死んでる場合じゃない 〜小学生とエリートスパイとの奇妙な共同作戦〜

ぱるゆう

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初デート?

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 詩織と話したその夜、詩織からラインが来た。
『次の日曜日の午後は大丈夫?』と書かれていた。

『いきなりか。よっぽど気に入られたみたいだな』白虎は言った。

『そうなのかな?』と頭の中で言いながら、青龍は嬉しい気持ちが溢れていた。

『うん、大丈夫』とラインで返した。

『星野くんの行ってる図書館に行ってみたい』

『隣の市だけどいい?』

『駅に午後1時待ち合わせでいい?』

『うん。改札の前で待ってる』

 その後、ワクワクと言う文字が動いているスタンプが送られてきた。

『初デートだな』白虎は言った。

「でっ、デート!!」青龍は思わず声に出して言った。

『全然違うよ!ただ一緒に図書館に行くだけだよ』

『そういうのもデートと言うんだ』

『そうなの?』

『そうだ。じゃあ、楽しみは置いといて、勉強再開するぞ』

『うん』



 次の日の学校では、いつもと変わらない詩織がいた。学校では目立った行動はしない、ということなのだろう。

 しかし、青龍は、白虎が言ったデートという言葉が頭の中に残っていたので、意識してしまった。



 そして、日曜日。友達と待ち合わせをしたことがない青龍は、かなり早めに待ち合わせ場所に着いてしまった。

『だから、言っただろ。早過ぎるって』と白虎は言った。

『そんなこと言ったって、待たせたら悪いし、家にいても落ち着かないし・・・』

『まぁ、初デートなら仕方ないか』

『だから、デートじゃないって!』青龍は目を瞑ったまま、握った両手を何度も上下させた。

 そこで、
「星野くん?」

「えっ!」青龍は目を開いた。そこには白いワンピースを着て、軽くウェーブさせた髪を右手で耳元で押さえながら、青龍の顔を覗き込む詩織がいた。

 青龍は目を見開いたまま、口をパクパクさせた。

「星野くん?」詩織はもう一度言った。

「かっ、可愛い・・・」青龍はそう呟いた。

「えっ!」と詩織は言って、背中を向けた。真っ赤になっているだろう顔を見せないために。

「ごっ、ごめん。変なこと言って」

「変なこと?」と少し怒った声を出しながら、詩織は振り返った。

「何?本当は可愛くないってこと!」詩織は少しムッとしながら言った。

「ほっ、本当だよ。美杉さん、いつもはおしとやかな美人に見えるけど、今日は特に可愛い」

「うん、ありがと」と詩織は満足そうな笑顔をして、
「じゃあ、行こっか」

「うん」

 2人は電車に乗った。
「星野くん、さっき、美人と可愛いを違うように言ってたけど、何か使い分けするような基準みたいのはあるの?」

「う~ん、特に意識したことはないんだけど、美しさの中には危うさみたいなものがあると思ってるかも」

「危うさ?」

「分かりやすく言うと、高価な硝子のコップかな?高価なものって、とても薄くできていることが多いんだ。口当たりとかそういう理由らしい。江戸切子って聞いたことある?」

「それ、家にあるかも。凄い綺麗だよね。おばあちゃん、とっても大切にしてる」

「江戸切子は割れやすいんだ。綺麗だけど割れやすい。だから大切にしないとならない。大切にしないと割れて綺麗さが失われてしまうんじゃないこと不安になる。それが僕の美しさかな」

「美しさは、いつか失われてしまうってこと?」

「そういう訳じゃないんだ。失われてしまうんじゃないかと相手を不安にさせてしまうだけ。だから、必ず失われるって訳じゃない」

「それなら良かった。可愛いは?」

「う~ん、そうだなぁ・・・。さっきコップで話したから・・・。カラフルなマグカップって感じかな」

「マグカップ?」

「毎日、食事の時やオヤツの時、必ずそのマグカップを使う。ずっとずうっと使い続ける」

「お気に入りってこと?」

「そうだね。それを使ってるだけで、飲み物も美味しく感じるし、幸せな気持ちになる。そういう存在」

「う~ん、星野君はどっちが好き?」

「えっ?」青龍は詩織の目を見た。

「例えばよ。例えば・・・」詩織は視線を逸らせた。

「う~ん、悩むなぁ。学校の美しい美杉さんをずっと眺めていたい気持ちもあるし、今日みたいに可愛い美杉さんと一緒にいるのも嬉しいし。う~ん・・・」青龍は下を向いて首を傾けた。

