死んでる場合じゃない 〜小学生とエリートスパイとの奇妙な共同作戦〜

ぱるゆう

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研究所 3

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僕は中に入った。そこは、さっきまで見ていた研究室だった。

白衣を着た人達が僕を見て、驚いていた。

追ってきた男達も中に入ってきた。

さっきまで、この部屋を見ていた窓を見ると、春夏冬さんが窓に押しつけられた状態で捕まっていた。

僕は他に出入口がないか、キョロキョロ見回した。すると、エレベーターのようなものがあった。

僕はそこを目指して走った。

しかし、子供の足だ。真っ直ぐ追えるなら、大人に敵うわけがない。案の定捕まってしまった。
すぐに口元に透明の茶碗のようなものを押し付けられた。何か変な匂いがした。

そして、僕の意識は無くなった。



青龍は服を脱がされ、裸にされた。そして病院のストレッチャーのような台に乗せられて、鼻、耳、両手両足の親指に大きな洗濯バサミのようなものを付けられ、頭には丸い帽子のようなものが被せられた。全て、長いコードに繋がれていて、透明の箱の近くにある中央の大きな柱の中にコードは消えていた。

そして、薄い黄緑色の液体が入った水槽の中に青龍を沈め、蓋を被せた。

白い白衣を着た人達は、柱の周りでモニターを確認したり、キーボードを打ったりした。

「肉体損傷なし。全項目クリア。各コード接続異常なし。血液浸透開始、拒絶反応微量、問題なし。浸透率1パーセント、2パーセント・・・」



その頃、春夏冬は
「なんてことを・・・」と涙を溢れさせていた。

「何?あなたの子供じゃないでしょ」女性は呆れたように言った。

確かにその通りだ。でも、話していると、何処か近い価値観のように思え、とても楽しかった。自分の子供なら、青龍のように少し変わった性格をしていたかもしれない、と春夏冬は思った。


そして、
「浸透率100パーセント。心臓、脳正常値内を維持。呼吸継続、脈拍正常。いつでも問題ありません」と白衣を着た研究員は、隣に立っている年上の研究員を見た。

年上の研究員は、顔をしかめていた。

本当にいいのだろうか?今ならまだ間に合う。身体に入った人造神経液は、普通に生活していれば半年程度で身体から排出されてしまう。



それを見ていた女性は、
「早くしなさいよ!」と窓に向かって叫び、窓を叩いた。

しかし、窓は防音、防弾だ。もちろん研究室の中には何の音も聞こえない。

「ちっ!どいつもこいつも役立たずばっかり!」そう女性は吐き捨てて、通路から部屋に入った。
「何やってるのよ!」と叫びながら、柱に近づいてきた。

年上の研究員は振り返って、
「副所長!待ってください。やはりこれは殺人です」

「そんなこと初めから分かってるわよ!」

「それに、元の意識がどう影響を与えるか、未知数です」

「そんなの上書きされるに決まってるでしょ。もう!いい!」女性は、そう吐き捨てると、親指を柱の読み取り機に押し付けた。

「認証完了しました」とアナウンスが流れ、開いたケースの中のボタンを押した。

柱の黒かった部分が光り始めた。
「データ転送開始。停止するとデータが破損する恐れがあります。研究所への電気供給を停止させないでください」と何度かアナウンスが繰り返された。


「よし!」と女性は笑顔になった。

そして、年上の研究員に振り返って、
「床田、ちゃんと私の命令に従いなさい」と睨んだ。

「はい・・・」と床田は視線を落とした。

「もうシステムは完成している。もう、あなたは用済みなの。いつでも追い出すわよ」

床田は両手をぐっと握った。他の国に行ってやろうかと何度も思った。しかし、同じシステムを作るのに、最低10年はかかるだろう。それに、一番問題なのは、あの人造神経液だ。あれができたから、脳からの電気信号を全身に送れるようになった。あれは、科学ではよくある話だが、偶然にできたものだ。ここの軟水が偶然紛れ込んだために、やっと成功した。この軟水がないと作れない。

「理解しております」と床田は視線を落としたまま言った。

女性はその答えに満足したのか、モニターを見つめる研究員の傍で、
「どう?」と言った。

「只今、伝達状況0.2パーセント」

「相変わらず遅いわね。また来るわ」と女性は出口の方に向かって歩いた。

解放された春夏冬が、その途中で立ちすくんでいた。

女性はそこで立ち止まって、
「春夏冬、今回の働きに免じて、私に歯向かったことは忘れてあげるわ。本当によくやってくれた。ハハッ、ハハハ・・・」と高笑いをしながら、部屋を出て行った。

春夏冬はゆっくりと歩き、
「床田さん、今止めたら、どうなりますか?」

「この少年の脳へのダメージは計り知れません。最悪、意識が戻らない植物人間になる可能性があると思います」

「やはりそうですか・・・」春夏冬はがっくりと両膝を床に付けて、項垂れた。

私がつい、この子の嬉しそうな顔を見たいと思ってしまったばっかりに、こんな所に連れてきてしまった。本当に申し訳ない・・・・。

床田も膝をついて、春夏冬の肩に手を置いた。
「春夏冬さん、もう手遅れなんです。この装置ができて、私は自分の研究が正しかったと有頂天になっていた。確かに、肉体があるなら、早くその中にデータを移したい。肉体の持ち主が、どんな生活を送っていようが関係ない。そう考える人間が出てきてもおかしくなかったんです。私も共犯です」

春夏冬は、肩に置かれた床田の手に自分の手を重ねた。

「床田さん、あなたの研究は人類の夢だ。あなたは悪くない。いつの時代も科学を悪用する人間が悪いんです」

「ダイナマイトを発明したノーベルもそう思ったんでしょうかね?」床田はそう言って、水槽に浮かぶ青龍を見た。隣で春夏冬も水槽を見つめた。

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