続・クラスイチ(推定)ブスだった私が、浮気しない真面目なイケメン彼氏と別れた理由

ぱるゆう

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へんな気持ち

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あれから1週間以上経ったが、職場でも私は真司を避けた。

完全に私が悪いのは分かっている。謝るのが嫌なわけじゃない。それでも---

私は何も無い左手の薬指を触った。
新居に引っ越した後に、まとめて職場に報告することに決めていたので、それまで指輪は外している。

その引っ越しは、明後日の土曜日だ。

引っ越しと言っても、私は洋服等の身の回りのものだけだ。既に段ボールに詰めてあり、明後日、手伝いがてら、楓が車で送ってくれることになっている。

最悪の船出になっちゃったな、職場にいるのに私は頭を抱えた。

「どうしたの?山上さん。体調悪いなら無理しなくて大丈夫だよ」と先輩が話しかけてくれた。

「あっ、すいません。仕事中に」私は姿勢を正した。

「今は急ぎはないから、大丈夫だよ」

あぁ、なんていい職場だ。寿退社するなんて言いたくなくなってきた。しかし、今日は特に集中できそうにない。

「すいません。早退してもいいですか?」

先輩は係長を見た。
係長は何も言わず、頷いてくれた。

「ありがとうございます」私は立ち上がって頭を下げ、荷物をまとめてから、「すいません。お先に失礼します」と言って歩き出した。

「明日も無理しなくていいからね」と係長がすれ違う時に言った。私は、また頭を下げた。



会社を出て、ふぅ~っと息を吐き出して、空を見上げた。天気はいい。しかし、心は晴れなかった。

千代さんに嫉妬しているのか?と自分に何度も問いかけたが、問いかけられた私が出した答えは、全てNOだ。

仲良くした真司に怒っているのか?その問いも、答えはNOだ。

私自身の問題だと分かっていた。

あぁ、モヤモヤする!
真司と出会う前の私は、全てのことを諦めていたので、こういうモヤモヤが起こっても、そのうち無くなっていた。私が我慢すればいいんだと思って、考えないようにしたからだ。

でも、今回は1週間以上経っても、無くならない。

小百合さんに話を聞いてもらおうか?
平日だ。仕事に違いない。
それなら、夜?まだ昼間際だ。それまでどうしよう?家に帰ったら、心配されるのは目に見えている。
 
渚さん?学校かもしれない。急に電話したら、心配されてしまうだろう。

学校?楓?この前、学校のテストが終わったと言っていた。経験上授業はないはずだ。

私は楓に電話した。

しばらくコール音が鳴ったが、
「姉ちゃん、こんな時間にどうしたの?会社は?」

「早退した」

「えっ!どこか悪いの?」

「楓、今日の予定は?」

「今、練習終わったから、友達と飯食って帰るだけだけど」」

「その後。いい?あっ、心配しないで体調が悪いわけじゃないから」

「えっ、心配だよ。着替えたら会おうよ」

「どのくらい?」

「片付けて、シャワー浴びてだから、1時間くらいかな?」

「分かったわ。そっちの駅まで行く」

「じゃあ、こっち出る時に連絡する」

電話を切った。
ここから楓の練習場がある駅までなら40分ちょっとだ。とりあえず向かおう。

足取りは軽くなっていた。

電車の中で、駅の近くで時間が潰せそうなところを探した。駅前に喫茶店がありそうだ。

電車を乗り換えて、山手線の外側に出る。私はドアに寄りかかり、窓の外を眺める。どんどん風景が長閑になっていく。

私は楓に会って、何を期待しているのだろうか?楓は口は固い、というか余計なことは話さない。まぁ、時々無茶はするが。

愚痴を聞いてもらうか?真司が千代さんと仲良くしてって話すのか?あぁ、そういえば、あの子達の相手を楓に頼まなくてはならないんだ。ついでに頼むか?

私は電車を降りて喫茶店に入った。
昼時だからか、けっこう混んでいた。

私は空いている席に座り、飲み物だけを頼んだ。

楓に店名のラインを送った。
そのまま下を向いていた。

飲み物が来て、一口だけ口を付ける。
すると、楓からラインが入った。
「今終わったから向かう」

「待ってる」と返信する。

しばらくすると、楓と、同じジャージを着た5人組が入ってきた。

「みんな、いらっしゃい」店主が楓達に言う。

いつの間にか店は空いていた。時計を見ると、1時近くになっていた。

楓はキョロキョロしていた。私は手を上げていいか悩んだが、楓は私を見つけて、他の人達に何かを言って一人で近づいてきた。

「姉ちゃん、お待たせ」

「いいの?みんないるのに?」

「うん。大丈夫だよ」

「この店って、よく使ってるの?」

「オヤジさんが、うちの野球部のOBで、結構サービスしてくれるんだ。だから、よく来るんだ」

「そうだったの。言ってくれればよかったのに」

「なんでだよ。実の姉に会うだけなのに」

「まぁ、そうなんだけど」私にやましい心があるから、後ろめたい気持ちになってしまうのだろうか?

