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まさかの再会 2
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先頭バッターがヒットで出塁し、次のバッターのゴロの間に2塁に進んだ。
「今チャンスなのは、敵チームなのよね?」
「そうだよ。僕達かいるのは守ってる方」
「うん、分かった」
次のバッターがヒットを打ち、ランナーは一三塁となった。
逆側のスタンドか盛り上がる。こっちのスタンドからは、ピッチャーなのだろうか。名前が叫ばれている。
美幸さんの隣の子供は「頑張れ~!」と叫んでいる。私も口に両手で輪っかを作って「頑張れ~!」と叫ぶ。
真田さんの手が腰に回ってくる。
しかし、声援虚しく、次のバッターは外野へ高いフライを打った。
「あぁ、点が入っちゃう」
「この場面なら1点はOKだよ」
「あれ?なんでみんな走らないの?」
「えっ!そこから?」
「打ったら走るんでしょ」
外野の選手がフライをクラブに納める。
「ほら、走るよ」
三塁ランナーは、キャッチャーのいないホームベースを走り抜けた。遠いスタンドは、お祭り騒ぎだ。
「補ったら走るの?」
「地面についたら走るけど、ついてない間は走っちゃダメなんだ」
「地面に付かないで補ったら、アウトなんでしょ?」
「そう。アウトって分かった後じゃないと走れないんだ。もちろんエラーで地面についたら、走っていい」
「ふ~ん」
そうしてる間に表の攻撃が終わり、一回の裏が始まった。
先頭打者が4球でフォアボールになった。
「走るよ」
次のバッターの初球で一塁ランナーが走った。キャチャーは投げたが、審判の手は左右に広がった。
「凄い!」
「ピッチャーの制球が悪いから、キャチャーは捕ることに集中しなければならない。だから、投げる動作が少し遅れるんだ」
「ふ~ん」
「難しい?」
「うん。でも真司の話が聞けて、楽しいよ」私は肩に頭を寄せた。
「花音、可愛いヤツだなぁ、増々好きになっちゃうよ」
次のバッターは送りバントで、3塁に送った。
そして、また四球で一三塁となる。
「打つよ。準備した方がいい」
「えっ!」
カーンと乾いた音が球場に響き、バッターはゆっくりと走り始めた。
周りの人達が右側のスタンドを見つめながら、次々と立ち上がる。私も真司も立った。少しの静寂の後、大歓声が球場を揺るがす。
私は真司と抱き合った。
「凄い!」しかし私の声は掻き消された。
美幸一家(らしい)3人も抱き合って喜んでいる。
みんな興奮冷めやらぬ表情で再び席に座わる。ホームランを打った選手の名前が叫ばれている。
私達も座った。
野球って凄いな。みんな一球で一喜一憂している。楓はこんな中で、できるのかな。
「また当たった。真司、凄い」
「そんな感じがしたんだよ。まさかホームランとはね」
それから1点ずつを取り合い、5回の裏が終わった。
「トイレ行ってくるけど、何か食べる?」
「軽いものならいいかな」
「ポップコーンは?」
「うん、いいね。サワーあったら買って来て」
「分かった。花音、トイレは?」
「混んでそうだから、後でいく」
真田さんは階段を下りていった。
美幸一家も、父親(らしき男の人)と子供が下りていく。
美幸さんが、こっちを振り返った。私と目が合う。立ち上がって、階段を上がってくる。私は真司の席に移り、美幸さんは空いた席に座った。
「この前は、ごめんね。酷い事言っちゃって」
「気にしないで下さい。慣れてますから」
「強いのね」
「伊達にこの顔で26年間生きてません」
「フフフッ。花音さんだっけ?」
「はい、美幸さん」
「私のことは聞いたの?」
「はい、小百合さんから」
「あら?もう小姑とはいい関係なの?」
「はい、仲良くしてもらってます」
「そっか。別れようとは思わなかった?」
