ライトブルーの瞳が穏やかにユヅキとナギトを見下ろしている。笑顔で両手を振るユヅキに対して、彼にしては珍しく片手をひらひらと振って比較的愛想良いナギト。
「マウロアナー、熱いわ。勘弁しろ」
「ああ、ごめんなんし。ゆづきに逢えるからついつい、浮かれちまったのさ」
マウロアナと呼ばれた誰かが、火の精霊の髪と瞳の色が、フォレルスケットと同じルビーレッドへと瞬き一つ分の間に変わる。同時に火の温度が下がって肌を直接焼く熱さも落ち着き、やっとミナギ達は、マウロアナを直視する事が出来た。
見た目だけで言えば、今までミナギが見た事のある精霊の中で一番年上。グラナディールよりも年上に見える。あくまでも見た目の雰囲気で、だが。穏やかな気質だと言うのは見ればわかるが、なんだろう、底知れない何かがある。これも、精霊の力がわかる素質のせいだろうか、ちょっと厄介である。
そんなミナギの警戒心を表情から読み取ったのか、ゆるりとマウロアナは微笑むだけ。
緩くゆったりとした動きで軽く膝を曲げて頭を下げると、視線を向けるのはナギトだ。自分の手をナギトの頭の高さまで持ち上げ、何度か瞬く。
見上げていたからこそあまりよくわからなかったが、このマウロアナ、グラナディールよりも大きく、大雑把に見積もっても五メートルほどの大きさがある。これも精霊だからだろうか。
「随分大きゅうなりんしたねぇ、なぎと。こんなに小そうござりんしたはずなのに、もうこんなに大きゅうなって、驚きんしたえ」
「最後に逢ったのいつだと思ってんだよ、七年前だぞ。それだけあれば人間大きくなるわ」
「マウロアナ、あんまり呼ばなくてゴメンね?」
「気にしなくてようござりんすよ。あちきを呼ぶような危険がありんせんってことだから、安心してやすえ」
ナギトの頭の高さにかざした手を、今度はナギトの胸の辺りにまで下ろす。その動作から見るに、どうやらマウロアナが最後にナギトに逢ったのは、随分前。ナギトの言葉通りなら、七年も前になる。
申し訳なさそうに謝るユヅキだったが、これまたゆるゆるとマウロアナは首を横に振って答えていて。
どうやらあの精霊は、基本的に穏やかで変わった口調らしい。
「本当にぃ、久しぶりねぇ、マウロアナ。逢えて嬉しいわよぉ」
「にゃぁん」
「これはこれは、アルバにセラータじゃありんせんの。ええ、久しぶり。あちきも二人に逢えて嬉しおす」
羽ばたき、マウロアナの目線にまで飛び上がりながらアルバが、ナギトの頭の上に載りながらセラータが、それぞれ挨拶。
どうやらあの二人とも面識があるらしい。まあ、ユヅキと契約しているみたいだから、面識があるのは当然かもしれないけれど。
二人との会話を終えたマウロアナが、ミナギ、サガラ、フォレルスケットへと向き直る。ゆっくりと三人を見回した後、流れるような動作で片足を下げ、両手を緩く広げ、頭を下げて礼を。
「初めてお目にかかりんす。あちきはゆづきと契約しておりんす、火の統括大精霊、マウロアナと申しんす。以後お見知りおきを」
優雅。その一言に尽きる。
今まで逢って来た精霊の中でも、初めて見るタイプの精霊の登場に、ミナギは数秒息を呑む。サガラやフォレルスケットは、マウロアナを見つめたまま数秒呼吸を忘れていた。
彼等二人が見た精霊と言えば、かかわりがある中ではアルバとセラータのみ。
先程、フォレルスケットが試し撃ちをするさいにグラナディールも現れたが、自己紹介をしていないので除外。
改めて見つめる、マウロアナの姿。
髪や眉毛、睫毛が炎で出来ており、ゆらゆらと揺らめいているのが見える。
身長が五メートルほどである事とその見た目を除けば、人間とよく似ていた。
礼をしていたマウロアナがゆったりと、体を起こす。
そうして、これまたゆったりと緩慢な動きでマウロアナが向き直るのは――ユヅキ。自分を真っ直ぐに見上げてぴょんぴょんとその場で跳ねながら笑っているユヅキの姿に、僅かに目を細めるマウロアナ。
動きとしては僅かなものだったが、嬉しそうなのはなんとなくわかった。
「マウロアナー!」
「はいはい。マウロアナでありんすよ。ほんに久しぶりだこと。シエロから話は聞いていたけれど、大きゅうなったわね。逢えて嬉しおす」