「分かった、分かったから」

「えっ?」青龍は顔を上げた。

 詩織の真っ赤な顔があった。

「もう十分」と詩織は言って、恥ずかしそうに微笑んだ。

「変な・・・」と青龍は言いかけて止めた。



 そして、図書館に着いた。
「うわぁ、綺麗で大きい図書館ね。全然知らなかった」と詩織は嬉しそうに小さい声で言った。

「3年前にリニューアルしたんだ」

「そうなんだ。星野くんのオススメは何処?」

「こっち」と青龍が歩こうとすると、詩織の手が青龍の手を握った。

 青龍が振り返ると、
「迷子になっちゃいそうだから」と顔を赤くして目を逸らせた詩織がいた。

「そんな・・・」と言いかけた時、
『青龍、付き合ってやれ』と白虎の声がした。

 青龍も詩織の手を握って、
「行こうか」と呟いた。

 詩織は頷いた。

 そして、目的の本棚に来た。
「ここは推理小説を中心に集まってるんだ」

「へぇ~、知らない人の本がいっぱいあるわね」と並んだ本を見ながら詩織は言った。

「僕は全部読んだから、どういうのが読みたいか言ってくれれば探すよ」

「全部?」詩織は大きな棚を眺めた。

 青龍は頷いた。

「凄い!」

「暇だったからだって。ちゃんと稽古してる美杉さんの方が何倍も凄いよ」

「稽古、楽しいから」

「僕も本を読んでるのは楽しい。でも、今は勉強と鍛える時間が必要で、あんまり読めてないけど」

「何で勉強も体を鍛えるのもやろうと思ったの?」

「一番の理由は、読んでるだけじゃ、本の中の登場人物にはなれないってことが分かったから」

「探偵とか刑事とかになりたいの?」

「ごめん、説明が下手で。違うんだ。僕には僕の物語があるんだってことに気づいたんだ。僕は一生僕と一緒にいないとならない。それなら、もっと読みたくなる自分になりたいって。他人が書いた物語じゃなくて、自分で読みたくなる自分の物語を作ろうって。美杉さんなら、多分、おばあちゃんより上手に踊っている自分を思い描いているように」

「うん、いつかおばあちゃんみたいに踊りたい」

それから青龍が本を選び、2人で並んで本を読んだ。

2時間くらいで読み終わり、今日のところは帰ることにした。

その帰り道、
「ねぇ、もう少しいい?」

「うん、いいけど」

「もう少し話したいな」

「分かった。何処かのお店に入る?」

「ううん、公園がいいかな」

「公園か、確か」と青龍はまた体の向きを変えた。その時、また詩織の手が青龍の手を掴んだ。

「迷子になっちゃうから」と青龍が振り向く前に詩織が言った。

「うん、こっち」と青龍も握り返した。

公園に着くと、まだ子供達が遊んでいた。まだ日が高いからだろう。

空いているベンチに並んで座った。手は繋いだままだった。

「星野くん、中学校は別のところなんだよね?」

「うん、玉城学園って所を受験するんだ」

「そっか・・・」

「週末は帰ってくるし、スマホが大丈夫かどうか分からないけど、何とか連絡するよ」

「柔道は?」

「う~ん、続けるのは難しいかな。でも、別の所で体を鍛えるつもり」

「強くなりたいの?」

「そうだね。大切な人を守れるくらいにはなりたい」

「喧嘩とかしちゃうの?」

「僕からは絶対にしないよ。あくまでも守るため」

「私の事、ずっと守ってくれる?」詩織は小さい声で呟いた。

「えっ?」青龍は聞こえずに聞き返した。

「ううん、何でもない。帰ろっ」

「うん・・・」


青龍達の町に戻り、詩織の家との分岐点に来た。
「また一緒に図書館行ってくれる?」

「もちろん。予定を合わせて、また行こうね」

「うん、また明日、学校で」詩織は青龍の手を離して、走って行った。

青龍は、詩織の後ろ姿を見送ると、詩織の手の感触が残る自分の手を見つめた。

『青龍、帰るぞ』と白虎は言った。

『あぁ、うん』青龍はゆっくりと歩き始めた。

『夕飯、何かな?』白虎はわざとノーテンキに言った。

『・・・』青龍は楽しい時が過ぎ去った後の何とも言えない寂しさを感じていた。

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