「あの日は、流石にそう思いましたけど。冷静になったら、こんなにかっこよくて優しい優良物件は2度とないと気づいたんで」
「真司も本気なのね」
「はい」
「あら?ノロケてる?」
「まぁ、そうですね」
「はぁ、私も手放さなきゃ良かった」
「そうなんですか?」
「でも、あの頃は遊びたい一心だったからね。いくらでも寄って来る男はいたし」
「一度は言ってみたいセリフだ」
「花音さん、面白いわね。あんなことした相手なのに。怒ってないの?」
「怒ってないか?と言われれば怒ってますよ。もちろん。でも、あのお陰で真司との関係を冷静に見ることができたんで、あって良かったなと思ってます」
「そうなんだ」
「隣にいるのはお子さんですか?」
「そう。旦那と子供」
「じゃあ、なんであの日、あんなことを?」
「あの日、初めてあの人が怒って。いつも私ばかり怒って喧嘩にならないのに。それでビックリして出てきちゃったの」
「なるほど」
「それで行く宛てが無くて、真司なら、後腐れなく泊まれるかと思って」
「いやいや、後腐れだらけですよ。真司さん、怖がってましたよ」
「それもしょうがないか、子供には刺激が強すぎることをしてしまったんだから」
「反省してるんですか?」
「今となってはね。もちろん許してもらえるとは思ってないわよ。でも、真司、優しいじゃん。だから、事情を話せば、1日くらいなら、なんとかなるかなとも思ったりしてね」
「今は幸せなんですか?」
「どうなのかしらね。至って平凡よ」
「旦那さんは、昔のことは?」
「もともとマッチングで出会ったのよ。お金もあるし、私が初めてだったけど、そこそこモノもいいし、しばらく付き合ってたの。そうしたら、いきなり結婚したいって言われて、なんか変な幻想を抱かれてても嫌だったから、全部話したの。あなたもお金目当てだって。
そうしたら、それでもいいって。僕なんかを相手にしてくれるんだから、本当はいい人なんだって。
今の話聞いてた?って何度も言ったんだけど、初めて頑固になって。そうしたら、妊娠してることが分かって。もちろん旦那の子よ。他にはもういなかったから。それでそろそろ潮時だって思って、結婚したの」
「そうなんですか。旦那さんは美幸さんのこと大好きなんですね」
「まぁ、それは間違いないかな。他に相手してくれる人もいないだろうから」
「私と一緒ですね、旦那さん。目の前の大切な人を一生懸命愛してる」
「なんか真司があなたを選んだ理由が分かったわ。顔なんてほんのキッカケでしかないのね」
「そうなんですかね?」
「多分、そうよ。元々、あの子は相手に顔の良さなんて求めてないし」
「そうなんですか?」
「バカがつくくらい純粋だからね。真司は」
「はい、そうですね」
「安心して、もうあなた達の前に現れることはないから」
「せっかく本当の美幸さんのこと知れたのに」
「真司には言わないでよ。もう会わないほうがいい。お互いのために」
「分かりました」
美幸さんは戻って行った。
美幸さんが元の席に座ると、真田さんが現れた。
私も元の席に戻り、真田さんの荷物を受け取った。
真田さんが隣に座る。
「ねぇ、キスして」
「えっ!ここで」
私は頷いた。
「ホッペとかじゃダメ?」
「それでもいい」真田さんは私のホッペにキスをした。
「なんかこっちの方が恥ずかしい。失敗した」
「高校生じゃないんだから。フフフッ」
「もう!花音が言い出したんだろ」
「そうよ。真司が好きだから」
「あぁ、そう?」真田さんは照れた。本当に純粋だ。
私は真田さんの手を肩に回した。そして、頭をつけた。
「真司の隣に、ずっといるよ」
「うん。僕も離れないよ」
私は顔上げた。真田さんは軽く唇を付けた。
試合が再開された。
ランナーは出るけど、両チームとも決め手がないまま、試合は終わった。
「なんか疲れる試合だ」
「ドキドキハラハラだったわね」
「まぁ、劇的なホームランも見れたし、満足かな」
「野球っていいね。みんなで一体になれる」
