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本編
本編ー11
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ベル・オブ・ウォッキング魔法学園の中でも、教職員や事務員が多く集まる三階建ての職員棟。
その最上階の角部屋。三方と天井がガラス張りで出来た学園長室には、部屋の主である学園長と、呼び出されたナギトの姿があった。
いつ来てもこの部屋は眩しいくらいに明るいし、本当に一人で使うのかと言いたくなる程にテーブルは広い。縦幅もだが、何よりも問題はその横幅だ。端から端までで十メートル程はありそうな、緩いカーブを描いたテーブルの中央に、両肘を突きながら学園長は座っていた。
頭を少し傾けたり、上半身を動かしたり、ただそれだけで、床に届く程に長く伸びた波のように左右交互にうねる癖のついたシャルトルーズイエローの髪は、その表情を変えていく。黄色っぽい色かと思えば、緑に近い色へと。
多くの人が綺麗だと評する彼女の髪も、ナギトからしてみれば特に何とも思わないらしい。
大袈裟なまでに大きなため息を零し、うんざりだと訴えるナギトに、学園長であるセシリアはからからと笑う。
「あははっ、この私に真っ向からそんな物言いをするのは、今やお前くらいだ。相変わらずだ。これが他の教師や生徒なら、私の気分を害さないようにと慎重に言葉を選んでいるところだぞ?」
「今更じゃん。え、てかマジでこんな世間話する為に呼び出したとか言わんよな?だとしたらばちくそたいぎいんだけど」
「当然ちゃんとした話がある、が……もしそうだとしたら?」
「帰る」
もし、世間話をする為に呼び出されたとしたら。その問いかけに対するナギトの答えは単純明快。スパンと切れ味良く返す返事は、いっそ天晴れと言うレベル。
この学園長室に他の誰かが居たら、今頃顔面蒼白になってナギトを止めようとするか、早く帰りたいと心の中で泣いているところだ。まあ、幸運な事に、この学園長室にはセシリアとナギトの二人だけしか居ないのだけど。
またからからと、セシリアが声を立てて笑う。本当に、楽しそうに。
「そう言うところは母親似だな。今日呼んだ理由は、例の出待ち賊の件だ。報奨金がかけられていたからな、それを届けられた。クエストカウンターに預けてあるから、後で引き出すといい。とは言え……お前はまた授業の単位に変えるんだろうが」
手元の資料を見ながら、セシリアはまた目を細める。その顔が楽しそうで、同時に笑っているようにも見えるのは、絶対ナギトの気のせいではない。
だがそれもナギトから言わせてみればたいぎいの一言で片付けられてしまう話。
特に言葉を返さず、軽く肩を竦めるのみ。早く終わらないかなとすら、思っている始末。
「でもいいのか?進級しても」
「あ?あー……まあ、ゆづが入学すんの待ってただけだし、三年の間に、大図書館の書庫の本もある程度読みたいモンは読めたからなぁ」
視線を、セシリアから少し上げ、後方のガラスへと向ける。どこかの学科が魔法の練習をしているのか、時々火柱や水柱が見える外の景色をぼんやり見ながら、ナギトは答える。意外にも正直に。
三年。長いようで意外と短かった。
学内ランク認定試験を無視し、授業をサボり、教師達の呼び出しも受けず、大図書館に入り浸る。問題児中の問題児。かなり大きな問題にはなった上に、退学処分もやむなしだったのだが、それをなんとかしてくれたのが今目の前に座る学園長だった。
まあ、そもそも生徒がそれぞれの学科の授業以外にも、やりたい事があれば応援する体制をとっているのがこのベル・オブ・ウォッキング魔法学園。
授業に参加しなくとも退学を免れる生徒応援制度が存在する。まあ勿論、制度を利用して退学を免れ留年する為には、一年の成果を提出して合格を貰う必要があるし、留年中の学費等は当然必要だけれど。それを全力で活用する事でナギトは今年、一年生四回目を迎える事が出来た。
留年している間、生徒としての権利を活用して大図書館で精霊に関する古い資料等を読み漁った。大図書館にない本は、発注して入荷してもらった事もある。
勿論、本の購入費は学園持ち。自分用に割り当てられている研究費はあるが、限度があるので節約出来るのはありがたいところ。
これも生徒の権利の一つとして存在しているのだから、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園さまさまである。
あえて言うなら、結果的に学園長であるセシリアに感謝する事になるので、ナギト的には複雑な思いがあるけれど。
だがまあ、お陰で読みたい本の大部分は読めたから良しとしよう。まだまだ読みたい資料は多いが、このグラナディール大陸以外の本が大半なので、それはまた学園からではなく、別方向から研究資料として集めよう、と頭の片隅で考えるナギト。
とりあえずさっさと話を終わらせて出たい、そんな気持ちを隠そうともしないナギトに気付いていながら、わざと気付いていない振りをしてセシリアは話を続ける。
「しかしまあ、今回お前達が捕まえた出待ち賊だが、随分と手荒な手法を使っていたなぁ。コンフォシオン・カンタル・アベなんて、『対モンスター用魔法』じゃぁないか」
「相手を一時的に行動不能にしたトコに、前衛組が追撃。上手く連携取れてたトコ考えると、フツーに冒険者やってたら、Sランクくらいいけたんじゃない?」
知らんけど。そう続くナギトの言葉に、ぱちくりと瞬くのはセシリア。
無言だが、何よりもその表情が訴えている。これはこれは驚いた、と誰が見てもそう訴えている表情に、思い切りナギトは顔を顰める。
「なんスか」
「いいや?お前がそこまで素直に褒めるのは珍しいと思ってな」
「俺だって褒める時は褒めるわ。でもま、ドコでどう転んだかは知らんが、犯罪者なった時点で終わってんだ」
「そうだな、違いない。ところで、聞いた話では、『あの子』が爆発しかけたそうだが……その報告はないな」
ここに来て、ナギトの顔から感情が抜け落ちた。無表情とは少し違うが、それでも今のナギトが今まで以上の怒りを抱えているのは、顔を見ればわかる。
学園長室の空気が、緊迫感を増す。
少しでも発言を間違えれば、その瞬間ナギトに斬り付けられる――かもしれない。そんな緊迫感が満ちている中でも、セシリアは穏やかな笑みを崩さない。むしろ、嗚呼愉快とばかりに更にマリーゴールド色の瞳を細めるのだから、更にナギトの怒りは増していく。
だが、忘れてはいけない。
今セシリアは、学園長は、ナギトの地雷に足を乗せようとしている。しかも、わざと。
「誰に聞いたかは訊かない。けどな、ソレは簡単に触れてイイ話じゃねぇって知ってんだろ」
向けられる圧を全身に浴びながら、けれどセシリアはゆったりと両手を上げ、そして肩を竦めて見せる。それは、さあ知らないなととぼけるようにも、悪かったと謝っているようにも、どちらとも取れる仕草で。
ピクッと、ナギトの頬が引き攣る。
ここにもし、ナギトとセシリア以外の人間が居たら、あまりの緊迫感に息苦しさを覚え、すぐにでも学園長室から逃げ出していてもおかしくないレベルだ。
「珍しいと思っただけだ、そう怒るな。お前は自分があの子を爆発させる導火線……いや、この場合は起爆剤と言った方が正しいか。起爆剤の自覚があるだろう?」
むぅ、と。まるで小さい子供のように唇を尖らせるナギト。
彼がするには随分と珍しい表情に、だがしかしセシリアは驚かない。むしろ、ふわりと微笑み、緩く首を傾げる。頭の動きに合わせて揺れ、陽の光を浴びて色味を変えながらキラキラと輝くセシリアの長い髪。
しかしナギトは、目を閉じてため息を吐くだけで流し、一度首肯。左手でガシガシと頭を掻き、クソッと吐き出す毒。
ぐしゃぐしゃになったままの髪はそのままに、俯くナギト。
「……治癒魔法士が弓を使ってた。仲間を倒してる俺を見て危険と判断したみたいで、麻痺毒を塗布した矢で俺を撃ったんだよ。で、麻痺毒で動けなくなったのを見て、爆発しそうになった。俺の落ち度だよ」
俯きながら苦々しく吐き出されるナギトの言葉は、苦しそうで、辛そうで。
もしこの声をミナギが聞いたら、今頃絶対きっと、目を丸くしている筈だ。あのナギトさんが、と。
ナギトだって人間だし、落ち込む事はあるのだけれど。
あの時、職業の判別は付いていなかった。けれど、装備から補助魔法士か治癒魔法士かのどちらかだろうと言う当たりは付けられていた。
