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本編
本編ー17
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「自分のこの力、どうにかコントロール出来るようになるんやったら、やってみたい」
昼食を終え、フォレルスケットはそう口にしていた。
一族の中でも、力の制御が下手過ぎると言われ、困っていたのだ。少しでも方法があるのなら、僅かでも可能性があるのなら、試してみたい。そんな思いで。
【実技演習場】
魔法を練習する為の施設で、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園の中でも、かなり頑丈に造られている施設で、数は五。うち、一つは魔法銃士学科専用。縦に三十五メートル強、横に二十メートル強の広さを持ち、魔法演習用の的や、演習用の舞台等が用意されている施設。
主に授業で使用される事が多いが、申請さえすれば、生徒が自主練習での使用も可能となっている。しかし、希望する時間帯が昼休憩や放課後の場合が多く、順番待ちになる事もある。特に実技試験前では使用申請が混み合い、順番待ち解消の為に、短時間のみの使用許可が出る為、あまり自主練習にはならい事が多い。
その為、実技演習場の増設が現在進行中である。
質問者・ミナギ:なんでついさっき出した実技演習場使用許可証の許可がもう出てんの?
回答者・ユヅキ:シエロに頼んで、学園長に使用申請書を持ってってもらったから!
昼休憩とこの後の授業一コマ分の時間の、魔法銃士学科専用の実技演習場の使用許可の署名部分に書かれているのは、セシリア・ファストレア。紛れもなく、このベル・オブ・ウォッキング魔法学園の学園長直筆の署名。
その署名を見た瞬間、ミナギ、フォレルスケット、サガラの心の声は一致した。なんで、と。
だが、その申請書を書いたナギトと、シエロに託して許可を取って来たユヅキは別。
さも当然とばかりの顔をしているナギトの隣では、ぴっかぴかの笑顔を見せるユヅキが居て、本当この二人はなんなんだと頭を抱えるミナギが居るのはご愛敬。二人の常識外れっぷりを初めて見たフォレルスケットとサガラは、ぽかんと口を中途半端に開けた状態で絶句している。
本当にすみませんこんな人達で、なんて。このパーティの常識人かつツッコミ役がすっかり板についたミナギが二人に向かって頭を下げる。
「あ、でも、多分フォレルスケットさんは今後この人達との付き合い増えると思うから、慣れて」
「えっ」
「慣れて。オレは諦めたから」
「……今、なんか別の意味の言葉言わなかったか……?」
真顔で語るミナギの言葉に覚える、僅かな違和感。
それに気付いたサガラが問いかけるが、だからと言ってはいそうですかとミナギが答える筈もなく。ふいっと目を逸らすだけ。あからさま過ぎる程あからさまな態度に、隠すつもりはないと察するには十分。
ナギトとユヅキのコンビを相手にするのは大変そうだと、フォレルスケットは思う。思うけれど――多分、今の自分に必要なものを、彼等が持っている気がするから。
自分が変わるきっかけが、どこから、どんな形で来るのか、それは誰にもわからない。
けれど、そのきっかけに気付けるか、掴み取れるかは、自分自身。
でも流石に今回のは、わかる。今、この瞬間、何が遭っても、何が起こっても、目の前にある自分が変わるきっかけを逃してはならないと、わかる。
「……参考までに訊きた……訊きたいんですけど、昼休憩に実技演習場の使用申請出して、許可出る事ってあります?しかも当日で」
「自分はないかな。許可取れたの……自分は一番早くて五日前ッスね。長くても一時間ッス」
「ウチもないわ。早くても四日前やで。……ウチは、成績悪いから、長めに二時間はもらう事多いねんけど、まあ、結果は……うん」
どんどん声が小さくなり、ついには肩を落として俯いてしまったフォレルスケット。その姿に、ついつい「なんかゴメン」と思わず素の口調が出てしまうミナギ。
頭の動きに合わせて揺れるルビーレッドの髪が、本当に燃える炎のように見えたのは――きっと彼女が、カルブンクルスと言う名前の火の精霊の契約祝福を受けているからだろう。契約祝福の事を知らなければ、随分と特殊な見え方のする髪だと思っているところだ。
さり気なくサガラの声が聞こえたのは、今は必要な会話だからとシエロが声を風で散らさずに居たから。
まあ次の瞬間にはまた声が散らされて、ナギト達の耳には届かなくなったけれど。
「おら、さっさと移動するぞチビ共ー。もう昼休憩半分終わってんだ、検証する時間が減る」
「ナギト研究者モードだ!」
「……あの人、意外とこう言う時は言う事まともなんだよなぁ」
「聞こえてんぞミナギ」
実技演習場の使用許可証の申請をシエロに頼んだ後、昼食を終わらせていたナギト達。
なぜか付いて来るサガラに若干戸惑いつつ、大食堂から使用許可の取れている実技演習場まで移動。道中、ああだこうだとサガラがユヅキを口説いていたが、当のユヅキは聞く耳持たず。
あまりのしつこさに、聞き耳を立てていたシエロが途中で風を使って音を散らし、サガラの声を聞こえなくさせるまでそれは続いたのだから、相当のものだ。
力ずくで黙らせなかっただけマシかもしれないけれど。多分、シエロが後少し遅ければ、ナギトが拳で黙らせていた可能性はある。
シエロのお陰でやっとサガラが静かになり、やっと安心して実技演習場に向かえるようになったナギト達。全く声が出ないと驚きながら、それでもユヅキにぴったりと付いて歩く辺り、ちょっとサガラの執念は凄い。
「でも、なんで一目惚れしたらソキウスなんだろ?」
「あー……それな。ソキウス組んだら永遠に結ばれるー言うて、そう言うジンクスがあるやん?多分、そっちのジンクスばっか頭にあって、ソキウス契約の意味、わかっとらんのやと思う。そのー……ほら、アレやから、このサガラって……あの」
「バカなんだな」
「バカって事ね」
「バカなのねぇ」
「んにうねう」
≪バカかー。まあもうユヅキに声かけてた辺りからなーんとなくそうかなーとは思ってたけどねー≫
落ち込む事なく付いて来るサガラを見ながらユヅキが零す独り言のような疑問は、至極真っ当なもの。この言葉にはナギトやミナギも興味があったらしく、フォレルスケットへと視線が集まる。
言い出した本人であるサガラに訊くのが一番だが、まだシエロが声を風で散らしている為、説明出来ず。結果的にフォレルスケットに視線が集まったのだ。
まあ、当のフォレルスケットとしては、かなり気まずい思いをしていたけれど。
言葉を選んで、選んで、出来るだけフォレルスケットなりに言い方に気を付けて、若干言葉を濁して語るのだが、最後の最後、ナギト、ミナギ、アルバ、セラータ、シエロの声が重なる。
これにはフォレルスケットは言葉を詰まらせるしかなかったし、サガラは恐らく不満を述べていた筈だ。
残念ながら、シエロによって声は誰の耳にも届かない為、大きな口を開けているだけになったけれど。
「さーて、ちゃっちゃとやるぞー。ゆづは、火の精霊達がフォルスが撃つ時何やってるか観察して教えろ。ミナギもな」
「はーい!」
「うん」
実技演習場の管理人に使用許可証を見せ、一番に実技演習場に入って行くナギト。その言葉に、ユヅキは片手を挙げて元気に、ミナギは小さく頷いてそれぞれ答える。
ナギトに続き、足早に実技演習場に入ったユヅキ、ミナギ、アルバ、セラータは、だからこそ気付かなかった。
使用許可証に書かれた署名を見て、管理人がぎょっと目を見開いていた事に。目を見開いて、え、え、と戸惑いに声を上げながら、使用許可証と提出したナギト何度も見比べていた事に。
まあ、誰だってこの学園の最高責任者が使用許可を出していれば、驚くものだ。使用申請した生徒にもよるが、基本的にはその学科の教師や、学科の統括責任者が署名するものだから。
管理人の驚きっぷりに、普段のミナギの苦労のほんの僅かな片鱗を知ったフォレルスケットとサガラであった。
借りる事が出来た実技演習場は、増築中の新しい方の実技演習場だった。建築が終わり、後は強度検査を控えた一棟。
そこであれば、まだ誰も使用申請は出来ないし、昼休憩から次の授業一コマ分、時間を気にせず遠慮なく使えるからと、そう言う理由で。恐らく、と言うか絶対きっと、学園長であるセシリアが手を回した結果だ。ナギトは、普通に五棟あるうちの一棟の使用申請をしていたのに。
絶対強度検査の手間を省こうとしているだろうと思うのに、ここで抵抗出来ないのが悔しい。
いっそ思惑通りにこの新設された実技演習場の中で思い切り闇魔法を使ってやろうか、と考えるナギトは、多分悪くない。
「なんか新しい実技演習場借りれたらしい」
今にも怒りで爆発しそうな顔をしながら、それでも怒りで声が震えないように我慢して語られるナギトの言葉に、ひぇっと小さな悲鳴を上げたのは、誰だったか。とりあえずユヅキ、アルバ、セラータでない事だけは確かだ。
ただでさえ目付きが悪いのに、右目を黒い眼帯で覆っているせいで見た目の怖さは増す。そこに怒りが加われば、後はお察し。
ある程度見慣れている筈のミナギですら、へたに刺激しないようにとお口にチャック。
ユヅキだけは平然としていて、怒りに震えるナギトの肩を、背伸びをしてぽんと叩く余裕まで見せている。あれは多分、絶対きっと、ユヅキにしか出来ない事である。
「……サスガに設備までは揃ってないか。ソコまで贅沢言えねぇか……。チッ」
魔法の練習用に使う標的物等の主要な設備の搬入はされておらず、本当にまっさらな状態の実技演習場を見て、ナギトは舌打ち一つ。
まあそれも仕方ないと我慢して、ナギトはさてどうしようかなとぐるりと実技演習場内部を見回す。縦に三十五メートル強、横に二十メートル強。五人と精霊達だけで使うには、広過ぎる程だ。だが今回は、それで良い。
考え込むナギトを見上げ、うーんと同じように考え込むのはユヅキ。
けれど、数秒後には何か閃いたらしく、ミナギ――ではなく、ミナギの傍に居る五人の小さな精霊達。
≪水と地の精霊ちゃん達、このっくらいの大きさの球作れる?フォルスさんの魔法の的に使いたいんだ。いーっぱい!色んなところに創っちゃって!≫
このくらい、とユヅキが両手の親指と人差し指使って示したのは、直径十センチ程の円。
ユヅキの言葉に、水の精霊は了承の意味を込めて水の輪っかを創り、地の精霊は小さな親指を立ててこれまた了承の意を伝えて来る。かと思えば、次の瞬間には、数えきれないくらいの量の水の球と土の塊が、実技演習場の中一杯に出現。
大雑把に数えても、二十か三十くらいはあるのではないだろうか。
ぽかんと口を開けて驚くフォレルスケットとサガラの隣では、ミナギが片眉を跳ね上げて首を傾げている。
以前は、同じ大きさの球を三個創るのが精一杯、五個も創れたら凄く頑張った、なんて言うレベルだったのに。
アルバいわく、ミナギが結界術を使う練習をする為に五人の小さな精霊達もやっていた、力を使う練習。その結果、ここまで力が強くなったらしい。
同じくらいの大きさの精霊と比べると、かなりハイペースな成長だと語るのはシエロ。
「ミナギくんとの練習もだけど、一番はミナギくんの役に立ちたいって思ったからだろうね」
「……友達?」
「友達だろ。友達じゃなかったらなんなんだ、相棒か?」
「あぁらぁ、五人でもぉ、相棒になるのかしらぁ?」
