繭 

たもの助

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繭 最終話

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 授業が終わり、二人は三年生に絞って立ち回る事にしていた。
陽一のそれが【三】であり、幸雄の【繭】にしても、シルクロードを三年生が習う事を知った今、これ以上の好機はないとした為だ。
早速、社会科の授業を探す為、二人は廊下へと出ていた。
廊下には日差しが差し込み、踏み入れた所でノイズ音が鳴り、過ぎる所で消えていた。
二人はその異変に気づく事なく、社会科を行う教室に入る事に。
授業が始まり幸雄は教師の側にいた。
教科書で【繭】を読む瞬間を逃さない様にする為にだ。
だがそう簡単に上手く行く事はなく、その組は既に別の授業を行い、聞く事は出来ずにいた。

 幸雄が若干気落ちしていた所で、地獄への足音が鳴り響く。
陽一は何気なしに、教室の後ろで皆を見渡せる様に立っていた。
教室には日差しが入り、幸雄が丁度日差しを浴びていた所で、陽一は目にした。
そこには異常な速さで落ちる、幸雄の頭上の砂とその音が。

ザーザザーザザザー

それを見た陽一はすぐさま幸雄に伝えた。
「幸雄!す、砂時計!」
幸雄は言われてすぐに砂時計を確認し、そして絶句した。
その余りにも速く落ちる砂時計は、既に四分の三程が底に落ちていた。
焦った幸雄は一先ず廊下へ出る事に。
だが、廊下にも日差しが差し続けていた事により、幸雄の砂は異常な速さで落ち続け、それを見た幸雄はパニックに陥った。

幸雄が混乱している姿を見て、陽一は自身の頭上を確認してみたが、通常の速度で落ちる砂がそこにあった。
陽一はそこでやっと気付いたのか、幸雄に対して、
「幸雄!日差しからすぐに離れろ!」そう言った所で幸雄は逃げ出す様に陽一の側へと駆け寄った。
すると、ノイズ音はなくなりいつもの様に砂はスルスルと落ちて行き始めた。
刹那の安堵となった二人は身を持ってその三を解決していた。
陽一が続けて言葉を発する。
「思い出した!昨日風呂を覗いた時も同じ音が鳴ってたぞ」
それを聞いた幸雄は顔が真っ青になり、そこで、やっとその四の意味も深く理解した。
寿命を削りながら若い女性の風呂を覗いていた自身に深く後悔した所で既に遅かった。

失ったその代償は、砂の残りを見る限り、残り時間は僅か二日にも満たない事が分かった。
更に、幸雄にとっての絶望は重なる。
 幸雄と陽一は変わらず教室を見渡せる後ろに立っていた。
始業のチャイムが鳴り、教師が入って来た後、黒板を観ながらそれを口にした。唐突だった。

「えー今日は三日だから、三番!平田!」

その瞬間、陽一の砂時計はピタリと止まり、頭上にその二とそれを囲む◯が浮かび上がった。
と同時に陽一が少しずつ浮かび上がる。
「幸雄!すまん!本当にすまん!」
陽一は雫を落とし、それを呆然と見上げる幸雄。
既に陽一の姿は教室から見えずにいた。

そして遠くの方から微かな声だけが聞こえた。

「幸雄!小学校…蚕飼って…覚え…」
陽一の声はそこで途切れた。
幸雄はそこから先は何も考える事が出来ず、只々時間だけは過ぎていった。

 頭上の砂時計は止まる事なく、期待するそれを耳にする事は出来ず、その内生徒たちはそれぞれ帰路についていた。
度重なる絶望は、それまでの思考を断つ程の損害を負わせたのだろう。
校舎から出る事もせず、夕闇が差し掛かっていた。
幸雄が朦朧とした意識の中でたどり着いていたのは屋上だった。
それはもしかしたら未だに陽一が天から助言をくれないか、声を届けてくれないか、そんな針の穴程の極小さな希望を空に託して見た所で叶う事はなかった。
代わりに砂時計は残り少ない現実を表していた。
恐らく、後一日程度が下界にて許される時間。
 幸雄はそこまで考えた所で、ふと陽一が天に向かう際に言っていた言葉を思い出していた。
小学校? 蚕? 飼っていた?