人間と戦う時、まず狙うは後衛。治癒魔法は勿論、補助魔法もバカに出来ない。だからこそ目を離してはいけない、最初に狙え、と両親達に教えられていた。なのに、それなのに、目を離してしまった。
後からああだこうだと考えたところで不毛だとわかっているけれど、どうしても考えてしまう。
そんな時だった。落ち込むナギトの言葉を真っ向から否定するセシリアの声が響いたのは。
「思い上がりも甚だしい。寝言を言うにはまだ陽が高いんだがな?」
「……あぁ?」
顔を上げたナギトが見たのは、片手の指先を額に当て、やれやれ困った子供だと大袈裟に、芝居がかった動きを見せるセシリアの姿。
ただそれだけで、ナギトの怒りの度合いが増したのは、言うまでもなく。
喧嘩売ってんのかとばかりの勢いに、だがしかしセシリアは自分のペースを崩さない。ナギトに睨まれた程度で怯むようなら、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園の学園長なんて二百年も務まらないだろう。
当然と言えば当然か。
「お前は、確かに両親の影響で他の同年代の子供よりも早くスタートを切り、剣や魔法を覚え、戦闘経験も豊富。だがな、それでも子供だ。対人戦の経験があるにしても、親達に『守られる側』だった子供だ、違うか?」
片手で頬杖を突き、もう片方の手で無遠慮にナギトを指差す。
向けられる、完璧なまでの正論。これには反論出来ず、ぐっと言葉に詰まるナギト。完全にやり込められている。しかも、ちょっと悔しそうな顔を見せているのだから、珍しくナギトが子供っぽくも見えて。
残念ながら、そんなナギトの様子を見られるのは、セシリアだけなのだけれど。
「今まで『守られる側』で、何かしらミスをしたとしてもすぐに両親達がカバーしてくれる状態での戦闘のみ。本当に危険な戦闘には、そもそも参加以前に連れて行ってもらう事もなかった。そんな子供がパーティリーダーとなり、『仲間達に指示を出して守る側』に立って初めての対人戦で人間相手に対モンスター用魔法や麻痺毒を使う非合法出待ち賊を相手に、誰一人欠ける事無く、無事にほぼ無傷で帰還した。これ以上ない結果だ。誇れよ」
「……………………俺、来年には二十歳だけど」
「言い返せなくなったからと言って、歳の話をするか?そう言うところが子供なのさ。それに、一年生四年目が何を言っても無意味さ。文句があるなら卒業してから言うんだな」
「このクソババア」
「二九〇歳目前だ。まだまだ二〇年も生きてない子供から見ればババアだよ」
青筋を浮かべて忌々しいと言葉を吐き出せば、余裕の笑みを見せるセシリア。
どれだけナギトが言い返しても、簡単に上手を取ってしまう。しかも、ナギトが反論の余地もない程、完璧に言い任してしまうのだから、もはや手も足も出ない。
苦し紛れにクソババアなんて罵っても、機嫌を悪くするどころか、それがどうしたと真っ向から論破してしまう。ついにはナギトが両手で頭を抱えてしまうのは、ある意味当然の帰結。
この勝負、セシリアの圧倒的優位による完全勝利。
いつから勝負になっていたのか、これはツッコミを入れてはいけないところだろう。
「帰るっ!」
「まあ待て待て。まだ話は終わってないぞ」
「おーれーはーおーわったぁー!!」
何も言い返せなくなり、ついには踵を返すナギトに、セシリアはまた楽しそうに笑って声を掛ける。
だからと言ってナギトが足を止める筈もなく、振り切る素振りすら見せているけれど。
ドアノブを握り、今まさに学園長室を出て行こうとしていたナギトの動きが、ぴたり停止。不自然に動きを止めたナギトの背中に、どうしたのかとセシリアが首を傾げるのは必然。
あえて何も言わず背中を見守っていると、再度ナギトがくるうり踵を返してドアに背を向ける。レッグバッグタイプのアイテムバックに右手を突っ込むと、紙を数枚引っ張り出す。よくよく見れば、ただの紙ではない。何かが細かく書き込まれた資料か何かの束だ。
「すっかり忘れてた……。コレの許可もらう為に来たっつーのに、クソババアが余計な話するから……」
「大事な話をしていたつもりなんだがなぁ、私は」
「知らん。それより、ハイ、コレ」
困ったように笑うセシリアを一刀両断。話を早々に切り上げ、持っている資料の束をセシリアの眼前に突き出すナギト。
他の話はどうでも良いからさっさと許可をくれ。そんな態度を隠そうともしないナギトに、ふっと短く息を吐いた後、突き出された紙の束を掴む。
資料だと思って居た物は、正確には書類だった。しかも、薬草に関する書類。
これにセシリアが首を傾げてしまった理由は、一つ。ナギトが持って来るには随分と不釣り合いな、意外な書類だったから。特に意外だったのは、薬草栽培の為の区域使用許可申請も含まれていた事だ。
育てるのか、薬草を。ナギトが。
思った事がそのまま表情に出てしまったのだろう。セシリアを見るナギトの顔が険しくなり、すぅっと眼帯で覆っていない左目が細められる。ただそれだけでも、威圧としては十分。
無言の応酬。双方動かず、ただただじっと見つめ合い――もとい、睨み合い、そのまま流れる時間は、数秒、十数秒。
セシリアの一対のマリーゴールド色の瞳と、ナギトのマリーゴールド色の隻眼の視線とが、絡み合う。まるで、先に逸らしたら負けとばかりに。
先に動いたのは、セシリア。
短く息を吐き出しながら、背もたれにぐっと背中を預け、ナギトを見る。
「薬草を育てる趣味があるとは思わなんだ」
「俺が育てるなんざひとっことも言ってないが?ただ、育てる当人が許可申請しても手続きに時間取られてたいぎいだろ。それなら俺がやった方がイイ。こうして省略出来るし」
「まあ、それはそうか。通常の手続きだと、私のところに来るまで時間がかかるからな。逆に、先に私の認可さえ取ってしまえば、他の許可は即出るだろうな。……私の呼び出しに素直に従ったのはこの為か」
それ以外に来る必要あるか、なんて。真顔で言い返されてしまい、またもセシリアは数秒思考停止。
しかしすぐに破顔一笑。からからと楽しそうに声を立てて笑い始める。
「ほんっとーに、お前は面白い奴に育ったなぁ!」
「うぅるっせぇ。イイから、さっさと許可出せって。ちゃんとココまで話付き合ったんだ、もう十分だろ」
笑い過ぎてついには目に涙を浮かべ始めたセシリアを心配する素振りも見せず、ナギトは早く許可を出せと迫る。普通なら、相手を不快にさせ、許可を取る以前に、部屋から追い出されてもおかしくない言動。
だがそれでもセシリアは笑い、面白いの一言で片付けてしまうのだから、変な話。長生きをしているからこその余裕だろうか。
確認の為に書類の文面に素早く目を走らせ、同時並行で鍵付きの引き出しから、学園長の承認印を取り出す。
先回りして、想定される質問への答えや要点は既に纏めてあって、これと言ってセシリアが指摘したり追及したりする必要もなく、後はセシリアが承認の印として署名と押印をしてしまえば完了だ。後は、他に承認が必要な薬学カウンターと、薬草栽培区画の管理者に許可を取れば、面倒な手続きは終了。
「ほら、コレで良いだろう?しかし、この書類を見ると、今まで栽培不可能だと言われていた薬草らしいが、勝算はあるのか?」
「ある。つっても、まー、土台だけな。後はこの栽培するヤツ次第かな」
渡された書類の束から、押印された書類を抜き出しながらナギトは頷く。抜き取った書類をぴらぴらと振り、インクを乾かそうと試みる。こう言う時、風属性の魔法が使えたら楽なのになぁ、なんてないものねだり。
残念ながらセシリアも風属性は持っていない為、書類を振るナギトの動作を見守るだけ。
ある程度乾いたところで、書類をレッグバッグへと戻す。戻して――手を止めた、ナギトは。目をレッグバッグに落としたまま、考え込む。
本来の目的は達成した。薬草に関する手続きは、後はもう簡単だ。
だが、もう一つ。レッグバッグには書類が入っている。手続きが必要なものではなく、これはどちらかと言えば――報告書。
報告書と言えば聞こえは良いが、そんなにしっかりとしたものではなく、今日はこんな事があった、と子供が親に話して聞かせるような話を、少し小難しい表現で紙に書いた程度。報告書もどきと言った方が正しいかもしれない。
出待ち賊を逮捕しに来た警備騎士達に話しても無意味で、きっと教師陣に話しても困惑されるだけで。