なるだろ。なるのかしらぁ。きっとなるよー。そんな会話をしているナギト、アルバ、ユヅキの前で、なぜか衝撃を受けたかのように言葉を失っているのは、ミナギだ。
友達。友達と言っても、良いのだろうか。と言うか、友達ってなんだっけ。なんて。変な思考が始まっているミナギを横目に、ユヅキから話を通訳してもらった五人の小さな精霊達は大興奮。誇らしそうに胸を張っているところから見て、もしかしたら、自分達はミナギの友達だと、言っているのかもしれない。
突然ミナギが両手で頭を抱えてしゃがみ込んでしまったのは、キャパオーバーしてしまったからだ、きっと。
「あの、ミナギ君は」
「ほっとけほっとけ。それよりフォルス、適当に精霊達が創った的狙って撃て。弾丸はなんでもイ……くはナイな。マヒア・バラは単純な魔力の弾丸になるから……フエゴ・バラで。威力とかなんにも考えず、たちまちテキトーに撃って」
「『たちまち』?」
ミナギの心配をするフォレルスケットを、あっさり一言でナギトは切り捨ててしまう。心配する気持ち以前に、興味がないから。
まあ、五人の小さな精霊達の行動が見えていないのも、興味のない要因の一つだけど。
それよりも、フォレルスケットの持つ精霊由来の力の検証がしたいと心が逸っているのかもしれない。精霊や精霊術師、および精霊術関係の研究者だから、これでも、一応。
けれど、フォレルスケットとサガラは、聞き慣れない単語に揃って首を傾げる。なんとなく方言なのだろう事はわかるが、意味がわからない。たちまち、と小さく呟いて固まってしまう。方言を喋っているフォレルスケットではあるが、違う種類の方言は理解出来なくても当然。
固まった二人から向けられる視線に、ナギトが自分の言葉が伝わっていないのだと理解するのに、数秒の時間を要した。
やっと自分の方言のせいだと理解した後は、また数秒考えて、悩んだ結果、呼ぶのはユヅキの名前。
「……ゆづぅ!」
「はーい!えっと……なんだっけ?」
≪『たちまち』だよ≫
「あ、たちまちか!たちまちはね、んー、確か……とりあえず!とりあえずって意味!」
五人の小さな精霊達と話していた為、何の話か一瞬わからなかったユヅキだが、すぐにシエロから入る助け舟。
すると、ぱぁっと顔を輝かせ、少し考えた後、ナギトの語ったたちまちの方言を言い換えた言葉を語る。たちまちは、とりあえず。と言う事は、さっきナギトは、とりあえずフエゴ・バラを撃てと言った事になる。
フエゴ・バラは、魔法銃士が使う火属性の初歩中の初歩。火の弾丸を撃つ魔法だ。
先程少しだけ出て来たマヒア・バラは、本人の魔力を弾丸にした、純粋な魔力の弾丸。フォレルスケットの力を見るには、火属性の方が良いと、そう言う判断で。ナギトの言葉は尤もだと言える。
だが、しかし。フエゴ・バラを撃つ事は何も異論はないのだが、一つだけ、問題があった。
フォレルスケットの愛銃であるバレットM82A1が大型なせいで、両手で支えて撃つのが難しく、銃を支える支持装置であるバイポッドを立てる足場がないと、満足に一発撃つのも困難だそうで。
新設されたばかりで、まだ満足に設備が整っていないこの実技演習場に、バレットM82A1の足場に出来るようなものがある訳もなく。
こればっかりはどうしようもない――と、諦める訳がなかった、あのナギトが。
少しの間顎に手を当てて考え込む素振りを見せたかと思えば、一度顔を上げ、しかし思い直したらしく、見るのは五人の小さな精霊達とユヅキの通訳付きで会話しているミナギだった。
あ、ヤな予感。
向けられる、口よりも饒舌に何かを訴えるナギトの視線に、まずミナギはそう思った。
何を言われるのだろうと考えるよりも、今までの話の流れからなんとなくミナギは察していた。既にナギト達との付き合いも四か月が過ぎようとしている。ユヅキもだが、なんとなく言われそうな事にある程度予測を立てられるようになっていた。
「…………そのばいぽっど?ってヤツ立てる足場って、どのくらいの大きさがあればいいの?高さは?」
「え?えーっと……まあ、最低限、このくらいあったら……。高さ……は、自分の……あ、ミナギ君、の腰より少し低い……くらい?」
「はいはい。クアドリラテロ・バレッラ」
なぜ足場の大きさを訊くのだろう。そう言いたげな顔をしながら、このくらい、とフォレルスケットが両手で示したのは、幅大体三十センチ強。
するとミナギは、二つ返事で結界術を発動。しかもフォレルスケットの希望通り、大きさは三十センチ四方の四角い結界で、ミナギの腰の高さより梳くし低い位置。ただしいつもと違うのは、人の前に盾のように展開するのではなく、テーブルのように、横に展開している事だ。
え、と驚きに言葉を失うフォレルスケットの前では、これで良いかと平然とした顔で問いかけるミナギが居る。
結界を、銃のバイポッドを立てる足場に使えと、そう言いたいのか、もしかして。
「はっ?!や、結界を足場に使うやなんて、そないなこ」
「うるさいな。そんな当たり前の事言わないでくれる?このパーティじゃそこら辺の小石使って空を飛べなんて言われるようなもんなんだから、結界を足場に使うくらいどうって事ないから。むしろこのくらい当たり前なの。ほら、わかったら早くやって」
「あ、はい……?」
至極当然なフォレルスケットの驚きと遠慮の言葉は、結界を創った本人であるミナギに切って捨てられた。
しかも、有無を言わさない勢いで喋り続け、フォレルスケットが口を挟む余裕を与えない。その勢いは――。
「今の感じぃ、ちょぉっとナギトに似てたわねぇ?」
「止めて。オレまだ常識人で居たい」
「お前今しれっと俺を非常識扱いした?てか、そこらの小石使って空飛べとか言ったコトナイんだが?」
「そろそろ自分が常識外れだって自覚してもらっていい?」
のほほんとしたアルバの言葉に、心底嫌そうな顔をするミナギ。そしてしれっと非常識扱いされたナギトは片眉を跳ね上げる。
睨み合うナギトとミナギの間で火花が散ったように見えたのは、果たして気のせいだろうか。
止めた方が良いのだろうかと悩むフォレルスケットだったが、制服の袖を引っ張る誰かの――ユヅキの手に、意識が向かう。
「ねえねえ、撃たないの?」
「えっ!あ、撃つ、けど……えっと、あっちは」
「ほっといていいよ。ねっ?ほら、早く早く!」
睨み合っている二人をよそに、水と地の精霊が作った的を撃てとユヅキはフォレルスケットを急かす。マイペースと言えばマイペース過ぎるユヅキに、困惑すると同時、少し前のミナギの言葉の意味と日々の苦労がよくわかるとフォレルスケットは内心零す。
相変わらず声がシエロにかき消されているサガラも、ナギト達の声は聞こえている為、なんだか大変そうだなぁと眺めている。
フォレルスケットよりも薄い感想なのは、多分、と言うか絶対きっと、サガラ本人の興味関心がユヅキにしかないから。
ずっとユヅキに向けられているサガラの目が、その証拠。
ユヅキを見つめる目は、何よりもユヅキが可愛いと訴えていて。完全に恋する男子の目だった。
「……よ、よし!ほんなら撃つでっ?」
「うん!ミナギくん!ナギトはもういいから。ほら、コッチコッチ!」
「あ……うん。……ユヅキさん、一番ナギトさんの扱いが雑だよな……」
≪いつもの事だからダイジョブだって。ほら、それよりもあの子だよー≫
まだ結界を魔法銃の足場に使う事に対して戸惑いはあるが、戸惑っていたままでは話が進まないと、フォレルスケット自身もわかっていて。バレットM82A1のバイポッドを立てつつ、緊張か不安かわからないが、ドクドクと嫌な脈を打つ心臓の音を聞く。
これはもしかしたら、実技試験よりも緊張するかもしれない、なんて。
ゴクリ、と。フォレルスケットが息を呑む。
結界の上にバイポッドを立てたバレットM82A1を下ろし、片膝を床に突く。数ある的の中から、目についた水の球に狙いを定め、スコープを覗き込み、深呼吸。
今フォレルスケットの居る位置から見て、真正面。距離はおよそ二十メートル先にある土の塊を、レティクルの中央に捉える。一度目を閉じてから短く息を吸い、少し溜めてから細く長く息を吐く。うん、少し落ち着いた。目を開け、もう一度レティクルの中心で狙いの水の球を見据える。
これが実戦の最中であれば、そんな時に的から目を離すなんてと責められる場面だけれど。
数メートル離れたところで、ミナギ、ナギト、ユヅキ、サガラが並んでフォレルスケットを見守っている。セラータはいつの間にか高い天井近くの梁の上に居て、アルバはユヅキの肩の上だ。
「……よし」
「変にりきむなよー。いつも通りでイイからなー」
「わ、わかっとるて……!」
さあ魔法銃に魔力を籠めようとしたところで響く、ナギトの声。タイミング良く響いた声は、今まさに気合を入れよとしていたフォレルスケットの出鼻をくじくには丁度良過ぎた。
なんでバレたんだと思いつつ、でも実際体に力は入っていたので、何も言い返せないフォレルスケット。なんとも言えない敗北感が胸に広がるが、我慢我慢。だってこれは、実技試験ではないのだから。
イメージするのは、蝋燭の火。指先に灯るくらいの、小さく揺らめく火。
魔法銃を掴む手から、フォレルスケットの魔力が細い火の帯となって伝わって、バレットM82A1の中で、一つの弾丸になるのを待つ。慣れてしまえばなんて事のない、ほんの瞬き一つ分で出来てしまう単純作業。
けれどそれがフォレルスケットともなれば、話は別。
小さな蝋燭の火が、爆発でもしたかのように暴れ出す。一瞬で空気を含み膨れ上がる火は、炎へと姿を変えた――まさにその瞬間だった。
「…………っ!」
「「ああっ!!」」
「フォレルスケット止まれ!!」
フォレルスケットが顔を歪めたのと、ユヅキとミナギが驚きの声を上げたのと――姿を消していたグラールがナギト達の前に現れ、強固な土壁を創り上げたのは、ほぼほぼ同時。
瞬間。
何がどうなっているのか、考えたり尋ねたりするよりも早く、即座にナギトがフォレルスケットへ飛ばす指示。その鋭さは、バレットM82A1のトリガーにかけていたフォレルスケットの右手人差し指を震わせるには、十分で。
トリガーとフォレルスケットの右手人差し指の僅かな間で起きたのは、小さな小さな突風。フォレルスケットの右手をトリガーから押し退けるようにして膨れ上がった風は、ナギトの声に驚き動きを止めていた彼女の右手自体をバレットM82A1から完全に押し退ける事に成功していた。
当のフォレルスケットは、何が起きたのかもわからず、驚きを隠せない愕然とした表情でバレットM82A1と自分の右手を見比べていた。
表面上の変化は、何もない。
同じ魔法銃士であるサガラも、これと言って表情に変化はなく、何が遭ったのだろうと首を傾げているばかり。ナギトの目にも同じで、何の変化も映らなかった。突如現れたグラールと、グラールが創り出した土壁に阻まれる寸前までは。
あえて言うなら、フォレルスケットが苦しそうに表情を歪めたくらいしかわからなかった。あくまでも、目に映る情報では。
だがあの二人は――ユヅキとミナギだけは、何かに驚いていた。
つまり、精霊側で何かが起きていた、と言う事だ。
慌てた様子のユヅキがフォレルスケットに――否、彼女の周りに居る八人の火の精霊達へと何かを必死に訴えている。
まあ、ナギト、フォレルスケット、サガラの目には精霊が見えない為、ユヅキが明後日の方を見て何か歌っているようにしか見えないのだけれど。こればっかりは素質の問題だ。
「うわ……多分、今のは……」
「ミナギ?何が遭った?」
