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2番目の姉2
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「渚さ~ん」私は走りながら大声を出した。
大きなスーツケースを転がしながら、渚さんが振り返って、驚いた顔をした。
「えっ!なんでついてきたのよ。今日は大事な日なんじゃないの?」
「はぁはぁ。あっ!お母様達、置いてきちゃった。初めて会うのに」
「どんだけウッカリなのよ。私のことは大丈夫だから、戻りなさい」
渚さんは呆れた顔で、そう言った後、背中を向けようとした。
私は、渚さんの手を掴んだ。
「えっ!」またビックリした顔で振り返る。
「ちゃんと渚さんと話したい」私は渚さんの目を見つめた。
「はぁ、あなた、お節介にも程があるわよ」
「私の家族になる人ですから」
「あの真司が選んだ理由が分かるわ」
「そうですか?」
「はいはい、ここじゃなんだから。近くにいい喫茶店があるから」
私は渚さんの少し後ろを歩いた。
年は、真田さんと小百合さんの間だから、30ちょいか。でも、若く見える。
「何?」
「あぁ、すいません。私より若く見えるなぁって思って」
「え~っと」
「花音です。山上花音」
「花音ちゃんね。いくつなの?」
「今年26です」
「うわっ!わっか!4つも違うわ」
「全然、そんな風に見えないですよ」
「あら?お世辞でも嬉しいわ」
「そっ、そんなことないです。本当にそう思ってます」
「一緒にいた坊やは、弟?」
「はい、楓って名前で今年20歳です」
「20歳!危ない。犯罪を起こすところだった。あっ、でも、姉さんが相手か?年上好きなの?」
『どうなんですかね?年齢とかそういうのは関係なしに、好きになった相手がたまたまそうだったってところですかね」
「まぁ、あの姉さんが相手だからね」
『何かあるんですか?』
『真司のことは知ってるの?』
「はい、私も弟も知ってます」
「それでもあんなに好きなんだ?」
「そうみたいですね」
「あなたもよ」
「そうですね。ずっと一緒にいたいと思ってます」
「あらら。ご馳走様。ここよ」
そこはロッジ風の建物だった。渚さんが扉を開けると、チリンチリンと鐘が鳴った。
「あらっ、渚ちゃん久しぶり」
「マスター、ご無沙汰してます」
店の中は半々といったところだった。主婦のグループや老夫婦、リモートなのか?ワイシャツを来た人等がいた。
奥の席につく。
後を追ってきたマスターが
「何にする?』
「私はおすすめ。花音ちゃんは?』
「紅茶ありますか?』
「ダージリンでいい?』
私は頷いた。
マスターはさっき置きかけたメニユーを持ち帰る。
「ごめんね。騒がしくするつもりはなかったんだけど」
私は少し聞きづらそうに、
「何かあるんですか?』
「そうね。あると言えばあるかな。聞きたい?」渚さんはあっけらかんとした感じだ。
「はい、できれば」
「一番の理由は」
そこで飲み物が運ばれてきた。
渚さんは去っていくマスターの背中を見つめ、私を手招きした。
私は顔を近づける。
「一番の理由は、私がセクシー女優だからかな」
「セクシー女優?・・・って何ですか?」
「まぁ、単なるAV女優よ」
「えーぶ」私は大きな声を出してしまった。
「し~っ」
「すいません。ビックリしちゃって」
「それりゃ怒るわよね。大企業の社長の娘が、そんなことしてれば」
「でも、お金に困ってるわけじゃないですよね?」
「そういう子もいるけど、今は有名になりたいから出てる子が多いかな」
「そうなんですか?渚さんも?」
「私は元々アイドルになりたかったの。でも、全然人気なんか出なくって。そろそろ潮時かなって時に、話が上がってきて、始めたの」
「そうなんですか。すいません、私、こればっかり言ってますね」
「いいわよ。でも、出てみたら、思いのほか人気が出て。辞められなくなっちゃった」
「でも、凄いですね。私なんか人様に見せられないですよ」
「あら?そう」渚さんは手を出して、私の胸を揉んだ。
「キャッ!」
「スタイルいいじゃん。真司が喜ぶ顔が見えるわ」
「えっ!真司さん、そんなにオッパイ気にしないですよ」
「ハッハッ、我慢してるのね。バレないように」
