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鍵のかからない密室
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タイトル
『鍵のかからない密室』
⸻
本文
その部屋には、鍵がなかった。
正確に言えば、鍵をかける必要がなかった。
古い洋館の二階、一番奥の書斎。
扉は内側からしか開かない構造で、閉めれば自然にロックがかかる。
外からはどうやっても開けられない。
——その部屋で、館の主・久条 恒一(くじょう こういち)が死んでいた。
死因は刺殺。
凶器のナイフは、胸に突き刺さったまま。
部屋の中は荒れていない。
争った形跡もない。
窓は閉まっており、割れた形もない。
完全な密室だった。
⸻
現場に呼ばれた高校生探偵・**相沢 恒一朗(あいざわ いちろう)**は、部屋に入った瞬間、違和感を覚えた。
「……静かすぎる」
警察官が怪訝そうな顔をする。
「静か? 死体があるんだぞ」
「いえ。音じゃない。“痕跡”が、です」
相沢は床を見た。
埃がうっすら積もっている。
だが——足跡が一つもない。
「犯人がこの部屋に入ったなら、必ず床に痕が残るはずです」
「最初から中にいたとか?」
「それなら、外に出られません。これは密室ですから」
全員が黙り込む。
相沢はゆっくりと、被害者の机に近づいた。
そこに、一枚の紙が置いてあった。
『私は、自分でこの部屋に入った』
遺書のような文面。
「自殺……か?」
刑事がつぶやく。
相沢は首を振った。
「いいえ。これは犯行声明です」
「は?」
「この文章を書いたのは、被害者本人。でも、意味は違う」
相沢は扉を指さした。
「この部屋、内側からしか開きませんよね」
「そうだ」
「でも逆に言えば——外から“閉める”ことはできる」
空気が変わった。
「被害者は、自分で部屋に入り、扉を閉めた。
そして——」
相沢は、胸に刺さったナイフを見た。
「殺されたのではなく、刺した人が“出ていない”だけなんです」
「どういう意味だ……?」
相沢は、静かに答えた。
「犯人は、最初からこの部屋に存在していなかった」
沈黙。
「凶器のナイフ。
これは、館に元々あった装飾用ナイフです」
「つまり……」
「被害者は、誰にも殺されていない。
でも、自殺でもない」
相沢は紙を裏返した。
そこには、細かくこう書かれていた。
『この部屋に入った瞬間、私はもう死んでいる』
「久条は、数日前に毒を飲まされていた。
発作が起きるタイミングを、自分で選ぶために、
この部屋に入った」
「じゃあ、刺し傷は?」
「死後に、自分で仕込んだ仕掛けです。
発作で倒れた体が、
天井から落ちるナイフに当たるように」
刑事は言葉を失った。
「……犯人は誰だ」
相沢は、はっきり言った。
「この館にいる全員です」
「なに?」
「毒は、少量ずつ。
毎日違う人間が、気づかずに盛っていた」
沈黙の中、相沢は続ける。
「これは殺人じゃない。
——復讐の完成形です」
⸻
END
『鍵のかからない密室』
⸻
本文
その部屋には、鍵がなかった。
正確に言えば、鍵をかける必要がなかった。
古い洋館の二階、一番奥の書斎。
扉は内側からしか開かない構造で、閉めれば自然にロックがかかる。
外からはどうやっても開けられない。
——その部屋で、館の主・久条 恒一(くじょう こういち)が死んでいた。
死因は刺殺。
凶器のナイフは、胸に突き刺さったまま。
部屋の中は荒れていない。
争った形跡もない。
窓は閉まっており、割れた形もない。
完全な密室だった。
⸻
現場に呼ばれた高校生探偵・**相沢 恒一朗(あいざわ いちろう)**は、部屋に入った瞬間、違和感を覚えた。
「……静かすぎる」
警察官が怪訝そうな顔をする。
「静か? 死体があるんだぞ」
「いえ。音じゃない。“痕跡”が、です」
相沢は床を見た。
埃がうっすら積もっている。
だが——足跡が一つもない。
「犯人がこの部屋に入ったなら、必ず床に痕が残るはずです」
「最初から中にいたとか?」
「それなら、外に出られません。これは密室ですから」
全員が黙り込む。
相沢はゆっくりと、被害者の机に近づいた。
そこに、一枚の紙が置いてあった。
『私は、自分でこの部屋に入った』
遺書のような文面。
「自殺……か?」
刑事がつぶやく。
相沢は首を振った。
「いいえ。これは犯行声明です」
「は?」
「この文章を書いたのは、被害者本人。でも、意味は違う」
相沢は扉を指さした。
「この部屋、内側からしか開きませんよね」
「そうだ」
「でも逆に言えば——外から“閉める”ことはできる」
空気が変わった。
「被害者は、自分で部屋に入り、扉を閉めた。
そして——」
相沢は、胸に刺さったナイフを見た。
「殺されたのではなく、刺した人が“出ていない”だけなんです」
「どういう意味だ……?」
相沢は、静かに答えた。
「犯人は、最初からこの部屋に存在していなかった」
沈黙。
「凶器のナイフ。
これは、館に元々あった装飾用ナイフです」
「つまり……」
「被害者は、誰にも殺されていない。
でも、自殺でもない」
相沢は紙を裏返した。
そこには、細かくこう書かれていた。
『この部屋に入った瞬間、私はもう死んでいる』
「久条は、数日前に毒を飲まされていた。
発作が起きるタイミングを、自分で選ぶために、
この部屋に入った」
「じゃあ、刺し傷は?」
「死後に、自分で仕込んだ仕掛けです。
発作で倒れた体が、
天井から落ちるナイフに当たるように」
刑事は言葉を失った。
「……犯人は誰だ」
相沢は、はっきり言った。
「この館にいる全員です」
「なに?」
「毒は、少量ずつ。
毎日違う人間が、気づかずに盛っていた」
沈黙の中、相沢は続ける。
「これは殺人じゃない。
——復讐の完成形です」
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END
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