悩んだ末、紙に書いてこうして自分のアイテムバックの中に入れていた。
難しい顔をしたまま自分のアイテムバックを見下ろすナギトに、少し待ってからセシリアは声を掛ける。どうかしたか、と。
「…………んー……。や、まだこう、はっきりとしたモンじゃなくて、ただ、俺が見たものと、ミナギから聞いた話を書いただけで……」
「良いよ、構わん。ほら、寄越せ」
次に催促をするのは、セシリアの方だった。
ナギトに向けて手を伸ばし、手の平を上に向け、ちょいちょいと手招き。早く寄越せと行動で示され、僅かにナギトは眉を顰めるが――渋々、本当に渋々と言った表情で、レッグバッグの中から、先程セシリアから戻された書類とは別の、報告書もどきを取り出す。
紙一枚に纏められたもので、読む為に掛かった時間は、一分か二分程度。けれど内容的にはそんな短時間で呑み込む事は出来ず、形の良い眉をきゅっと寄せ、怪訝な表情で顔を上げるセシリア。
「……結界術を扱える者が少ない分、基礎的な研究すら進んでいない。結界術師学科を設けてはいるが、実際のところはどうやって育てれば良いかもわかっていない状況だ、未知数なところは多い。この話は、私も知る限り初めてだ」
その言葉に、今度はナギトがムッと眉を顰める番。なんとなくセシリアもわからないだろうと思っていたが、僅かな落胆が胸に浮かぶと言う事は、心のどこかでセシリアなら知っているかもしれないと期待していたのかもしれない。こればっかりはどうしようもないか。
頼みの綱だったセシリアもわからないとなると、後はもう自力で解明するしか道はない。
嫌な予感がする、物凄く嫌な予感がする。
セシリアが報告書もどきをテーブルの上に置き、優雅な所作で両手を組み、にぃっこりと微笑む。
対するナギトは、嫌な予感を覚え、心底嫌そうな顔をして一歩後退。
「ナ、ギ、ト」
「そんなヒマないっ!!精霊関連の研究だけで手一杯だって知ってんだろ!!なんのために俺がクエ報酬単位に変えてると思ってんだ!!」
「今やってる精霊研究だって、最初は単なるメモ書きから始まったじゃないか。それと同じだ。必要なものがあれば私が用意しよう。費用も出すぞ?」
普通の研究者であれば、セシリアの言葉は物凄く魅力的に聞こえる事だろう。
だが、相手がナギトともなれば話は別。必要な物をどれだけ用意されても、どれだけ費用を用意されても、これ以上研究する事柄を増やしたくないと全力拒否。言葉ではなく、表情と態度で。
表情でごめんだと語り、うんざりだと態度で示すものの、相手はあのセシリア。ナギトの返答も、どこ吹く風。その程度の抵抗は想定済み。
むしろ、セシリアの遊びみたいなものだ。遊ばれているナギトからしてみれば、迷惑この上ないが。
なんとかして早く切り上げて脱出しようと画策するナギトだが、流石は年の功と言うべきか、セシリアの方が何枚も上手だった。
ちゃりっ、と。小さく響く、金属音。
それは本当に小さな音で、聞こえなかったと切り捨てる事もナギトには十分出来たが、残念な事に出来なかった。
音は無視出来たとしても、視界に映り込むそれは、無視出来なかったから。
得意げに目を細めて微笑むセシリアの、右手。光の加減で色んな色に変化する、オーロラ色の魔鉱石が輝くタリスマンが掲げられていた。二重リングから細いチェーンでぶら下がる、一見すると珍しい魔鉱石は付いているが、ただそれだけのアンティークとも言える。
だがしかし、ナギトは知っていた。
そのアンティークが、基本的には立ち入りが許されない大図書館の地下にある特別な書庫の鍵である事を。
生徒や教師が普段自由に使える大図書館は、吹き抜け三層からなる地上の書庫と、貴重だったり稀少だったり、中には禁書とも言える本を集め、魔法で徹底管理された空間で保管している特別禁止書庫が存在する。
存在自体はベル・オブ・ウォッキング魔法学園の関係者であれば誰もが知っている話ではあるが、その特別禁止書庫へと続く重厚なドアを開ける鍵が、普通の鍵の形をしていない事は、あまり知られていない。
それこそ、その特別禁止書庫への鍵が複製不可能であり、たった二つしか存在しない事実は――ごく一部の人間しか知らない話。
「……正気か」
「正気も正気。もう一つの鍵は、ベル・オブ・ウォッキングが持っているからな。それに、今の方が精霊に関する研究は進んでるとは言え、精霊を精霊と認識する以前の者達が描いた書物は、それはそれで興味があるだろう?」
信じられないと言った表情を見せるナギトに対し、笑顔を崩さず語るセシリア。
全く崩れないその表情から、本気で言っているのは明白。一時の気の迷いでない事は確かで、流石のナギトも言葉を失う。失うけれど――正直、その鍵は欲しい。セシリアの言う通り、精霊に関わる研究をしているナギトにとって、昔の、精霊を精霊と認識する以前に書かれた本や文献は読みたい代物。
それこそ、学園外の図書館等では読めないかもしれない物もあると仮定すれば、尚更。
けれど、その鍵を受け取る事はつまり、ミナギが例の出待ち賊との戦いで見せた結界術に関する研究要請を承諾した事になる訳で。
心の天秤がぐらぐら。
かたや、精霊に関わる貴重な文献を読みたい欲望と探求心。
こなた、セシリアの思惑通りに動き結界術の研究要請を受諾してしまう事への抵抗と葛藤。
既にナギトの中に、要請を無視して学園長室を出て行くと言う選択肢がない時点で、結果はお察し。もはや、結末は見えていた。
多分、絶対きっと、この学園長室の主であるセシリアには、最初から全てわかっていた筈だ。ナギトが、何を選ぶか。
セシリアの笑みが、深くなる。二重リングに右手の人差し指を通し、特別禁止書庫の鍵をぷらぷらと揺らす。すると自然、タリスマンに繋がっている細いチェーンがちゃらちゃらと小さく歌って。
小さなチェーンの歌声が、自分を誘っているようにも聞こえたナギトは重症だ。
「ナギト、いつも言っているだろう?『使える手札は一つでも多く増やせ』と。そして、『手札は使ってこそだが、使いどころを見誤るな』と。これは確実にお前の『新しい手札』だ、使わないのか?ん?」
片目眇めて意地悪く笑うセシリアのその顔は、ナギトのそれと似ていた。似ていないところを探すのが難しいくらい、本当によく似ている。あえて似ていないところを挙げるなら、セシリアの笑顔の方が意地悪さの度合いが強い事だろうか。本人は否定するかもしれないけれど。
そんな意地悪な笑みを見せるセシリアとナギトの睨み合いは、続く。
悩んだ、ナギトは。それはそれは悩んだ。
時間にして多分、たっぷり熟考五分以上。
でも最終的に――セシリアへの反抗心や葛藤が、欲望と探求心に負けた。
「あああああああああ、もうっ!!くっそがっ!!」
やけくそ気味に叫びながら、特別禁止書庫の鍵を半ば奪い取るようにして掴み取る。
そのままの勢いでセシリアに背を向け、今度こそ学園長室を出て行こうと、足早にドアへと向かうナギト。
八つ当たりでドアを閉める時にバタァンッと強い力で締めたところで、まあ当然セシリアにはなんの抵抗にもならなくて。そう言うところが子供なんだとからからと笑われてしまう始末。
唯一の救いは、その声が学園長室を出た後のナギトには届いていない事くらいか。
そして、静かになった学園長室で、閉まったドアを見つめてセシリアは微笑む。
「この私の力が必要になったら、いつでも来るといい。この学園の学園長として、お前の高祖母として、力を尽くそう」
優しいセシリアの声は、天井から差し込む陽の光に溶けて消えた。
◇ ◆ ◇
パーティ専用通信アイテム、パルス・ウォークスからの連絡で、ナギトが学園長に呼び出されたのは知っていた。知ってはいたが、呼び出された理由まではユヅキもミナギも知らなくて。
とりあえず、授業が終わった後、どうしようかと考えつつも、いつもの集合場所として使っている東屋に集合したの、だが。
帰って来たナギトの顔を見た瞬間、小さな悲鳴を上げたのはミナギ。ユヅキとアルバは「あららぁ」なんて呑気な声を上げていたし、セラータに至っては欠伸をした後、耳の後ろを後ろ足でかいていた。
慣れは怖いとはよく言うが、本当に慣れは怖い。
思わず東屋の中央に置かれているテーブルの陰に隠れるミナギの隣では、五人の小さな精霊達もそれぞれちょっとだけテーブルから顔を出してナギトの様子を伺っていた。
唯一ミナギと違う点は、怯えているミナギとは違い、五人の小さな精霊達は面白がっている事だろうか。
