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5 前世は過去にしかすぎません。
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「サリタ。レジェスがごめんなさいね。あの子があんなにはっきり物事を主張するのは初めてなのよ」
ビビアナ殿下は、そうしてレジェス殿下について話し始めた。
幼いときから大人びていて、どこか家族に対しても壁を作っていた殿下。
受動的で、積極性がなく、能力があるはずなのに、それを隠して、平凡を装う。常に兄2人と姉を敬い、よくできた弟。
それが、私が王宮に入ってから変わったということ。
「サリタ。レジェスのこと、嫌いかしら?」
「そ、そんなことはございません」
「それであれば、あの子の妃になってくれないかしら。あの子は第三王子。公務に出ることもほとんどないし、今の貴方であれば礼儀作法など問題はないわ。だからお願いできるかしら」
ビビアナ殿下の紫色の瞳から、レジェス殿下への愛情が見て取れる。
本当に愛されていると思う。
けれども、アダンの記憶が邪魔をして、素直に受け取れていない。
殿下の過去の話を聞き、そうとしか思えなかった。
そして、私の妃の話も、レジェス殿下がアダンという過去にとらわれているから。
「ビビアナ殿下。これから私がお話すること、滑稽な話だと思われるかもしれません。聞いていただけますか?」
ビビアナ殿下には話したほうがいい。
そうして、彼の苦しみを少しでも取り除けたら……。
過去は過去。
終わってしまった過去なのだから。
「そう、そういうことなのね」
ビビアナ殿下は、終始黙ったまま、私の話――ヘッサニアの話を聞いてくださった。
ヘッサニアが13歳で病死したことを伝えると、紫色の瞳が曇り、何かを考えるように視線が私から外れる。
そう、レジェス殿下は、前世のアダンの記憶にとらわれすぎなのだ。
もう自由になってもいい。
小さい時から、彼はきっと苦しめられていただろう。
ヘッサニア(私)の最期のせいで。
「状況はわかったわ。でも、やっぱり貴女はレジェスの妃になるべきだわ」
「ビビアナ殿下?」
「貴女が妃にならなければ彼は一生後悔するわ。前世でも後悔、そして生まれ変わった後まで後悔なんて、救われないでしょ」
そういうこと。
そういうことなんだ。
「でも、貴女がどうしても嫌だと言うならば無理強いはしないわ。私は貴女が好きですもの。深く考えないでもいいわ。問題はレジェスのことが好きかどうかよ」
好きか、どうか。
アダンのことは好き。彼のことを考えると今でも胸が温かくなる。
でもレジェス殿下は?
私、アダンじゃなくて、レジェス殿下をアダン抜きで見たことあるかしら。
過去にとらわれてるのは私も一緒?
「私からもレジェスに話すわね。あの子ったら、何にも私に話さないんだから」
「ビビアナ殿下」
私が前世のことを話したこと、レジェス殿下にとって悪いことだったかもしれない。彼が話したことないのに、私が勝手に……。
「サリタ。心配しないで。悪いことにはなんないから。ただちょっと怒ちゃうかもしれないけど」
「ビビアナ殿下!」
大声を出しすぎたらしい、優秀な従者のララが間髪入れず部屋に入ってきた。
そして私を思いっきり睨み付ける。
「ララ。あらら。嫉妬は醜いわよ」
「し、嫉妬など」
髪を男性のように短く切り、凛々しい従者のララは、顔を赤らめ、ビビアナ殿下に答えていた。
嫉妬って、嫉妬って何?