ぴょんこぴょんこと跳ねるユヅキを宥めながら、マウロアナが次にその瞳に映すのは、フォレルスケット。
穏やかな瞳ではあるけれど、じぃっと見つめられるとなんとも言えない圧がある。
だからだろうか。自然とフォレルスケットが体を硬くさせて、緊張した表情を見せるのは。怖い訳ではない。だがこの精霊から放たれる何とも言えない圧は、自然と見る者を緊張させてしまう。
人の姿を取る前に見せた、あの小さな太陽のせいではない。これだけは断言して良い。
正直な話、どうしてユヅキとナギトが平然としていられるのかがわからない。何もしていないマウロアナには申し訳ないが、早く助けてほしい。
「ねーマウロアナ、フォルスさん、どーお?」
「うん?……うん。ちょいとばかりカルブンクルスの色が濃いね。けど、大丈夫。その為にあちきが来んしたから。あちきに任せなんし」
「流石、頼りになるわぁ」
「ジョサニアのことわざにもあるしな、餅は餅屋って」
こてんと首を傾げるユヅキに、一度マウロアナは目をユヅキに戻し、それからまたフォレルスケットを見て。少しの間を開けて頷いた後、片手を胸に当てて力強く語る。
その姿は自信に満ち溢れていて、ひとかけらの不安もなく。本当になんとかなるかもしれないとすら思わせてくれた。まあ実際はこれから始まる為、なんとかなるかどうかはわからないけれど。
緩やかな所作で、マウロアナがその場に正座。
いくらか視線が近くなったところで、ちょいちょいとフォレルスケットに向けて手招き。
「別に取って食ったりしねえから、こっちにおいでよ。そんなに離れていたら、話も出来ねえからね」
「ひゃいっ!?え、あ、は、はひっ!」
思い切りフォレルスケットの声が裏返っていたのは、突然話し掛けられてビックリしたから。自分でも声が裏返っていたのがわかったのだろう、両手で顔を覆うフォレルスケットがそこに居る。だがまあ、仕方ないだろう。
統括大精霊なんて早々逢えるものでもないし、登場の仕方から鮮烈なマウロアナが相手なのだ。
後から知った話だが、この時のフォレルスケットは、なぜかわからないが心臓がドキドキと強く脈を打ち、興奮、と言うよりも激しく高揚していたらしい。
もしかしたら、本人でも無自覚な部分――先祖が火の精霊であるカルブンクルスと契約祝福を交わした事で得て、今のフォレルスケットの力の源である部分が、火の統括大精霊であるマウロアナと逢えた事で喜んでいたのかもしれない。
そう言えばフォレルスケットの傍に居た八人の火の精霊はと言えば、マウロアナを呼び始めたユヅキの声を聞いた途端慌て始め、フォレルスケットの背中に隠れていた。
だが、そのフォレルスケットがマウロアナに呼ばれた今、一番近くに居たサガラの背中に隠れていた。どうせバレバレなのに。
緊張の面持ちで自分の前に立ったフォレルスケットを見下ろし、僅かに目を細めて笑うマウロアナ。その瞳が穏やかに燃えているように見えるのは、果たしてフォレルスケットの見間違いだろうか。
少しだけ、緊張が和らいだ気がする。
「まずは、うちの大雑把なおまぬけさんが偉い迷惑かけたみたいで、ほんにごめんなんし。火の統括大精霊として謝りんすわ。これ、この通り」
「えっ、えええっ?!そっ、んな、あのっ、頭下げないでくださいっ?!だって、マウロアナ……様?が、悪いわけじゃ、そのっ!!」
丁寧に指先を揃えて両手をついて頭を下げるマウロアナの行動は、フォレルスケットには想定外だった。否、フォレルスケットだけでなく、ユヅキやナギトにとっても、だった。
特に、ナギトにしては珍しく大きく目を見開き、わかりやすく驚いた顔をしていて。その後、まるで示し合わせたかのように、ユヅキとパチパチと瞬きながら顔を見合わせる。流石に説明されなくてもわかる、驚いている、本当に。
少し気になってミナギがサガラの後ろに隠れた火の精霊達を見れば、八人揃って顎が外れるくらい大きく口を開けてポカーンとしているのが見えて、少し面白かった。
しかし、当のマウロアナはと言えば、顔を上げた後目を伏せ、ゆるゆると首を左右に振るばかり。これは、マウロアナが悪いわけじゃないと言う、フォレルスケットへの返事だろう、きっと。