「えっ、あ、ああ、そっか……。精霊達の声は聞こえないけど、わかる、確証ある。オレの傍に居る五人も、よく同じ顔してるから……。もしそうなら、ストーブに火薬投げ込んでるようなもんじゃん……。えぇ……こわっ」
「ミナギ、落ち着け」
確証はあると断言したものの、続くミナギの言葉は説明と言うよりは、どちらかと言えば独り言に近いもの。
なんとなく言いたい事はわかったが、とりあえず宥める事が先か。
ミナギの頭を鷲掴みしてから、わしわしと押さえ付けるようにして撫でる。縮む縮むと悲鳴が上がっても、お構いなしに。必死の抵抗で頭を押さえ付けるナギトの手首を掴むが、びくともしなくて。最終的にバカ力とミナギが声を荒げ、振り上げた足でナギトを蹴り飛ばしてやっと解放されるまで、手は離れなかった。
まあ、振り上げた足は、ナギトの体に当たる手前で、ミナギの頭を撫でているのとは反対の手に阻まれてしまったけれど。
二人のやり取りを見ていたグラールが、まるで孫を見る祖父の顔をしていたのが、ちょっとだけ、否結構かなり気に食わないと思ったのは、ナギトとミナギ、どっちの心の声だったのか。
「クッソ……!」
「はいはい。んでぇ?何が遭った」
「……っ!フォルスさんが、一回目を閉じた後……かな。あの人の周りに居る火の精霊達が、『任せてー!』みたいな感じで、フォルスさんの魔法銃に手をかざして……」
「あー……もしかして、魔力が急に膨れ上がったのって、理由ソレか?」
納得したようなナギトの口振りに、どう言う意味かとその顔を見上げる事で訴えれば、応えは至極簡単。魔法剣士だからこそ、魔法や魔力の流れを感じ取る力があるから、との事で。
突然、魔法銃のバレットM82A1に注がれるフォレルスケットの魔力が膨れ上がったと思えば、銃を持つ本人が苦しそうな顔をする。と言う事は、一歩遅ければ、バレットM82A1が暴発していた可能性は高い。
魔法銃自体は爆発しないかもしれないが、あの膨れ上がった魔力の量を考えれば、ただのフエゴ・バラのつもりが、エクスプロシオン・バラなり、ラファガ・バラになっていた可能性がある。
もしそうなっていたら、防壁設備のないこの新設の実技演習場では、身を守る方法がなかったかもしれない。
気付いてからナギトが対処しようとしても、きっと間に合わなかった。
ふと思って真上を見れば、天井近くの梁の上に居たセラータが立ち上がってこちらを見下ろしていた。危険を察知して、いつでも動ける、そんな状態で。
アルバも、気付けばユヅキの肩から飛び上がっていた。
ほんのついさっきまで孫を見守る祖父のような顔をしていたグラールも、ナギトの視線とその意味に気付いたのだろう、険しい顔をして創り出した土壁を消し去り、フォレルスケットを見つめていた。
「フォルスー!だっ、大丈夫っスか?!」
「あ、ああ……うん、大丈夫や……。でも、今のは……いつもより、炎が、暴れそうになって……」
周りの緊迫した空気やフォレルスケットの表情から、何かが起こったらしい事を察したサガラが、フォレルスケットへと駆け寄る。
だがフォレルスケット自身も、何が起こったのかわかっておらず、呆然とするばかり。
多分、今この場で冷静なのは唯一、ナギトのみ――に見せかけて、実はナギトも内心焦っているのは、多分ユヅキも、セラータも、アルバも気付いていない。唯一気付いていたのは、恐らく、グラールだけ。
自分を見上げるナギトを見下ろしながら、すぅっとグラールは目を細める。ナギトの左目に、困惑と緊張と悔しさが滲んでいる。
火の精霊であるカルブンクルスと契約祝福したからこそ、精霊由来の力を持つフォレルスケットに、火の精霊の力は干渉出来るんじゃないかと言う仮説が立証されたのかもしれない。
魔力の流れは見えていた。危険だともわかっていた。けれど、体が動かなかった。動けなかった。何かしら対処しなければ、ケガをしていた可能性はあっただろうに。
自分だけではない。自分の右隣にはユヅキ、左隣にはミナギが居たのに。彼等を守る行動すら取れなかった。闇属性の魔法にだって、多少は身を守る為の魔法があるのに、その魔法を発動する余裕もなかった事に対する、悔しさ。
グラールが、ポンポンとナギトの頭を叩き、それから背中をぽんと叩く。言葉はない。けれど、少し困ったように、愛しいものを見るように、柔らかく微笑む。
いつものナギトであれば、すぐに振り払うような手と笑顔だが、今だけは別。
一度チラリグラールの顔を見上げた後、目を逸らしてしまう。
幸か不幸か、ミナギは掴まれていた頭を抱えて俯いていた為、ナギトとグラールの一連のやり取りは、見ていなかった。
「グラール、説明しろ。ミナギが言ってたのはホントか?」
「ああそうとも。しかし今回は、ユヅキの前だった事もあって、余計に張り切ったらしい。どうやら今までも、あの子供が魔法銃を使う時に手伝っていたそうだ。だが、それで原因で落ち込んでいるとは思わなかったそうだ」
「まあ……そうだろうな。契約祝福の力が強く出てるとは言っても、火属性の魔力が強いってだけで、後は『見えない』、『聞こえない』、『わからない』だからな」
「意思疎通が出来ないからこそのすれ違いが起きてた……って事、だよね?」
顔を上げたミナギの言葉に、ナギトとグラールがうんうんと頷く。
まだフォレルスケットの周りの八人の火の精霊と話しているユヅキへと、目を向けるミナギ。どうやら自分達のお手伝いが原因だった事を知ったせいか、八人はそれぞれショックを受け、落ち込んだり言葉を失ったりとリアクション様々。
見たそのままを実況中継すれば、そうなるわな、とまたナギトは頷いていた。グラールは、苦笑。
「本人達的にはぁ、お手伝いしてたからぁ、それが原因であの子が落ち込んでただなんて言われたらぁ、そりゃぁショックよねぇ」
「余計なお節介になってたわけだもんな」
「傷口に塩塗り込むような事言わないであげてくれる?ホントショック受けてんだから、あの子達」
ショックを受けている姿が見えないせいか、ハッキリ言い切るナギト。それは、彼等八人の火の精霊に伝えれば、余計に落ち込むのが目に見えていて。
流石に精霊達に同情した、ミナギは。
彼等が精霊術師と契約していない精霊で良かったと、心の底から思う。契約している精霊であれば今頃、ナギトの言葉を受けて更に深く落ち込んでいた筈だ。
そんな話をしている間に、ユヅキがフォレルスケットやサガラに何が起きていたか、どう言う状況だったかを説明していた。サガラは勿論だが、フォレルスケット自身、まさかそんな事が起きているなんて信じられず、ポカーンとするばかり。
今日だけで、何度驚けば良いのだろう。このベル・オブ・ウォッキング魔法学園に来てから、一番の驚きの連続かもしれない。
「ゆづ、フォルスの力を見たいから、火の精霊達に手伝いするなって頼めるか?」
「はーい!」
元気に片手を挙げてナギトに向かって返事をしたかと思えば、くるりと踵を返して今度はフォレルスケット――の、周りに居る火の精霊達へと語りかける。
普通の人間から見れば、何もない空間を見つめて、聞き慣れない言語で歌っているように見える姿。それは、見慣れない人間からしてみれば、異質とも、神聖とも取れるものだが、どうやらフォレルスケットとサガラにはとても神聖なものに見えたらしい。
特にサガラにとっては、ユヅキに一目惚れをしたのもあって、一際神聖に見えたらしい。
ユヅキを見つめるトパーズ色の瞳が、キラキラと輝いていた。
「ナギトー!準備おっけー!」
「フォルスは?」
「お、おう!準備ええで!」
満面笑顔と共に、両手を使って頭の上に丸を作って見せるユヅキ。その隣では、いくらか緊張した面持ちのフォルスが居る。
まだ、ミナギが創ってくれた結界は生きている。
もう一度そこにバレットM82A1のバイポッドを乗せ、スコープで捉えるのは、先程狙っていたのと同じ水の球。大丈夫、落ち着いている。さっきよりも、ずっと。
実はさり気なくナギトの指示を受けたユヅキが、水と土の球を創り出した精霊にあるお願いをしていたのだが、それをフォレルスケットが知る筈もなく。彼女がそのお願いの内容を知るのは、無事にフエゴ・バラを一発撃った後だった。
「……撃てた」
呆然としながら、フォレルスケットは呟いていた。
体を起こし、スコープから顔を離す。見間違いでも勘違いでもなく、確かについさっきまでそこにあった水の球は姿を消していた。他にも――半径一メートル圏内にあった土と水の球も消し去っていた為、威力は普通のフエゴ・バラよりはあったのだけど、ひとまずは、撃てた現実があれば良い。
放たれた、弾丸一発。
それは、他の魔法銃士から見れば簡単な、当たり前の一発。だがフォレルスケットからしてみれば、奇跡の一発だった。
何の反発感もなく、暴走する感覚もなく、ただただ撃てた。その事実が、フォレルスケットにとっては嬉しかった。手が震える。いつの間にか流れていた涙は、喜びから溢れるもの。
「撃てた……撃てた。撃てた!撃てたで!ウチ、ちゃんと撃てた!!」
興奮した様子で立ち上がり、バレットM82A1を手に撃てた撃てたとはしゃぐフォレルスケットは、まるで小さな子供のよう。けれど、誰もその姿を子供だとバカにする事はなかった。
たかが一発、されど一発。この一発がどれだけの重みを持っているか、計り知れない。
それは、フォレルスケット本人でしか理解出来ないもので。なんとなく理解する事は出来ても、完全に気持ちを理解する事は難しい。
「やったッスねフォルス!」
「うん!うん……っ!撃てた……っ!!」
目を輝かせて駆け寄って来るサガラに、何度も頷いてフォレルスケットは答える。ハラハラと流れ続ける涙は、それまでフォレルスケットが胸の内に抱え込んでいた苦しみをはらんでいた。
この一発を撃てた事への複雑な感情はきっと、彼女だけにしか理解出来ないだろう。
喜んでいる魔法銃士組を横目に、パチパチと拍手をしているのはユヅキ、ミナギは的を創り出した水と地の小さな精霊に笑顔を見せていて、何やら考え込んでいるのはナギト。
一度真上を見上げ、実技演習場の梁の上に居たセラータを呼ぶ。すぐに降りて来たセラータは、流石は精霊と言うべきか、重力に引っ張られて床に叩き付けられる事もなく、ふわり、音もなくナギトの頭の上に着地。
「なぁお」
「着弾地点覚えてるか?」
「わう」
足下から響くナギトの声に、一声鳴いて答える。と同時にナギトの視界に突然現れる、黒点。もとい、闇の球。ナギトの使う闇の爆弾魔法、オスクロ・ボンバにも似ているが、創り出したのがセラータであると考えると、きっと別物だろう。
早歩きでセラータの創り出した闇の球のところまで向かうと、素早くナギトは周囲を見回す。
その間もセラータはナギトの頭の上に居て、動きの振動など全く意に介さないようで、ぴくりとも動かない。まるで、お座りした状態のまま空間を滑っているように動いているようにすら見えて来る。
ナギトがぐるり周囲を見回すと、一部の土の球が焦げているのが見えた。
大体着弾地点から、一メートル四十センチ前後の距離か。威力を考えると――少し、範囲が広過ぎるか。
フエゴ・バラは、着弾地点、敵に着弾した瞬間燃え上がる火の弾丸。
今回の標的が水の球だったとしても、燃えた範囲が広過ぎる。断言出来る。
「んー、セラータ、火の精霊達は手伝ってなかったんだよな?」
「なん」
「ソレでコレなら、やっぱ自分の力のコントロール出来てねぇんだな」