「そうなんですか?」
「本当は大好きよ。オッパイ」
「はぁ、覚えておきます」
「それに、惜しいのよね。花音ちゃん」
「何がですか?」
「少しイジれば、美人になるわよ」
「いじるって?まさか整形!」
「私もやってるの。多分、同級生とか気が付かないんじゃないかな」
「そんなに?」
「フフフッ。そんなにはしてないけど、少しだけでも、かなり印象は変わるわよ」
「でも、真司さんが嫌がるから」
「だろうね。真司は独占欲強いから」
「私は、真司さんに、そう思っていて欲しいです」
「そうなの?まぁ、これが私があの家で歓迎されない理由」
「まだ続けるんですか?」
「もうすぐ契約が終わるから引退するわ。飽きちゃったし。ギャラも下がる一方だし」
「引退しても大丈夫なものなんですか?また、刺激が欲しくなったり」
「私は仕事だから、してるだけ。世間が思ってるほど、好きだから続けてるって子は多くはないわよ」
「そういうものなんですね」
「まぁ、引退しても、こいつはセックスが好きだから、また復帰するって思われるけどね」
「でも、復帰しないんですね」
「そう、みんなの思い出の片隅に残ればいいんじゃない」
「やっぱり結婚式出てください」
「えっ!無理だよ」
「そうですね。無理かもしれないですね。真田家としては」
「えっ!どういうこと?」
「渚さんには、私の友人として出席してもらいます」
「そんな屁理屈通らないよ」
「私、友達少ないから、ちょうど良かった」
「全く!結婚したら真司も大変そうね」
「真司さんには、責任は取ってもらいますから」
ふると、
「やっぱりここか、良かった。すぐ見つかって」
「真司」
「姉さんのこと探してて、迷子になったのかと心配になったんだよ」
「姉さん?」さっきは、あの人と言っていたのに、渚さんは眉間にシワを寄せた。
「僕が悪かった。姉さんにも結婚式、出てもらうよ」
「あら、どうしたの、この急展開は?花音ちゃんに嫌われないため?」
真田さんは頭を掻いた。
「あらら、すっかり尻に敷かれてるわね」
「そんなことないです。私の方が真司さんのこと好きですから」
「まぁ、そういうことにしましょう。でも、真司、安心して、結婚式には出ないから」
私と渚さんはニヤニヤした。
「えっ?どういうこと?」
「真田家としては出ない。だけど、花音ちゃんの友人として出席するわ。それなら、万が一バレても大丈夫でしょ。
真田家の2番目の子供は海外にいて、都合が悪くて、出席できないことにすればいい」
「そんなこと・・・、まぁ、それなら父さん達も納得するかな」
「引退したら、髪も黒く戻そうと思ってたし、服装も地味にするわ。それなら、バレないと思うけどね」
「引退?」
「次の仕事で引退する。それを言おうと思って、帰ってきたのよ。引退後は、ひっそりと暮らすわ。やりたいこともあるし」
「やりたいことって何だよ」
「それは、父さん達の前で言うわ。佳代さんにも聞いて欲しいし」
「佳代さん?」
「さっ、帰りましょ。花音ちゃんいれば、追い出されないでしょ」
何故か真田さんが会計をさせられて、店を出た。
私と渚さんで並んで歩きながら、楽しく話した。真田さんは後ろからついてくる。
自分で選んでおいて、何なんだが、花音は一体何なんだろう。僕達の方がつまらない意地を張っているように思わされてしまう。
それに、いつの間にか仲良くなってるし。
「だから、少しだけだから。初対面の相手の顔が面白いように変わるわよ」
「ちょっと待て、整形勧めてるのか?」
「そんなだいそれたもんじゃないよ。少しだけだから」
「私は真司だけ見てくれればいいって言ってるんだけど。勿体ないって」
「姉さん、マジで止めて」
「相変わらずね。花音ちゃんのこと信じられないの?」
真田さんは、痛いところを突かれたという顔になった。
「大丈夫、やらないから」
「はぁ、良かった」
「でも、ちょっとメイク変えてみない?」
「メイクなら必死に勉強会しましたけど」
「発想の転換よ」
「そんなこと」
「まぁ、期待してて。こっちはプロにやってもらってるからね」
「はい、楽しみにしてます」
そして、真田家に着いた。
真田さんが先に入る。
私は入るなり、
「すいません。いきなり飛び出してしまって」と膝が付きそうなほど、頭を下げた。
