続・クラスイチ(推定)ブスだった私が、浮気しない真面目なイケメン彼氏と別れた理由

ぱるゆう

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最後の大立ち回り?

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楓とカラオケで発散し、その夜、真司に電話した。
「ごめんね」

「もう大丈夫なの?」

「うん、もう大丈夫。ほっといてくれて、ありがとう」

「その方がいいいかなって思って」

「うん、その方が良かった。真司が私のこと信じてくれてるって思った」

「それで、なんだったの?」

「笑わないでよ」

「そんなことしないよ」声に嘘はないようだ。

「マリッジブルー」

「ハッハッハッ、そうなんだ」

「笑わないって言ったのに」
 
「ごめん、ごめん。そっか、確かにドンドンと話が先に進んで展開が早かったからね。入籍でホッと一息ついて、冷静になったというところかな?」

「多分、そうだと思う」

「明日はどうする?」

「泊まりたいと言いたいところだけど、最後は家で過ごしたい」

「そうだね。これからはいくらでもできるし」

「そればっかりじゃ嫌だからね」

「そうだね。ちゃんと地に足をつけていこう。浮かれてばかりじゃいられない」

「そうね。じゃあ、明日は職場に顔見せに行くわ」

「うん、分かった」

私は電話を切って、ベッドに横になった。

「このベッドで寝るのも、明日までだし」天井を見ようとしたら、間に楓の顔が浮かんだ。

「もう楓とすることはないわね」意識したら、感触が蘇ってきた。

「小百合さんは大丈夫なのかな?」変なことが頭をよぎった。

「よっと」私は上半身を起こした。
部屋の中に段ボールが積まれているが、クローゼットやタンスの中身が無くなっただけで、部屋に置かれたものは、ほとんどそのままだ。

「けっこう捨てたはずなんだけど、改めて見ると、要らないものばっかりね。
まぁ、次来た時に片そう。仕事を辞めたら、暇になるんだし」

私は部屋を出た。
この部屋で思い出にふけっているより、やることがある。

リビングに行った。キッチンで母が夕飯を作っている。
「母さん、手伝う」

「そう?最後の独身気分は、もういいの?」

「うん、もう十分」

「真司さんは何が好きか分かってるの?」

「う~ん。聞いても何でもって返ってくるだけなのよ」

「あら?作りがいがあるんだか、ないんだか」

「多分、家政婦さんが作ってくれる料理が、どれも美味しいのよ」

「あら?随分ハードルが高そうね」

「何回かお弁当作ってあげたけど、好評だったから、なんとかなるとは思ってるんだど」

「後はレパートリーの問題ね。何日かおきにローテーションじゃ、ダメよ」

「そこなのよ。まぁ、仕事辞めて時間もできるし、家政婦さんに教わりに行くつもり」

「その方が手っ取り早いわね。味付けも分かるし」

「うん。徐々に山上家の味の変えていって」

「止めなさい」

「私はお母さんの料理残したいな」

「あら?嬉しいこと言ってくれるわね」

「私、親孝行できてる?」

「フフフッ、何よ。改まって。あなたが産まれてきて、私もお父さんも笑顔になった。それが1番目の親孝行。運動会や発表会、入学式や卒業式、あなたが元気に育ってくれていることで、何回も笑顔になった。2番目の親孝行。楓が産まれてきて、しっかりお姉ちゃんをしてくれた。3番目の親孝行。そして、結婚、4番目の親孝行。いっぱいしてもらってるわよ」

