2 / 6
2
しおりを挟む
「なあ、聞いてもいいか?」
騎士の名前はハリー。
茶色の髪に、同色の瞳。ゼフィアより少し年上の青年だった。
顔立ちは整っている部類には入らないが、愛嬌のある優しい顔立ちをしていた。
「なんでしょう?」
王都までの道のりは二日。
馬車できていたため、寝るのは場所の中だ。
ハリーは外で火の番をするとかで、馬車で寝るのはゼフィア一人だった。
食事を終え、ハリーがおずおずと尋ね、ゼフィアは何を聞きたいのだろうと返した。
「あんた、オリバー様の恋人なのか?」
「そ、そんなこと、とんでもないです!」
ゼフィアは立ち上がり、両手を振って否定する。
(私が勝手に思い込んでいただけ。恋人なんてとんでもない!)
「じゃあ、なんでわざわざ村を出て王都まで?」
「か、返してほしいものがあるのです」
「返してほしいもの?大事なものか?」
「はい。私のお守りです」
「そんな大切なもの。やっぱり。あんた、オリバー様の、」
「だから、違うんです。お慕いしていたのは本当です。けれどもそれは勝手な私の想いで……」
気がつくとゼフィアの視界が歪んでいた。
涙が頬を伝い、ぼたぼたと水滴がこぼれていく。
「泣くなよ。ほら、これで拭け。綺麗なものだ」
ハリーは慌てて馬車から小綺麗な布を持ってくる。
「あ、ありがとうございます」
「つれーなあ。俺から返すように伝えようか?会うのは辛くないか?」
「だ、大丈夫です。大切なものなので自分で伝えます」
「そうか。頑張れよ。俺も何か手伝うから」
「ありがとうございます!」
布で鼻水まで拭き、べちょべちょになった布は恐縮するゼフィアに構わず、ハリーが回収した。まとめて王宮で洗ってもらうと言っていて、話はそれで終わる。
「じゃあ、おやすみ。気にするな。そう言ってもダメかもな」
ゼフィアの頭を撫で、ハリーは焚き火近くに戻る。
ハリーから、オリバーが魔王を倒したと聞かされた。どうやら、魔王を倒せば彼の呪いは解けることになっていたらしい。旅の途中、姿を魔物に変えられた王女を救い、打倒魔王の旅の中、二人は愛を育み、遂に魔王を倒した。
王女と共に凱旋したオリバーは今や英雄で、王女との婚姻を王は祝福した。
オリバーの両親はすでに亡くなっており、だからこそ結婚前に村に知らせがなかったようだった。
魔王が消滅し、魔物の数は激変した。けれどもまだ存在しているので油断はできないとハリーは火の番を続ける。
翌日の夕方には王都に到着するはずだからと、心配するゼフィアに笑って答えた。
☆
夕方には到着したいと、朝日が登ると二人は簡単な食事を終え出発する。
魔王が存在していた頃は、魔性の森には魔物が多く住み脅威とされた。けれども現在では馬車であれば森を抜けることに危険性はないとされている。
ハリーもゼフィアの村へ行くために魔性の森を通り抜けており、今回もその進路を選択した。
しかしそれは誤りだったようだ。
森に入ると動物の声とは違う何かの声が聞こえ、ハリーはゼフィアに幌の中で何かに掴まって伏せるように伝える。馬車で逃げ切ることに決め、彼は馬を叱咤し、鞭を振り速度を増した。
目の前に急に現れた大きな魔物によって、馬が動揺する。繋がれているせいで、逃げようとしても逃げられない。馬の暴走に巻き込まれた馬車は大きく転倒した。
「ゼフィア!」
地面に投げ出されたハリーは体の痛みを覚えながらも、必死にゼフィアを探す。
「ハリー様……」
力無い声で名を呼ばれ、近づくとゼフィアは壊れた荷台に埋もれるようにして倒れていた。
「今、助けてやるから!」
自身も怪我をしているが彼女の方が優先であり、布や板を除け、彼女を救い出せそうとする。けれども、救出作業は魔物の雄叫びによって断念させられた。
「……私に、構わず逃げてください。私、もう、いいのです」
「そんなことは絶対にしない。俺はあんたを助ける」
ゼフィアの体を覆っていた板と布は取り除いたが、体の骨を折っているのか、彼女は横になったまま動けないようだった。
そんな中、彼女はハリーに懇願した。
「いい…え。元はと言えばついてきた私が悪いのです。ハリー様お一人であればこんなことにならなかったはずです」
ゼフィアは薄く笑うと口を動かす。
「ゼフィア。自分を責めるのはやめろ。俺があんたを連れて行くことを決めた。それだけだ。待ってろ。魔物をやっつけて二人で王都へいく。この森を抜ければすぐだ」
ハリーは屈んでいた体を起こすと、剣を抜いて魔物に対峙する。
魔王消滅によって強力な魔物は姿を消したはずだった。
大きく息を吸うと、彼は駆け出した。
騎士の名前はハリー。
茶色の髪に、同色の瞳。ゼフィアより少し年上の青年だった。
顔立ちは整っている部類には入らないが、愛嬌のある優しい顔立ちをしていた。
「なんでしょう?」
王都までの道のりは二日。
馬車できていたため、寝るのは場所の中だ。
ハリーは外で火の番をするとかで、馬車で寝るのはゼフィア一人だった。
食事を終え、ハリーがおずおずと尋ね、ゼフィアは何を聞きたいのだろうと返した。
「あんた、オリバー様の恋人なのか?」
「そ、そんなこと、とんでもないです!」
ゼフィアは立ち上がり、両手を振って否定する。
(私が勝手に思い込んでいただけ。恋人なんてとんでもない!)
