死んでる場合じゃない 〜小学生とエリートスパイとの奇妙な共同作戦〜

ぱるゆう

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研究所 1

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土曜日、両親には市外の大きな図書館に行くと告げた。いつものことだ。お小遣いが限られているため、図書館はとても有難い。

家を出て少し歩くと、黒い車の中から春夏冬さんが出てきて、
「こんにちは」と声をかけてきた。

「こんにちは。今日は、よろしくお願いします」と僕は軽く頭を下げた。

「あまり長い時間はいられませんが、分かりやすく説明したいと思ってます」

僕は助手席のドアを開けた。
チャイルドシートが設置されていた。

「こんなことまで」

「大切な身体ですから」

「あぁ、そうでしたね」と僕は納得して座って、シートベルトを締めた。

「トイレは大丈夫ですか?」

「はい、ちゃんとしてきたので」

「申し訳ないのですが」と春夏冬さんは言って、何かを僕の方に出した。

僕はそれを広げた。
「目隠し?」 

「場所だけは分からないようにしてくれ、と施設の者に言われまして」

「僕以外で施設を見たいと言った人は?」

「いません。みんな自分が死んだ後のことなんて気にしませんよ」

「確かに、そうですね」僕は目隠しを付けた。

「では、出発します。ちょっと遠いので、トイレは早めに言ってください」

「でも、トイレ行ったら、今目隠しをしてる意味が?」

「大丈夫です。トイレに行くことを想定したルートになってます」

「遠回りすると?」

「そういうことです。飲み物はあらかじめ渡しておきますので、好きに飲んでください」とペットボトルを渡してきた。

「はい」

「では、出発します」
車は動き始めた。


春夏冬さんの運転は、スピードもゆっくりと上がっていき、ブレーキも緩やかだった。だから、車酔いは大丈夫そうだ。


「ご両親には何と?」

「週末は、いつも図書館に半日くらいいるので、そこに行くと言ってあります」

「本が好きなのですか?」

「はい、色んな人の考えを知ることができるので」

「漫画ではないんですか?」

「漫画は都合がいいことばかりなので、見ないですね」

「それでは、小説なども読まないんですか?」

「最近のは読まないですね。昔のものは見ます。SFとか推理物は読みます。恋愛小説は僕には意味がないので読まないですね」

「そう考えるのは、まだ早いんでは?」

「僕が僕のことを嫌いなんですよ。そんな僕を好きになってくれる人なんているわけないじゃないですか」

「まぁ、私もずっと独身なので何も言えませんが」

「そうなんですか?春夏冬さん、背が高いし、怒らなそうだから、安心できるって人がいてもよさそうなのに」

「残念ながら、そういう人には会ったことはありません」

「じゃあ、尚更、僕なんて無理ですよ」

と僕は言いながら、ペットボトルの蓋を開け、一口飲んだ。ペットボトルは席の前にあるホルダーに置いた。


そして、しばらくして、僕の目はゆっくりと閉じた。





「青龍さん、青龍さん」と夢の中で声がした。

「う~ん、もう少しだけ」と青龍は言った。

「仕方ないですね」と春夏冬は青龍の鼻をつまんだ。

「んがっ、んがっ・・・・はっ!」青龍は目を開いて体を背もたれから離した。

「やっと起きていただけましたね」と春夏冬の声がした。

「あれ?いつも間にか眠ってました?」

「えぇ、ぐっすりと。着きましたから降りてください」

僕はシートベルトを外して、車を降り、両手を空に向けて体を伸ばした。

「春夏冬さんの運転が優しかったから、眠ってしまったみたいです。いつも、そんなことないんですけど」

「それはありがとうございます。携帯電話は車の中に置いて行ってください」

「分かりました」と僕は上着のボケットから取り出して、座席に置いた。

「では、こちらに」と春夏冬が顔を向けて歩き始めた方向には、山々がそびえ立っていた。

