死んでる場合じゃない 〜小学生とエリートスパイとの奇妙な共同作戦〜

ぱるゆう

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友達? 2

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詩織は躊躇なくドアを開いた。カランカランと鐘の音がした。

「いらっしゃい」と女性の声がした。青龍が見ると、母親よりも少し年上に見えた。

「あら?詩織ちゃん。いらっしゃい。今日のお稽古は?」

「その前までには帰ります。いいですか?」

「もちろんいいわよ」

「2人なんですけど」

「あら、珍しい。いつも1人なのに」と詩織の後ろにいた青龍を見て、
「好きな所に座って」と言った。

店の中は、数人の客がいた。
詩織は店の奥の通りとは逆の窓際に行った。青龍は後に続いた。

壁に背を向けて詩織が座り、青龍は向かい側に座った。

「好きなもの頼んで」と詩織は言った。

「よく来るの?」

「たまに気晴らしに来るの」

「そうなんだ」

「私は紅茶。星野君は?」

青龍はメニューを見た。やっぱりそこそこの値段だ。少しでも安いものを・・・。

「アイスコーヒー」

「香苗さん、紅茶とアイスコーヒーで」といつの間にか青龍の少し後ろに立っていた、さっきの女性に言った。

「はい」と言い残して、香苗は去った。

「ふぅ~」と詩織は息を吐いた。

白虎の言った通り、目は大きく、鼻立ちはスッと高く、唇は薄め。輪郭は顎にかけて細くなっている。黒髪は長く腰回りの少し上まであり、手足は細く長い。肌は透き通るような白さだ。

身長と同様に童顔である青龍とは正反対の顔だ。

「何?」

「いっ、いや、何でもない」青龍は下を向いた。

「星野君と本の話がしたくて」

「えっ?」

「私、あんまりテレビ見れないの。だから、テレビの話とかされても全然分かんないし、漫画も女の子の漫画って恋愛が多いじゃない?だから、あんまり興味ないし」

「僕もあんまりテレビ見ないけど、何で見れないの?」

「稽古があるから」

「稽古?」

「日本舞踊なの。おばあちゃんが先生で、私も習ってる。香苗さんも生徒なの」

「あぁ、そうなんだ」と言って、青龍はまた詩織の顔をじっと見た。

「何?」

「着物、とっても似合いそうだなって思って。江戸川乱歩の作品にも着物を着た美女が出てくる作品があるんだけど、この世のものとは思えない美しさって表現がされていて、まさに美杉さんみたいな人のことを言うんだろうなって思って」青龍は楽しそうに言った。

「えつ!」詩織は顔を赤らめて下を向いた。

「どうしたの?」と青龍が不思議そうに言った。

『お前、目の前の相手に、この世のものとは思えない程、綺麗だって言ったんだぞ』と白虎が頭の中で言った。

青龍は自分の言ったことを思い出して、顔を真っ赤にした。

「ごっ、ごめんなさい。江戸川乱歩が美杉さんを見たら、そう表現するだろうなって思っただけで」

『おい、全然フォローになってないぞ。更に追い打ちをかけてるぞ』

「あっ、・・・・」

そこで、
「はい、お待たせ」と香苗は飲み物とパンケーキを2つ置いた。

「あれ?頼んでません」と詩織は言った。

「サービスよ。気にしないで」と言い残して香苗は去って行った。

「せっかくだから、食べよっか」と詩織は言った。

「うん」と青龍もフォークを手に取った。

「どんな話なの?さっきの着物を着た美女の話」

「ある男が押し絵、押し絵って分かる?」

「羽子板とかじゃなかった?」

「そう。立体的に作った絵なんだけど、そうやって描かれた女性に男が恋した」

「絵に恋しちゃうの?」

「そう。そして好きになり過ぎちゃって、絵の中に入っちゃった」

「えっ?」

「そういう人がいた、という話を聞かされるんだ。もちろん、美女と男が描かれた押し絵を見せながらね」

「それを信じるの?」

「聞かされた人は、最後に、押し絵の美女が動いたように見えたってことで終わるんだ」

「何か不思議な気持ちになるわね」

「話した人は本当にそう思ってて話したのかもしれないけど、そう信じたい気持ちが、いつか本当に変わってしまっただけかもしれない。真剣に話されると、聞いてる方も、脳が勝手に動いたように思い込ませちゃうことも考えられる。お化けや幽霊と似てると思う」