「ララは、私が貴女にかまうから嫉妬しているのよ」
「ビビアナ様!」
今度は私じゃなくて、ララが大声を出して、ビビアナ殿下は笑い出してしまった。
「からかってごめんなさい。ララ。さあ、行きましょう。今度はレジェスのところよ」
先ほどの凛々しさはどこにいったのか、顔を不機嫌そうに膨らませて、ララはビビアナ殿下と一緒に廊下を歩いていく。
「心配しないでね」
後姿を見守っていた私に殿下は少し振り返り、にこりと微笑む。
その笑みがまたなんか心配なんですけど。
けれども一度出した言葉はもう元に戻すことはできない。
前世の話をビビアナ殿下に話したことで、レジェス殿下を怒らせてしまうかもしれない。
もしかして、激怒させて私を嫌うことになるかもしれない。
だけど、それならそれでいい。
やっぱり私とレジェス殿下は結婚すべきじゃないと思うから。
ビビアナ殿下は、そうしてレジェス殿下について話し始めた。
幼いときから大人びていて、どこか家族に対しても壁を作っていた殿下。
受動的で、積極性がなく、能力があるはずなのに、それを隠して、平凡を装う。常に兄2人と姉を敬い、よくできた弟。
それが、私が王宮に入ってから変わったということ。
「サリタ。レジェスのこと、嫌いかしら?」
「そ、そんなことはございません」
「それであれば、あの子の妃になってくれないかしら。あの子は第三王子。公務に出ることもほとんどないし、今の貴方であれば礼儀作法など問題はないわ。だからお願いできるかしら」
ビビアナ殿下の紫色の瞳から、レジェス殿下への愛情が見て取れる。
本当に愛されていると思う。
けれども、アダンの記憶が邪魔をして、素直に受け取れていない。
殿下の過去の話を聞き、そうとしか思えなかった。
そして、私の妃の話も、レジェス殿下がアダンという過去にとらわれているから。
「ビビアナ殿下。これから私がお話すること、滑稽な話だと思われるかもしれません。聞いていただけますか?」
ビビアナ殿下には話したほうがいい。
そうして、彼の苦しみを少しでも取り除けたら……。
過去は過去。
終わってしまった過去なのだから。
「そう、そういうことなのね」
ビビアナ殿下は、終始黙ったまま、私の話――ヘッサニアの話を聞いてくださった。
ヘッサニアが13歳で病死したことを伝えると、紫色の瞳が曇り、何かを考えるように視線が私から外れる。
そう、レジェス殿下は、前世のアダンの記憶にとらわれすぎなのだ。
もう自由になってもいい。
小さい時から、彼はきっと苦しめられていただろう。
ヘッサニア(私)の最期のせいで。
「状況はわかったわ。でも、やっぱり貴女はレジェスの妃になるべきだわ」
「ビビアナ殿下?」
「貴女が妃にならなければ彼は一生後悔するわ。前世でも後悔、そして生まれ変わった後まで後悔なんて、救われないでしょ」
そういうこと。
そういうことなんだ。
「でも、貴女がどうしても嫌だと言うならば無理強いはしないわ。私は貴女が好きですもの。深く考えないでもいいわ。問題はレジェスのことが好きかどうかよ」
好きか、どうか。
アダンのことは好き。彼のことを考えると今でも胸が温かくなる。
でもレジェス殿下は?
私、アダンじゃなくて、レジェス殿下をアダン抜きで見たことあるかしら。
過去にとらわれてるのは私も一緒?
「私からもレジェスに話すわね。あの子ったら、何にも私に話さないんだから」
「ビビアナ殿下」
私が前世のことを話したこと、レジェス殿下にとって悪いことだったかもしれない。彼が話したことないのに、私が勝手に……。
「サリタ。心配しないで。悪いことにはなんないから。ただちょっと怒ちゃうかもしれないけど」
「ビビアナ殿下!」
大声を出しすぎたらしい、優秀な従者のララが間髪入れず部屋に入ってきた。
そして私を思いっきり睨み付ける。
「ララ。あらら。嫉妬は醜いわよ」
「し、嫉妬など」
髪を男性のように短く切り、凛々しい従者のララは、顔を赤らめ、ビビアナ殿下に答えていた。
嫉妬って、嫉妬って何?
「ララは、私が貴女にかまうから嫉妬しているのよ」
「ビビアナ様!」
今度は私じゃなくて、ララが大声を出して、ビビアナ殿下は笑い出してしまった。
「からかってごめんなさい。ララ。さあ、行きましょう。今度はレジェスのところよ」
先ほどの凛々しさはどこにいったのか、顔を不機嫌そうに膨らませて、ララはビビアナ殿下と一緒に廊下を歩いていく。
「心配しないでね」
後姿を見守っていた私に殿下は少し振り返り、にこりと微笑む。
その笑みがまたなんか心配なんですけど。
けれども一度出した言葉はもう元に戻すことはできない。
前世の話をビビアナ殿下に話したことで、レジェス殿下を怒らせてしまうかもしれない。
もしかして、激怒させて私を嫌うことになるかもしれない。
だけど、それならそれでいい。
やっぱり私とレジェス殿下は結婚すべきじゃないと思うから。
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