表面が焦げた土の球の前まで移動してから、そっと触れて、指先に付いたススを払い落とす。そう言えば、土の球は残っているが、水の球が消えている。着弾地点から考えて、ナギトの周りにいくつか水の球があってもおかしくないのに。
フエゴ・バラの炎上に巻き込まれたとしても、範囲がおかしい。
魔力のコントロールがヘタだとフォレルスケットは自分で言っていたが、確かにそうだと納得するナギト。
セラータを頭の上に乗せたまま考えているナギトの独り言は、離れたところに立っていたユヅキ達の耳にも届いていた。それは別に良いのだが――次に聞こえた言葉に、流石のナギトもツッコミをせざるを得ない状況だった。
フォレルスケットに
「でも、なんで魔法の威力がデカかったらダメなんスか?威力が強ければモンスターも簡単に倒せるしいいことだらけじゃないッスか!だからフォルスも落ち込む必要ないッスよ!もっとドカーンと撃っちゃうッス!」
何言ってんだこいつは。
その瞬間、ナギト達の心の声が一致。
全員自分の聞き間違いであってくれと願い、我が耳を疑ったが、フォレルスケットに向ける満面の笑顔から、心の底からそう思っているのだと、ナギト達は勿論、アルバやセラータ、グラールが理解するには十分。
だが、流石にサガラの発言は異常だ。
魔法の威力が大きければ敵も倒しやすい。それは間違いではない。だが、それは時と場合によるだろう。
仮に、モンスターに先手必勝とばかりに攻撃をしたとして、それが一〇〇パーセント効果的とは言いがたい。
フォレルスケットの魔法属性は火だ。
もし相手が火属性に耐性があるモンスターだった場合、効果は薄い。逆に、相手が火属性のモンスターだった場合、火に油を注ぐ事になり、敵を狂暴化、もしくは強化させてしまう可能性がある。
しかも、魔法銃士が一人で戦う事はあまりない。威力が高過ぎる魔法は、前線で戦うパーティの仲間を巻き込む可能性まである。
時には、コントロール出来なかった魔法が、魔法を使った本人に牙を剥く事まである。
魔法のコントロールは、魔力を持つ者にとっては必要不可欠。必須であり、基礎中の基礎とも言えるもの、なのに。
もしかして、自分達が知らないだけで、魔法銃士学科はそう言う教育方針なのだろうか。そうナギト達の中の思考が一致。無言のままに見つめるのは、当然サガラと同じ魔法銃士学科に在籍しているフォレルスケット。
何も言われていない。三人とアルバ、セラータ、グラールの精霊達も無言。
無言ではあるけれど、自分に向けられる視線と、話の流れから、先程のサガラの言葉が関係しているのは間違いなくて。慌ててフォレルスケットは違う違うと叫びながら必死に頭を横に振る。頭の動きに合わせてルビーレッドの色をしたフォレルスケットの髪が揺れ、抱える怒りに合わせて炎が揺らめいているように見えた。
「違うから!コイツだけやから!!コイツがへんな事言うとるだけ!!そんな仲間が巻き込まれたり、魔法が暴発する可能性もあったりすんのに、気にせず撃つとかないから!!サガラァ!!自分もアホな事言うなや!先生達やって、魔法のコントロールうまなれてよう言うとるやんか!!」
「えぇー?けど、強いんだから問題ないッス!」
「問題あるわボケェー!!」
全力で叫ぶフォレルスケットが、ゼエハアと肩で大きな呼吸を繰り返す。
実技演習場の空気を揺るがす程の大音声に、これはどうやらフォレルスケットの言う事が本当らしいと思うのはナギト達。となると、先程のサガラの言葉は、どうやら彼自身がそう言う思考なだけと言う事か。
かなり危険な気がする。
否、気がするではない、危険だ。
「そう言や自分、ようパーティ変わっとるけど、それで問題なっとるんちゃうやろな?!アホな事やって追放されとんちゃうんか!?」
「違うッスよ!アイツ等、自分が活躍するのがイヤだからすーぐ意地悪言うんスよ!だーかーら!コッチから辞めてやったんス!!」
「イヤイヤイヤイヤ!!パーティそんな簡単には辞められんで!?おかしいやろ!自分ちゃんと授業聞いとったか?!魔法のコントロールは大事なんやって、なんべん授業で言われた思うてんねん!!基礎中の基礎やろがボケナス!!」
フォレルスケットの言葉に、真っ向から言い返すサガラ。
それは、強がっているわけでもなく、虚勢でもなく。本当に、心の底からそう思っているのだと伝わって来る。
だが、だからこそ、なおさら怖いと思うナギト達。
二人の会話を繋ぎ合わせると、どうやらサガラは相当の問題児らしい。誰から教えられたのかもわからない思考を貫き、パーティで問題を起こし、追放され、また別のパーティに加入して問題を起こして追放を繰り返しているのだとしたら、かなり厄介なのは明白。
そんな男が、ユヅキに一目惚れをしたからソキウスになりたいと乗り込んで来ている現状。
嫌な予感がする。
物凄く、とてつもなく嫌な予感だ。
「…………ナギト」
「ダイジョブだよ。ソキウス契約は契約する二人の承認が必要だし、パーティにだって簡単には入れないから」
不安そうな顔をして自分に駆け寄って来たユヅキの頭を、ぽんとナギトは撫で叩く。彼女に向ける笑顔は柔らかく、ユヅキを安心させるには、十分だった。ふにゃりと緩んだ笑顔が、その証拠。
聞こえた二人の会話に、ほっと胸を撫で下ろすのはミナギ。
ソキウスになれないとなると、パーティに強引に加入して来るのではないか、と。そんな懸念がミナギの中にあったから。でも、これで一安心。サガラ本人の性格や思考もだが、ミナギ自身、あまり知らない人間が近くに居ると言うのが嫌だと言うのもある。
早い話、人見知りなのだ、ミナギは。
「シエロ、たちまちそいつ黙らせろ。話が進まん。ゆづにこんな顔させてるヤツの話なんて、これ以上聞く必要ないだろ」
≪それもそーだねー。…………殺したらダメなんだもんなー≫
「……シエロ、さすがに冗談だよね?それ」
無言止めて怖い。ミナギの声に、だがしかしシエロが貫く無言。
蒼くなるミナギを見て、薄く笑いながら、ナギトがちょいちょいと手招き。軽く首を傾げ、怪訝な表情になりながらも、大人しくナギトの手招きに従うミナギは、ちょっとユヅキに似て来た気がする。
だからだろうか、近付いて来たミナギを見るナギトが、柔らかく微笑んだのは。柔らかく微笑んで、ユヅキの頭を撫で叩いているのとは反対の手で、ミナギの頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜるように撫でる。
撫で方の違いは大きいが、それでも、向けられる笑顔は、変わりなくて。驚いた、正直な話。
「え……」
「パーティ加入させるかどうかは、多数決取るから、俺の一存で決めるコトはナイから安心しとけ」
「……う、ん……。わかった、アリガト……」
ぎこちない答えになってしまったのは、仕方ない。だって、あんなに優しい笑顔を向けられるなんて、ミナギは思ってなかったから。それが向けられるのは、長い付き合いであるユヅキだけ、そう思っていた。
つまりそれは、自分もナギトの内側に入れてもらったと、そう言うわけで。
あれ、なんだろう。なんと言うか、物凄く、恥ずかしい。
顔が一気に熱くなるのがわかって、反射的に俯くミナギ。
本当は、恥ずかしいだけではなく、嬉しいと言う感情もあるのだけれど、それを今のミナギが自覚出来る筈もなく。とにかく、赤くなっている顔をナギトから、アルバやセラータ達から隠したかった。
まあ、五人の小さな精霊達には隠せる筈もなく、どうしたのと慌てているのが見えたけれど、今は何かを言える状況ではなかった。
俯くミナギの、髪に隠れていない耳が赤かったのは――見て見ぬ振りをしておいた。指摘されると余計に恥ずかしくなるやつだと、ナギトもわかっていたから。
それに、本題を進める必要もある。
「さってと……フォルスが魔力のコントロールヘタなのはコレでわかった。と、なると……次にやるコトは……?」
「あの子の魔力がぁ、精霊由来ならぁ、ここはぁ、火の精霊を呼ぶのがぁ、一番じゃぁないかしらぁ?」
「火の精霊?それなら、フォルスさんの傍に八人い――」
「あぁー!わかった!なるほど!」
「――るんじゃないの、て……。違う精霊呼ぶんだね、わかった」
アルバの言葉に、首を傾げたミナギが口を開くが、途中で響いたユヅキの言葉を聞いて自己完結。
隣で目を輝かせるユヅキを横目に、また知らない話が進んでいくなと小さく零すミナギ。
自分が知らない話があるのは当然なのに、それが寂しいなんて、小さく胸が痛むなんて――なんでだろう。
◇ ◆ ◇
その者の笑みは時として、海を沸かす。鼻歌を歌えば、世界のどこかで山が火を噴く。
その怒りは――大地を切り裂き噴き上がり、海を煮立たせ、その一切を焼き尽くす。
生物はもとより、草木ですら耐えられないような、高温のマグマの中。その者は居た。
人間で言えば四十代辺り。まるでそこが湖か何かの如く、腰までマグマに浸かった状態で、長く伸びた白い髪はマグマの上に散らばりゆらゆらと揺らめき、ライトブルーの瞳は静かに空を見上げている。
真っ白な髪を撫でながら通り過ぎる風の中、馴染みの風の精霊の声を聞く。
「……なるほど。だからあちきの出番と言うわけでありんすね」
ぽつり、その者は呟く。すると、まるでそうだとばかりに風が吹く。通り過ぎるのではなく、踊るようにその者を中心にして周りをくるくると。
楽しそうな笑い声と共に、馴染みの風の精霊は――シエロは語る。
自分達の契約主、ユヅキにまつわる話を。いつも話してはいるけれど、特に今は必要な話だから。実況中継をするように、シエロは語り続ける。フォレルスケットの事、カルブンクルスとの契約祝福の事、魔法のコントロールがヘタな事。
テンションが上がっているせいで、話が時々あっちこっちに飛ぶけれど、実にシエロらしいと言えた。
と同時に、それだけ面白い状況になっているのだと言う事も。
≪きみならさ、なんとか出来るじゃん?出来るよね?≫
「そうでありんすね。きっと、その子が力を上手う使えるようを導くには、あちきを呼ぶのが一等良い判断と思うさ」
≪だーよねー!ハハッ、久しぶりにユヅキやナギトに逢えるよ、楽しみだね。マウロアナ!≫
「そうでありんすねぇ。あの子達がどれだけ大きゅうなったのか、見るのが楽しみだよ」
風で耳元に声を届けて来るシエロの言葉に、今頃きっと満面の笑顔を見せているだろうと思うのは、マウロアナと呼ばれた火の精霊。
ユヅキが契約している七人の精霊のうちの、一人だ。
昼食を終え、フォレルスケットはそう口にしていた。
一族の中でも、力の制御が下手過ぎると言われ、困っていたのだ。少しでも方法があるのなら、僅かでも可能性があるのなら、試してみたい。そんな思いで。
【実技演習場】
魔法を練習する為の施設で、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園の中でも、かなり頑丈に造られている施設で、数は五。うち、一つは魔法銃士学科専用。縦に三十五メートル強、横に二十メートル強の広さを持ち、魔法演習用の的や、演習用の舞台等が用意されている施設。
主に授業で使用される事が多いが、申請さえすれば、生徒が自主練習での使用も可能となっている。しかし、希望する時間帯が昼休憩や放課後の場合が多く、順番待ちになる事もある。特に実技試験前では使用申請が混み合い、順番待ち解消の為に、短時間のみの使用許可が出る為、あまり自主練習にはならい事が多い。
その為、実技演習場の増設が現在進行中である。
質問者・ミナギ:なんでついさっき出した実技演習場使用許可証の許可がもう出てんの?