「そうだね。やってる方は大変だけど」
私達は周りから人が帰るのを待った。
子供がいるからなのか美幸一家も焦らずに、写真を撮りながら待っている。
私は立ち上がり、「撮りましょうか?」と声をかけた。
「いいんですか?」父親が言う。美幸さんは、ビックリしていた。
「はい」私はスマホを受け取り、笑顔の3人を写す。
「どうですか?」
父親は確認して、
「はい、ありがとうございます。では、私も撮りますよ」
「はい、お願いします」
私は不機嫌そうな真司と写真を撮ってもらった。
「ありがとうございます」スマホを受け取りながら、しゃがんだ。
「ねぇ、ぼく、パパとママ、好き?」
「大好き!」満面の笑顔だ。
「そうなんだ。良かったね」
「お姉ちゃんも、お兄ちゃんのこと好き?』
「うん、もちろん大好き」
「良かったね」とまた満面の笑顔を見せた。
「それじゃ、私たちは、このへんで」父親は空いてきた階段へ足を進めた。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、バイバイ」
子供につられたのか、父親も美幸さんも笑顔で手を振った。
「バイバイ」私も笑顔で手を大きく振った。
美幸一家は、階段を下りていった。
「なんだよ、花音」
「いいじゃない。もう会わないんだから、最後くらい笑顔で別れても」
「ふ~ん。僕がいない間、何かあった?」
「何にもないわよ。美幸さん、幸せそうなんだから、もう忘れましょ」
「うん、分かったよ」
私は先に階段を下りた。
階段を下り終わると、真田さんが抱きついてきた。
「どうしたのよ」
「花音を選んで正解だったなって思って」
「どうして?」
「僕の全部を受け入れてくれるし、僕の過去をいい思い出にしてくれる」
「そんな大したことしてないわ」
「僕がそう思ってるだけだから」
「うん、行こ」
私は体を離して、手を繋いだ。
球場の外に出て、駅へと向かう。
「花音、帰っちゃうの?」
「今日は楓が帰ってくるから」
「そっか。残念だな」
「もしかしたら、小百合さんと会うかな?」
「僕にとっては、それも微妙だな」
「もう、姉離れしなさい」
「はい、頑張ります」
私は楓に電話した。
「あっ、楓、今どこ?」
「分かった。家に帰ってる途中なのね」
「えっ?私?早苗と野球見に来てる」
また早苗の名前を出してしまった。いつかちゃんと話さないとならない。
「うん。私も帰るわよ。小百合さんとは会わないの?」
「明日会う。分かったわ。うん」
電話を切った。
「帰らなくちゃ」
「しょうがない、夕飯は?」
「お腹空いてないから、また明日ね」
「そうだね」
私達はロッカーから荷物を出し、電車の中で、明日の予定を決めた。
「今チャンスなのは、敵チームなのよね?」
「そうだよ。僕達かいるのは守ってる方」
「うん、分かった」
次のバッターがヒットを打ち、ランナーは一三塁となった。
逆側のスタンドか盛り上がる。こっちのスタンドからは、ピッチャーなのだろうか。名前が叫ばれている。
美幸さんの隣の子供は「頑張れ~!」と叫んでいる。私も口に両手で輪っかを作って「頑張れ~!」と叫ぶ。
真田さんの手が腰に回ってくる。
しかし、声援虚しく、次のバッターは外野へ高いフライを打った。
「あぁ、点が入っちゃう」
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「あれ?なんでみんな走らないの?」
「えっ!そこから?」
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外野の選手がフライをクラブに納める。
「ほら、走るよ」
三塁ランナーは、キャッチャーのいないホームベースを走り抜けた。遠いスタンドは、お祭り騒ぎだ。
「補ったら走るの?」
「地面についたら走るけど、ついてない間は走っちゃダメなんだ」
「地面に付かないで補ったら、アウトなんでしょ?」
