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第1章 魔の森編
第19話-2 お届け物
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みんな真面目だよねってスミスに言ったら「命がかかっておりますので」と返された。
確かに……
魔の森にある別荘は、滞在した人間が半年も生きながらえないというウワサがあった。って言うか、その設定をしたのはオレだ。
そんな別荘に送り込まれたみなさんは、手に負えないほど強い魔物の襲撃が今にもあるんじゃないかと、冷や冷やモノらしい。
そんな騎士のみなさんは、オレの部屋で何かあったら真っ先に駆けつけなくてはいけないが、かと言って「主人を見張っている」と思わせないようにするため、それなりに気苦労があるのだろう。
しかしながら、一瞬で「エリザベス様とご一緒にお茶をなさる姿」を見て取って、生温かい目をされてしまうのが気まずい。声なき声で「坊ちゃん、上手くやんなさいよ」的な声が聞こえてしまうのだ。
『以前からそうだし、物語上もそうなんだけど』
なぜか、エリザベスがマルスに迫るのを誰も止めないんだ。いや、話の中ではその方が面白いんで、周りから「行け、行け」になるっていう設定なんだよ?
だけど、普通なら、ご令嬢が魔の森に行くっていったら止めるだろ。これな物語の強制力ってやつなのか。
まあ、なにはともあれ、学園入学までの一時を、こうしてまったりと過ごすのも悪くないかと思ってしまうオレだった。
・・・・・・・・・・・
「お館様。若様から手紙がとどきました。それと荷物が付いております」
執務室の黒檀の机だ。
手紙盆に置かれた封書。そして、侍従が木箱に入った荷物を丁寧に置く。
「マーウォルスからか。あやつにも困ったものよ」
呟きながら手紙を開いた。
いくら忙しくても、これを後回しにする選択肢はなかったのだ。
メディチ家当主であるクラウディウスは、すなわちアモーア帝国の最強の魔術師であり、同時に魔術師師団の団長を務めることになっている。
代々、受け継がれてきた「最強」という名は、メディチ家のものであり、アモーア帝国の魔術師団のものでもある。
だからこそ、長男の才能を認めつつ、人を人とも思わぬ振る舞いをする長男を断腸の思いで切った。
「いくら才能があっても、あの男では魔術師団が崩壊する。魔法使いは、戦場での個人による武勇よりも、連携の取れた戦力になる必要があるのだから」
それこそが、副官に語った決意と処分理由だった。
己の決意が揺るがぬよう、わざわざ息子を死地に追いやることまでした。
退路を断ったはずだ。どのような詫びを入れても決断を変えるつもりはなかった。しかし申し渡す時の態度が、今でも気になってはいるのだ。
『一体あの男は何を考えておる? しかも、この手紙。いや、手紙もそうだが、こんなものを送ってくるとは』
メディチ家当主クラウディウスは二つの箱を見つめ、ため息をついた。
『解せぬ。確かに、あの男が泣き言を入れるわけはないとは思ってはいたが、これは泣き言どころか、むしろ真逆ではないか』
手紙には「たまたま」手に入れたハチミツを送るとあった。
ジャイアントビーの巣からだけ採れる「グレートハニー」だと書いてある。しかも、水差しサイズのツボに並々と入った量だ。
公爵であるクラウディウスですら、目も眩むほどに貴重なものが、こんなにも無造作に存在してしまうとは。
ご丁寧なことに「実家用」と「献上用」と二つもあった。何をどう考えても、アモーア帝国が建国以来手に入れた、全てのグレートハニーを合わせても、この半分にも満たないだろう。
『これが本物なら、帝国がひっくり返るぞ? だが、あの男がニセモノを送ってくるはずがない。鑑定をさせるにしても、恐らく本物に間違いあるまい』
クラウディウスにとって、これが本物であることを疑うよりも、問題にすべきは「なぜ?」であった。
『あの男、一体、何をたくらんでおる?』
嫡子交代を告げた時、あまりにも清々しく受け入れた。その態度を見て別荘送りは止めようと思った。元々妻も反対していたということもある。
恭順を示す息子を、わざわざ殺すことにためらいが生まれるのは、父親として当然だろう。
ところが自ら死地に追いやれと言い出した。それなら、と呼び戻す可能性など一ミリも考えず、心の中で永遠の別れをしたはずだった。
しかし、別荘に行き、一月と経たずに、これだけのものを献上してきた。
『こんなモノを見せられた以上呼び戻さねばならぬ。さもなければ公爵たる自分の名が廃ることになるからな』
クラウディウスの頭の中は、鑑定させた後から献上までの手続きが浮かんでいる。これだけのものを献上すれば、皇帝はマーウォルスを呼び出すはずだ。
いろいろと面倒ごとが起きそうだ。
「とりあえず、急ぎ呼び戻さねばならん。急使を派遣するぞ」
家宰は、恭しく頭を下げると手配のために速歩きで退出したのである。
確かに……
魔の森にある別荘は、滞在した人間が半年も生きながらえないというウワサがあった。って言うか、その設定をしたのはオレだ。
そんな別荘に送り込まれたみなさんは、手に負えないほど強い魔物の襲撃が今にもあるんじゃないかと、冷や冷やモノらしい。
そんな騎士のみなさんは、オレの部屋で何かあったら真っ先に駆けつけなくてはいけないが、かと言って「主人を見張っている」と思わせないようにするため、それなりに気苦労があるのだろう。
しかしながら、一瞬で「エリザベス様とご一緒にお茶をなさる姿」を見て取って、生温かい目をされてしまうのが気まずい。声なき声で「坊ちゃん、上手くやんなさいよ」的な声が聞こえてしまうのだ。
『以前からそうだし、物語上もそうなんだけど』
なぜか、エリザベスがマルスに迫るのを誰も止めないんだ。いや、話の中ではその方が面白いんで、周りから「行け、行け」になるっていう設定なんだよ?