私は、楓と一緒に来た人達を見た。チラチラとこっちを見ている。

「ちゃんと話したの?お姉ちゃんだって」

「言ったよ。何人かには小百合を見られてるし」

「ふ~ん」

「気になるなら、店変える?」

「それも怪しくない?」

「そうだけど。お腹すいたから、早く食べたい」

「あっ、ごめん、好きなもの食べなさい。私が払うから」

「ホントに?」

そこに店主がやってきた。
「楓くん、今日はどうする?」

「あっ、弟がお世話になってます」私は説明くさく話して、会釈をした。

「お姉さん?楓くん、有望でOBの中でもみんな期待してるんですよ」

「それは、ありがとうございます」

「オヤジさん、日替わり、大盛りで」

「はいよ。お姉さんは?」

「あっ、え~と、ナポリタンお願いします」

「姉ちゃん、小盛にした方がいいよ」

「えっ、じゃあ、小盛でお願いします」

「はい」店主は満面の笑みで去っていった。

「量多いの?」

楓は他のテーブルを指さした。

私は納得した。これが混んでいる理由なのだろう。

「更に野球部はサービス」

「それで大盛り?」 

「みんなそうだよ」

「それはそれは」
はぁ、楓といると、なんか悩んでいる自分がどこかに行ってしまう。

「それで、どうしたんだよ。いきなり」

「えっ、うん。なんかモヤモヤしちゃって」

「それって、マリッジブルーってやつ?」

私はハッとした。そうか、これがマリッジブルーってやつか!

「何だよ。気づいてなかったのかよ」

「全然。フフフッ、なるほどね」私は苦笑いした。

「入籍した後でも、マリッジブルーになるんだね」

「確かに、結婚式の前とかよく聞くよね?」

「まぁ、式の前であることは同じだけど」

料理が運ばれてきた。
ナポリタンは、会社の近くの店よりも多い。楓の前に運ばれてきたものは、異常な量だった。

「ほら、小盛で良かったでしょ」

「うん。それ食べられるの?」

「お腹いっぱいにはなるけど。余裕だよ」

「いただきます」楓は相変わらず、次々と口に運ぶ。

「もう!ちゃんと噛みなさい!」

「うん、分かった」相変わらず口だけだ。

私もナポリタンを口に運ぶ。
「うん、美味しい」

「そう、この店は、何でも美味しい」

結局、楓は私よりも早く食べ終わって、私が残したナポリタンまで食べた。

店を出た。



とりあえず駅の中に入った。

「姉ちゃん、どうする?何か発散するなら、付き合うよ。カラオケ?運動?」

私は下を向いた。

「ねぇ、姉ちゃん」

「ホテル行こ」私は小さい声で呟いた。

「えっ!嬉しいけど、真司兄さんにも、小百合にも悪いから無理だよ」

「そうだよね、ごめん」

「飲みに行こうか?この時間でも空いている店知ってる」

「うん」

楓と来た電車に乗った。
窓際に立つ楓に、私は腕を絡めて、胸を押し付けた。

「姉ちゃん、ダメだよ。今逃げたら、次も逃げることになる。ずっと続くことになるよ」楓は私の両肩を掴みながら、私の目を覗き込んだ。

「小百合も渚さんも逃げなかったから、今の自分に自信を持ってる。誰にも引け目を感じていていない。姉ちゃんだって、真司兄さんの真実から逃げなかったじゃないか!」

「私はそんなに強くない。全部勘違いなのよ。強くなった気がしてただけ」

「じやあ、どうするの?離婚する?離婚するなら、僕は小百合と別れるよ」

私は絶句した。あんなに私としたがっていた楓が、こんなことを言うとは思わなかった。

どこかで楓の成長を喜ぶ自分がいた。

「分かった。もう言わない」私ははっきりと言った。

「もう楓がしたいって言っても、絶対にさせないからね」

楓は分かりやすく怯んだ。
「やっぱり今後のためにしとこうかな?」私の目を覗き込む。

楓らしいと呆れた。

「さっきのが最後のチャンスですぅ」

「あぁ、僕は大切なものを失った気がする」と頭を抱えた。

カッコいいが持続できない、本当に楓らしい。
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