「いいわよ。どうせ渚もいるんでしょ」
私はリビングのドアの全てを開けた。
「バレてたか、さすが母さん」
「何しに帰ってきたの?」
「次の作品で引退する。それからは、ひっそりと暮らす」
「だからって、私達は許すことはできないわよ」
「許してくれとは言わない。でも、やりたいことがあるの。佳代さんを貸して」
いきなり名前を出されました、佳代さんは、狼狽した。
「わっ、私ですか?」
「そうよ。私は野球に興味がなかったから、よく家にいたわ。だから、佳代さんのお菓子をいっぱい食べた。どれも美味しかったぁ」
「まぁ、渚お嬢さま、とっても嬉しいです」
「それで思ったの。佳代さんのお菓子を我が家以外のみんなにも食べて欲しいと」
「私は旦那様と奥様、皆さんの為にお作りしたいです」
「そう言うと思ったわ。だから、私がやる。佳代さんのお菓子を私が作って、世界中を幸せにしたい」
「まぁ、そんな、大変ですよ」
「あら?私の腕が訛ってると思ってるの?佳代さん」
「確かにいくつか作り方はお教えしましたけど。かなり前かと」
「大丈夫よ。台所借りるわね」
佳代さんは心配なのか、脇で見ている。
しばらくすると、焼き菓子のいい匂いが漂った。
「どう?佳代さん」
「いただきます。あぁ、ちゃんとできてます。嬉しいわ」
「お菓子は定期的に作ってたのよ。現場のみんなも喜ぶし」
佳代さんは、皿に盛り付けて、私達の前に置いた。
「うん、渚さん、美味しいわ」
両親も口に入れ、ひとまず安心したようだ。
「最後の仕事は何とかならないのか?」父親は言った。
「契約だから、しょうがないの。でも無理なことはしないから」
「そうか。もう何を言っても無駄と言うことだな」
「そうね。最後だから。それに入れ替わりの早い仕事だから、みんなすぐに私のことなんて忘れるわ。あぁ、そんな人いたなって」
「そうなることを願うよ。しかし、服装は今からでも何とかできるだろ。着替えてきなさい」
「はいはい、分かりました。佳代さん、私の服、大丈夫かしら?」
「はい、定期的に空気を入れ替えてますから」
「さすが、佳代さん。じゃあ、行ってくる」渚さんはリビングを出ていった。
「なんかわが家の問題が次々と解決していってるみたいだよ。父さん、母さん」
「その通りだ。深刻だと思っている問題も、なんの蟠りもないと、遠い昔の話に思える。いい勉強になった」
「ホントに。花音さん、大活躍ね」
「えっ!私は何もしてないですよ。渚さんが辞めるのだって、決まってたことですし」
「辞めても、それを知らなければ、私達は、ずっと渚を家に入れなかっただろう。それを知れたのは、間違いなく花音さんのお陰だ。ありがとう」
「いやいや、そんな、感謝されても」
「花音、ここは素直に、はいと言っておいてくれないか?」
「分かりました。お役に立つことができて、こちらこそ嬉しいです」
「まだ何かあったか?我が家の問題」
「そもそも真司さんが、いつまでも結婚しないことが一番の問題だったでしょ」
「そうだな。一番の問題がなくなってる」
「それは僕が解決した」
「当たり前だしょ。あなたの問題なんだから」
「ハッハッハッ、そうだね」
佳代さんが飲み物を入れ替えた。
すると、白いシャツに紺色のパンツ姿の渚さんが現れた。
シャツから少し透ける赤い色と、金髪とのギャップがある。
「これでいい?』
「あぁ、それでいい。渚』
「こんな服、コスプレものみたいだよ』
「渚姉さん、余計なこと言わない」
「あぁ、ごめん」
渚さんもテーブルに座る。
「花音ちゃん、泊まってくの?』
「いえいえ、いきなりは泊まれないですよ」
「それもそうか。いつか泊まれたら、ゆっくり話そうね」
「はい、よろしくお願いします」
「えっ!泊まるの、僕の部屋じゃないの?」
「いいじゃない、一晩くらい。そういうことはホテルでしなさい」
「こら、渚!」
「あぁ、分かったわよ。でも、やっと初孫がコウノトリで、やってくる未来が見えたわね?」
「本当に、みんな自由にし過ぎなのよ」
「お父さん、お母さん、ごめんね。でも、もう迷惑になるようなことはしない。お菓子もちゃんと学校通って勉強する。そして、どこかの店で修行して、いつかは自分の店持ちたいな。
まぁ、結婚は無理だと思うから、花音ちゃんと、小百合姉さんの子どもを可愛がろうかな?
