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まさかの再会 1
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朝になった。
私は目を覚ますと、目の前に壁が見えた。一瞬、はっとするが、背中に当たる温もりと、腰の辺りに回された腕があった。
いつの間にか寝返りを打って、逆を向いていたらしい。そこに真田さんが抱きついてきたのだろう。
頭の後ろで真田さんの寝息がする。私は、腰に回された手に、自分の手を重ねた。
楓のようにゴツゴツした感じはないが、私より一回り大きい手。こんな私を宝物のように大切に触ってくれる。
「花音」真田さんがギュッと抱きしめてから、胸を揉んだ。それからまた寝息が聞こえる。
良かった、名前間違われなかった。私はホッとした。
私はゆっくりと体を回した。真田さんの胸に頭を付ける。良かった。真田さんが待っていてくれて。
たった1ヶ月ちょっと離れただけだったが、真田さんが他を探すこともあり得た。
楓に感謝かな。楓のお陰で早く冷静になれた。もしいなかったら、誰にも顔を見られたくなくて、会社も辞めて、外に出れなくなっていただろう。
そして、楓がどこにも行かないように、雁字搦めにしていただろう。
「どうしたの?花音」真田さんは私の髪を撫でた。
「ううん、またこうして朝を迎えられて、良かったなって思って」
「僕もそう思うよ。花音をまた抱きしめることができた」
「真司、ありがとう。こんな私を好きになってくれて」
「こんななんて言うなよ。僕には最高の女なんだから」
「うん、気をつける」
私は顔を上げた。
真田さんは顔を近づけてきて、舌を絡めた。
そして、また体を求めあった。
「今日は、どうしようっか?」真田さんは言った。
「野球見に行こうよ。少しルールを覚えたい」
「おっ、いいね。そうしよう」
私達は風呂に入り、真田さんは、私の買ってきた服を着た。
「どう?」
「真司は何を着ても似合うわよ」
「うん、僕も気に入ったよ。ありがとう」
「どういたしまして」
私達はホテルを出て、朝食を食べた。
近くで試合のある球場を探したら、ちょうどあったので、ネットでチケットを買った。
球場の最寄り駅のコインロッカーに大きな荷物を入れて、身軽になった。
球場に向かう途中の公園の中に、バッティングセンターがあり、真田さんは、十年以上ぶりと言いながら、打席に立つ。
初球は見事な空振りをし、真田さんにスイッチが入ったようだ。何球かはいい当たりはなかったが、バットに当てた。そしてカーンという心地よい音を残して、鋭いライナーが飛んだ。
「凄い!」
そこでボールがなくなり、真田さんはコインを追加した。
それからは、何球かいい音を残して打球が飛び、真田さんも満足したようだ。
「全然ダメだな」
「久しぶりなんでしょ。凄いよ。私もやろうかな」
「ホントに?」真田さんは一番球速が遅いところのケージに私を入れた。
「バットって、こんなに重いんだ」
「ほら、ボールが来るよ」
「キャッ」
ドスンと低い音を残して、ボールがバッターボックスの後ろで落ちた。
「次は」
私はバットを横にして構えた。全然当たらない。最後にゴンと鈍い音を立てて、目の前にボールが転がった。
「当たった!」私は無邪気に喜んだ。
「良かったね」真田さんは苦笑いをした。
少し歩くと、球場が見えた。
「あれ?なんか楓の試合で来たことあるかも」
「あぁ、近くにもう一つ球場があるんだ。多分、そっちじゃないかな」
「そうなんだ。お父さんについて来ただけだから、分からなかった」
私達はチケットを見せて、中に入った。
「一塁側、一塁側」真田さんがブツブツ言いながら、私の手を引っ張っる。
なんて楽なんだ。楓とは大違い。私は真田さんの手を離さなければいいだけだ。私はニヤニヤしていた。
そして、
「もうすぐだよ。席に着く前に・・・」真田さんが振り向いた。
「どうしたの?」真田さんは少し眉間にシワを寄せた。
「真司に着いていくだけでいいから、楽だなって、真司は頼りになるなって思ってね」
真田さんは少し照れた顔になって、
「仕事でもそうしてるつもりだけど」
「もちろんそうだけど。なんか嬉しくて」
「それならいいけど。席に着く前に、トイレと買い出ししよう」
「うん、行ってくる」
「ここで集合ね」
私はトイレに入った。そして、出ようとしたら、野球のユニフォームを羽織った女性とすれ違った。どこかで見たような気がした。
会社の人かな?でも、待つわけにもいかないので、外に出た。
真司は既にいた。
「お待たせ」
「何食べたい?」
「そうねぇ。見ながら決める」
私達は売店で買い出しした。食べ物は私が持ち、真田さんはビールを2杯持った。
真田さんの後を見失わないように必死について行った。
すると、私たちの脇を、さっきのユニフォーム姿の女性が小走りで追い越していった。
真田さんは急に立ち止まった。
「どうしたの?」
「花音、冷静に聞いてね」言っている真田さんの顔が慌てていた。
「真司こそ、落ち着いて」
「あぁ、うん」真田さんは軽く深呼吸した。
「それで、どうしたの?」
「美幸がいた」
「えっ!美幸さんって、あの時、駐車場にいた?」
真田さんは頷いた。
「見間違いじゃない?」
「そうかもしれない」
「もし、そうだったとしても、これだけ人がいるんだよ。もう会わないよ」
「そうだね。ごめん、余計なこと言って」
「私は大丈夫よ。早く行こ」
私達は、またチケットを見せて、スタンドの中に入った。
「うわぁ、綺麗だね」
晴れた日差しが緑色のグラウンドを照らし、広がる青空とのバランスがいい。
「うん、この球場は、今日みたいに晴れてると最高だよ」
真田さんは階段を上がった。その後をついていく。
すると、また真田さんは立ち止まった。
まさかと思い、真田さんの先を見た。こっちをじっと見ている女性がいた。
私の後ろから人が覗き込んできた。
「真司、人が来てるから、進んで」
真田さんは、また登り始めた。
美幸さんの右隣の席は空いている。まさか!
