遊ばれる男

ぱるゆう

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後悔しないように 1

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ホテルのフロントで鍵を受け取り、エレベーターに乗る。白石は最上階のボタンを押した。

「部屋は違うよ」

「先に食事にしよう」

「えっ!高いよ。外で食べよう」

「今日だけは、ちゃんとしたところで、シオリと食事したいんだ」

「うん、分かった」
またシオリは下を向いた。


レストランに入る。幸い席は空いているようだ。

席に案内されてメニューを見る。やはり高い。まぁ、最悪、カードだなと思う。

白石は、コースとワインを注文した。

シオリはテーブルの上に手を伸ばす。
その手に白石は手を重ね、握った。

「シオリさんの手、ずっと握っていたいな」

「こら、シオリって呼んで」

「そうだったね」

「私の手を離さないで」
もうダメだ。素直な気持ちが溢れてきてしまう。抑えきれない。

「うん、ずっと離さないよ」
嘘!と声を上げたかった。でも、嘘だと分かっていても、もう訪れないと思っていたこの幸せを離したくはなかった。

「うん、ずっと一緒にいようね」

そこにワインが運ばれてきた。店員もビックリしただろう。2人は見つめ合ったまま、振り向くこともしなかった。

店員はワインをグラスに入れて、会釈をして立ち去った。

「飲もうか、せっかくだし」

「うん」

白石達はグラスを手に取った。
「もう一度、シオリと恋ができる。僕は幸せ者だ」

「うん、私も初めてだと思うようにする。でも、ずっと愛してるから、変わらないけど」

「再スタートしよう」
グラスを軽く重ねた。カァンとグラスが響く。

白石は味がしなかった。それが自分が決意したことの代償だと分かった。
しかし、それをシオリに悟られるわけにはいかない。

「あんまりワイン飲まないから、味が分かんないな」

「結構美味しいと思うわよ」

「シオリは飲むんだ」

タカシに、思わず言おうとして、口をつぐんだ。

「シオリが美味しと思ってくれたなら、嬉しいな」白石は笑顔を作った。
 
「うん、美味しいよ」シオリも笑顔を作った。

それから料理が運ばれてきた。
「適当に頼んだけど、美味しそうだ」

「高いんだから、ちゃんと頼んでよ。でも、美味しそう」

「メニューみても分かんないし、おどおどしてたら、バカにされちゃうよ」

「もう、変なところで見栄っ張りね」シオリはひと口食べた。

「うん、美味しい!」

「そう?」白石も口に入れた。やはり味がしない。はぁ、僕はどこまでも逃げ出したくて仕方ないんだな。
「美味しい!」とがっついて食べた。

「もう!恥ずかしいから止めてよ」

「だって美味しいんだもん。後でシオリにもがっついちゃうな」

「もう!バカ!」

白石は吐き出しそうになるのを必至にこらえて、飲み込んだ。
シオリを眺めた。

「やっぱりシオリは綺麗だ」

「恥ずかしいから、止めて」
実はシオリもあまり味を感じていなかった。これが最後になると思うと、料理どころではない。

何とか食事は終わり、食後のデザートとコーヒーと紅茶が運ばれてきた。

白石はコーヒーを飲み、初めて味がして、ホッとした。

「食べないの?」と白石が手を付けないデザートを見て、シオリは言った。

「コーヒーが美味しくて、邪魔されたくないんだ」

「そうなんだ。それなら私が」と手を伸ばす。

「ダメだよ!シオリが太っちゃう」白石は皿を自分の方に引き寄せる。

「えぇ~、いいじゃん。これからいっぱい動くんだし」

「それならいいよ」と皿を差し出す。

「フフン」と微笑んで、小さなデザートを口に入れた。

「うん、やっぱり美味しい」

「美味しくなったシオリを、僕が頂くとしよう」

「もう!エッチ!」

白石は現金で支払いをした。カードだと足がつくので、銀行で下ろしてきていた。


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