「そう。アウトって分かった後じゃないと走れないんだ。もちろんエラーで地面についたら、走っていい」
「ふ~ん」
そうしてる間に表の攻撃が終わり、一回の裏が始まった。
先頭打者が4球でフォアボールになった。
「走るよ」
次のバッターの初球で一塁ランナーが走った。キャチャーは投げたが、審判の手は左右に広がった。
「凄い!」
「ピッチャーの制球が悪いから、キャチャーは捕ることに集中しなければならない。だから、投げる動作が少し遅れるんだ」
「ふ~ん」
「難しい?」
「うん。でも真司の話が聞けて、楽しいよ」私は肩に頭を寄せた。
「花音、可愛いヤツだなぁ、増々好きになっちゃうよ」
次のバッターは送りバントで、3塁に送った。
そして、また四球で一三塁となる。
「打つよ。準備した方がいい」
「えっ!」
カーンと乾いた音が球場に響き、バッターはゆっくりと走り始めた。
周りの人達が右側のスタンドを見つめながら、次々と立ち上がる。私も真司も立った。少しの静寂の後、大歓声が球場を揺るがす。
私は真司と抱き合った。
「凄い!」しかし私の声は掻き消された。
美幸一家(らしい)3人も抱き合って喜んでいる。
みんな興奮冷めやらぬ表情で再び席に座わる。ホームランを打った選手の名前が叫ばれている。
私達も座った。
野球って凄いな。みんな一球で一喜一憂している。楓はこんな中で、できるのかな。
「また当たった。真司、凄い」
「そんな感じがしたんだよ。まさかホームランとはね」
それから1点ずつを取り合い、5回の裏が終わった。
「トイレ行ってくるけど、何か食べる?」
「軽いものならいいかな」
「ポップコーンは?」
「うん、いいね。サワーあったら買って来て」
「分かった。花音、トイレは?」
「混んでそうだから、後でいく」
真田さんは階段を下りていった。
美幸一家も、父親(らしき男の人)と子供が下りていく。
美幸さんが、こっちを振り返った。私と目が合う。立ち上がって、階段を上がってくる。私は真司の席に移り、美幸さんは空いた席に座った。
「この前は、ごめんね。酷い事言っちゃって」
「気にしないで下さい。慣れてますから」
「強いのね」
「伊達にこの顔で26年間生きてません」
「フフフッ。花音さんだっけ?」
「はい、美幸さん」
「私のことは聞いたの?」
「はい、小百合さんから」
「あら?もう小姑とはいい関係なの?」
「はい、仲良くしてもらってます」
「そっか。別れようとは思わなかった?」
「あの日は、流石にそう思いましたけど。冷静になったら、こんなにかっこよくて優しい優良物件は2度とないと気づいたんで」
「真司も本気なのね」
「はい」
「あら?ノロケてる?」
「まぁ、そうですね」
「はぁ、私も手放さなきゃ良かった」
「そうなんですか?」
「でも、あの頃は遊びたい一心だったからね。いくらでも寄って来る男はいたし」
「一度は言ってみたいセリフだ」
「花音さん、面白いわね。あんなことした相手なのに。怒ってないの?」
「怒ってないか?と言われれば怒ってますよ。もちろん。でも、あのお陰で真司との関係を冷静に見ることができたんで、あって良かったなと思ってます」
「そうなんだ」
「隣にいるのはお子さんですか?」
「そう。旦那と子供」
「じゃあ、なんであの日、あんなことを?」
「あの日、初めてあの人が怒って。いつも私ばかり怒って喧嘩にならないのに。それでビックリして出てきちゃったの」
「なるほど」
「それで行く宛てが無くて、真司なら、後腐れなく泊まれるかと思って」
「いやいや、後腐れだらけですよ。真司さん、怖がってましたよ」
「それもしょうがないか、子供には刺激が強すぎることをしてしまったんだから」
「反省してるんですか?」
「今となってはね。もちろん許してもらえるとは思ってないわよ。でも、真司、優しいじゃん。だから、事情を話せば、1日くらいなら、なんとかなるかなとも思ったりしてね」
「今は幸せなんですか?」
