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4 あまりの事態についていけません。
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翌日、やっぱり私はレジェス王子付きに転属になっており、挨拶をするときにビビアナ殿下に生暖かい目で見送られた。
王子の部屋に行くと、人払いをされた上、大歓迎。
頭を垂れてかしずくまでされて、眩暈を覚える。
こんな急な異動、王子の態度の変化、などなど、噂が流れるのは当然で、数日の間に私はお妃候補などと言われるようになってしまった。
嫌がらせなどはまったくなかったが、周りの対応が変わってしまい、戸惑うばかり。
週1の休みで実家に戻ると、兄たちと父にお嫁にいくのかと泣かれ、母には祝福される。
私の気持ちが整理ついてないまま、事態は動きまくっていた。
これはだめだ。
逃れられない。
でもこんなの嫌だ。
アダンは初恋の相手、もちろん今でも好きって気持ちもある。
だけどこんなの違う気がする。
貴族の政略結婚は当たり前、だけど、だけどなんか納得がいかない。
前の人生、短かったヘッセニアの人生。
いつ死んでしまうかわからず、ひたすら受動的だった。
時たま、アダンに我侭を言ったけど、それ以外は、わりと大人しくしていたと思う。
でも今は違う。
私はなにもできない少女ではないのだ。
「サリタ。どうしましたか?」
私が部屋に入ると、レジェス殿下は微笑んで私に椅子を勧める。
この笑顔、アダンと同じようで、同じじゃない不思議な笑顔。
殿下はどうして、私を妃にしたいんだろう?
前世の私があまりにも可哀想だったから?そのために自分の今の人生を棒に振るの?そんなの嫌だ。私が嫌。
「殿下。お話があるのですが」
「どうしましたか?」
殿下は私の言葉に驚くだろう。
だって、妃になりたくない、そんな贅沢を言う人はいないだろうから。
「レジェス殿下。私をお妃候補から外していただけないでしょうか?」
殿下の顔が強張る。
これは、私のせい。
「殿下。私の過去などお忘れください。今の私が私なのです。なので、過去の私に同情し、貴方の今の人生を無駄にしてほしくありません」
「サリタ。私は、僕はそんなつもりで貴女を妃にしようとしているわけじゃない」
「いえ、貴方は私の過去しか見ていません。私がか弱い少女だった、過去。どうかお願いです。私の過去を忘れてください」
「僕は、私はあなたの過去を忘れることはできない。目の前で儚く笑っていなくなってしまったあなたをどう忘れるというのです」
殿下は、私から視線を外さず言い放つ。
その苦悩の色に染まった茶色の瞳、言葉が私の全身に刺さった。
ヘッセニア、あなたはなんてことをしてしまったの。
この人に忘れられない傷をつけた。
この人はきっと、私を、ヘッセニアを忘れられないだろう。
私は殿下に何を言っていいのか、もうわからなかった。
彼の人生を無駄にしたくない。
だけど、過去の私を忘れろというのは、無理だ。
付けられた傷痕は、呪いのように彼を常に蝕む。
私と殿下の間に沈黙が流れる。
もどかしい空気が流れるが、私はどうしていいかわからない。
救いは、来客を知らせる衛兵の声だった。
従者の私は通常は来客の際も非常の事態に備えて部屋に待機する。けれども私の顔色がよっぽど酷かったのか、殿下は自室で休養するように言われた。言葉が見つからない私は首を垂れ返事をすると殿下の顔を見ることもなく、部屋を後にした。
*
従者としてはあるまじき、アダンであればあり得ない失態だろう。そう思いながらも、自室に戻ってベッドに身を投げ出す。
どうしたらいいのだろう。
このまま、ヘッセニア(私)が残した傷を癒す為にも、妃となって彼を支えていくべきだろうか。
レジェス殿下はまだ15歳。
恋も何も知らない。アダンの記憶のせいで大人びてるけど、彼自身はまだ15歳。
この先好きな人も出来るかもしれない。
だけど私が妃であれば、好きな人と結ばれる事も出来ない。
ああ、側室として迎える事になるのか。
だってアダンは絶対に離縁などしないだろうから。
コンコンと窺うような軽い音がした。
それは扉を叩く音ですぐに女性の声が聞こえる。
「サリタ。お邪魔していいかしら?」
ビビアナ殿下!