屋上の死人は少しばかり考えた後、小さく握り拳を作った。
小学校で蚕を飼い育て、【繭】を作った事は思い出した。
だが残り時間が一日にも満たない中で、今居る場所ではシルクロードを習っており、わざわざリスクを犯してまで小学校まで行くべきなのか。

幸雄は一頻り考えた後、何者もいない空を見上げ、決断をした。

その後いつもの少年の部屋へと足を運んだ幸雄だったが、その日少年はゲームに熱中となり、大志を抱く事はなかった。
そこで大事な一日は幕を閉じた。
幸雄はその日夢を見た。
それはあの不気味な鬼が、血がべっとりと付いた金棒で死人達を叩いては起こし、叩いては起こしを繰り返す。
その内鬼は幸雄に気が付いたのか、薄ら笑いを浮かべながら、ゆっくりと手招きをしている所で目が覚めた。

目覚めた後もあの血生臭さだけは残っていた。

朝日が出る頃、幸雄は既に校舎にて待つ事に。
場所は昨日の中学校だった。
 その内ぞろぞろと生徒達が教室へと入り、チャイムの音が鳴る。
幸雄は手慣れた様にそれぞれ教室の授業を眺めていった。
昨日と同じく社会科を行う教室を見つけはしたが、違う内容のものだった。
そこから二時間目が終わる所まで見回りをした所で、決断した。

幸雄は最後の賭けに出た。

外へと走り出すとけたたましいノイズ音が鳴り出す。
幸雄はお構いなしにありったけの体力を振り絞り走り続けた。
着いた先の門を走り抜ける間際、その学校名が幸雄を呼び止めた。

学校名は幸会小学校。

幸雄の中で思いは一つだった。

ここで全てを終わらせよう。


そう誓い、校舎へと向かう姿がそこにあった。

 僅かな量の砂は音もなく落ちていく。
幸雄はその頭上を見る事もなく、一年生から順に見回り二年生へ、そして二階の三年生へと足を運んだ。

教室に入った所で幸雄には段ボールが目に入った。
すぐに中身を覗くと、紛れもなく【繭】がそこにはあった。
だがそれらしき授業は行っておらず、他の教室へ。

どの教室にも同じ様に段ボールが置かれ、中には【繭】がそれぞれ出来ていた。

後は時間との勝負だった。

幸雄は既に覚悟を決めていた。
ここでもしダメだったとしても、陽一と言う仲間に巡り会えた事、そして幸と言う名の学舎にて最後を迎えられる事。
それだけで幸せだと心の底から感じていた。

砂は無常にも落ち続け、音さえも無くなりかけた頃、
不意に子供らの声が聞こえてきた。

それは正に幸雄が求めていたものだった。
急いで声のする方へ向かった。


そこでは教師が黒板に【繭】の字を書き読ませていた。
恐らくその漢字は三年生では習うことがないだろう。
もしかしたら、そのもしかしたらを陽一が想像してくれたことは見事、現実となっていた。

後はもう一度それを読む瞬間を待つだけだった。

そして、砂の音が途切れた瞬間。


「まゆー!!」
子供達は皆で叫んでいた。


同時に何処からか、聞き覚えのある声がした。

それは声と言うより舌打ちだろう。
血生臭さでそいつの正体が分かった。

同時にその舌打ちにより自身が助かった事を確信し、幸雄は腰を抜かしその場に倒れ込んだ。
そこから幸雄の頭上にはその二とそれを囲む◯が浮かび上がった。

今度こそ本当に助かった。


これで陽一と、そして幸子の元へと行ける。


会って二人に礼を言い美味い酒を飲もう。
そう思った所で幸雄の身体は徐々に天へと舞い上がっていく。




天に上がる際、幸雄は見慣れた女性の姿を確認していた。





「さっち…」
と、言い掛けた所で口を閉じた。


空からその女性を見下ろしていた幸雄は、
少し考えた後、何処か哀しげな表情を見せた。



そして、静かに天を見上げ、舞い上がっていった。




下界には、【魑魅魍魎】が頭上にプカプカと浮かぶ、




幸子の姿がそこにはあった。
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