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第二章 破滅の赤

近況報告

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「あれ?イーサンだけ?ルカリアが居ないとか逆に怖いな」

「にいさまもこわい?ルカリアどうしたんだろうね?」

  
いつもならルカリアが部屋に突撃をかましてくる時間をとうに過ぎ、それでも姿を現さないことを不思議に思った兄弟は食堂にて顔をに合わせ首をかしげていた。習慣とは必要に駆られれば案外直ぐに身に付くもので、二人は何時ものようにルカリアが来る前に目を覚まし二度寝することもなく集合したのだった。

本来彼らを起こすのは専属の使用人の仕事であるが、勉強が始まる七歳まではそういったタイムスケジュールが組まれることは無く、伸び伸びと自分の好きなことをするような教育方針を取っているマティスロア家。故にルカリアの奇行も容認され、ているのは兄弟にとって有難迷惑か…


「おはようローガン、イーサン。今日も朝から元気な姿を見ることが出来て嬉しいよ」


低く落ち着いた声は最低限の言葉しか発さない。以前までならその声にピクリと無意識に身体を固くしていた二人も、次第に慣れて来たのか父とのコミュニケーションをスムーズにとれるようになっていた。


「おはようございます!父上」

「おはようございます」

「あぁ」


そう言って頷くとの様に二人の頭を撫でる。剣を握る手は固いがその手つきは優しい。それもそのはずで、息子とのコミュニケーションを上手くとれない父にルカリアズカズカと背中を蹴り…いや押したからだと言える。頭を撫でることから始まり、抱っこ、握手、など痛くない力加減から、無表情でも怖がられない口調や会話のフォローまで。語彙力が無いわけではないはずなのに口数が少ない父親に、いつもの挨拶に加えるフレーズ集を授けたのも彼女だった。先ほどの『今日も朝から元気な姿を見ることが出来て嬉しいよ』もそれである。

そんな父と息子たちの緩衝材を担っていたルカリアの姿、それと毎朝父セドリックと共に食堂へと姿を現す母イザベラの姿が見えない。

2人は席に着き並べられていく朝食を見ながら、マナー違反を犯さない程度に周囲の様子を伺う。そんな息子たちの様子に気づいたのか、苦笑…とイザベラとルカリアなら判断できそうな表情を浮かべたセドリック。大好きな母親はもちろん、食堂に入る前にルカリアがいないことについて、疑問や違和感を覚えていることに嬉しく思ってしまう。



これでもいきなり現れた妹という存在に、幼い子供たちの心が受け入れてくれるか不安はあった。

コーラル主人からの提案によって実現した養子縁組であったが、葛藤が無かったわけではない。まだ幼い少女でありながら貴重な魔法を使い、更には誰もが一目置く主人と対等に友人関係を結んでいる。それだけではなくこの国では特別な商人でなければ関わることのない他国から来たというだけでその特異性は跳ね上がる。

幼い子供を持つ父であり、愛する妻を持つ夫であり、当主である父から王都での代理を任されている身でもある。絶対君主政であるイデアーレ王国では、王族の言葉は遵守すべきものであり初めからこの提案は受ける者であることは決定されているに等しい。

悩んでいる中で妻であるイザベラが真っ先にその話を肯定してくれたことは、セドリックの心を軽くし、子供たちとの関係は自分たちが仲を取り持とうという前向きな判断を下すことに一役買った。

が、その心配は無用であった

というのも迎えた娘であるルカリアが物怖じしない性格であり、いきなり出来た家族であるイザベラだけでなく、無口無表情といわれる自分にも懐いてくれたからだ。さらに二人の息子とも個性的であるがそこをうまく振り回すことで交流を重ね、今では居ないことが当たり前じゃないという関係性を構築しているようだ。

自身の主人と同じような思わず畏怖してしまう美貌を持ちながらも、その性格は好奇心旺盛で腕白。そういったところも主人と似ており、人の輪に溶け込むのが上手いと言えるだろう。

そんな娘のことを考えながら、出来るだけ言葉を多くすることを意識して口を開く。


「ルカリアは今イザベラと一緒に正装の支度をしているよ。友人と言っても第13王子殿下とその婚約者であるバーグマン家の御令嬢のお茶会に誘われているからには、礼儀は守らなくてはいけないからね」

「「えっ」」


2人は思わず声を出し顔を見合わせる

その口元が緩んでいたことは言わぬが花だろう

こうしてローガンとイーサンはルカリアが来て以来初めての自由を手に入れたのだった













「中々会えなくてすまなかったな。久しぶりルカ」

「お久しぶりねルカ。会いたかったわ!」

「お久しぶりです。お二人ともお元気そうで」


ルカリアはコーラル、イングリッドと再会の握手を交わす。その部屋には三人の他に人影は無く、机には既に三人分のティーセットとデザートが並べてある。それも親しい友人との会話の様子を外に漏らさないよう魔法道具を使う徹底ぶり。さらにルカリアが来て魔法をかけてもらったことで、その機密性は格段に跳ね上がる。