だけど、普通なら、ご令嬢が魔の森に行くっていったら止めるだろ。これな物語の強制力ってやつなのか。
まあ、なにはともあれ、学園入学までの一時を、こうしてまったりと過ごすのも悪くないかと思ってしまうオレだった。
・・・・・・・・・・・
「お館様。若様から手紙がとどきました。それと荷物が付いております」
執務室の黒檀の机だ。
手紙盆に置かれた封書。そして、侍従が木箱に入った荷物を丁寧に置く。
「マーウォルスからか。あやつにも困ったものよ」
呟きながら手紙を開いた。
いくら忙しくても、これを後回しにする選択肢はなかったのだ。
メディチ家当主であるクラウディウスは、すなわちアモーア帝国の最強の魔術師であり、同時に魔術師師団の団長を務めることになっている。
代々、受け継がれてきた「最強」という名は、メディチ家のものであり、アモーア帝国の魔術師団のものでもある。
だからこそ、長男の才能を認めつつ、人を人とも思わぬ振る舞いをする長男を断腸の思いで切った。
「いくら才能があっても、あの男では魔術師団が崩壊する。魔法使いは、戦場での個人による武勇よりも、連携の取れた戦力になる必要があるのだから」
それこそが、副官に語った決意と処分理由だった。
己の決意が揺るがぬよう、わざわざ息子を死地に追いやることまでした。
退路を断ったはずだ。どのような詫びを入れても決断を変えるつもりはなかった。しかし申し渡す時の態度が、今でも気になってはいるのだ。
『一体あの男は何を考えておる? しかも、この手紙。いや、手紙もそうだが、こんなものを送ってくるとは』
メディチ家当主クラウディウスは二つの箱を見つめ、ため息をついた。
『解せぬ。確かに、あの男が泣き言を入れるわけはないとは思ってはいたが、これは泣き言どころか、むしろ真逆ではないか』
手紙には「たまたま」手に入れたハチミツを送るとあった。
ジャイアントビーの巣からだけ採れる「グレートハニー」だと書いてある。しかも、水差しサイズのツボに並々と入った量だ。
公爵であるクラウディウスですら、目も眩むほどに貴重なものが、こんなにも無造作に存在してしまうとは。
ご丁寧なことに「実家用」と「献上用」と二つもあった。何をどう考えても、アモーア帝国が建国以来手に入れた、全てのグレートハニーを合わせても、この半分にも満たないだろう。
『これが本物なら、帝国がひっくり返るぞ? だが、あの男がニセモノを送ってくるはずがない。鑑定をさせるにしても、恐らく本物に間違いあるまい』
クラウディウスにとって、これが本物であることを疑うよりも、問題にすべきは「なぜ?」であった。
『あの男、一体、何をたくらんでおる?』
嫡子交代を告げた時、あまりにも清々しく受け入れた。その態度を見て別荘送りは止めようと思った。元々妻も反対していたということもある。
恭順を示す息子を、わざわざ殺すことにためらいが生まれるのは、父親として当然だろう。
ところが自ら死地に追いやれと言い出した。それなら、と呼び戻す可能性など一ミリも考えず、心の中で永遠の別れをしたはずだった。
しかし、別荘に行き、一月と経たずに、これだけのものを献上してきた。
『こんなモノを見せられた以上呼び戻さねばならぬ。さもなければ公爵たる自分の名が廃ることになるからな』
クラウディウスの頭の中は、鑑定させた後から献上までの手続きが浮かんでいる。これだけのものを献上すれば、皇帝はマーウォルスを呼び出すはずだ。
いろいろと面倒ごとが起きそうだ。
「とりあえず、急ぎ呼び戻さねばならん。急使を派遣するぞ」
家宰は、恭しく頭を下げると手配のために速歩きで退出したのである。
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