回答者・ユヅキ:シエロに頼んで、学園長に使用申請書を持ってってもらったから!
昼休憩とこの後の授業一コマ分の時間の、魔法銃士学科専用の実技演習場の使用許可の署名部分に書かれているのは、セシリア・ファストレア。紛れもなく、このベル・オブ・ウォッキング魔法学園の学園長直筆の署名。
その署名を見た瞬間、ミナギ、フォレルスケット、サガラの心の声は一致した。なんで、と。
だが、その申請書を書いたナギトと、シエロに託して許可を取って来たユヅキは別。
さも当然とばかりの顔をしているナギトの隣では、ぴっかぴかの笑顔を見せるユヅキが居て、本当この二人はなんなんだと頭を抱えるミナギが居るのはご愛敬。二人の常識外れっぷりを初めて見たフォレルスケットとサガラは、ぽかんと口を中途半端に開けた状態で絶句している。
本当にすみませんこんな人達で、なんて。このパーティの常識人かつツッコミ役がすっかり板についたミナギが二人に向かって頭を下げる。
「あ、でも、多分フォレルスケットさんは今後この人達との付き合い増えると思うから、慣れて」
「えっ」
「慣れて。オレは諦めたから」
「……今、なんか別の意味の言葉言わなかったか……?」
真顔で語るミナギの言葉に覚える、僅かな違和感。
それに気付いたサガラが問いかけるが、だからと言ってはいそうですかとミナギが答える筈もなく。ふいっと目を逸らすだけ。あからさま過ぎる程あからさまな態度に、隠すつもりはないと察するには十分。
ナギトとユヅキのコンビを相手にするのは大変そうだと、フォレルスケットは思う。思うけれど――多分、今の自分に必要なものを、彼等が持っている気がするから。
自分が変わるきっかけが、どこから、どんな形で来るのか、それは誰にもわからない。
けれど、そのきっかけに気付けるか、掴み取れるかは、自分自身。
でも流石に今回のは、わかる。今、この瞬間、何が遭っても、何が起こっても、目の前にある自分が変わるきっかけを逃してはならないと、わかる。
「……参考までに訊きた……訊きたいんですけど、昼休憩に実技演習場の使用申請出して、許可出る事ってあります?しかも当日で」
「自分はないかな。許可取れたの……自分は一番早くて五日前ッスね。長くても一時間ッス」
「ウチもないわ。早くても四日前やで。……ウチは、成績悪いから、長めに二時間はもらう事多いねんけど、まあ、結果は……うん」
どんどん声が小さくなり、ついには肩を落として俯いてしまったフォレルスケット。その姿に、ついつい「なんかゴメン」と思わず素の口調が出てしまうミナギ。
頭の動きに合わせて揺れるルビーレッドの髪が、本当に燃える炎のように見えたのは――きっと彼女が、カルブンクルスと言う名前の火の精霊の契約祝福を受けているからだろう。契約祝福の事を知らなければ、随分と特殊な見え方のする髪だと思っているところだ。
さり気なくサガラの声が聞こえたのは、今は必要な会話だからとシエロが声を風で散らさずに居たから。
まあ次の瞬間にはまた声が散らされて、ナギト達の耳には届かなくなったけれど。
「おら、さっさと移動するぞチビ共ー。もう昼休憩半分終わってんだ、検証する時間が減る」
「ナギト研究者モードだ!」
「……あの人、意外とこう言う時は言う事まともなんだよなぁ」
「聞こえてんぞミナギ」
実技演習場の使用許可証の申請をシエロに頼んだ後、昼食を終わらせていたナギト達。
なぜか付いて来るサガラに若干戸惑いつつ、大食堂から使用許可の取れている実技演習場まで移動。道中、ああだこうだとサガラがユヅキを口説いていたが、当のユヅキは聞く耳持たず。
あまりのしつこさに、聞き耳を立てていたシエロが途中で風を使って音を散らし、サガラの声を聞こえなくさせるまでそれは続いたのだから、相当のものだ。
力ずくで黙らせなかっただけマシかもしれないけれど。多分、シエロが後少し遅ければ、ナギトが拳で黙らせていた可能性はある。
シエロのお陰でやっとサガラが静かになり、やっと安心して実技演習場に向かえるようになったナギト達。全く声が出ないと驚きながら、それでもユヅキにぴったりと付いて歩く辺り、ちょっとサガラの執念は凄い。
「でも、なんで一目惚れしたらソキウスなんだろ?」
「あー……それな。ソキウス組んだら永遠に結ばれるー言うて、そう言うジンクスがあるやん?多分、そっちのジンクスばっか頭にあって、ソキウス契約の意味、わかっとらんのやと思う。そのー……ほら、アレやから、このサガラって……あの」
「バカなんだな」
「バカって事ね」
「バカなのねぇ」
「んにうねう」
≪バカかー。まあもうユヅキに声かけてた辺りからなーんとなくそうかなーとは思ってたけどねー≫
落ち込む事なく付いて来るサガラを見ながらユヅキが零す独り言のような疑問は、至極真っ当なもの。この言葉にはナギトやミナギも興味があったらしく、フォレルスケットへと視線が集まる。
言い出した本人であるサガラに訊くのが一番だが、まだシエロが声を風で散らしている為、説明出来ず。結果的にフォレルスケットに視線が集まったのだ。
まあ、当のフォレルスケットとしては、かなり気まずい思いをしていたけれど。
言葉を選んで、選んで、出来るだけフォレルスケットなりに言い方に気を付けて、若干言葉を濁して語るのだが、最後の最後、ナギト、ミナギ、アルバ、セラータ、シエロの声が重なる。
これにはフォレルスケットは言葉を詰まらせるしかなかったし、サガラは恐らく不満を述べていた筈だ。
残念ながら、シエロによって声は誰の耳にも届かない為、大きな口を開けているだけになったけれど。
「さーて、ちゃっちゃとやるぞー。ゆづは、火の精霊達がフォルスが撃つ時何やってるか観察して教えろ。ミナギもな」
「はーい!」
「うん」
実技演習場の管理人に使用許可証を見せ、一番に実技演習場に入って行くナギト。その言葉に、ユヅキは片手を挙げて元気に、ミナギは小さく頷いてそれぞれ答える。
ナギトに続き、足早に実技演習場に入ったユヅキ、ミナギ、アルバ、セラータは、だからこそ気付かなかった。
使用許可証に書かれた署名を見て、管理人がぎょっと目を見開いていた事に。目を見開いて、え、え、と戸惑いに声を上げながら、使用許可証と提出したナギト何度も見比べていた事に。
まあ、誰だってこの学園の最高責任者が使用許可を出していれば、驚くものだ。使用申請した生徒にもよるが、基本的にはその学科の教師や、学科の統括責任者が署名するものだから。
管理人の驚きっぷりに、普段のミナギの苦労のほんの僅かな片鱗を知ったフォレルスケットとサガラであった。
借りる事が出来た実技演習場は、増築中の新しい方の実技演習場だった。建築が終わり、後は強度検査を控えた一棟。
そこであれば、まだ誰も使用申請は出来ないし、昼休憩から次の授業一コマ分、時間を気にせず遠慮なく使えるからと、そう言う理由で。恐らく、と言うか絶対きっと、学園長であるセシリアが手を回した結果だ。ナギトは、普通に五棟あるうちの一棟の使用申請をしていたのに。
絶対強度検査の手間を省こうとしているだろうと思うのに、ここで抵抗出来ないのが悔しい。
いっそ思惑通りにこの新設された実技演習場の中で思い切り闇魔法を使ってやろうか、と考えるナギトは、多分悪くない。
「なんか新しい実技演習場借りれたらしい」
今にも怒りで爆発しそうな顔をしながら、それでも怒りで声が震えないように我慢して語られるナギトの言葉に、ひぇっと小さな悲鳴を上げたのは、誰だったか。とりあえずユヅキ、アルバ、セラータでない事だけは確かだ。
ただでさえ目付きが悪いのに、右目を黒い眼帯で覆っているせいで見た目の怖さは増す。そこに怒りが加われば、後はお察し。
ある程度見慣れている筈のミナギですら、へたに刺激しないようにとお口にチャック。
ユヅキだけは平然としていて、怒りに震えるナギトの肩を、背伸びをしてぽんと叩く余裕まで見せている。あれは多分、絶対きっと、ユヅキにしか出来ない事である。
「……サスガに設備までは揃ってないか。ソコまで贅沢言えねぇか……。チッ」
魔法の練習用に使う標的物等の主要な設備の搬入はされておらず、本当にまっさらな状態の実技演習場を見て、ナギトは舌打ち一つ。
まあそれも仕方ないと我慢して、ナギトはさてどうしようかなとぐるりと実技演習場内部を見回す。縦に三十五メートル強、横に二十メートル強。五人と精霊達だけで使うには、広過ぎる程だ。だが今回は、それで良い。
考え込むナギトを見上げ、うーんと同じように考え込むのはユヅキ。
けれど、数秒後には何か閃いたらしく、ミナギ――ではなく、ミナギの傍に居る五人の小さな精霊達。
≪水と地の精霊ちゃん達、このっくらいの大きさの球作れる?フォルスさんの魔法の的に使いたいんだ。いーっぱい!色んなところに創っちゃって!≫
このくらい、とユヅキが両手の親指と人差し指使って示したのは、直径十センチ程の円。
ユヅキの言葉に、水の精霊は了承の意味を込めて水の輪っかを創り、地の精霊は小さな親指を立ててこれまた了承の意を伝えて来る。かと思えば、次の瞬間には、数えきれないくらいの量の水の球と土の塊が、実技演習場の中一杯に出現。
大雑把に数えても、二十か三十くらいはあるのではないだろうか。
ぽかんと口を開けて驚くフォレルスケットとサガラの隣では、ミナギが片眉を跳ね上げて首を傾げている。
以前は、同じ大きさの球を三個創るのが精一杯、五個も創れたら凄く頑張った、なんて言うレベルだったのに。
アルバいわく、ミナギが結界術を使う練習をする為に五人の小さな精霊達もやっていた、力を使う練習。その結果、ここまで力が強くなったらしい。
同じくらいの大きさの精霊と比べると、かなりハイペースな成長だと語るのはシエロ。
「ミナギくんとの練習もだけど、一番はミナギくんの役に立ちたいって思ったからだろうね」
「……友達?」
「友達だろ。友達じゃなかったらなんなんだ、相棒か?」
「あぁらぁ、五人でもぉ、相棒になるのかしらぁ?」
なるだろ。なるのかしらぁ。きっとなるよー。そんな会話をしているナギト、アルバ、ユヅキの前で、なぜか衝撃を受けたかのように言葉を失っているのは、ミナギだ。
友達。友達と言っても、良いのだろうか。と言うか、友達ってなんだっけ。なんて。変な思考が始まっているミナギを横目に、ユヅキから話を通訳してもらった五人の小さな精霊達は大興奮。誇らしそうに胸を張っているところから見て、もしかしたら、自分達はミナギの友達だと、言っているのかもしれない。
突然ミナギが両手で頭を抱えてしゃがみ込んでしまったのは、キャパオーバーしてしまったからだ、きっと。
「あの、ミナギ君は」
「ほっとけほっとけ。それよりフォルス、適当に精霊達が創った的狙って撃て。弾丸はなんでもイ……くはナイな。マヒア・バラは単純な魔力の弾丸になるから……フエゴ・バラで。威力とかなんにも考えず、たちまちテキトーに撃って」