「いいえ、カルブンクルスの件はあちきの責任でありんす。あちきがもう少しあの大雑把なおまぬけさんの手綱を締めておかのうござりんした結果が今でありんす。ほんに、あの子はには困るわぁ」
右手を頬に当て、零すため息。その様子から、本当に困っているのが見て取れる。
とは言え、フォレルスケットの先祖が契約祝福を受けたのが何十年、何百年も昔の話であると仮定すれば、マウロアナのせいでもない気がするのだけれど。そこはあれか、精霊感覚の違いだろうか。
ひとまず話を本題に戻そう。
大事なのは、今のフォレルスケットの力強過ぎ問題がどうなるか、である。
「ミナギ、ちょっと俺の腰くらいの高さで長めの結界出せるか?」
「オレの結界をイスがわりにすんの、ナギトさんくらいだよ。クアドリラテロ・バレッラ」
「なんだかんだ言いながらやってくれるんだよね、ミナギくん」
完全に傍観者となったナギトが、自分の腰辺りの空間を示しながらミナギに声を掛ける。対するミナギは不満げに眉を寄せながらも、言われた通り結界を創り出すミナギ。
まあ、ほんの少し前に、フォレルスケットの銃の足場を置くのに自分の結界を出していた事を考えれば、椅子代わりにされる事に抵抗感はないのかもしれない。それこそ、そこら辺に転がっている小石を使って空を飛べと言われるよりも、ずっと簡単な話だから。
しかも、さり気なくナギトだけでなくユヅキや自分が座れるような長さを持った結界であるものの、高さが若干違う。
ナギトは自分の腰辺りを言っていたが、それよりも二十センチ近く低い位置に結界を創り出しているのは多分――せめてものナギトへの反抗心。
だってナギトの言う高さに合わせたら、一五二センチのユヅキとミナギは高くて座りにくいから。
座る瞬間、僅かにナギトが眉を顰めたが、何も言わなかったので良しとしよう。
なんだかんだ言いながら、自分で自分の結界をイス代わりに使う事に抵抗がなくなっているのが何よりの証拠。ミナギ本人的にはまだ複雑な気持ちはあるけれど、もういちいち考えるのを止めた。諦めた、と言った方が正しいか。
ミナギの右隣にユヅキ、その隣にナギトの順で並んで座る。
セラータはナギトの膝の上。アルバはミナギの左肩に移動。グラナディールは、用が済んだとばかりに、いつの間にか消えていた。
サガラに自分の座る場所はと訊かれたが、パーティ仲間でもない人の為には結界を創る気はないと切って捨てておいた。ミナギはそんなお人好しではない。
話をマウロアナとフォレルスケットに戻そう。
これからどうすればと、戸惑った様子を見せるフォレルスケットに対して、マウロアナは静かに、その大きな手の人差し指で、フォレルスケットの額に触れる。
五メートルもの体の大きさを持ちながら、絶妙な力加減で額に触れる器用さに、おお、と声を上げたのはユヅキだった。まあ気持ちはわかる。見ている側からしてみれば、力加減を間違えてフォレルスケットが仰向けに倒れてもおかしくない構図だから。
そんなナギト達の心配を知る筈もなく、静かにマウロアナは語り掛ける。
「まずは、目を閉じておくれ。それから、自分の内側に集中するのさ。自分の中で燃える火を見付けるのが、主さんの最初にする事よ」
「自分の中の、火……ですか?」
「そうさね。だぁいじょうぶ。このあちきがちゃんと導くから、自分の中に目を向けてみな。そうしたら、後は簡単だからね」
正直な話、不安は残る。自分の中の火なんて抽象的過ぎて、どうすれば良いのかわからない。
隠し切れない不安がフォレルスケットの顔に浮かぶが、ここはマウロアナを信じるほかない。実家を頼り、一族の持つ知識と知恵を頼った後だ、もうこのマウロアナしかフォレルスケットには道は残されていなかった。
とは言え、火の統括大精霊に直接訊く機会が出来るなんて、思いもしなかったけれど――なんて、途中まで考えたところで、思考を強制終了。変に考え込むのは後でも出来る。
一度、マウロアナを見上げる。
するとマウロアナは、指先をフォレルスケットの額に置いたまま、僅かに微笑み頷いて返す。うん、信じよう。腹を括れ、フォレルスケット。