これって何してるんだろう。なんだろうね。面白いのかな。なんて。遊んでいるようにも見える。
隠れる寸前に見た、ナギトの顔。不機嫌と怒りが混ざり合った、凄い顔をしていた。
一言で例えるなら、そうだ、爆発寸前の爆弾。ほんのちょっとでも触れば、即爆発してもおかしくない、まさに一触即発状態。
学園長室からこの東屋まで、途中でナギトと遭遇した生徒や教師達は、きっと揃って道を開けた事だろう。ヘタに今のナギトを刺激しないように、と。
だが、そんなナギトを前にしても平気な人間が居た。ユヅキだ。
「ナギト、だいじょーぶ?」
「マジか、ユヅキさん……」
パタパタと駆け寄るユヅキの背中に、思わずミナギは呟いた。
いくら慣れているからと言って、今のナギトに平然と近付いていける人間が居る事実を、受け入れられなかった、ミナギは。
だって怖い、今のナギトは。
五人の小さな精霊達も、やっとナギトの機嫌の悪さに気付いたらしい。きゃー、なんて驚いた顔をしている。否、遅いよ。
どうなるのだろう。そんな思いで見守るミナギをよそに、ナギトとユヅキの幼馴染ソキウス組は相変わらずだった。東屋のベンチに腰を下ろし、テーブルに突っ伏するナギトを、隣でじーっと見つめるユヅキが居る。
「学園長の話、なんだって?」
「……あの出待ち賊、報奨金かけられててぇー、報酬届いたからぁー、クエストカウンターで受け取れってー。後、例のルカナ関連のヤツ許可出てぇ」
「うんうん」
「報酬出すから、ミナギのあの結界ももうちょい研究して報告しろって言われた」
「なんて?」
ミナギが物凄く怪訝な顔をして訊き返したのは、仕方ない。だってまさか、話の流れに自分が出て来るだなんて思ってもみなかったから。
しかも、魔法剣士である筈のナギトが結界術の研究だなんて、普通に考えたらおかしいだろう。否、おかしいってものではない、絶対おかしい。何がどうしてそんな話になったのだ。まだ、あの補助魔法士学科の生徒で薬師見習いのルカナ関連の話はわかる。わかるけれど、結界術の研究に関しては理解出来ない。
何がどうしてそんな話になったの、と。表情で訴えるミナギの顔を、ちらり、テーブルに突っ伏していたナギトが盗み見る。
答えてあげたいところだが、今のナギトはもう指一本動かす気力もなくて無理だった。
疲労困憊。ここでユヅキやミナギに八つ当たりしても無意味だとわかっている為、落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせるナギト。しばらく、指一本も動かしたくない。そんな状態だ。
それを察してか、アルバは珍しく静かにしているし、セラータもナギトに近付こうとせず見守り体制。
五人の小さな精霊達も、それぞれ顔を見合わせて、今は大人しくしておこうと我慢我慢。
「ハー………あぁんのくっそババア……ッ!!」
「よしよし。でもナギト、報酬ってなんだったの?」
「大図書館地下の、禁止書庫の鍵ぃ。俺が読みたい本あるんじゃねって、俺が断れないのをイイ事に頼んできたぁ……!!」
テーブルに突っ伏したままナギトがため息と共に怒りを吐き出せば、その頭をよしよしと撫でるユヅキ。
大人しく頭を撫でられながら、訊かれた通り、報酬の話をするナギトだが――結果的に学園長室でのあれこれを思い出し、思い出し笑いならぬ思い出し怒りがざわり。
それでも八つ当たりはしたくないと我慢するのだから、まだナギトは偉いかもしれない。
学園長室からこの東屋までに不機嫌を周囲にばら撒いていたけれど、それはそれ、これはこれで。
「……クソババア、に関しては突っ込まないとして……オレがあの時使った結界の使い方、学園長もわからなかったの?」
「ん-……初めて聞いたってよ。で、メモ書き程度でもイイから、どんな状況でどうしてそんな結界が出来たのか研究しろって。俺がなんの為にクエ報酬で単位取ってると思ってんだ……?」
「え、サボりたいからじゃなくて?」
瞬間、無言で顔を上げるナギトと、ハッとして両手で口を覆うミナギ。それを見た五人の小さな精霊達も、それぞれにミナギの真似をして口を覆う。風の精霊コンビはお互いの口を互いの手で塞いで、光の精霊は自分の口の前で人差し指を立てたバツマークを作り、地の精霊は片手で口を覆い、水の精霊はお口チャックのジェスチャーを。
無言のナギトのマリーゴールド色の瞳が、ミナギを射抜く。無言なのに、まだ何もナギトは言っていないのに、即座にミナギは謝った。ゴメンナサイ、と。
すると、ふーっと細く長く息を吐き、再度ナギトはテーブルに突っ伏す。
「けんきゅーの為ですぅー。一応研究者なのでぇー!」
「冗談とかじゃなくって、ホントにナギトは研究者だよ。三年間留年が許可されてたのも、研究結果報告してオッケーもらったからだもんね」
テーブルに突っ伏したまま、うんうんとナギトが頷く。
ユヅキが語った生徒応援制度と言う単語に、そう言えばそんな名前の制度があった気がする、とぼんやりミナギは思う。覚えているのはあくまでも名前だけで、どんな制度なのか内容ははっきり覚えていないけれど。
とりあえず、たまにナギトが自分は研究者だと言ったり、研究がどうのこうのと言って本を読み漁っていたりするのは、嘘や冗談の類ではないらしい。
聞いたところによると、ユヅキが入学するのを待つ三年の間に、大図書館にある研究に関わる本は大体読めた為、今年は進級するとか。必須授業とテストは参加して、後はクエスト報酬を単位で取って終わらせるつもりだそうで。
まあ、言うだけは簡単だが、実際にそれを他の生徒がやろうとしたら難しいだろう。
クエストだって完全に安全と言う訳でもない為、確実にクリア出来るとは限らないのだから。ミナギ達がこれまで経験したクエストで言うなら、ネグロ・トルエノ・ティグレの乱入や、出待ち賊の出現が良い例だ。
「飛び級はしないの?」
「しない。もう留年もしない。特別禁止書庫の鍵ももらったけど……まあ、なんとなるだろ、多分。今はもうゆづも居るから、精霊関連で知りたい事はすぐ訊けるし。ミナギのあの結界に関しては、手伝ってもらうからな」
「はーい!精霊の事ならまっかせてー!」
「手伝うのは別にいいよ、オレも、あの結界の事は気になるし」
体を起こし、やれやれとため息を吐き、大きな伸びを一つ。もうここまで来たら諦めるしかないと、表情からナギトの思いが透けて見えた。
満面笑顔で任せてとユヅキが頼もしい返事をする横で、ミナギは二つ返事で頷く。
頷いて――自分の手の平に、目を落とす。
あの時の感覚は覚えている、しっかりと。
急いでいた。焦っていた。ナギトが殺されるんじゃないかと、怖かった。ナギトを守るよりも、バスタード・ソード使いの攻撃を防ぐよりも――止めないと、と思ったのは確かだ。
バスタード・ソード使いの腕を貫通する形で出現した、結界。あの結界を消した後、バスタード・ソード使いの腕は斬れたり、傷が付いていたりする事もなく、無事だった。覚えている、しっかりと覚えている。
でも、あの結界を再度使えるかと訊かれたら、自分でもよくわからない。そもそも、普段使っている結界と同じものなのかも、わからないから。
学園に戻った後、結界術師学科の教師にもそれとなく訊いてみたが、そんな結界は聞いた事がない、知らない、使い方もわからないと、首を傾げられてしまった。
でも、もしあの結界の事が詳しくわかって、理解出来たとしたら。今よりも色々な方法で戦えるようになるかもしれない。
「……あの結界がどんなものかわかったら……多分、今よりも、ナギトさん達の役に立てると思うから」
ぽつり、小さく呟く。
その声は確かに小さかったのだけど、でも、すぐ近くに居るナギト、ユヅキ、アルバ、セラータの耳には、確かに届いていた。もしかしたら、風の統括大精霊、シエロがミナギの声を届けたのかもしれないけれど。
ぎゅっと、ミナギが手を握り締める。決意を持って、強く、強く。
守られてばかりじゃなく、庇われてばかりじゃなく。結界術師なのだから、守る為の力を。
前にもらった短剣のコラムビの使い方も、まだまだ覚えられていない。
こんな自分でも強くなれるなら、後ろで護ってもらうばかりじゃなくて、せめて、肩を並べられるまで。ナギトやユヅキに、任せたと言ってもらえるように。
ミナギが、顔を上げる。両手を強く握り締め、真っ直ぐナギトとユヅキを見つめるミナギのゼニスブルーの瞳は、何よりも饒舌に語っていた。強くなりたい、と。
向けられる瞳に、一度ナギトとユヅキは顔を見合わせる。