「『たちまち』?」
ミナギの心配をするフォレルスケットを、あっさり一言でナギトは切り捨ててしまう。心配する気持ち以前に、興味がないから。
まあ、五人の小さな精霊達の行動が見えていないのも、興味のない要因の一つだけど。
それよりも、フォレルスケットの持つ精霊由来の力の検証がしたいと心が逸っているのかもしれない。精霊や精霊術師、および精霊術関係の研究者だから、これでも、一応。
けれど、フォレルスケットとサガラは、聞き慣れない単語に揃って首を傾げる。なんとなく方言なのだろう事はわかるが、意味がわからない。たちまち、と小さく呟いて固まってしまう。方言を喋っているフォレルスケットではあるが、違う種類の方言は理解出来なくても当然。
固まった二人から向けられる視線に、ナギトが自分の言葉が伝わっていないのだと理解するのに、数秒の時間を要した。
やっと自分の方言のせいだと理解した後は、また数秒考えて、悩んだ結果、呼ぶのはユヅキの名前。
「……ゆづぅ!」
「はーい!えっと……なんだっけ?」
≪『たちまち』だよ≫
「あ、たちまちか!たちまちはね、んー、確か……とりあえず!とりあえずって意味!」
五人の小さな精霊達と話していた為、何の話か一瞬わからなかったユヅキだが、すぐにシエロから入る助け舟。
すると、ぱぁっと顔を輝かせ、少し考えた後、ナギトの語ったたちまちの方言を言い換えた言葉を語る。たちまちは、とりあえず。と言う事は、さっきナギトは、とりあえずフエゴ・バラを撃てと言った事になる。
フエゴ・バラは、魔法銃士が使う火属性の初歩中の初歩。火の弾丸を撃つ魔法だ。
先程少しだけ出て来たマヒア・バラは、本人の魔力を弾丸にした、純粋な魔力の弾丸。フォレルスケットの力を見るには、火属性の方が良いと、そう言う判断で。ナギトの言葉は尤もだと言える。
だが、しかし。フエゴ・バラを撃つ事は何も異論はないのだが、一つだけ、問題があった。
フォレルスケットの愛銃であるバレットM82A1が大型なせいで、両手で支えて撃つのが難しく、銃を支える支持装置であるバイポッドを立てる足場がないと、満足に一発撃つのも困難だそうで。
新設されたばかりで、まだ満足に設備が整っていないこの実技演習場に、バレットM82A1の足場に出来るようなものがある訳もなく。
こればっかりはどうしようもない――と、諦める訳がなかった、あのナギトが。
少しの間顎に手を当てて考え込む素振りを見せたかと思えば、一度顔を上げ、しかし思い直したらしく、見るのは五人の小さな精霊達とユヅキの通訳付きで会話しているミナギだった。
あ、ヤな予感。
向けられる、口よりも饒舌に何かを訴えるナギトの視線に、まずミナギはそう思った。
何を言われるのだろうと考えるよりも、今までの話の流れからなんとなくミナギは察していた。既にナギト達との付き合いも四か月が過ぎようとしている。ユヅキもだが、なんとなく言われそうな事にある程度予測を立てられるようになっていた。
「…………そのばいぽっど?ってヤツ立てる足場って、どのくらいの大きさがあればいいの?高さは?」
「え?えーっと……まあ、最低限、このくらいあったら……。高さ……は、自分の……あ、ミナギ君、の腰より少し低い……くらい?」
「はいはい。クアドリラテロ・バレッラ」
なぜ足場の大きさを訊くのだろう。そう言いたげな顔をしながら、このくらい、とフォレルスケットが両手で示したのは、幅大体三十センチ強。
するとミナギは、二つ返事で結界術を発動。しかもフォレルスケットの希望通り、大きさは三十センチ四方の四角い結界で、ミナギの腰の高さより梳くし低い位置。ただしいつもと違うのは、人の前に盾のように展開するのではなく、テーブルのように、横に展開している事だ。
え、と驚きに言葉を失うフォレルスケットの前では、これで良いかと平然とした顔で問いかけるミナギが居る。
結界を、銃のバイポッドを立てる足場に使えと、そう言いたいのか、もしかして。
「はっ?!や、結界を足場に使うやなんて、そないなこ」
「うるさいな。そんな当たり前の事言わないでくれる?このパーティじゃそこら辺の小石使って空を飛べなんて言われるようなもんなんだから、結界を足場に使うくらいどうって事ないから。むしろこのくらい当たり前なの。ほら、わかったら早くやって」
「あ、はい……?」
至極当然なフォレルスケットの驚きと遠慮の言葉は、結界を創った本人であるミナギに切って捨てられた。
しかも、有無を言わさない勢いで喋り続け、フォレルスケットが口を挟む余裕を与えない。その勢いは――。
「今の感じぃ、ちょぉっとナギトに似てたわねぇ?」
「止めて。オレまだ常識人で居たい」
「お前今しれっと俺を非常識扱いした?てか、そこらの小石使って空飛べとか言ったコトナイんだが?」
「そろそろ自分が常識外れだって自覚してもらっていい?」
のほほんとしたアルバの言葉に、心底嫌そうな顔をするミナギ。そしてしれっと非常識扱いされたナギトは片眉を跳ね上げる。
睨み合うナギトとミナギの間で火花が散ったように見えたのは、果たして気のせいだろうか。
止めた方が良いのだろうかと悩むフォレルスケットだったが、制服の袖を引っ張る誰かの――ユヅキの手に、意識が向かう。
「ねえねえ、撃たないの?」
「えっ!あ、撃つ、けど……えっと、あっちは」
「ほっといていいよ。ねっ?ほら、早く早く!」
睨み合っている二人をよそに、水と地の精霊が作った的を撃てとユヅキはフォレルスケットを急かす。マイペースと言えばマイペース過ぎるユヅキに、困惑すると同時、少し前のミナギの言葉の意味と日々の苦労がよくわかるとフォレルスケットは内心零す。
相変わらず声がシエロにかき消されているサガラも、ナギト達の声は聞こえている為、なんだか大変そうだなぁと眺めている。
フォレルスケットよりも薄い感想なのは、多分、と言うか絶対きっと、サガラ本人の興味関心がユヅキにしかないから。
ずっとユヅキに向けられているサガラの目が、その証拠。
ユヅキを見つめる目は、何よりもユヅキが可愛いと訴えていて。完全に恋する男子の目だった。
「……よ、よし!ほんなら撃つでっ?」
「うん!ミナギくん!ナギトはもういいから。ほら、コッチコッチ!」
「あ……うん。……ユヅキさん、一番ナギトさんの扱いが雑だよな……」
≪いつもの事だからダイジョブだって。ほら、それよりもあの子だよー≫
まだ結界を魔法銃の足場に使う事に対して戸惑いはあるが、戸惑っていたままでは話が進まないと、フォレルスケット自身もわかっていて。バレットM82A1のバイポッドを立てつつ、緊張か不安かわからないが、ドクドクと嫌な脈を打つ心臓の音を聞く。
これはもしかしたら、実技試験よりも緊張するかもしれない、なんて。
ゴクリ、と。フォレルスケットが息を呑む。
結界の上にバイポッドを立てたバレットM82A1を下ろし、片膝を床に突く。数ある的の中から、目についた水の球に狙いを定め、スコープを覗き込み、深呼吸。
今フォレルスケットの居る位置から見て、真正面。距離はおよそ二十メートル先にある土の塊を、レティクルの中央に捉える。一度目を閉じてから短く息を吸い、少し溜めてから細く長く息を吐く。うん、少し落ち着いた。目を開け、もう一度レティクルの中心で狙いの水の球を見据える。
これが実戦の最中であれば、そんな時に的から目を離すなんてと責められる場面だけれど。
数メートル離れたところで、ミナギ、ナギト、ユヅキ、サガラが並んでフォレルスケットを見守っている。セラータはいつの間にか高い天井近くの梁の上に居て、アルバはユヅキの肩の上だ。
「……よし」
「変にりきむなよー。いつも通りでイイからなー」
「わ、わかっとるて……!」
さあ魔法銃に魔力を籠めようとしたところで響く、ナギトの声。タイミング良く響いた声は、今まさに気合を入れよとしていたフォレルスケットの出鼻をくじくには丁度良過ぎた。
なんでバレたんだと思いつつ、でも実際体に力は入っていたので、何も言い返せないフォレルスケット。なんとも言えない敗北感が胸に広がるが、我慢我慢。だってこれは、実技試験ではないのだから。
イメージするのは、蝋燭の火。指先に灯るくらいの、小さく揺らめく火。
魔法銃を掴む手から、フォレルスケットの魔力が細い火の帯となって伝わって、バレットM82A1の中で、一つの弾丸になるのを待つ。慣れてしまえばなんて事のない、ほんの瞬き一つ分で出来てしまう単純作業。
けれどそれがフォレルスケットともなれば、話は別。
小さな蝋燭の火が、爆発でもしたかのように暴れ出す。一瞬で空気を含み膨れ上がる火は、炎へと姿を変えた――まさにその瞬間だった。
「…………っ!」
「「ああっ!!」」
「フォレルスケット止まれ!!」
フォレルスケットが顔を歪めたのと、ユヅキとミナギが驚きの声を上げたのと――姿を消していたグラールがナギト達の前に現れ、強固な土壁を創り上げたのは、ほぼほぼ同時。
瞬間。
何がどうなっているのか、考えたり尋ねたりするよりも早く、即座にナギトがフォレルスケットへ飛ばす指示。その鋭さは、バレットM82A1のトリガーにかけていたフォレルスケットの右手人差し指を震わせるには、十分で。
トリガーとフォレルスケットの右手人差し指の僅かな間で起きたのは、小さな小さな突風。フォレルスケットの右手をトリガーから押し退けるようにして膨れ上がった風は、ナギトの声に驚き動きを止めていた彼女の右手自体をバレットM82A1から完全に押し退ける事に成功していた。
当のフォレルスケットは、何が起きたのかもわからず、驚きを隠せない愕然とした表情でバレットM82A1と自分の右手を見比べていた。
表面上の変化は、何もない。
同じ魔法銃士であるサガラも、これと言って表情に変化はなく、何が遭ったのだろうと首を傾げているばかり。ナギトの目にも同じで、何の変化も映らなかった。突如現れたグラールと、グラールが創り出した土壁に阻まれる寸前までは。
あえて言うなら、フォレルスケットが苦しそうに表情を歪めたくらいしかわからなかった。あくまでも、目に映る情報では。
だがあの二人は――ユヅキとミナギだけは、何かに驚いていた。
つまり、精霊側で何かが起きていた、と言う事だ。
慌てた様子のユヅキがフォレルスケットに――否、彼女の周りに居る八人の火の精霊達へと何かを必死に訴えている。
まあ、ナギト、フォレルスケット、サガラの目には精霊が見えない為、ユヅキが明後日の方を見て何か歌っているようにしか見えないのだけれど。こればっかりは素質の問題だ。
「うわ……多分、今のは……」
「ミナギ?何が遭った?」
「えっ、あ、ああ、そっか……。精霊達の声は聞こえないけど、わかる、確証ある。オレの傍に居る五人も、よく同じ顔してるから……。もしそうなら、ストーブに火薬投げ込んでるようなもんじゃん……。えぇ……こわっ」