そんな三人の非常にリラックスしたお茶会が始まった


「流石我らが専属魔法師ルカリアさまね。漸く息を着けたわ」

「どうも超絶凄腕専属魔法師ルカリアです。お給金は出世払いでいいですよ」

「なんだその肩書…突っ込むのもめんどくせぇ」

「「「ふっははは」」」


暫く笑い合った後、イングリッドとコーラルの草臥れていた雰囲気は消えていた。その表情は年相応の子供の様に無邪気でいたずらっ子という言葉を連想させる。


「で、マティスロア家はどうだ?まぁセドリックや夫人はともかく、あそこにはガキが2人いただろ」

「いやガキその1ローガンは私たちと同じ年ですよクソガキ殿下~」

「おいさっきまでの貴族令嬢的な猫かぶり殊勝な態度はどうしたクソガキ筆頭がよ」

「いやコニーには言われたくないでしょ。なによそのガラの悪い座り方」

「そうですそうです。レディーの前でいきなりブラウスの首元を緩める不良に言われたくないです」


久しぶりのじゃれ合いが楽しいのか三人とも会話が弾み中々本題に入れない。が、確かに砕けぎた自覚があるのか、コーラルが会話に区切りを打つ。


「あーあー!ぼく5歳ーよくわかんなーい。んで、その二人はどんな性格だ?やれそうか?」


その『上手く』に、友人としての”純粋な関係構築の心配”と、人の上に立つ人間が見せる”駒を如何に操るか”を問うているのがわかる。勿論コーラルはそんなあからさまな態度は見せていない。表所はニヤリと軽口の延長のような笑みを浮かべ頬杖をついている。しかしそこで彼の意図する答えを導けない者に隣に立つ資格はない。そしてそれは最も傍にいることを婚約者も例外ではない。


が可笑しいだけで普通の五歳児に期待しても意味ないでしょ」

「なんだよ。そのじゃないのが三人集まってるんだ。期待してもいいだろ?今のうちに仲間洗脳するのも手だろ」

「まぁマティスロア卿の子を今の内から取り込んでおくのは賛成だけどね」


彼らは自分たちがじゃないということは理解している。それは前世を持つ者、スラムで様々な人間の行動パターンを見て来た者が故。勿論貴族であり一般的にはまだ家の外から滅多に出すことは無い年齢の二人がの五歳児を知るすべはないはずである。が、互いが何かしらの事情を抱えていることを理解している二人はそういったことに踏み込むことは無いし、その必要がないと考えている。それはルカリアことルクレツィアにも言えることで、重要なのはその知識源ではなくそれを如何に使うかを重視している。故に違和感を感じても、それを彼らが説明しようとしない限り、わざわざ踏み込むことは無い。


「そうですねー長男のローガン兄様はかなり賢いと思いますよ。会話をしていても語彙力、思考力共に優秀の部類かと。ただ感情面で少し不安定な所がありましたが、それも母様や弟君を思いやれる気遣いが出来るようなので本人の悩みを解消すれば問題ないと思います。弟のイーサン君もちゃんと理性的な判断が出来るようですし、まぁマティスロア家の今後を期待してもいいかもしれませんね」


「なるほどな。そこまで分かっているなら大分打ち解けられたのか?」

「……え?まぁ?かわいい子ほどイジメたくなるっていうかぁ?」

「……ルカ、貴方ちゃんと馴染めてる?イジメてない?」

「あれ、そこはイジメられてない?って聞く所では?」

「お前がイジメられるような性格じゃない事は俺たちが良く分かっている。安心しろ。その二人の兄弟とは俺とインジーで仲良くしとくからさ」

「大丈夫ですって!嫌も嫌よも好きの内っていうじゃないですか。きっと今頃私がいなくて寂しがってますよ!最近は逃げなくなったんですから」


コーラルとイングリッドは幼い兄弟を高笑いしながら追いかけるルカリアの姿を想像し、哀れな兄弟子羊の無事を祈ったのだった。
















◇マティスロア家


「にいさまぁ」

「あれ、どうかした?」

「おとなりにいてもいい?」

「勿論。今日はうるさいのが居ないから好きなことが出来るよ。何して遊ぶ?」

「んーんーにいさまがやりたいことする」

「……本、読んであげるよ」

「やったー」


15分後、飽きて兄弟仲良く夢の中に旅立ったことはルカリアには内緒にしておこう









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ルカリアのせいで今までの遊びじゃ退屈に感じてしまう兄弟でした

次回 これからのこと
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