顔を見合わせて、ナギトはふっと柔らかく、ユヅキは嬉しそうに、笑い合う。
そうしてまたここから、もう一歩、前へ。
その最上階の角部屋。三方と天井がガラス張りで出来た学園長室には、部屋の主である学園長と、呼び出されたナギトの姿があった。
いつ来てもこの部屋は眩しいくらいに明るいし、本当に一人で使うのかと言いたくなる程にテーブルは広い。縦幅もだが、何よりも問題はその横幅だ。端から端までで十メートル程はありそうな、緩いカーブを描いたテーブルの中央に、両肘を突きながら学園長は座っていた。
頭を少し傾けたり、上半身を動かしたり、ただそれだけで、床に届く程に長く伸びた波のように左右交互にうねる癖のついたシャルトルーズイエローの髪は、その表情を変えていく。黄色っぽい色かと思えば、緑に近い色へと。
多くの人が綺麗だと評する彼女の髪も、ナギトからしてみれば特に何とも思わないらしい。
大袈裟なまでに大きなため息を零し、うんざりだと訴えるナギトに、学園長であるセシリアはからからと笑う。
「あははっ、この私に真っ向からそんな物言いをするのは、今やお前くらいだ。相変わらずだ。これが他の教師や生徒なら、私の気分を害さないようにと慎重に言葉を選んでいるところだぞ?」
「今更じゃん。え、てかマジでこんな世間話する為に呼び出したとか言わんよな?だとしたらばちくそたいぎいんだけど」
「当然ちゃんとした話がある、が……もしそうだとしたら?」
「帰る」
もし、世間話をする為に呼び出されたとしたら。その問いかけに対するナギトの答えは単純明快。スパンと切れ味良く返す返事は、いっそ天晴れと言うレベル。
この学園長室に他の誰かが居たら、今頃顔面蒼白になってナギトを止めようとするか、早く帰りたいと心の中で泣いているところだ。まあ、幸運な事に、この学園長室にはセシリアとナギトの二人だけしか居ないのだけど。
またからからと、セシリアが声を立てて笑う。本当に、楽しそうに。
「そう言うところは母親似だな。今日呼んだ理由は、例の出待ち賊の件だ。報奨金がかけられていたからな、それを届けられた。クエストカウンターに預けてあるから、後で引き出すといい。とは言え……お前はまた授業の単位に変えるんだろうが」
手元の資料を見ながら、セシリアはまた目を細める。その顔が楽しそうで、同時に笑っているようにも見えるのは、絶対ナギトの気のせいではない。
だがそれもナギトから言わせてみればたいぎいの一言で片付けられてしまう話。
特に言葉を返さず、軽く肩を竦めるのみ。早く終わらないかなとすら、思っている始末。
「でもいいのか?進級しても」
「あ?あー……まあ、ゆづが入学すんの待ってただけだし、三年の間に、大図書館の書庫の本もある程度読みたいモンは読めたからなぁ」
視線を、セシリアから少し上げ、後方のガラスへと向ける。どこかの学科が魔法の練習をしているのか、時々火柱や水柱が見える外の景色をぼんやり見ながら、ナギトは答える。意外にも正直に。
三年。長いようで意外と短かった。
学内ランク認定試験を無視し、授業をサボり、教師達の呼び出しも受けず、大図書館に入り浸る。問題児中の問題児。かなり大きな問題にはなった上に、退学処分もやむなしだったのだが、それをなんとかしてくれたのが今目の前に座る学園長だった。
まあ、そもそも生徒がそれぞれの学科の授業以外にも、やりたい事があれば応援する体制をとっているのがこのベル・オブ・ウォッキング魔法学園。
授業に参加しなくとも退学を免れる生徒応援制度が存在する。まあ勿論、制度を利用して退学を免れ留年する為には、一年の成果を提出して合格を貰う必要があるし、留年中の学費等は当然必要だけれど。それを全力で活用する事でナギトは今年、一年生四回目を迎える事が出来た。
留年している間、生徒としての権利を活用して大図書館で精霊に関する古い資料等を読み漁った。大図書館にない本は、発注して入荷してもらった事もある。
勿論、本の購入費は学園持ち。自分用に割り当てられている研究費はあるが、限度があるので節約出来るのはありがたいところ。
これも生徒の権利の一つとして存在しているのだから、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園さまさまである。
あえて言うなら、結果的に学園長であるセシリアに感謝する事になるので、ナギト的には複雑な思いがあるけれど。
だがまあ、お陰で読みたい本の大部分は読めたから良しとしよう。まだまだ読みたい資料は多いが、このグラナディール大陸以外の本が大半なので、それはまた学園からではなく、別方向から研究資料として集めよう、と頭の片隅で考えるナギト。
とりあえずさっさと話を終わらせて出たい、そんな気持ちを隠そうともしないナギトに気付いていながら、わざと気付いていない振りをしてセシリアは話を続ける。
「しかしまあ、今回お前達が捕まえた出待ち賊だが、随分と手荒な手法を使っていたなぁ。コンフォシオン・カンタル・アベなんて、『対モンスター用魔法』じゃぁないか」
「相手を一時的に行動不能にしたトコに、前衛組が追撃。上手く連携取れてたトコ考えると、フツーに冒険者やってたら、Sランクくらいいけたんじゃない?」
知らんけど。そう続くナギトの言葉に、ぱちくりと瞬くのはセシリア。
無言だが、何よりもその表情が訴えている。これはこれは驚いた、と誰が見てもそう訴えている表情に、思い切りナギトは顔を顰める。
「なんスか」
「いいや?お前がそこまで素直に褒めるのは珍しいと思ってな」
「俺だって褒める時は褒めるわ。でもま、ドコでどう転んだかは知らんが、犯罪者なった時点で終わってんだ」
「そうだな、違いない。ところで、聞いた話では、『あの子』が爆発しかけたそうだが……その報告はないな」
ここに来て、ナギトの顔から感情が抜け落ちた。無表情とは少し違うが、それでも今のナギトが今まで以上の怒りを抱えているのは、顔を見ればわかる。
学園長室の空気が、緊迫感を増す。
少しでも発言を間違えれば、その瞬間ナギトに斬り付けられる――かもしれない。そんな緊迫感が満ちている中でも、セシリアは穏やかな笑みを崩さない。むしろ、嗚呼愉快とばかりに更にマリーゴールド色の瞳を細めるのだから、更にナギトの怒りは増していく。
だが、忘れてはいけない。
今セシリアは、学園長は、ナギトの地雷に足を乗せようとしている。しかも、わざと。
「誰に聞いたかは訊かない。けどな、ソレは簡単に触れてイイ話じゃねぇって知ってんだろ」
向けられる圧を全身に浴びながら、けれどセシリアはゆったりと両手を上げ、そして肩を竦めて見せる。それは、さあ知らないなととぼけるようにも、悪かったと謝っているようにも、どちらとも取れる仕草で。
ピクッと、ナギトの頬が引き攣る。
ここにもし、ナギトとセシリア以外の人間が居たら、あまりの緊迫感に息苦しさを覚え、すぐにでも学園長室から逃げ出していてもおかしくないレベルだ。
「珍しいと思っただけだ、そう怒るな。お前は自分があの子を爆発させる導火線……いや、この場合は起爆剤と言った方が正しいか。起爆剤の自覚があるだろう?」
むぅ、と。まるで小さい子供のように唇を尖らせるナギト。
彼がするには随分と珍しい表情に、だがしかしセシリアは驚かない。むしろ、ふわりと微笑み、緩く首を傾げる。頭の動きに合わせて揺れ、陽の光を浴びて色味を変えながらキラキラと輝くセシリアの長い髪。
しかしナギトは、目を閉じてため息を吐くだけで流し、一度首肯。左手でガシガシと頭を掻き、クソッと吐き出す毒。
ぐしゃぐしゃになったままの髪はそのままに、俯くナギト。
「……治癒魔法士が弓を使ってた。仲間を倒してる俺を見て危険と判断したみたいで、麻痺毒を塗布した矢で俺を撃ったんだよ。で、麻痺毒で動けなくなったのを見て、爆発しそうになった。俺の落ち度だよ」
俯きながら苦々しく吐き出されるナギトの言葉は、苦しそうで、辛そうで。
もしこの声をミナギが聞いたら、今頃絶対きっと、目を丸くしている筈だ。あのナギトさんが、と。
ナギトだって人間だし、落ち込む事はあるのだけれど。
あの時、職業の判別は付いていなかった。けれど、装備から補助魔法士か治癒魔法士かのどちらかだろうと言う当たりは付けられていた。
人間と戦う時、まず狙うは後衛。治癒魔法は勿論、補助魔法もバカに出来ない。だからこそ目を離してはいけない、最初に狙え、と両親達に教えられていた。なのに、それなのに、目を離してしまった。