「ミナギ、落ち着け」
確証はあると断言したものの、続くミナギの言葉は説明と言うよりは、どちらかと言えば独り言に近いもの。
なんとなく言いたい事はわかったが、とりあえず宥める事が先か。
ミナギの頭を鷲掴みしてから、わしわしと押さえ付けるようにして撫でる。縮む縮むと悲鳴が上がっても、お構いなしに。必死の抵抗で頭を押さえ付けるナギトの手首を掴むが、びくともしなくて。最終的にバカ力とミナギが声を荒げ、振り上げた足でナギトを蹴り飛ばしてやっと解放されるまで、手は離れなかった。
まあ、振り上げた足は、ナギトの体に当たる手前で、ミナギの頭を撫でているのとは反対の手に阻まれてしまったけれど。
二人のやり取りを見ていたグラールが、まるで孫を見る祖父の顔をしていたのが、ちょっとだけ、否結構かなり気に食わないと思ったのは、ナギトとミナギ、どっちの心の声だったのか。
「クッソ……!」
「はいはい。んでぇ?何が遭った」
「……っ!フォルスさんが、一回目を閉じた後……かな。あの人の周りに居る火の精霊達が、『任せてー!』みたいな感じで、フォルスさんの魔法銃に手をかざして……」
「あー……もしかして、魔力が急に膨れ上がったのって、理由ソレか?」
納得したようなナギトの口振りに、どう言う意味かとその顔を見上げる事で訴えれば、応えは至極簡単。魔法剣士だからこそ、魔法や魔力の流れを感じ取る力があるから、との事で。
突然、魔法銃のバレットM82A1に注がれるフォレルスケットの魔力が膨れ上がったと思えば、銃を持つ本人が苦しそうな顔をする。と言う事は、一歩遅ければ、バレットM82A1が暴発していた可能性は高い。
魔法銃自体は爆発しないかもしれないが、あの膨れ上がった魔力の量を考えれば、ただのフエゴ・バラのつもりが、エクスプロシオン・バラなり、ラファガ・バラになっていた可能性がある。
もしそうなっていたら、防壁設備のないこの新設の実技演習場では、身を守る方法がなかったかもしれない。
気付いてからナギトが対処しようとしても、きっと間に合わなかった。
ふと思って真上を見れば、天井近くの梁の上に居たセラータが立ち上がってこちらを見下ろしていた。危険を察知して、いつでも動ける、そんな状態で。
アルバも、気付けばユヅキの肩から飛び上がっていた。
ほんのついさっきまで孫を見守る祖父のような顔をしていたグラールも、ナギトの視線とその意味に気付いたのだろう、険しい顔をして創り出した土壁を消し去り、フォレルスケットを見つめていた。
「フォルスー!だっ、大丈夫っスか?!」
「あ、ああ……うん、大丈夫や……。でも、今のは……いつもより、炎が、暴れそうになって……」
周りの緊迫した空気やフォレルスケットの表情から、何かが起こったらしい事を察したサガラが、フォレルスケットへと駆け寄る。
だがフォレルスケット自身も、何が起こったのかわかっておらず、呆然とするばかり。
多分、今この場で冷静なのは唯一、ナギトのみ――に見せかけて、実はナギトも内心焦っているのは、多分ユヅキも、セラータも、アルバも気付いていない。唯一気付いていたのは、恐らく、グラールだけ。
自分を見上げるナギトを見下ろしながら、すぅっとグラールは目を細める。ナギトの左目に、困惑と緊張と悔しさが滲んでいる。
火の精霊であるカルブンクルスと契約祝福したからこそ、精霊由来の力を持つフォレルスケットに、火の精霊の力は干渉出来るんじゃないかと言う仮説が立証されたのかもしれない。
魔力の流れは見えていた。危険だともわかっていた。けれど、体が動かなかった。動けなかった。何かしら対処しなければ、ケガをしていた可能性はあっただろうに。
自分だけではない。自分の右隣にはユヅキ、左隣にはミナギが居たのに。彼等を守る行動すら取れなかった。闇属性の魔法にだって、多少は身を守る為の魔法があるのに、その魔法を発動する余裕もなかった事に対する、悔しさ。
グラールが、ポンポンとナギトの頭を叩き、それから背中をぽんと叩く。言葉はない。けれど、少し困ったように、愛しいものを見るように、柔らかく微笑む。
いつものナギトであれば、すぐに振り払うような手と笑顔だが、今だけは別。
一度チラリグラールの顔を見上げた後、目を逸らしてしまう。
幸か不幸か、ミナギは掴まれていた頭を抱えて俯いていた為、ナギトとグラールの一連のやり取りは、見ていなかった。
「グラール、説明しろ。ミナギが言ってたのはホントか?」
「ああそうとも。しかし今回は、ユヅキの前だった事もあって、余計に張り切ったらしい。どうやら今までも、あの子供が魔法銃を使う時に手伝っていたそうだ。だが、それで原因で落ち込んでいるとは思わなかったそうだ」
「まあ……そうだろうな。契約祝福の力が強く出てるとは言っても、火属性の魔力が強いってだけで、後は『見えない』、『聞こえない』、『わからない』だからな」
「意思疎通が出来ないからこそのすれ違いが起きてた……って事、だよね?」
顔を上げたミナギの言葉に、ナギトとグラールがうんうんと頷く。
まだフォレルスケットの周りの八人の火の精霊と話しているユヅキへと、目を向けるミナギ。どうやら自分達のお手伝いが原因だった事を知ったせいか、八人はそれぞれショックを受け、落ち込んだり言葉を失ったりとリアクション様々。
見たそのままを実況中継すれば、そうなるわな、とまたナギトは頷いていた。グラールは、苦笑。
「本人達的にはぁ、お手伝いしてたからぁ、それが原因であの子が落ち込んでただなんて言われたらぁ、そりゃぁショックよねぇ」
「余計なお節介になってたわけだもんな」
「傷口に塩塗り込むような事言わないであげてくれる?ホントショック受けてんだから、あの子達」
ショックを受けている姿が見えないせいか、ハッキリ言い切るナギト。それは、彼等八人の火の精霊に伝えれば、余計に落ち込むのが目に見えていて。
流石に精霊達に同情した、ミナギは。
彼等が精霊術師と契約していない精霊で良かったと、心の底から思う。契約している精霊であれば今頃、ナギトの言葉を受けて更に深く落ち込んでいた筈だ。
そんな話をしている間に、ユヅキがフォレルスケットやサガラに何が起きていたか、どう言う状況だったかを説明していた。サガラは勿論だが、フォレルスケット自身、まさかそんな事が起きているなんて信じられず、ポカーンとするばかり。
今日だけで、何度驚けば良いのだろう。このベル・オブ・ウォッキング魔法学園に来てから、一番の驚きの連続かもしれない。
「ゆづ、フォルスの力を見たいから、火の精霊達に手伝いするなって頼めるか?」
「はーい!」
元気に片手を挙げてナギトに向かって返事をしたかと思えば、くるりと踵を返して今度はフォレルスケット――の、周りに居る火の精霊達へと語りかける。
普通の人間から見れば、何もない空間を見つめて、聞き慣れない言語で歌っているように見える姿。それは、見慣れない人間からしてみれば、異質とも、神聖とも取れるものだが、どうやらフォレルスケットとサガラにはとても神聖なものに見えたらしい。
特にサガラにとっては、ユヅキに一目惚れをしたのもあって、一際神聖に見えたらしい。
ユヅキを見つめるトパーズ色の瞳が、キラキラと輝いていた。
「ナギトー!準備おっけー!」
「フォルスは?」
「お、おう!準備ええで!」
満面笑顔と共に、両手を使って頭の上に丸を作って見せるユヅキ。その隣では、いくらか緊張した面持ちのフォルスが居る。
まだ、ミナギが創ってくれた結界は生きている。
もう一度そこにバレットM82A1のバイポッドを乗せ、スコープで捉えるのは、先程狙っていたのと同じ水の球。大丈夫、落ち着いている。さっきよりも、ずっと。
実はさり気なくナギトの指示を受けたユヅキが、水と土の球を創り出した精霊にあるお願いをしていたのだが、それをフォレルスケットが知る筈もなく。彼女がそのお願いの内容を知るのは、無事にフエゴ・バラを一発撃った後だった。
「……撃てた」
呆然としながら、フォレルスケットは呟いていた。
体を起こし、スコープから顔を離す。見間違いでも勘違いでもなく、確かについさっきまでそこにあった水の球は姿を消していた。他にも――半径一メートル圏内にあった土と水の球も消し去っていた為、威力は普通のフエゴ・バラよりはあったのだけど、ひとまずは、撃てた現実があれば良い。
放たれた、弾丸一発。
それは、他の魔法銃士から見れば簡単な、当たり前の一発。だがフォレルスケットからしてみれば、奇跡の一発だった。
何の反発感もなく、暴走する感覚もなく、ただただ撃てた。その事実が、フォレルスケットにとっては嬉しかった。手が震える。いつの間にか流れていた涙は、喜びから溢れるもの。
「撃てた……撃てた。撃てた!撃てたで!ウチ、ちゃんと撃てた!!」
興奮した様子で立ち上がり、バレットM82A1を手に撃てた撃てたとはしゃぐフォレルスケットは、まるで小さな子供のよう。けれど、誰もその姿を子供だとバカにする事はなかった。
たかが一発、されど一発。この一発がどれだけの重みを持っているか、計り知れない。
それは、フォレルスケット本人でしか理解出来ないもので。なんとなく理解する事は出来ても、完全に気持ちを理解する事は難しい。
「やったッスねフォルス!」
「うん!うん……っ!撃てた……っ!!」
目を輝かせて駆け寄って来るサガラに、何度も頷いてフォレルスケットは答える。ハラハラと流れ続ける涙は、それまでフォレルスケットが胸の内に抱え込んでいた苦しみをはらんでいた。
この一発を撃てた事への複雑な感情はきっと、彼女だけにしか理解出来ないだろう。
喜んでいる魔法銃士組を横目に、パチパチと拍手をしているのはユヅキ、ミナギは的を創り出した水と地の小さな精霊に笑顔を見せていて、何やら考え込んでいるのはナギト。
一度真上を見上げ、実技演習場の梁の上に居たセラータを呼ぶ。すぐに降りて来たセラータは、流石は精霊と言うべきか、重力に引っ張られて床に叩き付けられる事もなく、ふわり、音もなくナギトの頭の上に着地。
「なぁお」
「着弾地点覚えてるか?」
「わう」
足下から響くナギトの声に、一声鳴いて答える。と同時にナギトの視界に突然現れる、黒点。もとい、闇の球。ナギトの使う闇の爆弾魔法、オスクロ・ボンバにも似ているが、創り出したのがセラータであると考えると、きっと別物だろう。
早歩きでセラータの創り出した闇の球のところまで向かうと、素早くナギトは周囲を見回す。
その間もセラータはナギトの頭の上に居て、動きの振動など全く意に介さないようで、ぴくりとも動かない。まるで、お座りした状態のまま空間を滑っているように動いているようにすら見えて来る。
ナギトがぐるり周囲を見回すと、一部の土の球が焦げているのが見えた。
大体着弾地点から、一メートル四十センチ前後の距離か。威力を考えると――少し、範囲が広過ぎるか。