私は慌ててベッドから起き上がり、扉へ向かう。
「ごめんなさい。寝ていたかしら?」
ビビアナ殿下は申し訳なさそうな顔をして、私は自分の乱れた髪、服装に気がつく。
なんてこと、本当にどうしようもない。
「サリタ、大丈夫?」
「申し訳ありません。このような格好で」
見れば背後に付く私の代わりの従者の女性が眉をひそめているのがわかった。
「大丈夫。ララ、申し訳ないけど、扉の外で待っていてくれるかしら?」
殿下がそう言うと、従者の女性は頭を下げ、扉を閉めた。
「ビビアナ殿下」
「サリタ。久しぶりね。どこに座ったらいいかしら?」
「申し訳ありません。こちらの椅子にどうぞ」
自室にあるのは衣装棚、ベッドと机、二脚の椅子。
こんなことであればもっとよい椅子を用意していればよかったと思いつつ、ひとつの椅子を持ち、殿下の傍に置く。埃などついていないが、台座を軽く拭いて勧めた。
「ありがとう。サリタも座って。もしかしたら長くなっちゃうかもしれないから」
王子の部屋に行くと、人払いをされた上、大歓迎。
頭を垂れてかしずくまでされて、眩暈を覚える。
こんな急な異動、王子の態度の変化、などなど、噂が流れるのは当然で、数日の間に私はお妃候補などと言われるようになってしまった。
嫌がらせなどはまったくなかったが、周りの対応が変わってしまい、戸惑うばかり。
週1の休みで実家に戻ると、兄たちと父にお嫁にいくのかと泣かれ、母には祝福される。
私の気持ちが整理ついてないまま、事態は動きまくっていた。
これはだめだ。
逃れられない。
でもこんなの嫌だ。
アダンは初恋の相手、もちろん今でも好きって気持ちもある。
だけどこんなの違う気がする。
貴族の政略結婚は当たり前、だけど、だけどなんか納得がいかない。
前の人生、短かったヘッセニアの人生。
いつ死んでしまうかわからず、ひたすら受動的だった。
時たま、アダンに我侭を言ったけど、それ以外は、わりと大人しくしていたと思う。
でも今は違う。
私はなにもできない少女ではないのだ。
「サリタ。どうしましたか?」
私が部屋に入ると、レジェス殿下は微笑んで私に椅子を勧める。
この笑顔、アダンと同じようで、同じじゃない不思議な笑顔。
殿下はどうして、私を妃にしたいんだろう?
前世の私があまりにも可哀想だったから?そのために自分の今の人生を棒に振るの?そんなの嫌だ。私が嫌。
「殿下。お話があるのですが」
「どうしましたか?」
殿下は私の言葉に驚くだろう。
だって、妃になりたくない、そんな贅沢を言う人はいないだろうから。
「レジェス殿下。私をお妃候補から外していただけないでしょうか?」
殿下の顔が強張る。
これは、私のせい。
「殿下。私の過去などお忘れください。今の私が私なのです。なので、過去の私に同情し、貴方の今の人生を無駄にしてほしくありません」
「サリタ。私は、僕はそんなつもりで貴女を妃にしようとしているわけじゃない」
「いえ、貴方は私の過去しか見ていません。私がか弱い少女だった、過去。どうかお願いです。私の過去を忘れてください」
「僕は、私はあなたの過去を忘れることはできない。目の前で儚く笑っていなくなってしまったあなたをどう忘れるというのです」
殿下は、私から視線を外さず言い放つ。
その苦悩の色に染まった茶色の瞳、言葉が私の全身に刺さった。
ヘッセニア、あなたはなんてことをしてしまったの。
この人に忘れられない傷をつけた。
この人はきっと、私を、ヘッセニアを忘れられないだろう。
私は殿下に何を言っていいのか、もうわからなかった。
彼の人生を無駄にしたくない。
だけど、過去の私を忘れろというのは、無理だ。
付けられた傷痕は、呪いのように彼を常に蝕む。
私と殿下の間に沈黙が流れる。
もどかしい空気が流れるが、私はどうしていいかわからない。
救いは、来客を知らせる衛兵の声だった。
従者の私は通常は来客の際も非常の事態に備えて部屋に待機する。けれども私の顔色がよっぽど酷かったのか、殿下は自室で休養するように言われた。言葉が見つからない私は首を垂れ返事をすると殿下の顔を見ることもなく、部屋を後にした。
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従者としてはあるまじき、アダンであればあり得ない失態だろう。そう思いながらも、自室に戻ってベッドに身を投げ出す。
どうしたらいいのだろう。
このまま、ヘッセニア(私)が残した傷を癒す為にも、妃となって彼を支えていくべきだろうか。
レジェス殿下はまだ15歳。
恋も何も知らない。アダンの記憶のせいで大人びてるけど、彼自身はまだ15歳。
この先好きな人も出来るかもしれない。
だけど私が妃であれば、好きな人と結ばれる事も出来ない。
ああ、側室として迎える事になるのか。
だってアダンは絶対に離縁などしないだろうから。
コンコンと窺うような軽い音がした。
それは扉を叩く音ですぐに女性の声が聞こえる。
「サリタ。お邪魔していいかしら?」
ビビアナ殿下!
私は慌ててベッドから起き上がり、扉へ向かう。
「ごめんなさい。寝ていたかしら?」
ビビアナ殿下は申し訳なさそうな顔をして、私は自分の乱れた髪、服装に気がつく。
なんてこと、本当にどうしようもない。
「サリタ、大丈夫?」
「申し訳ありません。このような格好で」
見れば背後に付く私の代わりの従者の女性が眉をひそめているのがわかった。
「大丈夫。ララ、申し訳ないけど、扉の外で待っていてくれるかしら?」
殿下がそう言うと、従者の女性は頭を下げ、扉を閉めた。
「ビビアナ殿下」
「サリタ。久しぶりね。どこに座ったらいいかしら?」
「申し訳ありません。こちらの椅子にどうぞ」
自室にあるのは衣装棚、ベッドと机、二脚の椅子。
こんなことであればもっとよい椅子を用意していればよかったと思いつつ、ひとつの椅子を持ち、殿下の傍に置く。埃などついていないが、台座を軽く拭いて勧めた。
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