後からああだこうだと考えたところで不毛だとわかっているけれど、どうしても考えてしまう。
そんな時だった。落ち込むナギトの言葉を真っ向から否定するセシリアの声が響いたのは。
「思い上がりも甚だしい。寝言を言うにはまだ陽が高いんだがな?」
「……あぁ?」
顔を上げたナギトが見たのは、片手の指先を額に当て、やれやれ困った子供だと大袈裟に、芝居がかった動きを見せるセシリアの姿。
ただそれだけで、ナギトの怒りの度合いが増したのは、言うまでもなく。
喧嘩売ってんのかとばかりの勢いに、だがしかしセシリアは自分のペースを崩さない。ナギトに睨まれた程度で怯むようなら、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園の学園長なんて二百年も務まらないだろう。
当然と言えば当然か。
「お前は、確かに両親の影響で他の同年代の子供よりも早くスタートを切り、剣や魔法を覚え、戦闘経験も豊富。だがな、それでも子供だ。対人戦の経験があるにしても、親達に『守られる側』だった子供だ、違うか?」
片手で頬杖を突き、もう片方の手で無遠慮にナギトを指差す。
向けられる、完璧なまでの正論。これには反論出来ず、ぐっと言葉に詰まるナギト。完全にやり込められている。しかも、ちょっと悔しそうな顔を見せているのだから、珍しくナギトが子供っぽくも見えて。
残念ながら、そんなナギトの様子を見られるのは、セシリアだけなのだけれど。
「今まで『守られる側』で、何かしらミスをしたとしてもすぐに両親達がカバーしてくれる状態での戦闘のみ。本当に危険な戦闘には、そもそも参加以前に連れて行ってもらう事もなかった。そんな子供がパーティリーダーとなり、『仲間達に指示を出して守る側』に立って初めての対人戦で人間相手に対モンスター用魔法や麻痺毒を使う非合法出待ち賊を相手に、誰一人欠ける事無く、無事にほぼ無傷で帰還した。これ以上ない結果だ。誇れよ」
「……………………俺、来年には二十歳だけど」
「言い返せなくなったからと言って、歳の話をするか?そう言うところが子供なのさ。それに、一年生四年目が何を言っても無意味さ。文句があるなら卒業してから言うんだな」
「このクソババア」
「二九〇歳目前だ。まだまだ二〇年も生きてない子供から見ればババアだよ」
青筋を浮かべて忌々しいと言葉を吐き出せば、余裕の笑みを見せるセシリア。
どれだけナギトが言い返しても、簡単に上手を取ってしまう。しかも、ナギトが反論の余地もない程、完璧に言い任してしまうのだから、もはや手も足も出ない。
苦し紛れにクソババアなんて罵っても、機嫌を悪くするどころか、それがどうしたと真っ向から論破してしまう。ついにはナギトが両手で頭を抱えてしまうのは、ある意味当然の帰結。
この勝負、セシリアの圧倒的優位による完全勝利。
いつから勝負になっていたのか、これはツッコミを入れてはいけないところだろう。
「帰るっ!」
「まあ待て待て。まだ話は終わってないぞ」
「おーれーはーおーわったぁー!!」
何も言い返せなくなり、ついには踵を返すナギトに、セシリアはまた楽しそうに笑って声を掛ける。
だからと言ってナギトが足を止める筈もなく、振り切る素振りすら見せているけれど。
ドアノブを握り、今まさに学園長室を出て行こうとしていたナギトの動きが、ぴたり停止。不自然に動きを止めたナギトの背中に、どうしたのかとセシリアが首を傾げるのは必然。
あえて何も言わず背中を見守っていると、再度ナギトがくるうり踵を返してドアに背を向ける。レッグバッグタイプのアイテムバックに右手を突っ込むと、紙を数枚引っ張り出す。よくよく見れば、ただの紙ではない。何かが細かく書き込まれた資料か何かの束だ。
「すっかり忘れてた……。コレの許可もらう為に来たっつーのに、クソババアが余計な話するから……」
「大事な話をしていたつもりなんだがなぁ、私は」
「知らん。それより、ハイ、コレ」
困ったように笑うセシリアを一刀両断。話を早々に切り上げ、持っている資料の束をセシリアの眼前に突き出すナギト。
他の話はどうでも良いからさっさと許可をくれ。そんな態度を隠そうともしないナギトに、ふっと短く息を吐いた後、突き出された紙の束を掴む。
資料だと思って居た物は、正確には書類だった。しかも、薬草に関する書類。
これにセシリアが首を傾げてしまった理由は、一つ。ナギトが持って来るには随分と不釣り合いな、意外な書類だったから。特に意外だったのは、薬草栽培の為の区域使用許可申請も含まれていた事だ。
育てるのか、薬草を。ナギトが。
思った事がそのまま表情に出てしまったのだろう。セシリアを見るナギトの顔が険しくなり、すぅっと眼帯で覆っていない左目が細められる。ただそれだけでも、威圧としては十分。
無言の応酬。双方動かず、ただただじっと見つめ合い――もとい、睨み合い、そのまま流れる時間は、数秒、十数秒。
セシリアの一対のマリーゴールド色の瞳と、ナギトのマリーゴールド色の隻眼の視線とが、絡み合う。まるで、先に逸らしたら負けとばかりに。
先に動いたのは、セシリア。
短く息を吐き出しながら、背もたれにぐっと背中を預け、ナギトを見る。
「薬草を育てる趣味があるとは思わなんだ」
「俺が育てるなんざひとっことも言ってないが?ただ、育てる当人が許可申請しても手続きに時間取られてたいぎいだろ。それなら俺がやった方がイイ。こうして省略出来るし」
「まあ、それはそうか。通常の手続きだと、私のところに来るまで時間がかかるからな。逆に、先に私の認可さえ取ってしまえば、他の許可は即出るだろうな。……私の呼び出しに素直に従ったのはこの為か」
それ以外に来る必要あるか、なんて。真顔で言い返されてしまい、またもセシリアは数秒思考停止。
しかしすぐに破顔一笑。からからと楽しそうに声を立てて笑い始める。
「ほんっとーに、お前は面白い奴に育ったなぁ!」
「うぅるっせぇ。イイから、さっさと許可出せって。ちゃんとココまで話付き合ったんだ、もう十分だろ」
笑い過ぎてついには目に涙を浮かべ始めたセシリアを心配する素振りも見せず、ナギトは早く許可を出せと迫る。普通なら、相手を不快にさせ、許可を取る以前に、部屋から追い出されてもおかしくない言動。
だがそれでもセシリアは笑い、面白いの一言で片付けてしまうのだから、変な話。長生きをしているからこその余裕だろうか。
確認の為に書類の文面に素早く目を走らせ、同時並行で鍵付きの引き出しから、学園長の承認印を取り出す。
先回りして、想定される質問への答えや要点は既に纏めてあって、これと言ってセシリアが指摘したり追及したりする必要もなく、後はセシリアが承認の印として署名と押印をしてしまえば完了だ。後は、他に承認が必要な薬学カウンターと、薬草栽培区画の管理者に許可を取れば、面倒な手続きは終了。
「ほら、コレで良いだろう?しかし、この書類を見ると、今まで栽培不可能だと言われていた薬草らしいが、勝算はあるのか?」
「ある。つっても、まー、土台だけな。後はこの栽培するヤツ次第かな」
渡された書類の束から、押印された書類を抜き出しながらナギトは頷く。抜き取った書類をぴらぴらと振り、インクを乾かそうと試みる。こう言う時、風属性の魔法が使えたら楽なのになぁ、なんてないものねだり。
残念ながらセシリアも風属性は持っていない為、書類を振るナギトの動作を見守るだけ。
ある程度乾いたところで、書類をレッグバッグへと戻す。戻して――手を止めた、ナギトは。目をレッグバッグに落としたまま、考え込む。
本来の目的は達成した。薬草に関する手続きは、後はもう簡単だ。
だが、もう一つ。レッグバッグには書類が入っている。手続きが必要なものではなく、これはどちらかと言えば――報告書。
報告書と言えば聞こえは良いが、そんなにしっかりとしたものではなく、今日はこんな事があった、と子供が親に話して聞かせるような話を、少し小難しい表現で紙に書いた程度。報告書もどきと言った方が正しいかもしれない。
出待ち賊を逮捕しに来た警備騎士達に話しても無意味で、きっと教師陣に話しても困惑されるだけで。
悩んだ末、紙に書いてこうして自分のアイテムバックの中に入れていた。
難しい顔をしたまま自分のアイテムバックを見下ろすナギトに、少し待ってからセシリアは声を掛ける。どうかしたか、と。