フエゴ・バラは、着弾地点、敵に着弾した瞬間燃え上がる火の弾丸。
今回の標的が水の球だったとしても、燃えた範囲が広過ぎる。断言出来る。
「んー、セラータ、火の精霊達は手伝ってなかったんだよな?」
「なん」
「ソレでコレなら、やっぱ自分の力のコントロール出来てねぇんだな」
表面が焦げた土の球の前まで移動してから、そっと触れて、指先に付いたススを払い落とす。そう言えば、土の球は残っているが、水の球が消えている。着弾地点から考えて、ナギトの周りにいくつか水の球があってもおかしくないのに。
フエゴ・バラの炎上に巻き込まれたとしても、範囲がおかしい。
魔力のコントロールがヘタだとフォレルスケットは自分で言っていたが、確かにそうだと納得するナギト。
セラータを頭の上に乗せたまま考えているナギトの独り言は、離れたところに立っていたユヅキ達の耳にも届いていた。それは別に良いのだが――次に聞こえた言葉に、流石のナギトもツッコミをせざるを得ない状況だった。
フォレルスケットに
「でも、なんで魔法の威力がデカかったらダメなんスか?威力が強ければモンスターも簡単に倒せるしいいことだらけじゃないッスか!だからフォルスも落ち込む必要ないッスよ!もっとドカーンと撃っちゃうッス!」
何言ってんだこいつは。
その瞬間、ナギト達の心の声が一致。
全員自分の聞き間違いであってくれと願い、我が耳を疑ったが、フォレルスケットに向ける満面の笑顔から、心の底からそう思っているのだと、ナギト達は勿論、アルバやセラータ、グラールが理解するには十分。
だが、流石にサガラの発言は異常だ。
魔法の威力が大きければ敵も倒しやすい。それは間違いではない。だが、それは時と場合によるだろう。
仮に、モンスターに先手必勝とばかりに攻撃をしたとして、それが一〇〇パーセント効果的とは言いがたい。
フォレルスケットの魔法属性は火だ。
もし相手が火属性に耐性があるモンスターだった場合、効果は薄い。逆に、相手が火属性のモンスターだった場合、火に油を注ぐ事になり、敵を狂暴化、もしくは強化させてしまう可能性がある。
しかも、魔法銃士が一人で戦う事はあまりない。威力が高過ぎる魔法は、前線で戦うパーティの仲間を巻き込む可能性まである。
時には、コントロール出来なかった魔法が、魔法を使った本人に牙を剥く事まである。
魔法のコントロールは、魔力を持つ者にとっては必要不可欠。必須であり、基礎中の基礎とも言えるもの、なのに。
もしかして、自分達が知らないだけで、魔法銃士学科はそう言う教育方針なのだろうか。そうナギト達の中の思考が一致。無言のままに見つめるのは、当然サガラと同じ魔法銃士学科に在籍しているフォレルスケット。
何も言われていない。三人とアルバ、セラータ、グラールの精霊達も無言。
無言ではあるけれど、自分に向けられる視線と、話の流れから、先程のサガラの言葉が関係しているのは間違いなくて。慌ててフォレルスケットは違う違うと叫びながら必死に頭を横に振る。頭の動きに合わせてルビーレッドの色をしたフォレルスケットの髪が揺れ、抱える怒りに合わせて炎が揺らめいているように見えた。
「違うから!コイツだけやから!!コイツがへんな事言うとるだけ!!そんな仲間が巻き込まれたり、魔法が暴発する可能性もあったりすんのに、気にせず撃つとかないから!!サガラァ!!自分もアホな事言うなや!先生達やって、魔法のコントロールうまなれてよう言うとるやんか!!」
「えぇー?けど、強いんだから問題ないッス!」
「問題あるわボケェー!!」
全力で叫ぶフォレルスケットが、ゼエハアと肩で大きな呼吸を繰り返す。
実技演習場の空気を揺るがす程の大音声に、これはどうやらフォレルスケットの言う事が本当らしいと思うのはナギト達。となると、先程のサガラの言葉は、どうやら彼自身がそう言う思考なだけと言う事か。
かなり危険な気がする。
否、気がするではない、危険だ。
「そう言や自分、ようパーティ変わっとるけど、それで問題なっとるんちゃうやろな?!アホな事やって追放されとんちゃうんか!?」
「違うッスよ!アイツ等、自分が活躍するのがイヤだからすーぐ意地悪言うんスよ!だーかーら!コッチから辞めてやったんス!!」
「イヤイヤイヤイヤ!!パーティそんな簡単には辞められんで!?おかしいやろ!自分ちゃんと授業聞いとったか?!魔法のコントロールは大事なんやって、なんべん授業で言われた思うてんねん!!基礎中の基礎やろがボケナス!!」
フォレルスケットの言葉に、真っ向から言い返すサガラ。
それは、強がっているわけでもなく、虚勢でもなく。本当に、心の底からそう思っているのだと伝わって来る。
だが、だからこそ、なおさら怖いと思うナギト達。
二人の会話を繋ぎ合わせると、どうやらサガラは相当の問題児らしい。誰から教えられたのかもわからない思考を貫き、パーティで問題を起こし、追放され、また別のパーティに加入して問題を起こして追放を繰り返しているのだとしたら、かなり厄介なのは明白。
そんな男が、ユヅキに一目惚れをしたからソキウスになりたいと乗り込んで来ている現状。
嫌な予感がする。
物凄く、とてつもなく嫌な予感だ。
「…………ナギト」
「ダイジョブだよ。ソキウス契約は契約する二人の承認が必要だし、パーティにだって簡単には入れないから」
不安そうな顔をして自分に駆け寄って来たユヅキの頭を、ぽんとナギトは撫で叩く。彼女に向ける笑顔は柔らかく、ユヅキを安心させるには、十分だった。ふにゃりと緩んだ笑顔が、その証拠。
聞こえた二人の会話に、ほっと胸を撫で下ろすのはミナギ。
ソキウスになれないとなると、パーティに強引に加入して来るのではないか、と。そんな懸念がミナギの中にあったから。でも、これで一安心。サガラ本人の性格や思考もだが、ミナギ自身、あまり知らない人間が近くに居ると言うのが嫌だと言うのもある。
早い話、人見知りなのだ、ミナギは。
「シエロ、たちまちそいつ黙らせろ。話が進まん。ゆづにこんな顔させてるヤツの話なんて、これ以上聞く必要ないだろ」
≪それもそーだねー。…………殺したらダメなんだもんなー≫
「……シエロ、さすがに冗談だよね?それ」
無言止めて怖い。ミナギの声に、だがしかしシエロが貫く無言。
蒼くなるミナギを見て、薄く笑いながら、ナギトがちょいちょいと手招き。軽く首を傾げ、怪訝な表情になりながらも、大人しくナギトの手招きに従うミナギは、ちょっとユヅキに似て来た気がする。
だからだろうか、近付いて来たミナギを見るナギトが、柔らかく微笑んだのは。柔らかく微笑んで、ユヅキの頭を撫で叩いているのとは反対の手で、ミナギの頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜるように撫でる。
撫で方の違いは大きいが、それでも、向けられる笑顔は、変わりなくて。驚いた、正直な話。
「え……」
「パーティ加入させるかどうかは、多数決取るから、俺の一存で決めるコトはナイから安心しとけ」
「……う、ん……。わかった、アリガト……」
ぎこちない答えになってしまったのは、仕方ない。だって、あんなに優しい笑顔を向けられるなんて、ミナギは思ってなかったから。それが向けられるのは、長い付き合いであるユヅキだけ、そう思っていた。
つまりそれは、自分もナギトの内側に入れてもらったと、そう言うわけで。
あれ、なんだろう。なんと言うか、物凄く、恥ずかしい。
顔が一気に熱くなるのがわかって、反射的に俯くミナギ。
本当は、恥ずかしいだけではなく、嬉しいと言う感情もあるのだけれど、それを今のミナギが自覚出来る筈もなく。とにかく、赤くなっている顔をナギトから、アルバやセラータ達から隠したかった。
まあ、五人の小さな精霊達には隠せる筈もなく、どうしたのと慌てているのが見えたけれど、今は何かを言える状況ではなかった。
俯くミナギの、髪に隠れていない耳が赤かったのは――見て見ぬ振りをしておいた。指摘されると余計に恥ずかしくなるやつだと、ナギトもわかっていたから。
それに、本題を進める必要もある。
「さってと……フォルスが魔力のコントロールヘタなのはコレでわかった。と、なると……次にやるコトは……?」
「あの子の魔力がぁ、精霊由来ならぁ、ここはぁ、火の精霊を呼ぶのがぁ、一番じゃぁないかしらぁ?」
「火の精霊?それなら、フォルスさんの傍に八人い――」
「あぁー!わかった!なるほど!」
「――るんじゃないの、て……。違う精霊呼ぶんだね、わかった」
アルバの言葉に、首を傾げたミナギが口を開くが、途中で響いたユヅキの言葉を聞いて自己完結。
隣で目を輝かせるユヅキを横目に、また知らない話が進んでいくなと小さく零すミナギ。
自分が知らない話があるのは当然なのに、それが寂しいなんて、小さく胸が痛むなんて――なんでだろう。
◇ ◆ ◇
その者の笑みは時として、海を沸かす。鼻歌を歌えば、世界のどこかで山が火を噴く。
その怒りは――大地を切り裂き噴き上がり、海を煮立たせ、その一切を焼き尽くす。
生物はもとより、草木ですら耐えられないような、高温のマグマの中。その者は居た。
人間で言えば四十代辺り。まるでそこが湖か何かの如く、腰までマグマに浸かった状態で、長く伸びた白い髪はマグマの上に散らばりゆらゆらと揺らめき、ライトブルーの瞳は静かに空を見上げている。
真っ白な髪を撫でながら通り過ぎる風の中、馴染みの風の精霊の声を聞く。
「……なるほど。だからあちきの出番と言うわけでありんすね」
ぽつり、その者は呟く。すると、まるでそうだとばかりに風が吹く。通り過ぎるのではなく、踊るようにその者を中心にして周りをくるくると。
楽しそうな笑い声と共に、馴染みの風の精霊は――シエロは語る。
自分達の契約主、ユヅキにまつわる話を。いつも話してはいるけれど、特に今は必要な話だから。実況中継をするように、シエロは語り続ける。フォレルスケットの事、カルブンクルスとの契約祝福の事、魔法のコントロールがヘタな事。
テンションが上がっているせいで、話が時々あっちこっちに飛ぶけれど、実にシエロらしいと言えた。
と同時に、それだけ面白い状況になっているのだと言う事も。
≪きみならさ、なんとか出来るじゃん?出来るよね?≫
「そうでありんすね。きっと、その子が力を上手う使えるようを導くには、あちきを呼ぶのが一等良い判断と思うさ」
≪だーよねー!ハハッ、久しぶりにユヅキやナギトに逢えるよ、楽しみだね。マウロアナ!≫
「そうでありんすねぇ。あの子達がどれだけ大きゅうなったのか、見るのが楽しみだよ」
風で耳元に声を届けて来るシエロの言葉に、今頃きっと満面の笑顔を見せているだろうと思うのは、マウロアナと呼ばれた火の精霊。
ユヅキが契約している七人の精霊のうちの、一人だ。
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