鍵のかからない密室

野球大好き

文字の大きさ
1 / 1

鍵のかからない密室

しおりを挟む
タイトル

『鍵のかからない密室』



本文

その部屋には、鍵がなかった。

正確に言えば、鍵をかける必要がなかった。

古い洋館の二階、一番奥の書斎。
扉は内側からしか開かない構造で、閉めれば自然にロックがかかる。
外からはどうやっても開けられない。

——その部屋で、館の主・久条 恒一(くじょう こういち)が死んでいた。

死因は刺殺。
凶器のナイフは、胸に突き刺さったまま。

部屋の中は荒れていない。
争った形跡もない。
窓は閉まっており、割れた形もない。

完全な密室だった。



現場に呼ばれた高校生探偵・**相沢 恒一朗(あいざわ いちろう)**は、部屋に入った瞬間、違和感を覚えた。

「……静かすぎる」

警察官が怪訝そうな顔をする。

「静か? 死体があるんだぞ」

「いえ。音じゃない。“痕跡”が、です」

相沢は床を見た。
埃がうっすら積もっている。
だが——足跡が一つもない。

「犯人がこの部屋に入ったなら、必ず床に痕が残るはずです」

「最初から中にいたとか?」

「それなら、外に出られません。これは密室ですから」

全員が黙り込む。

相沢はゆっくりと、被害者の机に近づいた。

そこに、一枚の紙が置いてあった。

『私は、自分でこの部屋に入った』

遺書のような文面。

「自殺……か?」
刑事がつぶやく。

相沢は首を振った。

「いいえ。これは犯行声明です」

「は?」

「この文章を書いたのは、被害者本人。でも、意味は違う」

相沢は扉を指さした。

「この部屋、内側からしか開きませんよね」

「そうだ」

「でも逆に言えば——外から“閉める”ことはできる」

空気が変わった。

「被害者は、自分で部屋に入り、扉を閉めた。
そして——」

相沢は、胸に刺さったナイフを見た。

「殺されたのではなく、刺した人が“出ていない”だけなんです」

「どういう意味だ……?」

相沢は、静かに答えた。

「犯人は、最初からこの部屋に存在していなかった」

沈黙。

「凶器のナイフ。
これは、館に元々あった装飾用ナイフです」

「つまり……」

「被害者は、誰にも殺されていない。
でも、自殺でもない」

相沢は紙を裏返した。

そこには、細かくこう書かれていた。

『この部屋に入った瞬間、私はもう死んでいる』

「久条は、数日前に毒を飲まされていた。
発作が起きるタイミングを、自分で選ぶために、
この部屋に入った」

「じゃあ、刺し傷は?」

「死後に、自分で仕込んだ仕掛けです。
発作で倒れた体が、
天井から落ちるナイフに当たるように」

刑事は言葉を失った。

「……犯人は誰だ」

相沢は、はっきり言った。

「この館にいる全員です」

「なに?」

「毒は、少量ずつ。
毎日違う人間が、気づかずに盛っていた」

沈黙の中、相沢は続ける。

「これは殺人じゃない。
——復讐の完成形です」



END
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...