真田さんは、その横を通り過ぎる。私はホッとした。しかし、すぐ立ち止まった。
「ここだよ」
通り過ぎてから、2段しか上がらなかった。
真田さんからビールを預かり、真田さんは先に奥に入った。そして、私からビールと食べ物を順番に受け取り、私が中に入る。
席に座った。2つ下に美幸さんがいる。
とりあえず、私と真司は乾杯をして、ひと口飲んだ。観察するつもりがなくても、目は行ってしまう。
ん?美幸さんの左隣には、小学生に上がるか上がらないかくらいの子供が座っている。
「真司、あの子、美幸さんの子じゃない?」
「えっ!」
子供は、美幸さんの腕を掴みながら、何かをねだっているように見えた。
美幸さんはバッグからお菓子だろうか、何かを取り出して渡した。
子供はそれを口に入れた。それでも美幸さんに寄りかかっている。甘えているのだろうか?
そもそも子供の逆隣の男性と3人で同じユニフォームを着ている。
「いや、あの男の人が弟で、その子供って可能性もある」
「そんなの無理矢理よ」
「だって、1か月前だよ。あのことがあったの」
「そうだけど」
「もう止めよう。考えても分かんないよ」
「うん」
そして、試合が始まった。
私は目を覚ますと、目の前に壁が見えた。一瞬、はっとするが、背中に当たる温もりと、腰の辺りに回された腕があった。
いつの間にか寝返りを打って、逆を向いていたらしい。そこに真田さんが抱きついてきたのだろう。
頭の後ろで真田さんの寝息がする。私は、腰に回された手に、自分の手を重ねた。
楓のようにゴツゴツした感じはないが、私より一回り大きい手。こんな私を宝物のように大切に触ってくれる。
「花音」真田さんがギュッと抱きしめてから、胸を揉んだ。それからまた寝息が聞こえる。
良かった、名前間違われなかった。私はホッとした。
私はゆっくりと体を回した。真田さんの胸に頭を付ける。良かった。真田さんが待っていてくれて。
たった1ヶ月ちょっと離れただけだったが、真田さんが他を探すこともあり得た。
楓に感謝かな。楓のお陰で早く冷静になれた。もしいなかったら、誰にも顔を見られたくなくて、会社も辞めて、外に出れなくなっていただろう。
そして、楓がどこにも行かないように、雁字搦めにしていただろう。
「どうしたの?花音」真田さんは私の髪を撫でた。
「ううん、またこうして朝を迎えられて、良かったなって思って」
「僕もそう思うよ。花音をまた抱きしめることができた」
「真司、ありがとう。こんな私を好きになってくれて」
「こんななんて言うなよ。僕には最高の女なんだから」
「うん、気をつける」
私は顔を上げた。
真田さんは顔を近づけてきて、舌を絡めた。
そして、また体を求めあった。
「今日は、どうしようっか?」真田さんは言った。
「野球見に行こうよ。少しルールを覚えたい」
「おっ、いいね。そうしよう」
私達は風呂に入り、真田さんは、私の買ってきた服を着た。
「どう?」
「真司は何を着ても似合うわよ」
「うん、僕も気に入ったよ。ありがとう」
「どういたしまして」
私達はホテルを出て、朝食を食べた。
近くで試合のある球場を探したら、ちょうどあったので、ネットでチケットを買った。
球場の最寄り駅のコインロッカーに大きな荷物を入れて、身軽になった。
球場に向かう途中の公園の中に、バッティングセンターがあり、真田さんは、十年以上ぶりと言いながら、打席に立つ。
初球は見事な空振りをし、真田さんにスイッチが入ったようだ。何球かはいい当たりはなかったが、バットに当てた。そしてカーンという心地よい音を残して、鋭いライナーが飛んだ。
「凄い!」
そこでボールがなくなり、真田さんはコインを追加した。
それからは、何球かいい音を残して打球が飛び、真田さんも満足したようだ。
「全然ダメだな」
「久しぶりなんでしょ。凄いよ。私もやろうかな」
「ホントに?」真田さんは一番球速が遅いところのケージに私を入れた。
「バットって、こんなに重いんだ」
「ほら、ボールが来るよ」
「キャッ」
ドスンと低い音を残して、ボールがバッターボックスの後ろで落ちた。
「次は」
私はバットを横にして構えた。全然当たらない。最後にゴンと鈍い音を立てて、目の前にボールが転がった。
「当たった!」私は無邪気に喜んだ。
「良かったね」真田さんは苦笑いをした。
少し歩くと、球場が見えた。
「あれ?なんか楓の試合で来たことあるかも」
「あぁ、近くにもう一つ球場があるんだ。多分、そっちじゃないかな」
「そうなんだ。お父さんについて来ただけだから、分からなかった」
私達はチケットを見せて、中に入った。
「一塁側、一塁側」真田さんがブツブツ言いながら、私の手を引っ張っる。
なんて楽なんだ。楓とは大違い。私は真田さんの手を離さなければいいだけだ。私はニヤニヤしていた。
そして、
「もうすぐだよ。席に着く前に・・・」真田さんが振り向いた。
「どうしたの?」真田さんは少し眉間にシワを寄せた。
「真司に着いていくだけでいいから、楽だなって、真司は頼りになるなって思ってね」
真田さんは少し照れた顔になって、
「仕事でもそうしてるつもりだけど」
「もちろんそうだけど。なんか嬉しくて」
「それならいいけど。席に着く前に、トイレと買い出ししよう」
「うん、行ってくる」
「ここで集合ね」
私はトイレに入った。そして、出ようとしたら、野球のユニフォームを羽織った女性とすれ違った。どこかで見たような気がした。
会社の人かな?でも、待つわけにもいかないので、外に出た。
真司は既にいた。
「お待たせ」
「何食べたい?」
「そうねぇ。見ながら決める」
私達は売店で買い出しした。食べ物は私が持ち、真田さんはビールを2杯持った。
真田さんの後を見失わないように必死について行った。
すると、私たちの脇を、さっきのユニフォーム姿の女性が小走りで追い越していった。
真田さんは急に立ち止まった。
「どうしたの?」
「花音、冷静に聞いてね」言っている真田さんの顔が慌てていた。
「真司こそ、落ち着いて」
「あぁ、うん」真田さんは軽く深呼吸した。
「それで、どうしたの?」
「美幸がいた」
「えっ!美幸さんって、あの時、駐車場にいた?」
真田さんは頷いた。
「見間違いじゃない?」
「そうかもしれない」
「もし、そうだったとしても、これだけ人がいるんだよ。もう会わないよ」
「そうだね。ごめん、余計なこと言って」
「私は大丈夫よ。早く行こ」
私達は、またチケットを見せて、スタンドの中に入った。
「うわぁ、綺麗だね」
晴れた日差しが緑色のグラウンドを照らし、広がる青空とのバランスがいい。
「うん、この球場は、今日みたいに晴れてると最高だよ」
真田さんは階段を上がった。その後をついていく。
すると、また真田さんは立ち止まった。
まさかと思い、真田さんの先を見た。こっちをじっと見ている女性がいた。
私の後ろから人が覗き込んできた。
「真司、人が来てるから、進んで」
真田さんは、また登り始めた。
美幸さんの右隣の席は空いている。まさか!
真田さんは、その横を通り過ぎる。私はホッとした。しかし、すぐ立ち止まった。
「ここだよ」
通り過ぎてから、2段しか上がらなかった。
真田さんからビールを預かり、真田さんは先に奥に入った。そして、私からビールと食べ物を順番に受け取り、私が中に入る。
席に座った。2つ下に美幸さんがいる。
とりあえず、私と真司は乾杯をして、ひと口飲んだ。観察するつもりがなくても、目は行ってしまう。
ん?美幸さんの左隣には、小学生に上がるか上がらないかくらいの子供が座っている。
「真司、あの子、美幸さんの子じゃない?」
「えっ!」
子供は、美幸さんの腕を掴みながら、何かをねだっているように見えた。
美幸さんはバッグからお菓子だろうか、何かを取り出して渡した。
子供はそれを口に入れた。それでも美幸さんに寄りかかっている。甘えているのだろうか?
そもそも子供の逆隣の男性と3人で同じユニフォームを着ている。
「いや、あの男の人が弟で、その子供って可能性もある」
「そんなの無理矢理よ」
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