一度大きく息を吸い、そして吐く。それからゆっくりと目を閉じてからフォレルスケットは、マウロアナが言う自分の中の火を探す。
例えるならそれは、真っ暗闇の中で探す蝋燭の火。
頼りなく小さく燃える火を、探し歩く。探して、探して、探すけれど、これがなかなか見つからない。暗中模索なんてよく言ったものだ、本当に。
眉間に皺を寄せて難しい顔をしているフォレルスケットを見ながら、ここで疑問を口にするのは――ミナギ。
それは、未契約の精霊を見る事が出来る力を持っているミナギだからこその、疑問
「ねえ、ナギトさ……や、これはユヅキさんに訊いた方がいいのかな……」
「ん?」
「なぁに?」
いつもの癖でナギトに訊こうとして、でもだけどと言い澱む。
すると、名前を呼ばれたナギトとユヅキ、両方が返事するのだから、ミナギは少しだけ笑った。
わかっていたけれど、本当にこの二人はちゃんと自分の声を聞いてくれる。面倒臭いと思えば無視も出来るのに、絶対に無視をせず居てくれる。質問をすれば答えてくれる。出来るだけわかりやすく、説明しながら。
二人と一緒に居ると、それは至極当たり前のように思えるけれど、それが当たり前ではない事を、ミナギはよく知っている。
「えーっと……オレの周りに居るチビ達って、一番大きくてもこう、腕に抱えられるくらいの大きさなのね」
「一番ちっちゃい子だと、手の平にのるくらいね」
「ん。それで?」
手振りで自分の傍に居る五人の小さな精霊達の中で、一番大きな精霊の大きさを示すミナギの隣で、片手の手の平を見せながらユヅキが続く。その話に頷くと、軽く首を傾げながらナギトが頬杖を突いて、見るのはミナギの顔。
声だけで答えても良いのに、ちゃんと目を見て答えようとしてくれるのだから、なんとも律義な話だ。
別に嫌だなんて言っていないけれど。
「グラナディールでも、二メートルくらい?なのに、どうしてあのマウロアナはあんなにおっきいのかなって。マウロアナの方が精霊の力が強いとか?」
「「ううん、違う。力的にはグラールと大差ないよ」」
「うわなにぴったり声揃え過ぎ」
一字一句乱れず、綺麗に声を重ねて答えて来たナギトとユヅキに、思わずドン引きミナギ。
隠そうともせずにドン引きの表情を見せられ、対する二人は顔を見合わせてきょとんと瞬く。顔を見合わせるタイミングも、きょとんと瞬くタイミングも、何もかも全く同じなのだから、本当に呆れてしまう。
まあ良いか、あまり詳しく突っ込む必要もない。
「えーっとね、まず、火の精霊は火がないと動けないのは、さっき話したよね」
「うん。火から離れ過ぎるとし……消えちゃうって」
ユヅキの言葉に、死ぬ、と言う単語を返せなかった、ミナギは。上手くは言えないが、精霊が死ぬと言う現実が受け入れられない、ような気がして。もしかしたら、もっと違う理由なのかもしれないけれど、どうにも言葉では表現出来なかった。
少し言葉を濁した表現に、少しだけユヅキが悲しそうに笑ったのを、ミナギは見逃さなかった。勿論、ナギトも。
精霊術師として、物心つく前から精霊が傍に居たユヅキとしては、精霊が傷付いたり死んだりする話は、どうにも気が重い。誤魔化す事は難しい。
「だからね、本当はマウロアナも、火から離れ過ぎるとすこーし弱くなっちゃうんだ」
「ま、今はゆづが居る分、そこまででもナイとは思うけどな。だから今の大きさは、ある程度火から離れてても平気なように、力を蓄えてる状態なんだよ。精霊はそもそも、自分の持つ力よりも自分を大きく見せるコトは出来ナイから」
「……うん、初耳ばっかりなんだけど、とりあえず……精霊って、見た目の大きさ自由に変えられるの?」
一つの疑問に答えが出ると、また別の疑問が浮かんで来る。
ナギト達にとっては知っていて当然のことかもしれないが、ミナギにとっては知らない事ばかり。精霊が見た目の大きさを自由に変えられるなんて初耳だ――と言おうとして、そう言えばつい最近、ある精霊が見た目の大きさを変えたのを見た記憶がないだろうか。
そう、あれは確か――自分がその精霊を見て怯えたから、見た目と力のバランスを取る為に、瞬く間に五歳児くらいの大きさから、見上げるほどの二メートルの長身になっていた。