あぁ、2人の介護は私がやるから、安心して」
「おいおい、勝手に老人にするな」
「そうよ。死ぬ間際まで、ピンピンしてるから、必要ないわよ」
「うん、これからは親孝行する。だから、長く生きててね」
父親と母親は顔を見合わせて、苦笑いした。
「私達は、みんなが、普通に元気にしててくれれば、いい。それが一番の親孝行だ。いいか、普通にだぞ」
「うん、最後が終わったら、普通に生きるわよ」
大きなスーツケースを転がしながら、渚さんが振り返って、驚いた顔をした。
「えっ!なんでついてきたのよ。今日は大事な日なんじゃないの?」
「はぁはぁ。あっ!お母様達、置いてきちゃった。初めて会うのに」
「どんだけウッカリなのよ。私のことは大丈夫だから、戻りなさい」
渚さんは呆れた顔で、そう言った後、背中を向けようとした。
私は、渚さんの手を掴んだ。
「えっ!」またビックリした顔で振り返る。
「ちゃんと渚さんと話したい」私は渚さんの目を見つめた。
「はぁ、あなた、お節介にも程があるわよ」
「私の家族になる人ですから」
「あの真司が選んだ理由が分かるわ」
「そうですか?」
「はいはい、ここじゃなんだから。近くにいい喫茶店があるから」
私は渚さんの少し後ろを歩いた。
年は、真田さんと小百合さんの間だから、30ちょいか。でも、若く見える。
「何?」
「あぁ、すいません。私より若く見えるなぁって思って」
「え~っと」
「花音です。山上花音」
「花音ちゃんね。いくつなの?」
「今年26です」
「うわっ!わっか!4つも違うわ」
「全然、そんな風に見えないですよ」
「あら?お世辞でも嬉しいわ」
「そっ、そんなことないです。本当にそう思ってます」
「一緒にいた坊やは、弟?」
「はい、楓って名前で今年20歳です」
「20歳!危ない。犯罪を起こすところだった。あっ、でも、姉さんが相手か?年上好きなの?」
『どうなんですかね?年齢とかそういうのは関係なしに、好きになった相手がたまたまそうだったってところですかね」
「まぁ、あの姉さんが相手だからね」
『何かあるんですか?』
『真司のことは知ってるの?』
「はい、私も弟も知ってます」
「それでもあんなに好きなんだ?」
「そうみたいですね」
「あなたもよ」
「そうですね。ずっと一緒にいたいと思ってます」
「あらら。ご馳走様。ここよ」
そこはロッジ風の建物だった。渚さんが扉を開けると、チリンチリンと鐘が鳴った。
「あらっ、渚ちゃん久しぶり」
「マスター、ご無沙汰してます」
店の中は半々といったところだった。主婦のグループや老夫婦、リモートなのか?ワイシャツを来た人等がいた。
奥の席につく。
後を追ってきたマスターが
「何にする?』
「私はおすすめ。花音ちゃんは?』
「紅茶ありますか?』
「ダージリンでいい?』
私は頷いた。
マスターはさっき置きかけたメニユーを持ち帰る。
「ごめんね。騒がしくするつもりはなかったんだけど」
私は少し聞きづらそうに、
「何かあるんですか?』
「そうね。あると言えばあるかな。聞きたい?」渚さんはあっけらかんとした感じだ。
「はい、できれば」
「一番の理由は」
そこで飲み物が運ばれてきた。
渚さんは去っていくマスターの背中を見つめ、私を手招きした。
私は顔を近づける。
「一番の理由は、私がセクシー女優だからかな」
「セクシー女優?・・・って何ですか?」
「まぁ、単なるAV女優よ」
「えーぶ」私は大きな声を出してしまった。
「し~っ」
「すいません。ビックリしちゃって」
「それりゃ怒るわよね。大企業の社長の娘が、そんなことしてれば」
「でも、お金に困ってるわけじゃないですよね?」
「そういう子もいるけど、今は有名になりたいから出てる子が多いかな」
「そうなんですか?渚さんも?」
「私は元々アイドルになりたかったの。でも、全然人気なんか出なくって。そろそろ潮時かなって時に、話が上がってきて、始めたの」
「そうなんですか。すいません、私、こればっかり言ってますね」
「いいわよ。でも、出てみたら、思いのほか人気が出て。辞められなくなっちゃった」
「でも、凄いですね。私なんか人様に見せられないですよ」
「あら?そう」渚さんは手を出して、私の胸を揉んだ。
「キャッ!」
「スタイルいいじゃん。真司が喜ぶ顔が見えるわ」
「えっ!真司さん、そんなにオッパイ気にしないですよ」
「ハッハッ、我慢してるのね。バレないように」
「そうなんですか?」
「本当は大好きよ。オッパイ」