「…………んー……。や、まだこう、はっきりとしたモンじゃなくて、ただ、俺が見たものと、ミナギから聞いた話を書いただけで……」
「良いよ、構わん。ほら、寄越せ」
次に催促をするのは、セシリアの方だった。
ナギトに向けて手を伸ばし、手の平を上に向け、ちょいちょいと手招き。早く寄越せと行動で示され、僅かにナギトは眉を顰めるが――渋々、本当に渋々と言った表情で、レッグバッグの中から、先程セシリアから戻された書類とは別の、報告書もどきを取り出す。
紙一枚に纏められたもので、読む為に掛かった時間は、一分か二分程度。けれど内容的にはそんな短時間で呑み込む事は出来ず、形の良い眉をきゅっと寄せ、怪訝な表情で顔を上げるセシリア。
「……結界術を扱える者が少ない分、基礎的な研究すら進んでいない。結界術師学科を設けてはいるが、実際のところはどうやって育てれば良いかもわかっていない状況だ、未知数なところは多い。この話は、私も知る限り初めてだ」
その言葉に、今度はナギトがムッと眉を顰める番。なんとなくセシリアもわからないだろうと思っていたが、僅かな落胆が胸に浮かぶと言う事は、心のどこかでセシリアなら知っているかもしれないと期待していたのかもしれない。こればっかりはどうしようもないか。
頼みの綱だったセシリアもわからないとなると、後はもう自力で解明するしか道はない。
嫌な予感がする、物凄く嫌な予感がする。
セシリアが報告書もどきをテーブルの上に置き、優雅な所作で両手を組み、にぃっこりと微笑む。
対するナギトは、嫌な予感を覚え、心底嫌そうな顔をして一歩後退。
「ナ、ギ、ト」
「そんなヒマないっ!!精霊関連の研究だけで手一杯だって知ってんだろ!!なんのために俺がクエ報酬単位に変えてると思ってんだ!!」
「今やってる精霊研究だって、最初は単なるメモ書きから始まったじゃないか。それと同じだ。必要なものがあれば私が用意しよう。費用も出すぞ?」
普通の研究者であれば、セシリアの言葉は物凄く魅力的に聞こえる事だろう。
だが、相手がナギトともなれば話は別。必要な物をどれだけ用意されても、どれだけ費用を用意されても、これ以上研究する事柄を増やしたくないと全力拒否。言葉ではなく、表情と態度で。
表情でごめんだと語り、うんざりだと態度で示すものの、相手はあのセシリア。ナギトの返答も、どこ吹く風。その程度の抵抗は想定済み。
むしろ、セシリアの遊びみたいなものだ。遊ばれているナギトからしてみれば、迷惑この上ないが。
なんとかして早く切り上げて脱出しようと画策するナギトだが、流石は年の功と言うべきか、セシリアの方が何枚も上手だった。
ちゃりっ、と。小さく響く、金属音。
それは本当に小さな音で、聞こえなかったと切り捨てる事もナギトには十分出来たが、残念な事に出来なかった。
音は無視出来たとしても、視界に映り込むそれは、無視出来なかったから。
得意げに目を細めて微笑むセシリアの、右手。光の加減で色んな色に変化する、オーロラ色の魔鉱石が輝くタリスマンが掲げられていた。二重リングから細いチェーンでぶら下がる、一見すると珍しい魔鉱石は付いているが、ただそれだけのアンティークとも言える。
だがしかし、ナギトは知っていた。
そのアンティークが、基本的には立ち入りが許されない大図書館の地下にある特別な書庫の鍵である事を。
生徒や教師が普段自由に使える大図書館は、吹き抜け三層からなる地上の書庫と、貴重だったり稀少だったり、中には禁書とも言える本を集め、魔法で徹底管理された空間で保管している特別禁止書庫が存在する。
存在自体はベル・オブ・ウォッキング魔法学園の関係者であれば誰もが知っている話ではあるが、その特別禁止書庫へと続く重厚なドアを開ける鍵が、普通の鍵の形をしていない事は、あまり知られていない。
それこそ、その特別禁止書庫への鍵が複製不可能であり、たった二つしか存在しない事実は――ごく一部の人間しか知らない話。
「……正気か」
「正気も正気。もう一つの鍵は、ベル・オブ・ウォッキングが持っているからな。それに、今の方が精霊に関する研究は進んでるとは言え、精霊を精霊と認識する以前の者達が描いた書物は、それはそれで興味があるだろう?」
信じられないと言った表情を見せるナギトに対し、笑顔を崩さず語るセシリア。
全く崩れないその表情から、本気で言っているのは明白。一時の気の迷いでない事は確かで、流石のナギトも言葉を失う。失うけれど――正直、その鍵は欲しい。セシリアの言う通り、精霊に関わる研究をしているナギトにとって、昔の、精霊を精霊と認識する以前に書かれた本や文献は読みたい代物。
それこそ、学園外の図書館等では読めないかもしれない物もあると仮定すれば、尚更。
けれど、その鍵を受け取る事はつまり、ミナギが例の出待ち賊との戦いで見せた結界術に関する研究要請を承諾した事になる訳で。
心の天秤がぐらぐら。
かたや、精霊に関わる貴重な文献を読みたい欲望と探求心。
こなた、セシリアの思惑通りに動き結界術の研究要請を受諾してしまう事への抵抗と葛藤。
既にナギトの中に、要請を無視して学園長室を出て行くと言う選択肢がない時点で、結果はお察し。もはや、結末は見えていた。
多分、絶対きっと、この学園長室の主であるセシリアには、最初から全てわかっていた筈だ。ナギトが、何を選ぶか。
セシリアの笑みが、深くなる。二重リングに右手の人差し指を通し、特別禁止書庫の鍵をぷらぷらと揺らす。すると自然、タリスマンに繋がっている細いチェーンがちゃらちゃらと小さく歌って。
小さなチェーンの歌声が、自分を誘っているようにも聞こえたナギトは重症だ。
「ナギト、いつも言っているだろう?『使える手札は一つでも多く増やせ』と。そして、『手札は使ってこそだが、使いどころを見誤るな』と。これは確実にお前の『新しい手札』だ、使わないのか?ん?」
片目眇めて意地悪く笑うセシリアのその顔は、ナギトのそれと似ていた。似ていないところを探すのが難しいくらい、本当によく似ている。あえて似ていないところを挙げるなら、セシリアの笑顔の方が意地悪さの度合いが強い事だろうか。本人は否定するかもしれないけれど。
そんな意地悪な笑みを見せるセシリアとナギトの睨み合いは、続く。
悩んだ、ナギトは。それはそれは悩んだ。
時間にして多分、たっぷり熟考五分以上。
でも最終的に――セシリアへの反抗心や葛藤が、欲望と探求心に負けた。
「あああああああああ、もうっ!!くっそがっ!!」
やけくそ気味に叫びながら、特別禁止書庫の鍵を半ば奪い取るようにして掴み取る。
そのままの勢いでセシリアに背を向け、今度こそ学園長室を出て行こうと、足早にドアへと向かうナギト。
八つ当たりでドアを閉める時にバタァンッと強い力で締めたところで、まあ当然セシリアにはなんの抵抗にもならなくて。そう言うところが子供なんだとからからと笑われてしまう始末。
唯一の救いは、その声が学園長室を出た後のナギトには届いていない事くらいか。
そして、静かになった学園長室で、閉まったドアを見つめてセシリアは微笑む。
「この私の力が必要になったら、いつでも来るといい。この学園の学園長として、お前の高祖母として、力を尽くそう」
優しいセシリアの声は、天井から差し込む陽の光に溶けて消えた。
◇ ◆ ◇
パーティ専用通信アイテム、パルス・ウォークスからの連絡で、ナギトが学園長に呼び出されたのは知っていた。知ってはいたが、呼び出された理由まではユヅキもミナギも知らなくて。
とりあえず、授業が終わった後、どうしようかと考えつつも、いつもの集合場所として使っている東屋に集合したの、だが。
帰って来たナギトの顔を見た瞬間、小さな悲鳴を上げたのはミナギ。ユヅキとアルバは「あららぁ」なんて呑気な声を上げていたし、セラータに至っては欠伸をした後、耳の後ろを後ろ足でかいていた。
慣れは怖いとはよく言うが、本当に慣れは怖い。
思わず東屋の中央に置かれているテーブルの陰に隠れるミナギの隣では、五人の小さな精霊達もそれぞれちょっとだけテーブルから顔を出してナギトの様子を伺っていた。
唯一ミナギと違う点は、怯えているミナギとは違い、五人の小さな精霊達は面白がっている事だろうか。
これって何してるんだろう。なんだろうね。面白いのかな。なんて。遊んでいるようにも見える。
隠れる寸前に見た、ナギトの顔。不機嫌と怒りが混ざり合った、凄い顔をしていた。
一言で例えるなら、そうだ、爆発寸前の爆弾。ほんのちょっとでも触れば、即爆発してもおかしくない、まさに一触即発状態。