ここはヤマナシじゃないんだ、と僕は思った。

その山の下に、白い大きな建物があった。

「あれが?」

「はい、そうです」

「こんなに大きいんですね」

「人間の脳のデータを保存するため、とても大きなコンピューターがあります」

「スーパーコンピューターってことですか?」

「えぇ、そうです」

「へぇ~」と僕は知らない間に笑顔になった。

ここは、SFの世界だ。どんな小説よりも研究雑誌よりも進んだ未来がある。

入口には警備の人が立っていた。
春夏冬さんは、何かのカードと紙を広げて渡した。

「はい、聞いております。このカードは登録されておりますので」と警備員は言って、受け取ったカードを入口の壁に付いている、部屋の中にある方のインターホンのような機械にかざした。

ドアは開き、警備員はカードを春夏冬さんに返した。

「ご苦労様です」と春夏冬さんは言って、中に入った。警備員は敬礼して、見送った。僕は警備員に軽く会釈をしてから、春夏冬さんについて行った。

中は白色に包まれて明るかったが、とても静かだった。

春夏冬の革靴の音が木霊している。

特段、変わった所は無さそうだと、僕はキョロキョロしながら思った。

そしてエレベーターに乗った。やはり誰も乗っていなかった。

春夏冬は、数字が書かれたボタンの上にあるモニターにカードをかざした。

すっとエレベーターは動き始めた。数字のボタンは薄い黄色から赤色に変わっていた。

体感からすると、下に降りているようだった。
「地下なんですか?」

「えぇ、上の建物はダミーです。と言っても、皆さん普通に仕事をしています」

「そうなんですね。でも、ここまで秘密にしても、両親とかには話してるし、大丈夫なんですか?」

「アメリカのエリア51と同じです。あると思っても確証がない。それを言った所で、聞いた方は眉唾ものだと思います」

「どうして、こんな研究所を?」

「永遠の命って、どう思いますか?」

「僕は死のうとしてるんですけど」

「あっ、これは失礼しました。権力やお金を持ってしまうと、死ぬのが怖くなる。それは年齢を重ねるごとに、どんどん強くなり、凄まじい恐怖となる。しかし、脳を始めとした肉体は、お構い無しにどんどん衰えていく。仮に頭ははっきりしてたとしても、身体は必ず動かなくなる。それなら、肉体を変えてしまおうという訳です」

「意識だけ永遠になる」

「そういうことです。相変わらず理解が早くて助かります。私は説明が得意でないものですから」

「でも、それなら、ロボットの方が良くないですか?新しい肉体を得ても、それもいつかはダメになってしまうんだし」

「おっしゃる通りです。見た目さえ気にならなければ、ロボットの方が都合がいいかもしれません。でも、動かす身体はできても、データを保管する場所がありません」

「どういうことですか?」

「あら?説明が下手で申し訳ありません。つまり、この研究所を頭に乗せる必要があります」

「あっ!そういうことですか。データのメモリでしたっけ、それが小型化できないと?」

「メモリだけではありません。演算するコンピューター自体もまだ無理なんです。そんなものができれば、日本はIT産業で世界一になれますよ」

「確かに。でも、そういうものはクラウドでしたっけ?それで済むんじゃ?」

「どうなんですかねぇ、申し訳ありませんが、私には答えられません」

「あぁ、すいません。つい興味本位で次々と質問してしまって。答えていただいて、ありがとうございました」と僕は頭を下げた。

「いえいえ、私の勉強不足です」

エレベーターは長い間動いて止まった。

「何階なんですか?」

「それは私も知りまさん」

エレベーターの扉が開くと、また廊下だった。いくつかのドアを通り過ぎて、春夏冬はカードでドアを開いた。

入ってみると、また廊下だった。
しかし、右側に大きな窓がいくつもあった。

春夏冬は立ち止まり、窓の方を向いた。
「ここが、研究室です」

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