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番外編 名前を呼ばれて
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それから1ヶ月、ジュンくんに会うことはなかった。クリニックの始まる時間を考ると、同じハスに乗ることはない。この前が早過ぎたんだ。
今日も一日無事に終わった。帰りのバス停に向かうと、そこに、ジュンくんはいた。
また会えた。嬉しさが込み上げてくる。
日勤の時間が終わる夕方のこの時間にバス停にいるのは、病院関係者が、ほとんどだ。
病院は、少し住宅街から離れている。昔から病院にいる先輩からは、昔は、遠くまで見渡せす限り、何もなかったという話を聞かされた。病院のための道とバスが整備されると、次々と住宅が建ったと言っている。しかし、住宅街は、一つ前のバス停までで、そこで降りなければ、病院かクリニックに来る人達だけだ。
この時間しか、クリニックの予約が取れなかったのかな?と勝手に想像しながら、2人前に立つっているジュンくんの背中を見る。
突然、ジュンくんが振り返った。
私は目を逸らせた。
少ししてから、こっそりと見ると、ジュンくんがソワソワしような感じで、振り返っては、前を見て、を繰り返していた。
そして、下を向きながら、私の方に向かってきた。私は下を向いた。
「あっ、あのぉ」声が上ずっている。
私は、ゆっくりと顔を上げた。目が合うと、ジュンくんが目を逸らせた。
「何でしょうか?」とドキドキしながら言った。
「この前は、変なこと言ったみたいで、ごめんなさい」
ずっと気にしていたのだろうか?
「この前?」他人ならば、そういう反応をするんじゃないか、と考えて言った。
「あっ、えっ、え~と、1ヶ月前くらいに、あっ、朝のバスで、僕がどこでバスを降りたらいいか、困ってた時に、助けていただいて」慌てながら話している。
こういう反応も懐かしい。
私は思い出したように、
「あっ!あのナンパの?」と少し微笑む。
「なっ、ナンパ!ちっ、違いますよ!本当にあなたのこと、綺麗だと思ったから言っただけです」
相変わらずで、吹き出したくなってしまう。
「それをナンパと言うんですよ」と笑いを堪える。
「ぼっ、僕は奥さんもいるし、子どももいます。あなたのこと、どこかに誘うつもりはありません」
「そうなんですね。あっ、確かにに指輪してる」
「そうです。これが証拠です」と左手の甲を見せてきた。
「これはカモフラージュで、私の事を油断させておいて、とか?」イタズラっぽくほほ笑む。
「ちっ、違います。これは本物です」
「そうですか。残念だわ」
「ざっ、残念?どっ、どういうことですか?」
「あなたの反応が面白いから、少しくらいなら話してもいいかなって思ったんですけど」半分は本心だ。残りの半分は、やっぱり怖い。
「えっ!」ジュンくんの目が飛び出しそうになった。
そこでバスが来た。
いつもは前の席に行くのだが、一番後ろの席に座る。他の乗客は前の席に行った。
ジュンくんは、入ってきて悩みながら、私の隣に1人分空けて座った。
「本当にナンパですか?」
「ちっ!違います!もう少し話したいんです。不思議なんですけど、どこか懐かしい気がして」
嬉しい気持ちと、これ以上はマズイという気持ちが、同時に出てきた。でも、でも、もう少し、駅に着くまで。
「それもナンパですよ」と微笑む。
「名前、聞いてもいいですか?僕は白石純太と言います・・・」
そこで下を向いた。話そうか悩んでいるようだ。
多分、記憶喪失のことだろう。
しかし、ジュンくんは顔を上げた。
「実は、事故で記憶をなくしてしまっていて。本当は名前も分からないんです。白石純太だって、奥さんだと名乗る女性に教えてもらっただけなんです」
「そっ、それは大変ですね!」驚いたフリをする。
「ごめんなさい。いきなり知らない人に言われても、困るだけですよね。でも、どうしても名前を聞きたくなって」ジュンくんは、私の目を見つめた。
あぁ、抱きしめて、全てを話してしまいたい。涙が溢れそうになる。
しかし、次は、本当に死んでしまうかもしれない。奥さんは、こんな状態になったジュンくんを見捨てなかった。離婚なんかあり得ない。
ジュンくんが自殺する動機はなくなっていないんだ。
「関根麻里です」咄嗟に、高校時代の親友の名前を出した。
「麻里さん・・・。教えてくれて、ありがとうございます」ジュンくんは残念そうに言った。
「名前に何かあるんですか?」
「えっ!あぁ~、まぁ、なんというか、僕が覚えている、たった一つの名前があるんです」
ヤバイ、お願いだから呼ばないで。涙が抑えられない。
「そっ、そうなんですね。でも、名前なんて、いっぱいあるからら、そんな偶然ありませんよ」
なんとか話をはぐらかす。
「そうですよね」ジュンくんは、まだ残念そうだ。
バスが駅に着き、バスを降りた。
「奥さんとお子さんが待ってるから、気をつけて帰って下さいね」
「はい、麻里さんも気を付けて・・・」と下を向いた。
「もう帰りますからね」
「はい」
私は駅に歩き始めた。
すると、背中から、
「シオリ!」と聞こえた。
その声に、つい振り返ってしまった。
ジュンくんの顔が、やっぱり、というように安堵の表情になった。
「あっ!」私は自分のしでかしたことに気がついて、すぐに振り向き、駅へと走った。
今日も一日無事に終わった。帰りのバス停に向かうと、そこに、ジュンくんはいた。
また会えた。嬉しさが込み上げてくる。
日勤の時間が終わる夕方のこの時間にバス停にいるのは、病院関係者が、ほとんどだ。
病院は、少し住宅街から離れている。昔から病院にいる先輩からは、昔は、遠くまで見渡せす限り、何もなかったという話を聞かされた。病院のための道とバスが整備されると、次々と住宅が建ったと言っている。しかし、住宅街は、一つ前のバス停までで、そこで降りなければ、病院かクリニックに来る人達だけだ。
この時間しか、クリニックの予約が取れなかったのかな?と勝手に想像しながら、2人前に立つっているジュンくんの背中を見る。
突然、ジュンくんが振り返った。
私は目を逸らせた。
少ししてから、こっそりと見ると、ジュンくんがソワソワしような感じで、振り返っては、前を見て、を繰り返していた。
そして、下を向きながら、私の方に向かってきた。私は下を向いた。
「あっ、あのぉ」声が上ずっている。
私は、ゆっくりと顔を上げた。目が合うと、ジュンくんが目を逸らせた。
「何でしょうか?」とドキドキしながら言った。
「この前は、変なこと言ったみたいで、ごめんなさい」
ずっと気にしていたのだろうか?