「はぁ、覚えておきます」
「それに、惜しいのよね。花音ちゃん」
「何がですか?」
「少しイジれば、美人になるわよ」
「いじるって?まさか整形!」
「私もやってるの。多分、同級生とか気が付かないんじゃないかな」
「そんなに?」
「フフフッ。そんなにはしてないけど、少しだけでも、かなり印象は変わるわよ」
「でも、真司さんが嫌がるから」
「だろうね。真司は独占欲強いから」
「私は、真司さんに、そう思っていて欲しいです」
「そうなの?まぁ、これが私があの家で歓迎されない理由」
「まだ続けるんですか?」
「もうすぐ契約が終わるから引退するわ。飽きちゃったし。ギャラも下がる一方だし」
「引退しても大丈夫なものなんですか?また、刺激が欲しくなったり」
「私は仕事だから、してるだけ。世間が思ってるほど、好きだから続けてるって子は多くはないわよ」
「そういうものなんですね」
「まぁ、引退しても、こいつはセックスが好きだから、また復帰するって思われるけどね」
「でも、復帰しないんですね」
「そう、みんなの思い出の片隅に残ればいいんじゃない」
「やっぱり結婚式出てください」
「えっ!無理だよ」
「そうですね。無理かもしれないですね。真田家としては」
「えっ!どういうこと?」
「渚さんには、私の友人として出席してもらいます」
「そんな屁理屈通らないよ」
「私、友達少ないから、ちょうど良かった」
「全く!結婚したら真司も大変そうね」
「真司さんには、責任は取ってもらいますから」
ふると、
「やっぱりここか、良かった。すぐ見つかって」
「真司」
「姉さんのこと探してて、迷子になったのかと心配になったんだよ」
「姉さん?」さっきは、あの人と言っていたのに、渚さんは眉間にシワを寄せた。
「僕が悪かった。姉さんにも結婚式、出てもらうよ」
「あら、どうしたの、この急展開は?花音ちゃんに嫌われないため?」
真田さんは頭を掻いた。
「あらら、すっかり尻に敷かれてるわね」
「そんなことないです。私の方が真司さんのこと好きですから」
「まぁ、そういうことにしましょう。でも、真司、安心して、結婚式には出ないから」
私と渚さんはニヤニヤした。
「えっ?どういうこと?」
「真田家としては出ない。だけど、花音ちゃんの友人として出席するわ。それなら、万が一バレても大丈夫でしょ。
真田家の2番目の子供は海外にいて、都合が悪くて、出席できないことにすればいい」
「そんなこと・・・、まぁ、それなら父さん達も納得するかな」
「引退したら、髪も黒く戻そうと思ってたし、服装も地味にするわ。それなら、バレないと思うけどね」
「引退?」
「次の仕事で引退する。それを言おうと思って、帰ってきたのよ。引退後は、ひっそりと暮らすわ。やりたいこともあるし」
「やりたいことって何だよ」
「それは、父さん達の前で言うわ。佳代さんにも聞いて欲しいし」
「佳代さん?」
「さっ、帰りましょ。花音ちゃんいれば、追い出されないでしょ」
何故か真田さんが会計をさせられて、店を出た。
私と渚さんで並んで歩きながら、楽しく話した。真田さんは後ろからついてくる。
自分で選んでおいて、何なんだが、花音は一体何なんだろう。僕達の方がつまらない意地を張っているように思わされてしまう。
それに、いつの間にか仲良くなってるし。
「だから、少しだけだから。初対面の相手の顔が面白いように変わるわよ」
「ちょっと待て、整形勧めてるのか?」
「そんなだいそれたもんじゃないよ。少しだけだから」
「私は真司だけ見てくれればいいって言ってるんだけど。勿体ないって」
「姉さん、マジで止めて」
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真田さんは、痛いところを突かれたという顔になった。
「大丈夫、やらないから」
「はぁ、良かった」
「でも、ちょっとメイク変えてみない?」
「メイクなら必死に勉強会しましたけど」
「発想の転換よ」
「そんなこと」
「まぁ、期待してて。こっちはプロにやってもらってるからね」
「はい、楽しみにしてます」
そして、真田家に着いた。
真田さんが先に入る。
私は入るなり、
「すいません。いきなり飛び出してしまって」と膝が付きそうなほど、頭を下げた。
「いいわよ。どうせ渚もいるんでしょ」
私はリビングのドアの全てを開けた。
「バレてたか、さすが母さん」
「何しに帰ってきたの?」
「次の作品で引退する。それからは、ひっそりと暮らす」