あれは確か、グラナディールに初めて逢った時の出来事。
「そうじゃん!グラールがおっきくなったじゃん!」
「うんうん。あれでも、まだ本来の大きさじゃないよ」
「グラールは、この大陸そのものだからな。ココもアイツの手の平の上。だからまだあの大きさでも、精霊の力がわかるミナギでも平気なんだよ。実際、今のマウロアナ見ても、圧とか感じないだろ?」
言われてみれば、確かに。ナギトに言われて気付くのも遅いが、マウロアナが現れた時、その熱さと大きさに驚いたものの、小さな姿のグラールと逢った時のあのなんとも言えない圧力はない。
ごくごく自然にマウロアナを受け入れ、こうして自分の力の扱いに戸惑うフォレルスケットと向かい合っている姿を見守っている現実がある。
「……じゃあ、シエロも、あの見た目だけど実はあのマウロアナみたいにもっとでっかい?」
≪おっ、興味ある?ある感じぃ?見たい?見たいぃー?≫
「急に入って来るじゃん……。……今度ね」
それまで全く会話に参加していなかったのに、名前を呼んだ瞬間耳元でシエロの声が響くのだから、暇人ならぬ暇精霊か、なんて思ってしまう。
後からユヅキに訊いたところ、シエロは面白い事が大好きで、元々ユヅキやナギトの動向に聞き耳を立てていたけれど、最近はミナギの方が面白いとの事で、専らミナギに意識を向け、聞き耳を立てているらしい。
まあ、あくまでも聞き耳なので、実は位置的には遠いところに居て、即座に駆け付ける事は難しい場合も多々あるとか。
例えるなら、本を読んでいる時に話し掛けられるようなもの。
しかもそれが、数メートル程度ではなく、十数、数十メートル以上離れたところから話し掛けられているとしたら、対応に困るけれど。
ミナギがネグロ・トルエノ・ティグレに襲われた時の話が、まさにその状態に近い例だと言われれば、納得出来る。
精霊は神ではない。だからこそ、万能ではない。
人間に比べたら、出来る事が色々あるだけで。出来る事もあれば、出来ない事もある。それを知らない連中はすぐに精霊術師に無茶を言うから困る――と言うのは、グラールの話。
流石に、「ユヅキにそんな無茶を言おうものなら、そやつらの住む土地を更地にするだけじゃがな」と笑顔で言われた時は、ちょっとブラックな精霊ジョークにしておきたかったけれど、と言うかしておいた。そうじゃないと怖過ぎるから。
「シエロがアタシ達の大きさに近いのは、見た目の年齢が近いと親近感わくかなーって、そう言う感じだよ」
「マウロアナだって、ココが鍛冶場とかなら、もっと小さい姿で現れてるからな。それこそ、初めて逢った時なんてグラールより小さい姿だったんだぞ?」
「じゃあ、ナギトさんは見た事あるんだ」
「あるよー。最初ねぇ、ナギトがマウロアナ見た時、ちっさくてビックリしてたんだよ。『ホントに統括大精霊?』って」
「俺がそれまで逢ったコトある精霊が、ヴェルメリオ、セラータ、グラール大とシエロだったんだよ。それでマウロアナ小に突然逢ってみ?コレで統括大精霊ですなーんて言われても信じられるかよ」
きゃっきゃと笑って語るユヅキの隣で、恐らく初めて逢った時のマウロアナの大きさを示しているのだろう、ナギトが両手で大体高さ五十センチくらいを示す。
セラータの人型の姿を見た事がない為なんとも言えないが、少なくとも、ヴェルメリオや二メートル程の長身のグラールを見た事があるミナギからしてみれば、確かに突然身長五十センチ程の精霊が統括大精霊だと言って現れても、到底すぐには信じられないか。
実際ミナギだって、動物型のアルバとセラータが実は精霊で、それぞれ光と闇の統括大精霊だと聞かされて信じられなかった身だから。それと似たようなものだと思えば、確かに。
話が聞こえていたのだろう。
フォレルスケットの前に座っているマウロアナが、微かに楽しそうな笑みを唇に乗せ、僅かに目を細めてナギト達を見ていた。
意識をフォレルスケットに向けている為、何も言う事はなく無言ではあったけれど。でもはっきりと、その笑みは、眼差しは、語っていた。
――懐かしい話でありんすね、あちきも覚えてやすよ――