「この前?」他人ならば、そういう反応をするんじゃないか、と考えて言った。
「あっ、えっ、え~と、1ヶ月前くらいに、あっ、朝のバスで、僕がどこでバスを降りたらいいか、困ってた時に、助けていただいて」慌てながら話している。
こういう反応も懐かしい。
私は思い出したように、
「あっ!あのナンパの?」と少し微笑む。
「なっ、ナンパ!ちっ、違いますよ!本当にあなたのこと、綺麗だと思ったから言っただけです」
相変わらずで、吹き出したくなってしまう。
「それをナンパと言うんですよ」と笑いを堪える。
「ぼっ、僕は奥さんもいるし、子どももいます。あなたのこと、どこかに誘うつもりはありません」
「そうなんですね。あっ、確かにに指輪してる」
「そうです。これが証拠です」と左手の甲を見せてきた。
「これはカモフラージュで、私の事を油断させておいて、とか?」イタズラっぽくほほ笑む。
「ちっ、違います。これは本物です」
「そうですか。残念だわ」
「ざっ、残念?どっ、どういうことですか?」
「あなたの反応が面白いから、少しくらいなら話してもいいかなって思ったんですけど」半分は本心だ。残りの半分は、やっぱり怖い。
「えっ!」ジュンくんの目が飛び出しそうになった。
そこでバスが来た。
いつもは前の席に行くのだが、一番後ろの席に座る。他の乗客は前の席に行った。
ジュンくんは、入ってきて悩みながら、私の隣に1人分空けて座った。
「本当にナンパですか?」
「ちっ!違います!もう少し話したいんです。不思議なんですけど、どこか懐かしい気がして」
嬉しい気持ちと、これ以上はマズイという気持ちが、同時に出てきた。でも、でも、もう少し、駅に着くまで。
「それもナンパですよ」と微笑む。
「名前、聞いてもいいですか?僕は白石純太と言います・・・」
そこで下を向いた。話そうか悩んでいるようだ。
多分、記憶喪失のことだろう。
しかし、ジュンくんは顔を上げた。
「実は、事故で記憶をなくしてしまっていて。本当は名前も分からないんです。白石純太だって、奥さんだと名乗る女性に教えてもらっただけなんです」
「そっ、それは大変ですね!」驚いたフリをする。
「ごめんなさい。いきなり知らない人に言われても、困るだけですよね。でも、どうしても名前を聞きたくなって」ジュンくんは、私の目を見つめた。
あぁ、抱きしめて、全てを話してしまいたい。涙が溢れそうになる。
しかし、次は、本当に死んでしまうかもしれない。奥さんは、こんな状態になったジュンくんを見捨てなかった。離婚なんかあり得ない。
ジュンくんが自殺する動機はなくなっていないんだ。
「関根麻里です」咄嗟に、高校時代の親友の名前を出した。
「麻里さん・・・。教えてくれて、ありがとうございます」ジュンくんは残念そうに言った。
「名前に何かあるんですか?」
「えっ!あぁ~、まぁ、なんというか、僕が覚えている、たった一つの名前があるんです」
ヤバイ、お願いだから呼ばないで。涙が抑えられない。
「そっ、そうなんですね。でも、名前なんて、いっぱいあるからら、そんな偶然ありませんよ」
なんとか話をはぐらかす。
「そうですよね」ジュンくんは、まだ残念そうだ。
バスが駅に着き、バスを降りた。
「奥さんとお子さんが待ってるから、気をつけて帰って下さいね」
「はい、麻里さんも気を付けて・・・」と下を向いた。
「もう帰りますからね」
「はい」
私は駅に歩き始めた。
すると、背中から、
「シオリ!」と聞こえた。
その声に、つい振り返ってしまった。
ジュンくんの顔が、やっぱり、というように安堵の表情になった。
「あっ!」私は自分のしでかしたことに気がついて、すぐに振り向き、駅へと走った。
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