「お母さん」私は涙が溢れてきた。

「止めて、こっちまで涙出てくるじゃない」

「お母さんとお父さんの子供で良かった」

「もう、本当に止めて」

私と母さんは、抱き合って、少しの間、泣いた。

「ほら、早く作らないと、お父さん帰ってきちゃうわ」

私達は涙を拭いて、料理を再開した。

その後、父親が帰ってきて、まだ明日もあるので、普通に夕食は終わった。



次の日、私は約束通り真司に会いにいった。

職場に行くと、相変わらずな光景が目に入った。
でも、今日までだ。そう思うと、寂しいような、可哀想な気がしてくる。

真司がこっちを見て、相手の女性社員に何か言った後、こっちに来ている。
言われた女性社員は、ビックリした顔をしている。

私達は、会議室に入った。
「何言ったの」

「今までありがとうって」

「うわっ、意味深過ぎる」

「もう今日も残り少しだし」

「まぁ、そうだけど。そんなことより、ごめんなさい」私は頭を下げた。

真司が抱きついてきた。
「良かった。僕を嫌いになったんじゃなくて」

私も真司の腰に手を回した、
「まぁ、少しは嫌いになってたんだけど」

「えっ、ホントに?」

「冗談よ。ずっと好きよ」

「それなら良かった。キスしていい?」

「ダメ、口紅落ちちゃう」

「残念」

「また明日ね」私は体を離した。

真司は会議室を出ていこうとする。
私は袖を掴んだ。真司が振り返る。

「軽くならいいよ」

「あぁ」

唇の先を軽く重ねた。

「明日までの我慢」

「そうね。明日になれば」

真司は私をまた抱きしめた。
「これで、花音は僕だけのもの。良かった」

「うん、真司だけのものだよ」

真司は私を離した。
「今日は、ここまでにしとこう。きりがない」

「ちゃんと真司のご両親、小百合さん、そして佳代さんに、今までありがとうって言うんだよ」

「うん、分かってる」

「じゃあ、明日ね」

「うん、明日」

私達は会議室を出た。

さっきいた女子社員は残っていた。
「ほら、意味深なこと言うから」

「大丈夫だよ。はっきり言うから」

「ちょっと!月曜日だからね」

「うん、分かってるさ」


私は心配で、職場の入口から、こっそりと観察した。

真司に何かを言われた女子社員が驚いた顔をした。

はぁ、何言ったのかしら。凄い気になったが、乗り込んで行くわけにもいかない。

女子社員は下をむいて、トボトボとこっちに来る。私は廊下に出て、道を開けた。女子社員は私の顔をチラリと見て、また下を向いて去って行った。

なんか可哀想に思えてきた。彼女なりに本気だったのかもしれない。

私は自分の職場に戻ってきた。
月曜日には、ここの景色は変わってしまうのだろう。でも、退職するまでは精一杯頑張ろう。

何事もなく終業のチャイムが鳴った。
みんなあっという間にいなくなる。突然の電話で誰も残りたくはない。逃げるが勝ちだ。

私も職場を出た。足は真司の職場へと向いた。すると、真司が、何人もの女子社員に取り囲まれていた。

「どういうことですか?」
「はっきり言ってください」と怒号のような声が次々と聞こえる。

あぁ、やっぱりこうなるのか・・・月曜日でもきっとこうなっていたのだろう。

「ふぅ~」
私は全ての息を吐き出して、吸った。
正に清水の舞台、いや富士山から飛び降りる気持ちになったが、死ぬわけではない。指輪を取り出し指に嵌め、真司の元に歩いていく。

「何よ、あなた関係ないでしょ!」
と睨まれた。

「いえ、主人のこと、長い間、お慕いくださり、ありがとうございました」私は頭を下げた。

顔を上げると、みな当惑した顔をしている。目を逸らしたいが、それでは意味がなくなる。
「式はまだですが、既に入籍しております。これからも主人のこと、よろしくお願いいたします」
また頭を下げた。

さっきまでの喧騒が嘘のように、静寂に包まれた。

私は頭を上げ、真司を並んで立たせ、2人で再度、頭を下げた。

「うそ!冗談でしょ」

私は真司に「指輪!」と言った。真司はポケットから取り出し、指に嵌めた。

私達は顔を上げ、真司の手と私の手を並べて見せた。
女子社員達の目が指輪に釘付けになる。

「私のような者を真司さんは選んでくれました。皆さんが色々おっしゃりたいことがあるのも分かります。私自身も信じられない気持ちもあります。
でも、真司さんのご両親、ご兄弟皆さん、私を真田家の一員として受け入れて下さるとおっしゃってくださってます。私は一生懸命、真司さんのパートナーとして、真田家の一員として、頑張っていくつもりです。何卒、今後ともよろしくお願いします」

再度、2人で頭を下げた。

「帰ろっか」と一人が言うと、ゾロゾロと女子社員達は去って行った。

私の足が急にブルブルと大きく震え、立っていられなくなり、倒れそうになった。
真司が腰に手を回し、私を支えた。

「ありがとう」私は言った。

「ううん、こちらこそ、ありがとう」

真司は私を抱きしめた。それでも足の震えが止まらない。

真司は私を自分の椅子に座らせた。

真司は私の前にしゃがみ込み、
「さすが、僕が選んだ花音だ」

「からかわないで」

「とってもきれいだよ」真司が顔を近づけてきた。

「うっ、うん」と大きな咳払いが聞こえた。

真司の顔がハッとなり、会社にいることを思い出したようだ。
真司は立ち上がり、声のした方に向いた。

「すいません。月曜日にお話しするつもりだったのですが」

「あぁ、そうなのか。それにしても色々とビックリさせられたぞ」

「本当に申し訳ございません」

「とりあえず説明してくれるかな?」

真司は、入籍したこと、明日引っ越しして同居を始めること、結婚式は先になることを説明した。

「それで山上さんは、仕事はどうするつもりなんだ?」

「私は3月いっぱいで退職します。色々と学ばなければならないことが多いので」

「それは職場には?」

「月曜日に話すつもりでした」

「分かった。部長と課長には私から話しておこう。噂で先に知ったら寂しがるからな」

「はい、ありがとうございます。本当にこんな形でご報告する事になり、申し訳ございません」再度頭を下げた。

「いやいや、いいものを見せてもらった。山上さんの覚悟が詰まった大立ち回りだったよ」

「本当にお恥ずかしい限りです」

「真田、今日はもういい。奥さんを送ってあげなさい」

「はい、お言葉に甘えさせていただきます」

私達は会社を出た。
「はぁ、まだ震えが止まらない」と真司にしがみついた。

「会社の伝説になるかもね」真司は私の腰に手を回す。

「もう止めて」

「今頃、みんな荒れてるだろうな」

「そうね。なんか可哀想」

「まぁ、これで仕事に集中できるよ」

「そうなるといいわね、フフフッ」

「えっ、どういうこと?」
 
「私が結婚相手だって分かって、みんな更に燃えたりして」

「えっ?それって僕が花音と離婚して、乗り換えるってこと?」

「そうね。みんなわたしに負けたんじゃ、納得いかないでしょ」

「そんなに僕って、意志弱そう?」

「まぁ、月曜になれば分かるわよ」

「帰したくないな」

「今日はダメよ。明日ならいくらでもいいから」

「そうだね。一晩、我慢するか」

「ねぇ、我慢できない」

「そうだね。僕も我慢できない」

私達は照明の届かない暗いところで舌を絡めた。

「じゃあ、また明日」

「うん、明日」
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