向けられる微笑の意味が、視線の意味が理解出来たのだろう。
ユヅキはにぱっと花が咲いたように笑い、ナギトは目を伏せてふっと息を吐き出して軽く肩を竦める。こちらにも言葉はなかったが、マウロアナには十分伝わったらしい。
そのやり取りがほんの少し、ほんの少しだけ羨ましいと思ってしまうのは――ミナギの心。
「……気のせい。気のせい」
小さく、口の中で呟く。
目だけで意思疎通が出来るくらいの絆がある事が羨ましいなんて、きっと気のせい。絶対気のせい。そう、自分に言い聞かせるミナギ。
羨ましいだなんて気持ちは、とうの昔になくしたと思ったのに。
なんで今更、こんな気持ちが浮かんで来るのか。
気のせいだと自分に言い聞かせ、強引に視線を外す。ナギトも、ユヅキも、アルバも、セラータも、マウロアナも見えないように。
すると自然、ミナギの視界に入るのは、椅子かわりのミナギの結界に座る事が出来ず、床の上でぼーっとフォレルスケットとマウロアナを見つめているサガラだ。
目の前で次々に起きている現実に、理解が追い付いてないのがわかる。
「まあ気持ちはわかるよ。オレも最初は、この二人の非常識さに理解追い付かなかったから」
「……パーティ仲間ッスよね?」
「パーティ仲間でも色々あるんだよ。特にこの二人と一緒だと」
年上なのは理解しているけれど、サガラに対して年上対応をしないのは、ミナギにとって彼がもう厄介な人間認定だから。だからと言って無視出来ないのは多分、まだナギト達と出逢った頃の自分と重なるから。
自分の常識から外れた事の連続に戸惑って、なんとか理解しようとしても、追い付かない、そんな感じ。よくわかる。
パーティ仲間に対して失礼ではあるが、仕方ない。だって非常識だから、あの二人。
話が聞こえているだろうに、ナギトとユヅキが口を挟まないのは、興味がないからだろう。じっと、フォレルスケットとマウロアナを見つめたまま動かない。
けれど多分、悪口を言えば即反応して来る。断言出来る。
「……ねえ、訊いてもいい?」
「自分に?なんスか?」
「アンタの魔法銃は?全然見えないけど」
ミナギにとっては、何気ない質問だった。
だって魔法銃士と言えば、いつも背中に大きな銃を背負っている姿を見ているから。大体、アサルトライフルやスナイパーライフルと呼ばれるクラスのモノが多く、学園内でも常に背負っていて、ちょっと見た目的に危ないなと思った事がちらほら。
まあそれを言うなら、常に剣を持ち歩いている魔法剣士にも言える事だけれど、そちらはまだホルスターに仕舞ってある為、見た目の危険性は低い。
だかこそ、見た目は何も持っていないように見えるサガラが、ミナギには不思議に思えた。の、だ、けれど――この質問は失敗だったとミナギが知るのは、それからすぐ後の事。ぱあああああっと輝きを増す、サガラの顔を見た後の出来事だ。
「自分の使ってる魔法銃はコルトパイソン357マグナムッス!!他のミンナとは違って、自分だけがこのサイズの魔法銃を使えるんスよ!!スゴイでしょう!」
口火を切るとはまさにこの事。制服の上着の下に着けていたホルスターから自分の魔法銃であるコルトパイソン357マグナムを取り出し、質問して来たミナギに見えるように両手で持って差し出しながら、目をキラキラと輝かせて語り始める。
失敗したと思った時には、時すでに遅し。
それはもう凄まじい早さで、呼吸の間すら惜しいとばかりのマシンガントーク。最初の銃の種類なのか名前なのか、それはなんとか聞き取れたけれど、以降はもうサガラが早口なのと、ミナギが聞くんじゃなかったと後悔した事で、あまり聞き取れなかった。聞く気もなかったけれど。
魔法銃の専門的な話ではなく、この魔法銃に適合した事がどれだけ凄いか、自分だけが凄いのだと言う内容だったのが、余計に聞く気を失わせていた。
なぜか、専門外であるはずのナギトやユヅキの方が、詳しく教えてくれたのだから、面白い話。
いわく、短い銃は使っている素材が少ない分、各種の素材のバランスを考えて調整しやすいと言う利点がありつつも、いざ魔法銃士が持つと素材が少ないがゆえに安定化させる事が難しく、暴発する可能性は一般的な魔法銃よりも数倍高いと。
加えて、銃そのものが小さい為、後から装着する事が出来る強化用のカスタムパーツの数にも制限がつくわけで。
魔法銃士によっては、自分の魔法銃を使っていく中で、あんなのがあれば、こんなのがあればと、後から色々なカスタムをしていく事が多い。
そう言う理由からも、短銃を選ぶ魔法士は極端に少ないと言う。
諸々の説明を訊けば聞く程に、短銃を選ぶ長所があまりない気がする。
それでもサガラは自分のコルトパイソン357マグナムは凄いと、その銃と相性が良い自分は凄いのだと語り続けている。果てには家族からも凄いと言われているのだと語り続けていて。自分に対して過剰な自信があるのは、もうこれだけで十分わかった。
恐らく、彼の家族もそれを増長させる原因になったのだろうと言う事も。
否まあ、それはどうでも良いか。関係ない。
家族の事なんて、特に。どうでも良いし、自分には関係ない。
コルトパイソン357マグナムを手にまだ何か語り続けているサガラの声を、右から左。こっそりシエロに頼んで声を散らして聞こえないようにしてもらいつつ、目を、ずっと黙っているフォレルスケットとマウロアナへと、戻す。
自分の内側の火を探していたフォレルスケットの表情は、眉をきゅっと寄せたまま。難しい問題に直面しているような、どこか必死なようにも思えた。
まあ当然か。
現状、自分の力を上手く扱えずに居るフォレルスケットにとって、これが今唯一残された道なのだから。必死にもなる。
必死さが焦りを呼び、余計に自分の中の火を見失っていた――と、言うのはマウロアナ談。
「そんなに焦らねえでも大丈夫だよ。今日限りってわけでもありんせんから、今日が無理ならまた明日挑戦すればいいのさ。そのくらいの猶予はあるよ。ほら、息を吸って吐きな。誰も主さんを急かすことはしねえからね。そうでありんすよね、ゆづき?」
「うんっ!授業の単位はクエストで取れてるからだいじょーぶ!何時間でも付き合うよ!」
「ナギトさんほどじゃないけど、ユヅキさんも結構クエ報酬、単位に変えてるよね」
「だぁってぇ、わたしたちがぁ、契約してるのよぉ?今更ぁ、ゆづが勉強することぉ、あると思うの?」
幼子に言い聞かせるような穏やかな言葉が、フォレルスケットに降って行く。
続くように、和やかと言うか、しれっとサボり宣言をするユヅキや、冷静に突っ込むミナギに、呑気に語るアルバ。その会話は勿論フォレルスケットの耳にも届いていて、緊張感の欠片もない会話に、困ったように笑う。
だからと言ってすぐに焦りが消えるわけではないけれど、少なからず、彼女の顔からいくらか険しさが和らいだのは確か。
「むしろ、授業出てもつまらんし、それなら自分の研究してる方がマシなんだわ」
「他の子達から話は聞いてやすえ。随分面白い研究をしているそうじゃありんせんか。あちきにも協力させておくれ」
ハアやれやれと頬杖を突いてナギトがため息を吐けば、響く声はマウロアナのもの。
フォレルスケットの額に指先を当て、意識はフォレルスケットに向けたままではあるが、心強い言葉を向けられ、ナギトは頬杖を突いていない方の手を軽く上げる事で答える。無言ではあるが、答えはそれで十分。
緩やかにマウロアナが一度瞬き、ルビーレッド色の瞳をフォレルスケットへと戻す。
わかる、もう少しだ。
もう少し、きっともう少しで、自分の中の火を見付けられる。
「ほうら、もう少しだよ。目を凝らして、すぐ、そこさね」
つん、と。少し強めにマウロアナがフォレルスケットの額を突く。強く突き過ぎて、フォレルスケットの体が揺れる事はなかった。絶妙な力加減の出来た一突きは、己の中で自分の火を捜し回っていた彼女の背中を押すには、十分で。
なぜフォレルスケットの内なる火に、本人ではなくマウロアナが先に気付いたのかと訊かれれば、答えは簡単。マウロアナが火の精霊の頂点に立つ、火の統括大精霊だから。
だからこそ、精霊由来のフォレルスケットの火の魔力に、敏感に反応出来た。
暗闇の中に灯る、小さな光。否、小さな火。
光に見間違えたのは、それが真っ白い火だったからだろう。
駆け出す。
見失わないようにはっきりと火を見据えて、真っ直ぐ、真っ直ぐ。