「確かにそうね」

「江戸川乱歩の不思議な界」

「そうね。いつの間にか引き込まれてる」

それからも詩織が読んだ本の感想などを話した。これから見るであろう作品はネタバレしないように注意しながら話した。

「やっぱり楽しい。星野君と話してると」

「ホントに?初めて言われたかもしれない」

「そうなの?また話してもいい?」

「もちろん。稽古は毎日やってるの?」

「私はね。土日なら、もっと時間取れるんだけど」

『僕は特に予定もないし、いつでも大丈夫だよ」

「じゃあ、土日の方がいいかな」

「うん」

『おい!柔道のこと忘れてないか!?』と白虎が慌てて言った。

「あっ!ごめん。柔道始めることにしたんだった」

「柔道?柔道始めるの?」

「うん」

「何で柔道やろうと思ったの?」

まさか受け身の練習がしたいから、とは言いづらい。

「え~っと、僕って背が低いから、変な奴に絡まれるかもしれない。僕だけなら走って逃げるけど、誰かと一緒ならそういうわけにもいかないし」

「そうなんだ」と詩織は一瞬笑顔になった。

「土曜日の午後2時から3時までは柔道だから、それ以外で」

「分かった。また連絡する。スマホは?」

「持ってる」お互いにスマホを出して、番号とラインを交換した。

「また連絡する」

「うん」

詩織が会計をして、店を出た。

「ご馳走様。次は僕が払うから」

「気にしなくていいわよ。お小遣いはけっこう貰ってるから」

「僕も大丈夫だよ」

「フフフッ、また今度ね」

「うん」

2人は別れた。



青龍は家へと歩いた。
『青龍、お前も隅に置けないな』

『はぁ?何でだよ』と青龍は言って顔を赤くした。

『いきなり君は綺麗だって言うか?俺でも、そんなことはしないぞ』

『・・・』

『まぁ、あの子も、お前のことかっこいいって言ってたしな』

『それは冗談だよ』

『まぁ、俺と話してても分からないから、止めよう。でも、一つだけ忘れるな』

『何?』

『真理子のこと』

『えっ?何で真理子さんが出てくるんだよ』

『あの子のこと別に好きになっても構わないが、真理子にバレるなよ』

『はぁ?そっ、そっ、そんなことあるわけないじゃないか!』

『それならいいが。じゃあ、帰るぞ』

『変なこと言わないでよ!もう!』

『はいはい、悪かったな』

青龍は幌を膨らませながら、歩き始めた。

僕が?美杉さんを?

詩織の顔が頭の中に浮かぶ。青龍の顔が少し赤くなる。

そんな訳ないじゃないか!

『それにしても、普通に話せてたんじゃないか?』

『あっ!確かに。産まれて初めてかもしれない。本の話だったからかな』

『まぁ、真理子や春夏冬とは普通に話せてるから、慣れてきたのかもしれないな』

『あっ!全然意識してなかった。白虎の言う通りだ』

『元々、お前が過剰に周りとの関わりを拒否していただけだ。今が自然なんだ』

『そうなのかな?』

『まぁ、何度もいうが、焦ることはない。さっきの子と話してるうちに、いつの間にかクラスの皆とも普通に話す日が来る』

『そうだったら、いいけど』

『とりあえずお前の好きな本の話だ。何の遠慮も意識もすることはない』

『うん、そうだね』

青龍は軽い足取りで帰って行った。
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