学園長室からこの東屋まで、途中でナギトと遭遇した生徒や教師達は、きっと揃って道を開けた事だろう。ヘタに今のナギトを刺激しないように、と。
だが、そんなナギトを前にしても平気な人間が居た。ユヅキだ。
「ナギト、だいじょーぶ?」
「マジか、ユヅキさん……」
パタパタと駆け寄るユヅキの背中に、思わずミナギは呟いた。
いくら慣れているからと言って、今のナギトに平然と近付いていける人間が居る事実を、受け入れられなかった、ミナギは。
だって怖い、今のナギトは。
五人の小さな精霊達も、やっとナギトの機嫌の悪さに気付いたらしい。きゃー、なんて驚いた顔をしている。否、遅いよ。
どうなるのだろう。そんな思いで見守るミナギをよそに、ナギトとユヅキの幼馴染ソキウス組は相変わらずだった。東屋のベンチに腰を下ろし、テーブルに突っ伏するナギトを、隣でじーっと見つめるユヅキが居る。
「学園長の話、なんだって?」
「……あの出待ち賊、報奨金かけられててぇー、報酬届いたからぁー、クエストカウンターで受け取れってー。後、例のルカナ関連のヤツ許可出てぇ」
「うんうん」
「報酬出すから、ミナギのあの結界ももうちょい研究して報告しろって言われた」
「なんて?」
ミナギが物凄く怪訝な顔をして訊き返したのは、仕方ない。だってまさか、話の流れに自分が出て来るだなんて思ってもみなかったから。
しかも、魔法剣士である筈のナギトが結界術の研究だなんて、普通に考えたらおかしいだろう。否、おかしいってものではない、絶対おかしい。何がどうしてそんな話になったのだ。まだ、あの補助魔法士学科の生徒で薬師見習いのルカナ関連の話はわかる。わかるけれど、結界術の研究に関しては理解出来ない。
何がどうしてそんな話になったの、と。表情で訴えるミナギの顔を、ちらり、テーブルに突っ伏していたナギトが盗み見る。
答えてあげたいところだが、今のナギトはもう指一本動かす気力もなくて無理だった。
疲労困憊。ここでユヅキやミナギに八つ当たりしても無意味だとわかっている為、落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせるナギト。しばらく、指一本も動かしたくない。そんな状態だ。
それを察してか、アルバは珍しく静かにしているし、セラータもナギトに近付こうとせず見守り体制。
五人の小さな精霊達も、それぞれ顔を見合わせて、今は大人しくしておこうと我慢我慢。
「ハー………あぁんのくっそババア……ッ!!」
「よしよし。でもナギト、報酬ってなんだったの?」
「大図書館地下の、禁止書庫の鍵ぃ。俺が読みたい本あるんじゃねって、俺が断れないのをイイ事に頼んできたぁ……!!」
テーブルに突っ伏したままナギトがため息と共に怒りを吐き出せば、その頭をよしよしと撫でるユヅキ。
大人しく頭を撫でられながら、訊かれた通り、報酬の話をするナギトだが――結果的に学園長室でのあれこれを思い出し、思い出し笑いならぬ思い出し怒りがざわり。
それでも八つ当たりはしたくないと我慢するのだから、まだナギトは偉いかもしれない。
学園長室からこの東屋までに不機嫌を周囲にばら撒いていたけれど、それはそれ、これはこれで。
「……クソババア、に関しては突っ込まないとして……オレがあの時使った結界の使い方、学園長もわからなかったの?」
「ん-……初めて聞いたってよ。で、メモ書き程度でもイイから、どんな状況でどうしてそんな結界が出来たのか研究しろって。俺がなんの為にクエ報酬で単位取ってると思ってんだ……?」
「え、サボりたいからじゃなくて?」
瞬間、無言で顔を上げるナギトと、ハッとして両手で口を覆うミナギ。それを見た五人の小さな精霊達も、それぞれにミナギの真似をして口を覆う。風の精霊コンビはお互いの口を互いの手で塞いで、光の精霊は自分の口の前で人差し指を立てたバツマークを作り、地の精霊は片手で口を覆い、水の精霊はお口チャックのジェスチャーを。
無言のナギトのマリーゴールド色の瞳が、ミナギを射抜く。無言なのに、まだ何もナギトは言っていないのに、即座にミナギは謝った。ゴメンナサイ、と。
すると、ふーっと細く長く息を吐き、再度ナギトはテーブルに突っ伏す。
「けんきゅーの為ですぅー。一応研究者なのでぇー!」
「冗談とかじゃなくって、ホントにナギトは研究者だよ。三年間留年が許可されてたのも、研究結果報告してオッケーもらったからだもんね」
テーブルに突っ伏したまま、うんうんとナギトが頷く。
ユヅキが語った生徒応援制度と言う単語に、そう言えばそんな名前の制度があった気がする、とぼんやりミナギは思う。覚えているのはあくまでも名前だけで、どんな制度なのか内容ははっきり覚えていないけれど。
とりあえず、たまにナギトが自分は研究者だと言ったり、研究がどうのこうのと言って本を読み漁っていたりするのは、嘘や冗談の類ではないらしい。
聞いたところによると、ユヅキが入学するのを待つ三年の間に、大図書館にある研究に関わる本は大体読めた為、今年は進級するとか。必須授業とテストは参加して、後はクエスト報酬を単位で取って終わらせるつもりだそうで。
まあ、言うだけは簡単だが、実際にそれを他の生徒がやろうとしたら難しいだろう。
クエストだって完全に安全と言う訳でもない為、確実にクリア出来るとは限らないのだから。ミナギ達がこれまで経験したクエストで言うなら、ネグロ・トルエノ・ティグレの乱入や、出待ち賊の出現が良い例だ。
「飛び級はしないの?」
「しない。もう留年もしない。特別禁止書庫の鍵ももらったけど……まあ、なんとなるだろ、多分。今はもうゆづも居るから、精霊関連で知りたい事はすぐ訊けるし。ミナギのあの結界に関しては、手伝ってもらうからな」
「はーい!精霊の事ならまっかせてー!」
「手伝うのは別にいいよ、オレも、あの結界の事は気になるし」
体を起こし、やれやれとため息を吐き、大きな伸びを一つ。もうここまで来たら諦めるしかないと、表情からナギトの思いが透けて見えた。
満面笑顔で任せてとユヅキが頼もしい返事をする横で、ミナギは二つ返事で頷く。
頷いて――自分の手の平に、目を落とす。
あの時の感覚は覚えている、しっかりと。
急いでいた。焦っていた。ナギトが殺されるんじゃないかと、怖かった。ナギトを守るよりも、バスタード・ソード使いの攻撃を防ぐよりも――止めないと、と思ったのは確かだ。
バスタード・ソード使いの腕を貫通する形で出現した、結界。あの結界を消した後、バスタード・ソード使いの腕は斬れたり、傷が付いていたりする事もなく、無事だった。覚えている、しっかりと覚えている。
でも、あの結界を再度使えるかと訊かれたら、自分でもよくわからない。そもそも、普段使っている結界と同じものなのかも、わからないから。
学園に戻った後、結界術師学科の教師にもそれとなく訊いてみたが、そんな結界は聞いた事がない、知らない、使い方もわからないと、首を傾げられてしまった。
でも、もしあの結界の事が詳しくわかって、理解出来たとしたら。今よりも色々な方法で戦えるようになるかもしれない。
「……あの結界がどんなものかわかったら……多分、今よりも、ナギトさん達の役に立てると思うから」
ぽつり、小さく呟く。
その声は確かに小さかったのだけど、でも、すぐ近くに居るナギト、ユヅキ、アルバ、セラータの耳には、確かに届いていた。もしかしたら、風の統括大精霊、シエロがミナギの声を届けたのかもしれないけれど。
ぎゅっと、ミナギが手を握り締める。決意を持って、強く、強く。
守られてばかりじゃなく、庇われてばかりじゃなく。結界術師なのだから、守る為の力を。
前にもらった短剣のコラムビの使い方も、まだまだ覚えられていない。
こんな自分でも強くなれるなら、後ろで護ってもらうばかりじゃなくて、せめて、肩を並べられるまで。ナギトやユヅキに、任せたと言ってもらえるように。
ミナギが、顔を上げる。両手を強く握り締め、真っ直ぐナギトとユヅキを見つめるミナギのゼニスブルーの瞳は、何よりも饒舌に語っていた。強くなりたい、と。
向けられる瞳に、一度ナギトとユヅキは顔を見合わせる。
顔を見合わせて、ナギトはふっと柔らかく、ユヅキは嬉しそうに、笑い合う。
そうしてまたここから、もう一歩、前へ。
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