「マウロアナ、様」
「うん?どうしたのかい?」
震える唇から零れ落ちたフォレルスケットの声は、酷く頼りなかった。
不安が滲み、まるで迷子の子供のような声で。怖がっているようにも聞こえたのは――誰だったか。
そんなフォレルスケットの言葉を、柔らかくマウロアナは受け止める。
「ウチは……これから……ちょっとでも、変われるんやろか」
フォレルスケットが零した言葉は、肯定して欲しいと言う気持ちが隠し切れずにいた。
自分は変われるのだと、誰かに言って欲しくて。
ただその一言が、自分自身を信じきれない弱い自分に自身を持たせてくれると、そう思って。願って。信じたくて。
だがしかし、マウロアナは答えない。静かにじっとフォレルスケットを見下ろして、それからゆっくり、緩やかな動きで顔を動かす。
ナギトを、ユヅキを、アルバを、セラータを、ミナギを、見て。
ゆるり、首を傾げる。
「さあ、どうでありんしょうねぇ?」
「え……」
「『変われるかなぁ』なんて思ってたら、ずっと変わらないままだと思うよっ?」
「自信ナイならやめとけやめとけ。『変わりたい』って思わなきゃどーしようもナイだろ」
「背中押されるのを待つばかりなんてぇ、赤ちゃんみたいねぇ?」
「なぁん」
思わずミナギは真顔になって、隣に座るユヅキやナギトを見つめていた。ユヅキの肩に止まりアルバや、ナギトの頭の上に居るセラータの顔を、見つめながら。
彼等だって、今のフォレルスケットが求めている言葉を理解している筈なのに。
それにもかかわらず、口火を切ったユヅキから出て来た言葉は、フォレルスケットを突き放す言葉だった。まさかのユヅキからそんな言葉が出るとは思わず、ぎょっとミナギが目を見開いたのは仕方ない。絶対、きっと。
だが、続くナギトの言葉も突き放すもので、トドメの言葉をアルバが放ち、最後はセラータが同意だとばかりに尻尾を揺らして一鳴き。
人付き合いが短いミナギですら、フォレルスケットが欲する言葉を理解出来たのに。なぜこうなるのか。
流石にどう声を掛けるべきかわからず絶句するミナギの反応は、多分間違いではない。
「……っ。そないな事、言われても……っ」
「あの子たちの言う通りだよ。背中押されるの待ってるだけじゃ、今のまま変われねえものよ。……さあ、主さんはどうしたいのかい?」
冷たく突き放すユヅキ達の言葉に肩を震わせ、泣くのを我慢しているのか、ぎゅっと両手を握り締めるフォレルスケット。
そんな彼女に寄りそうようで、けれどマウロアナの言葉もどこか冷たい。冷たい、けれど――でも、どこか温かくて。なんとも矛盾している妙な話。
だからだろうか。
自分の心の奥から檄を飛ばす、もう一人の自分の声を聞いたのは。
≪アホか!この実技演習場に来たいて思ったんは誰なん?!アクオーツ達の提案聞いて、やってみたい言うたんは誰なん?!甘えとんとちゃうぞ!気張りや!フォレルスケット!!≫
ぎゅっと、握り締める両手。
フォレルスケットその両手にはまだ、綺麗に的を射抜けた時のあの感触が残っている。威力の調整は出来ていなかったし、八人居ると言う火の精霊達の協力なしにしても燃やし過ぎだったし、課題は多い。
それでも確かに、自分で、言い出したのだ。
自分で決めて、自分でやってみたいと言ったからこそ、ナギト達は動いてくれた結果の今なのに、ここで更に背中を押して欲しいだなんて、甘え過ぎだ、確かに。
目を、開ける。目の前にあるマウロアナの指の向こう側に見る、その顔。自分の髪と目と同じ色をしたルビーレッドの瞳を見上げれば、真っ直ぐにフォレルスケットを見つめ返していて。
言葉はなくとも、確かに背中を押された気がした。行っておいでと、言われた気がした。
もう一度、フォレルスケットが目を閉じる。もう一度自分の中に意識を集中させれば、まだそこに火はあって、消えていない。
「変わりたいと思うだけなら、誰にでも出来んす。ほんに必要なことは、そこから自分で一歩踏み出すことなんだよ」
だから今は――その火を掴む為、走り出せ。
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