「どうなのかしらね。至って平凡よ」
「旦那さんは、昔のことは?」
「もともとマッチングで出会ったのよ。お金もあるし、私が初めてだったけど、そこそこモノもいいし、しばらく付き合ってたの。そうしたら、いきなり結婚したいって言われて、なんか変な幻想を抱かれてても嫌だったから、全部話したの。あなたもお金目当てだって。
そうしたら、それでもいいって。僕なんかを相手にしてくれるんだから、本当はいい人なんだって。
今の話聞いてた?って何度も言ったんだけど、初めて頑固になって。そうしたら、妊娠してることが分かって。もちろん旦那の子よ。他にはもういなかったから。それでそろそろ潮時だって思って、結婚したの」
「そうなんですか。旦那さんは美幸さんのこと大好きなんですね」
「まぁ、それは間違いないかな。他に相手してくれる人もいないだろうから」
「私と一緒ですね、旦那さん。目の前の大切な人を一生懸命愛してる」
「なんか真司があなたを選んだ理由が分かったわ。顔なんてほんのキッカケでしかないのね」
「そうなんですかね?」
「多分、そうよ。元々、あの子は相手に顔の良さなんて求めてないし」
「そうなんですか?」
「バカがつくくらい純粋だからね。真司は」
「はい、そうですね」
「安心して、もうあなた達の前に現れることはないから」
「せっかく本当の美幸さんのこと知れたのに」
「真司には言わないでよ。もう会わないほうがいい。お互いのために」
「分かりました」
美幸さんは戻って行った。
美幸さんが元の席に座ると、真田さんが現れた。
私も元の席に戻り、真田さんの荷物を受け取った。
真田さんが隣に座る。
「ねぇ、キスして」
「えっ!ここで」
私は頷いた。
「ホッペとかじゃダメ?」
「それでもいい」真田さんは私のホッペにキスをした。
「なんかこっちの方が恥ずかしい。失敗した」
「高校生じゃないんだから。フフフッ」
「もう!花音が言い出したんだろ」
「そうよ。真司が好きだから」
「あぁ、そう?」真田さんは照れた。本当に純粋だ。
私は真田さんの手を肩に回した。そして、頭をつけた。
「真司の隣に、ずっといるよ」
「うん。僕も離れないよ」
私は顔上げた。真田さんは軽く唇を付けた。
試合が再開された。
ランナーは出るけど、両チームとも決め手がないまま、試合は終わった。
「なんか疲れる試合だ」
「ドキドキハラハラだったわね」
「まぁ、劇的なホームランも見れたし、満足かな」
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「いいんですか?」父親が言う。美幸さんは、ビックリしていた。
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美幸一家は、階段を下りていった。
「なんだよ、花音」
「いいじゃない。もう会わないんだから、最後くらい笑顔で別れても」
「ふ~ん。僕がいない間、何かあった?」
「何にもないわよ。美幸さん、幸せそうなんだから、もう忘れましょ」
「うん、分かったよ」
私は先に階段を下りた。
階段を下り終わると、真田さんが抱きついてきた。
「どうしたのよ」
「花音を選んで正解だったなって思って」
「どうして?」
「僕の全部を受け入れてくれるし、僕の過去をいい思い出にしてくれる」
「そんな大したことしてないわ」
「僕がそう思ってるだけだから」
「うん、行こ」
私は体を離して、手を繋いだ。
球場の外に出て、駅へと向かう。
「花音、帰っちゃうの?」
「今日は楓が帰ってくるから」
「そっか。残念だな」
「もしかしたら、小百合さんと会うかな?」
「僕にとっては、それも微妙だな」
「もう、姉離れしなさい」
「はい、頑張ります」
私は楓に電話した。
「あっ、楓、今どこ?」
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