「だからって、私達は許すことはできないわよ」
「許してくれとは言わない。でも、やりたいことがあるの。佳代さんを貸して」
いきなり名前を出されました、佳代さんは、狼狽した。
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「そうよ。私は野球に興味がなかったから、よく家にいたわ。だから、佳代さんのお菓子をいっぱい食べた。どれも美味しかったぁ」
「まぁ、渚お嬢さま、とっても嬉しいです」
「それで思ったの。佳代さんのお菓子を我が家以外のみんなにも食べて欲しいと」
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「そう言うと思ったわ。だから、私がやる。佳代さんのお菓子を私が作って、世界中を幸せにしたい」
「まぁ、そんな、大変ですよ」
「あら?私の腕が訛ってると思ってるの?佳代さん」
「確かにいくつか作り方はお教えしましたけど。かなり前かと」
「大丈夫よ。台所借りるわね」
佳代さんは心配なのか、脇で見ている。
しばらくすると、焼き菓子のいい匂いが漂った。
「どう?佳代さん」
「いただきます。あぁ、ちゃんとできてます。嬉しいわ」
「お菓子は定期的に作ってたのよ。現場のみんなも喜ぶし」
佳代さんは、皿に盛り付けて、私達の前に置いた。
「うん、渚さん、美味しいわ」
両親も口に入れ、ひとまず安心したようだ。
「最後の仕事は何とかならないのか?」父親は言った。
「契約だから、しょうがないの。でも無理なことはしないから」
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「はい、定期的に空気を入れ替えてますから」
「さすが、佳代さん。じゃあ、行ってくる」渚さんはリビングを出ていった。
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「ホントに。花音さん、大活躍ね」
「えっ!私は何もしてないですよ。渚さんが辞めるのだって、決まってたことですし」
「辞めても、それを知らなければ、私達は、ずっと渚を家に入れなかっただろう。それを知れたのは、間違いなく花音さんのお陰だ。ありがとう」
「いやいや、そんな、感謝されても」
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「そもそも真司さんが、いつまでも結婚しないことが一番の問題だったでしょ」
「そうだな。一番の問題がなくなってる」
「それは僕が解決した」
「当たり前だしょ。あなたの問題なんだから」
「ハッハッハッ、そうだね」
佳代さんが飲み物を入れ替えた。
すると、白いシャツに紺色のパンツ姿の渚さんが現れた。
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「これでいい?』
「あぁ、それでいい。渚』
「こんな服、コスプレものみたいだよ』
「渚姉さん、余計なこと言わない」
「あぁ、ごめん」
渚さんもテーブルに座る。
「花音ちゃん、泊まってくの?』
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「それもそうか。いつか泊まれたら、ゆっくり話そうね」
「はい、よろしくお願いします」
「えっ!泊まるの、僕の部屋じゃないの?」
「いいじゃない、一晩くらい。そういうことはホテルでしなさい」
「こら、渚!」
「あぁ、分かったわよ。でも、やっと初孫がコウノトリで、やってくる未来が見えたわね?」
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「お父さん、お母さん、ごめんね。でも、もう迷惑になるようなことはしない。お菓子もちゃんと学校通って勉強する。そして、どこかの店で修行して、いつかは自分の店持ちたいな。
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「そうよ。死ぬ間際まで、ピンピンしてるから、必要ないわよ」
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父親と母親は顔を見合わせて、苦笑いした。
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