「じゃあ、なんでわざわざ村を出て王都まで?」
「か、返してほしいものがあるのです」
「返してほしいもの?大事なものか?」
「はい。私のお守りです」
「そんな大切なもの。やっぱり。あんた、オリバー様の、」
「だから、違うんです。お慕いしていたのは本当です。けれどもそれは勝手な私の想いで……」
気がつくとゼフィアの視界が歪んでいた。
涙が頬を伝い、ぼたぼたと水滴がこぼれていく。
「泣くなよ。ほら、これで拭け。綺麗なものだ」
ハリーは慌てて馬車から小綺麗な布を持ってくる。
「あ、ありがとうございます」
「つれーなあ。俺から返すように伝えようか?会うのは辛くないか?」
「だ、大丈夫です。大切なものなので自分で伝えます」
「そうか。頑張れよ。俺も何か手伝うから」
「ありがとうございます!」
布で鼻水まで拭き、べちょべちょになった布は恐縮するゼフィアに構わず、ハリーが回収した。まとめて王宮で洗ってもらうと言っていて、話はそれで終わる。
「じゃあ、おやすみ。気にするな。そう言ってもダメかもな」
ゼフィアの頭を撫で、ハリーは焚き火近くに戻る。
ハリーから、オリバーが魔王を倒したと聞かされた。どうやら、魔王を倒せば彼の呪いは解けることになっていたらしい。旅の途中、姿を魔物に変えられた王女を救い、打倒魔王の旅の中、二人は愛を育み、遂に魔王を倒した。
王女と共に凱旋したオリバーは今や英雄で、王女との婚姻を王は祝福した。
オリバーの両親はすでに亡くなっており、だからこそ結婚前に村に知らせがなかったようだった。
魔王が消滅し、魔物の数は激変した。けれどもまだ存在しているので油断はできないとハリーは火の番を続ける。
翌日の夕方には王都に到着するはずだからと、心配するゼフィアに笑って答えた。
☆
夕方には到着したいと、朝日が登ると二人は簡単な食事を終え出発する。
魔王が存在していた頃は、魔性の森には魔物が多く住み脅威とされた。けれども現在では馬車であれば森を抜けることに危険性はないとされている。
ハリーもゼフィアの村へ行くために魔性の森を通り抜けており、今回もその進路を選択した。
しかしそれは誤りだったようだ。
森に入ると動物の声とは違う何かの声が聞こえ、ハリーはゼフィアに幌の中で何かに掴まって伏せるように伝える。馬車で逃げ切ることに決め、彼は馬を叱咤し、鞭を振り速度を増した。
目の前に急に現れた大きな魔物によって、馬が動揺する。繋がれているせいで、逃げようとしても逃げられない。馬の暴走に巻き込まれた馬車は大きく転倒した。
「ゼフィア!」
地面に投げ出されたハリーは体の痛みを覚えながらも、必死にゼフィアを探す。
「ハリー様……」
力無い声で名を呼ばれ、近づくとゼフィアは壊れた荷台に埋もれるようにして倒れていた。
「今、助けてやるから!」
自身も怪我をしているが彼女の方が優先であり、布や板を除け、彼女を救い出せそうとする。けれども、救出作業は魔物の雄叫びによって断念させられた。
「……私に、構わず逃げてください。私、もう、いいのです」
「そんなことは絶対にしない。俺はあんたを助ける」
ゼフィアの体を覆っていた板と布は取り除いたが、体の骨を折っているのか、彼女は横になったまま動けないようだった。
そんな中、彼女はハリーに懇願した。
「いい…え。元はと言えばついてきた私が悪いのです。ハリー様お一人であればこんなことにならなかったはずです」
ゼフィアは薄く笑うと口を動かす。
「ゼフィア。自分を責めるのはやめろ。俺があんたを連れて行くことを決めた。それだけだ。待ってろ。魔物をやっつけて二人で王都へいく。この森を抜ければすぐだ」
ハリーは屈んでいた体を起こすと、剣を抜いて魔物に対峙する。
魔王消滅によって強力な魔物は姿を消したはずだった。
大きく息を吸うと、彼は駆け出した。
0
あなたにおすすめの小説
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる